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解説記事2019年10月14日 特別解説 日本企業が日本の会計基準からIFRSに移行した際に行った差異の調整(表示と認識・測定)①(2019年10月14日号・№807)

特別解説
日本企業が日本の会計基準からIFRSに移行した際に行った差異の調整(表示と認識・測定)①

はじめに

 一定の要件を満たしたわが国の企業に対して、IFRS(国際財務報告基準)の任意適用が認められるようになってから満9年が経過した。最初の3年間ほどはIFRSを任意適用する企業の数が伸び悩んだものの、その後は毎年20社前後のペースで着実に増加し、IFRSを適用済みの会社と、今後IFRSの適用を決定している会社を合わせると、210社を超える水準にまで達してきた。
 これまでわが国の会計処理や表示の基準を適用していた日本企業がIFRSに移行する場合、IFRS第1号「国際財務報告基準の初度適用」第23項に基づいて、企業は、従前の会計原則からIFRSへの移行が、報告された財政状態、財務業績及びキャッシュ・フローにどのように影響したのかを説明しなければならない。これは、従前の会計原則に従って報告されていた資本から、IFRSに準拠した資本への調整表(以下、「調整表」という。)と呼ばれ、ここでは、利用者が財政状態計算書及び包括利益計算書に対する重要な修正を理解できるようにするのに十分な詳細を示さなければならないとされている(IFRS第1号第25項)。この「重要な修正」には、のれんの償却/非償却に代表される、IFRSとわが国の会計基準との間の差であるいわゆる「GAAP差異の修正(認識と測定に係る修正)」と、特別損益項目の区分表示の可否などの「財務諸表の表示科目の差異の修正」の2種類があり、いずれも調整表で説明が加えられている。本稿では、「IFRSを任意適用して有価証券報告書を作成・提出した企業」(以下「IFRS任意適用日本企業」という。)各社が、IFRSを初めて適用した期に作成した調整表を題材として、どのような項目が「財務諸表の表示科目の差異の修正」や「認識と測定にかかる修正」として説明されているかを調査分析した。その結果を、実際の開示例を参照しつつ、2回に分けて紹介することとしたい。第1回の今回は、財務諸表の表示科目の差異の修正と、認識と測定に係る修正のうちの上位3項目を取り上げ、次回はそれ以外の認識と測定に係る修正項目を取り上げることとする。

今回の調査の対象とした企業

 今回の調査の対象とした企業は、日本の会計基準及び米国会計基準からIFRSへ任意で移行し、2019年3月期の有価証券報告書までに調整表を作成して開示したIFRS任意適用日本企業の203社である。なお、開示例は、なるべく直近のもの(2019年3月期、及び2018年12月期)を中心に抽出している。

IFRS任意適用日本企業が初度適用時に開示した表示組替の内容

 IFRS任意適用日本企業が、IFRSの初度適用時に調整表で開示した連結貸借対照表及び連結損益計算書の表示科目の主な組替を、開示数が多い(開示件数が20件以上のもの)順に示すと、表1のとおりであった。なお、各社の調整表において、「日本基準では流動・非流動の区分に分けて表示されていた繰延税金資産・負債を、IFRSでは一律に非流動項目に組み替えた」という項目が多く記載されていたが、企業会計基準第28号「税効果会計に係る会計基準の一部改正について(平成30年2月16日 企業会計基準委員会)」により、繰延税金資産・負債はIFRSと同様に、わが国においても一律に非流動項目として表示されるようになったことから、今回の調査では、両者の差異はなくなったものとみなして集計していない。

 我が国でも比較的よく知られている営業外・特別損益項目の組替に関する相違点の開示が圧倒的に多く、以下、預入期間が3か月超の定期預金の表示方法、持分法適用投資や投資損益の区分表示、貸倒引当金の表示方法といった項目が続いている。以下で、主要なものについて、わが国の会計基準とIFRS間の相違を簡単に説明するとともに、具体的な開示例も紹介することとする。

