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解説記事2019年10月21日 特別解説 日本企業が日本の会計基準からIFRSに移行した際に行った差異の調整(表示と認識・測定)②(2019年10月21日号・№808)

特別解説
日本企業が日本の会計基準からIFRSに移行した際に行った差異の調整(表示と認識・測定)②

はじめに

 本稿は、日本企業が日本の会計基準からIFRSに移行した際に行った差異の調整に関する開示の紹介の2回目として、前回に引き続き、認識・測定上の差異に関する開示の紹介を行うこととしたい。
 IFRS任意適用日本企業が、IFRSを初度適用する際に、日本基準とIFRSとの差異として説明していた認識・測定に係る項目を、企業数が多い(開示の件数が40件以上のもの)順に列挙すると、次の表1のとおりであった。
 本稿では、表1の4番目の「数理計算上の差異の処理方法」以降の項目について触れることとする。

 ④ 数理計算上の差異の処理方法及び過去勤務費用の処理方法
 わが国の「退職給付に関する会計基準」では、数理計算上の差異の当期発生額及び過去勤務費用の当期発生額のうち、費用処理されない部分(未認識数理計算上の差異及び未認識過去勤務費用となる。)については、その他の包括利益に含めて計上し、その他の包括利益累計額に計上されている未認識数理計算上の差異及び未認識過去勤務費用のうち、当期に費用処理された部分については、その他の包括利益の調整(組替調整)を行うとされているのに対し(第15項)、IFRSでは、数理計算上の差異についてはその他の包括利益に認識し、その後の期間において純損益に振り替えてはならない(その他の包括利益に認識した金額を資本の中で振り替えることはできる)とされている(IAS第19号「従業員給付」第120項、第122項)。また、過去勤務費用については、制度改訂又は縮小が発生した時、又は関連するリストラクチャリングのコスト又は解雇給付を企業が認識する時のうちの、いずれか早い方の日に、費用として認識しなければならないとされている(IAS第19号第103項)。
【開示例】日本製鉄 2019年3月期
 日本基準では、数理計算上の差異及び過去勤務費用をその他の包括利益として認識した後に、一定の年数による定額法で純損益として費用処理しておりましたが、IFRSでは、数理計算上の差異を含む確定給付負債(資産)の純額の再測定はその他の包括利益として認識後、利益剰余金に即時振替しており、過去勤務費用は純損益として即時認識しております。

 ⑤ 非上場株式の公正価値評価
 日本基準では、いわゆる非上場株式については公正価値による評価を行わず、取得原価で評価するが、IFRS(IFRS第9号「金融商品」)では、非上場株式を含む資本性金融商品は、公正価値評価の対象とされる。
【開示例】豊田合成 2019年3月期
 非上場株式について、日本基準では取得原価を基礎として計上し、発行会社の財政状態の悪化に応じて減損処理を行っておりましたが、IFRSではその他の包括利益を通じて公正価値で測定しています。

 ⑥ 収益認識基準の変更
 わが国では、これまでは、企業会計原則・損益計算書原則三Bの、「売上高は、実現主義の原則に従い、商品等の販売又は役務の給付によって実現したものに限る。」という、いわゆる「実現主義」の記述をよりどころに、この解釈によって実務が行われてきたものと思われる。これに対してIFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」では、企業が収益の認識を、約束した財又はサービスの顧客への移転を当該財又はサービスと交換に企業が権利を得ると見込んでいる対価を反映する金額で描写するように行わなければならないとされており、企業は、約束した財又はサービス(すなわち、資産)を顧客に移転することによって企業が履行義務を充足した時に(又は充足するにつれて)、収益を認識しなければならない。資産が移転するのは、顧客が当該資産に対する支配を獲得した時(又は獲得するにつれて)であるとされている(第31項)。これにより、日本基準とIFRSとの間で収益認識のタイミングに差異が生じることになる。
【開示例】住友金属鉱山 2019年3月期
 日本基準では出荷基準により認識していた一部の物品販売取引について、IFRSでは物品の引渡時点で収益認識するように変更しました。

