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解説記事2021年03月15日 CAM(監査上の重要な事項)及びKAM(監査上の主要な検討事項)とコロナウイルス感染症(2021年3月15日号・№874) ~2020年12月以前に決算期を迎えた主要な米国企業及び欧州・英国企業の調査分析~

特別解説
CAM(監査上の重要な事項)及びKAM(監査上の主要な検討事項)とコロナウイルス感染症
~2020年12月以前に決算期を迎えた主要な米国企業及び欧州・英国企業の調査分析~

はじめに

 2019年の年末から2020年の年初にかけて、中国の武漢周辺で大規模なコロナウイルス感染症(Covid-19)が発生し、蔓延していることが世界中に報道され、その後、我が国を含めた世界中にあっという間に感染が広がった。2020年は、Covid-19に世界中が振り回された1年であったといえよう。
 そして、Covid-19の蔓延に対応して、欧州を中心とする世界各国がロックダウン等の人の流れを遮断するための措置をとったため、各国の企業の経済活動や業績も大きな制約を受けた。中でも米国は感染者及び死者の増加が著しく、世界全体の感染者・死亡者の2割以上を占めている。米国経済や米国企業の業績にも甚大な悪影響が生じていることが想定される。
 米国では、公開企業会計監視委員会(PCAOB)の基準に基づき、大規模早期提出企業(Large Accelerated Filer)(注1)の2019年6月期以降の監査について、監査上の重要な事項Critical Audit Matter(CAM)を、会計監査人が監査報告書に記載することが求められている。米国及び欧州大陸、英国の企業は12月決算がほとんどであるが、本稿では、2020年12月期決算の各社の監査報告書に記載されたCAM及び監査上の主要な検討事項Key Audit Matters(KAM)の調査分析に先立って、2020年12月末日よりも前に決算期を迎えた主要な米国企業の監査報告書に記載されたCAMを調査するとともに、同時期に決算期を迎えた英国や欧州大陸の企業の監査報告書に記載されたKAMとも適宜比較しつつ、分析することとしたい。
(注1)時価総額が7億ドル以上の企業

今回の調査の対象とした米国企業

 今回の調査対象とした米国企業は、スタンダード・アンド・プアーズ株価指数(S&P)100の構成銘柄を中心に、米国の超大企業のうち、2020年1月末日から2020年10月末日までに決算期を迎えた企業20社である(表1を参照)。

 いずれも米国を代表する大企業ばかりであり、監査を担当する監査法人は、すべてビッグ4を構成する事務所である。

調査対象の各社の監査報告書に会計監査人が記載したCAM

 表1の各社の会計監査を担当する会計監査人(監査法人)が、監査報告書に記載したCAMの個数と項目は表2のとおりであった。

 本稿で調査対象とした米国企業20社の監査報告書に記載されたCAMは、表2に記載したとおり、各社あたり1項目ないし2項目であり、監査報告書に3項目以上のCAMが記載された企業はなかった。また、米国企業の場合には、Covid-19については、欧州やアジア等、他の地域よりも甚大な影響を被っているとも考えられるが、今回調査の対象とした企業のうち、監査報告書でCovid-19について直接言及していたCAM(継続企業の前提に関するものも含む)は1件もなかった。
 Covid-19の感染拡大により、営業の中心的な拠点である米カリフォルニア州のディズニーランドが閉鎖中で、それに伴い2万8,000人の人員削減を行うと報道されているウォルト・ディズニー社においても、その監査報告書上のCAMにおいて、Covid-19について言及している部分はなかった。この点は、この後で取り上げる英国企業(ロンドン証券取引所に上場しており、FTSE100の構成銘柄となっている企業)の監査報告書に記載された監査上の主要な検討事項(KAM)とは大きく異なる点であるといえる。
 今回の調査の対象とした米国企業でCAMとして取り上げられていた項目としては、不確実な税務ポジション、偶発事象(訴訟を含む)、のれんや耐用年数を確定できない無形資産の評価といった、会計上の見積りに関する項目及び収益認識に関するものがほとんどを占めており、Covid-19の感染が拡大する前の2019年12月期決算に係る連結財務諸表の監査報告書に記載されたCAMとほぼ同様の傾向であった。Covid-19の感染が拡大し、終息のめどが立たない中で、会計上の見積りを適切に行うことはより難度が増している、という意味での間接的な影響は当然にCAMにも織り込まれているであろうが、Covid-19のインパクト等について直接的に言及しているCAMはなかった。