 ① 営業外・特別損益項目の組替
 IAS第1号第87項において、企業は収益又は費用のいかなる項目も、純損益及びその他の包括利益を表示する計算書又は注記において、異常項目(extraordinaryitem)として表示してはならないとされている。そしてIFRSでは、わが国でいう営業外損益や特別損益といった括りを設けない代わりに、金融収益と金融(財務)費用という区分を設けている。そのため、従来わが国において営業外収益・費用とされてきた項目(受取利息、支払利息、為替差損益等)の大部分は、金融収益又は金融費用に組み替えられている。そして、金融収益、金融費用以外の営業外収益・費用の項目については、例えば売上割引(営業外費用)は売上高から控除され、雑収益はその他の(営業)収益の区分に表示されることとなる。
 営業外損益に比べ、特別損益項目は更にバラエティに富んでいる。投資有価証券の売却損や評価損は金融費用に含めて表示され、リストラ費用、訴訟損失、固定資産売却損、減損損失、本社移転費用等は、その他の(営業)費用に組替表示されていた事例が多かった。
【開示例】バンドー化学 2019年3月期
 日本基準において「営業外収益」、「営業外費用」及び「特別損失」として表示している項目を、IFRSにおいては、財務関連項目を「金融収益」および「金融費用」に、それ以外の項目については「その他の収益」「その他の費用」および「持分法による投資利益」にそれぞれ表示しております。

 ② 預入期間が3か月超の定期預金の区分変更と、短期有価証券等の現金同等物への振替
 IAS第7号「キャッシュ・フロー計算書」では、現金同等物は「短期の流動性の高い投資のうち、容易に一定の金額に換金可能であり、かつ、価値の変動について僅少なリスクしか負わないものをいう」と定義されており(第6項)、第7項において、「投資は通常、満期が取得日から例えば3か月以内といった短期である場合にのみ、現金同等物に該当する。」とされている。
【開示例】ジェイ エフ イーホールディングス2019年3月期
 日本基準では「現金及び預金」に含めていた預入期間が3か月超の定期預金について、IFRSでは「その他の金融資産(流動)」に含めて表示しております。
【開示例】サイバーダイン 2018年3月期
 日本基準では「有価証券」に含めていた償還期限が3か月以内の債券等については、IFRSでは「現金及び現金同等物」に振り替えております。

 ③ 貸倒引当金の、債権からの直接控除
 IFRSでは、引当金は「時期又は金額が不確実な負債をいう」と定義されており(IAS第37号「引当金、偶発負債及び偶発資産」第10項)、引当金であるためには負債であることが条件とされている。したがって、貸倒引当金や投資損失引当金のようないわゆる「評価性引当金」の計上は、IFRSでは認められない。その代わり、営業債権(売掛金)や貸付金から直接控除して純額で表示されることとなる。
【開示例】VTホールディングス 2019年3月期
 日本基準では区分掲記していた「貸倒引当金(流動)」については、IFRSでは、「営業債権及びその他の債権」及び「その他の金融資産(流動)」から直接控除して純額で表示するように組替え、また、「貸倒引当金(固定)」についても同様に、「その他の金融資産(非流動)」から直接控除して純額で表示するように組み替えて表示しております。

 ④ 資産除去債務を引当金として表示
 わが国では、資産除去債務に関する会計基準(企業会計基準第18号)と同適用指針があるが、IFRSの場合には、借方側はIAS第16号「有形固定資産」が適用され、貸方はIAS第37号「引当金、偶発負債及び偶発資産」が適用される(資産除去債務は、引当金や負債の定義を満たす)。また、わが国の資産除去債務適用指針第9項では、建物等賃借契約に関連して敷金を支出し、資産計上されている場合には、当該計上額に関連する部分について、当該敷金の回収が最終的に見込めないと認められる金額を合理的に見積り、そのうち当期の負担に属する金額を費用に計上する方法によることができるとされていたが、IFRSではこのような簡便法は認められず、原則どおり資産除去債務の負債(引当金)計上及びこれに対応する除去費用の資産計上を行うことになる。
【開示例】ルネサスエレクトロニクス 2018年12月期
 日本基準において区分掲記していた資産除去債務(固定負債)、事業構造改善引当金(固定負債)を、IFRSにおいては、「引当金」(非流動負債)として区分掲記しております。

 ⑤ 売却目的保有の資産や非継続事業の区分表示
 IFRS第5号「売却目的で保有する非流動資産及び非継続事業」は、売却目的保有に分類された資産、及び、売却目的保有に分類された処分グループに含まれる資産及び負債は、財政状態計算書で区分表示することを定めるとともに、非継続事業の経営成績を包括利益計算書で区分表示することを定めている。
【開示例】日本ペイントホールディングス 2019年3月期
 売却の可能性が非常に高く、かつ、現状で直ちに売却可能な状態にある資産を、「売却目的で保有する資産」として別掲しております。