 ⑦ 減価償却方法の変更
 日本の会計基準を適用する日本企業の場合、有形固定資産の減価償却方法については建物の一部等を除いて定率法を適用していることが多く、耐用年数や残存価額は法人税法の定める耐用年数表等に基づいて決定している場合が大半であると思われる。これに対してIFRSでは、使用される減価償却方法は、資産の将来の経済的便益を企業が消費すると予想されるパターンを反映するものでなければならないとされており(IAS第16号「有形固定資産」第60項)、欧州企業等での実務上は、定額法を適用している事例が圧倒的に多い。IFRS任意適用日本企業の場合には、IFRSを適用後も、連結財務諸表では定額法を採用するものの、個別財務諸表上は会計方針の変更は行わずに定率法のまま、という事例も多い。また、IFRS上耐用年数は、資産が企業によって利用可能であると見込まれる期間をいうとされており(IAS第16号第6項)、有形固定資産の耐用年数や残存価額は、事業年度末ごとに再検討することが求められている(IAS第16号第51項)。このため、IFRSを任意適用するにあたり、日本企業が減価償却方法や耐用年数、残存価額の見直しを行う例が少なくない。
【開示例】トヨタ紡織 2019年3月期
 有形固定資産の減価償却方法について、日本基準では主として定率法によっておりましたが、IFRSにおいては定額法を採用しております。

 ⑧ 繰延税金資産の回収可能性の再検討
 わが国においては、企業会計基準適用指針第26号「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針」に規定される会社分類に基づき繰延税金資産を認識しているが、IFRSでは、繰延税金資産は、将来減算一時差異を利用できる課税所得が生じる可能性が高い範囲内で、すべての将来減算一時差異について認識しなければならないとされているため(IAS第12号「法人所得税」第24項)、IFRS適用にあたって差異が生じることになる。
【開示例】2019年2月期 クリエイト・レストランツ・ホールディングス
 IFRSの適用に伴い、全ての繰延税金資産の回収可能性を再検討しております。

 ⑨ 未実現利益の消去に係る税効果(未実現損益消去に係る税効果会計の方法を繰延法から資産負債法に変更)
 わが国の会計基準において、連結手続上、消去された未実現利益に関する税効果は、未実現利益が発生した連結会社と一時差異の対象となった資産を保有する連結会社が異なるという特殊性を考慮し、かつ、従来からの実務慣行を勘案し、売却元で発生した税金額を繰延税金資産として計上し、当該未実現利益の実現に対応させて取り崩すこととされている。この売却元で発生した税金は確定した金額であるため、繰延税金資産の計上額は、売却元において未実現利益の金額に対して売却年度の課税所得に適用された法定実効税率を使用して計算した税金の額である。なお、売却元に適用される税率がその後改正されても、未実現利益に関連して認識し測定した繰延税金資産は、その税率変更の影響を受けることがないため、税率の変更による見直しは行わないことになる(会計制度委員会報告第6号「連結財務諸表における税効果会計に関する実務指針」第13項)。これに対して、IFRSでは繰延税金資産及び負債は、報告期間の末日までに制定され、又は実質的に制定されている税率(及び税法)に基づいて、資産が実現する期又は負債が決済される期に適用されると予想される税率で算定しなければならない(IAS第12号「法人所得税」第47項)とされているため、日本基準とIFRSの間には差異が存在する。
【開示例】アマダホールディングス 2019年3月期
 未実現損益の消去に伴う税効果について、日本基準では売却会社の実効税率を使用して計算しておりますが、IFRSにおいては購入会社の実効税率を使用して計算しております。

 ⑩ 一部の有形固定資産について、みなし原価としての公正価値の使用
 IFRSの初度適用企業は、IFRS第1号が定める免除規定のうちの1つ又は複数を使用することを選択することができる。免除規定の1つとして、企業は、IFRS移行日現在で、ある有形固定資産項目を公正価値で測定し、その公正価値を当該日現在のみなし原価として使用することを選択することができ、初度適用企業は、IFRS移行日現在又はそれ以前における、ある有形固定資産項目の従前の会計原則に従った再評価が、再評価日の時点で次のいずれかとおおむね同等であった場合には、それを再評価日現在のみなし原価として使用することを選択することができる(IFRS第1号「国際財務報告基準の初度適用」D5項、D6項)。(a)公正価値 (b)IFRSによる原価又は償却後原価を、例えば、一般物価指数又は個別物価指数の変動を反映するように調整したもの。また、企業は、有形固定資産のほか、投資不動産や一定の要件を満たした無形資産に対してもこの免除規定を適用することができる。
 わが国の会計基準には、このような規定はない。
【開示例】NTTデータ 2019年3月期
 一部の有形固定資産及び投資不動産について、移行日現在の公正価値をみなし原価として使用する選択可能な免除規定を適用しています。

 ⑪ 連結範囲の変更
 連結の範囲については、日本基準(連結財務諸表に関する会計基準)、IFRS(IFRS第10号「連結財務諸表」)ともに、支配力基準に基づいて子会社の連結の要否を判定する規定となっているが、日本基準では重要性が乏しい一部の連結子会社については連結せず、持分法を適用したり、取得原価評価としたりする例が見られる。また、日本基準では、非営利の事業体は連結対象から除外されている。
【開示例】日本ペイントホールディングス 2018年12月期
 当社グループは、日本基準では連結範囲に含めず非連結子会社としていた重要性の低い一部の子会社を、IFRSでは連結範囲に含めております。

 ⑫ 資本性金融商品の売却損益等のノンリサイクリング処理
 日本基準では、資本性金融商品(株式)の売却損益は、投資有価証券売却損益等として営業外損益、最終的には当期の損益に含めて処理するが、IFRSでは、IFRS第9号「金融商品」の5.7.5項は、売買目的保有でない資本性金融商品への投資の公正価値の変動を、その他の包括利益(OCI)に表示するという取消不能な選択を行うことを企業に認めている。この選択は、金融商品ごと(すなわち株式ごと)に行われるが、その他の包括利益に表示された金額を事後的に純損益に振り替えてはならない(リサイクリングをすることができない)とされていることから(IFRS第9号「金融商品」B5.7.1)、日本基準とIFRSとの間で差異が生じることになる。
【開示例】デジタルガレージ 2018年9月期
 日本基準では資本性金融商品の売却損益及び評価損を損益としておりましたが、IFRSにおいてその他の包括利益を通じて公正価値で測定することを指定した資本性金融商品については、公正価値の変動額をその他の包括利益として認識し、認識を中止した場合に利益剰余金に振り替えております。

 ⑬ 連結子会社や持分法適用関連会社の決算日の統一
 日本基準では、子会社の決算日が連結決算日と異なる場合には、子会社は、連結決算日に正規の決算に準ずる合理的な手続により決算を行うとされているものの(連結財務諸表に関する会計基準第16項)、同基準の注解4において、子会社の決算日と連結決算日の差異が3か月を超えない場合には、子会社の正規の決算を基礎として連結決算を行うことができる旨と、この場合には、子会社の決算日と連結決算日が異なることから生じる連結会社間の取引に係る会計記録の重要な不一致について、必要な整理を行うものとする旨が定められている。一方、IFRSでは、実務上不可能な場合を除き、連結財務諸表の作成に用いる親会社及びその子会社の財務諸表は、同じ報告日としなければならない。親会社の報告期間の期末日が子会社と異なる場合には、子会社は、連結のために、親会社の財務諸表と同日現在の追加的な財務情報を作成して、親会社が子会社の財務情報を連結できるようにするとされている(IFRS第10号「連結財務諸表」B92項)。
【開示例】エクセディ 2018年3月期
 IFRS適用にあたり、実務上不可能である場合を除き、報告日を当社と合わせること、もしくは仮決算を行うことにより、子会社の財務諸表を当社の報告日と同じ日を報告日として作成しております。