 ⑥ 代理人として関与する取引の純額表示、及び販売手数料やリベート等を、販管費として計上から売上高控除へ変更
 商社や百貨店、タバコ、ビール業界等の企業において、日本基準からIFRSに移行すると、売上高が大幅に減少するとしてかつて話題になった項目である。IFRSでは、企業が本人(当事者)として行動している場合のみ収益を総額で認識し、代理人として関与している場合には、手数料に相当する部分を除き、収益を認識してはならないとされている。そして、本人と代理人を区別するためのガイダンスは、IFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」のB34からB38に定められている。
 また、これまでのわが国の会計実務では、リベートやカスタマー・ロイヤルティ・プログラム(ポイント引当金の関連費用)等は販売促進費として見られることが多く、対応する売上高は総額で計上した上で、関連するコストは販売費及び一般管理費に計上されることが多かった。IFRS第15号では、こうした活動を、販売促進活動というよりも販売取引の一部と見る傾向が強く、関連するコストを売上高からの控除、あるいは売上高の分割計上といった方法で処理することが多いと考えられる。
【開示例】日清食品ホールディングス 2019年3月期
 日本基準では一部のリベート等を「販売費及び一般管理費」に表示しておりましたが、IFRSでは「売上収益」から控除して表示しております。
【開示例】Keyholder 2019年3月期
 日本基準では当社グループが代理人として関与した取引は総額で「売上高」及び「売上原価」に表示しておりますが、IFRSでは純額で「売上収益」に表示しております。

IFRS任意適用日本企業が初度適用時に開示した認識・測定にかかる差異の内容

 次に、IFRS任意適用日本企業が、IFRSを初度適用する際に、日本基準とIFRSとの差異として説明していた認識・測定に係る項目を、企業数が多い(開示の件数が40件以上のもの)順に列挙すると、次の表2のとおりであった。

 為替換算差額のゼロリセット、有給休暇引当金の計上、のれんの非償却、及び退職給付に係る数理計算上の差異の処理方法については、ほとんどのIFRS任意適用日本企業が、日本の会計基準とIFRSとの間の差異として開示を行っていた。
 以下で、それぞれの項目について、我が国の会計基準とIFRSとの間の相違を簡単に説明する。

 ① 為替換算差額のゼロリセット
 IFRSの初度適用企業は、IFRS第1号が定める免除規定のうちの1つ又は複数を使用することを選択することができる。そのうちの1つとして、初度適用企業は、IFRS移行日現在で存在していた換算差額累計額については、下記の免除措置を使用することができる。
(a)すべての在外営業活動体に係る換算差額累計額を、IFRS移行日現在でゼロとみなす。
(b)在外営業活動体のその後の処分による利得又は損失は、IFRS移行日前に生じた換算差額を除外し、その後の換算差額を含めなければならない。この初度適用にあたっての免除規定(IFRS第1号D13項)は、初度適用企業の間で最も幅広く利用されている規定であると思われる。この免除規定を利用する企業は、IFRS移行日時点における在外営業活動体の為替換算差額累計額を、すべて利益剰余金に振り替える。
【開示例】クレディセゾン 2019年3月期
 初度適用に際して、IFRS第1号に規定されている免除規定を選択し、移行日における在外営業活動体の外貨換算差額の累計額をすべて利益剰余金に振り替えております。

 ② 有給休暇引当金(未払有給休暇)の計上
 IFRSを適用する企業は、有給休暇の形式による短期従業員給付の予想コストを、次の時期に認識しなければならないとされている(IAS第19号「従業員給付」第13項)。
(a)累積型有給休暇の場合には、将来の有給休暇の権利を増加させる勤務を従業員が提供した時
(b)非累積型有給休暇の場合には、休暇が発生した時
 そして企業は、累積型有給休暇の予想コストを、報告期間の末日現在で累積されている未使用の権利の結果により企業が支払うと見込まれる追加金額として、測定しなければならない(IAS第19号「従業員給付」第13項)。これに対して、わが国の会計基準では未消化の有給休暇について負債として認識していないため、IFRSを新たに適用する際には、未消化の有給休暇について、「有給休暇引当金」等の負債を新たに計上することが必要となる。
【開示例】日本触媒 2019年3月期
 日本基準では負債認識が要求されていない従業員の未消化の有給休暇について、IFRSでは負債として認識する必要があるため、引当金が増加しております。

 ③ のれんの非償却
 わが国の会計基準では正ののれんは20年以内の合理的な年数での償却が求められるが、IFRSでは償却してはならず、毎期末及び減損の兆候があるときはいつでも、減損テストの実施が要求される。
【開示例】ウィルグループ 2019年3月期
 日本基準では、のれんは実質的に償却年数を見積り、その年数で償却することとしていましたが、IFRSでは移行日以降の償却を停止しています。
 次回は、表2に列挙した項目のうち、「数理計算上の差異の処理方法」以下の項目について、開示例も交えつつ取り上げる予定である。

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