 ⑭ 開発費の資産化
 日本基準においては、研究開発費は発生時にすべて費用処理しなければならないとされているのに対して(研究開発費等会計基準三)、IFRSでは、開発局面における支出がIAS第38号「無形資産」第57項が定める6つの要件を満たす場合には、無形資産として計上しなければならないと定められている。
【開示例】三菱重工業 2019年3月期
 日本基準では、開発費を研究開発費として発生時に販売費及び一般管理費として費用計上するとともに、新製品及び新機種の量産化に係る費用等の一部は仕掛品やその他の固定資産として計上していた。IFRSでは、開発費の資産化の要件を満たすものについては、無形資産として認識している。

 ⑮ 賦課金の計上のタイミング
 わが国では、固定資産税等の租税公課については、納付する対象の期間にわたって分割計上する場合が多いが、IFRSでは、解釈指針第21号「賦課金」により、賦課金支払負債を生じさせる債務発生事象が生じた時点で認識することが定められている(第8項)。
【開示例】2019年3月期 ヒロセ電機
 賦課金について、日本基準では主に時の経過に伴って発生する費用として処理しておりましたが、IFRSでは支払義務が生じた時点の費用としております。

 ⑯ 退職給付債務の再計算
 わが国の「退職給付に関する会計基準」においては、退職給付見込額の計算方法として、いわゆる期間定額基準と給付算定式基準の両方が認められているほか(第19項)、退職給付債務の計算における割引率は、安全性の高い債券の利回り(割引率の基礎とする安全性の高い債券の利回りとは、期末における国債、政府機関債及び優良社債の利回り)を基礎として決定するとされている(第20項、注解6)。これに対してIFRS(IAS第19号「従業員給付」)では、確定給付制度債務の現在価値及び関連する当期勤務費用(並びに該当する場合には過去勤務費用)を算定するにあたり、企業は、制度の給付算定式に基づいて勤務期間に給付を帰属させなければならないとされているほか(第70項)、退職後給付債務(積立てをするものとしないものの双方とも)の割引に使用する率は、報告期間の末日時点の優良社債の市場利回りを参照して決定しなければならないとされている(第83項)。
【開示例】日清食品ホールディングス 2019年3月期
 日本基準とIFRSとの間で割引率等の数理計算上の仮定の相違が存在するため、IAS第19号に基づき年金数理計算を実施し、退職給付に係る負債及び資産を調整しております。

終わりに

 IFRS第9号「金融商品」やIFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」に引き続き、2019年1月1日以後開始する事業年度から、IFRS第16号「リース」の強制適用が開始された。これで、IFRS第17号「保険契約」を除き、IASBがこの10年間で鋭意開発に注力してきた主要な基準書がすべて適用されることになる。また、我が国においても、これまで基準書が存在しなかった収益の領域について、「収益認識に関する会計基準」の早期適用が始まり、IFRS第16号の規定を下敷きにしたリースに関する会計基準の改訂のための検討も開始されている。我が国の企業に対してIFRSの任意適用が認められてから間もなく10年になろうとしているが、その間、我が国の会計基準とIFRSとの間の収斂(コンバージェンス)を図る作業は着実に進展したものの、のれんやリサイクリング、開発費の資産化といった会計基準間の差異が残っている項目はまだまだ多い。そして、賦課金やリースなど、IFRSの新たな会計基準や解釈指針も続々と適用されている。本稿で取り上げた、IFRSを初度適用する会社が作成する差異調整表上に開示される項目は、少しずつ顔ぶれが変わりながらも、今後もずっと残っていくことであろう。

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