2020年9月に決算期末を迎えた主要な英国、及び欧州大陸の企業の監査報告書に記載されたKAM

 Covid-19の感染が爆発的に広がり、ロックダウン等の強力な措置が本格的に行われ始めた2020年7月及び9月に決算期末を迎えた英国及び欧州大陸の企業の監査報告書には、どのようなKAM(監査上の主要な検討事項)が記載されたのであろうか。本稿の後段では、英国FTSE100の構成銘柄、及び欧州大陸の主要な企業の多くが構成銘柄となっているSTOXX株価指数(注2)の構成銘柄のうち、主要な企業を抽出して、主要な米国企業の監査報告書に記載されたCAMとも比較をしてみたい。
(注2)ドイツ取引所の子会社であり、株価指数(インデックス)の算出・管理や、ポートフォリオ分析を行う金融サービス企業であるSTOXX社が算出する、ヨーロッパ先進国における証券取引所上場の上位600銘柄により構成される株価指数。流動性の高い600銘柄の株価を基に算出される、時価総額加重平均型株価指数である。ヨーロッパ経済動向のベンチマーク指数として広く参照され、欧米諸国では上場投資信託や先物・オプション取引などの金融商品で使用されている。
 まず、今回の調査の対象とした英国の企業は、表3のとおりである。

 そして、表3の各社の会計監査を担当する会計監査人(監査法人)が監査報告書に記載したKAMの個数と項目は表4のとおりであった。

 英国の企業の場合、KAMとして監査報告書に記載される項目数が、平均すると4項目から5項目程度であり、平均が2項目に満たない米国や3項目程度の欧州大陸の企業と比較してかなり多いという特徴がある。そして、今回調査対象とした6社のうち4社の監査報告書において、コロナウイルス感染症(Covid-19)のインパクトや継続企業の前提の評価がKAMとして取り上げられていた。
 また、本誌の2021年1月18日号(No.866)において、2020年1月から7月末までに決算期末日を迎えた英国の企業33社について、監査報告書に記載されたKAMの調査を行ったが、33社のうち21社の監査報告書において、Covid-19のインパクトや継続企業の前提の評価がKAMとして取り上げられていた。

2020年7月及び9月に決算期末日を迎えた主要な欧州大陸の企業の監査報告書に記載されたKAM

 次に、欧州大陸の企業の監査報告書に記載されたKAMを取り上げる。
 今回の調査の対象とした主要な欧州大陸の企業は表5のとおりである。

 なお、フランスの企業であるペルノ・リカール社とソデクソ社の場合、共同監査が行われているため、会計監査人は2法人となっている。
 表5の各社の会計監査を担当する会計監査人(監査法人)が監査報告書に記載したKAMの個数と項目は表6のとおりであった。

 欧州大陸の企業の監査報告書へのKAMの記載数は平均して3個から4個程度であり、英国の企業よりは少なく、米国の企業よりは多いという位置付けにある。英国や米国の主要な企業とは異なり、STOXX株価指数の構成銘柄となっている主要な欧州大陸の企業のほとんどが12月決算であるため、今回の調査の対象とした企業はわずか5社に過ぎない。サンプル数が極めて少ないという制約はあるが、今回調査の対象とした欧州大陸の企業5社の中で、コロナウイルス感染症(Covid-19)のインパクトや継続企業の前提に直接的に言及したKAMが監査報告書に記載された事例はなかった。英国の企業に比べ、欧州大陸の企業を監査する監査法人は、Covid-19の感染拡大による影響(継続企業の前提を含む)を監査報告書にKAMとして記載しようという傾向があまりないのか、あるいは、Covid-19の感染者数の増加が、2020年の初めころはイタリア、スペインといった南欧諸国が中心であったが、後半以降は南欧諸国よりも英国で事態がより深刻になっていることを反映したものなのかは判然としない。明確な傾向を把握するためには、2020年12月期決算の欧州大陸や英国、並びに米国の企業も含めて、事例を増やしたうえでのさらなる調査分析が必要であると考えられる。
 欧州、特に英国の企業の監査報告書に記載されるKAMはおしなべて長文であり、リスクや監査手続の説明が、1つの項目当たり2ページ以上に及ぶような場合も多く見られる。しかも、特に英国の場合には平均して4項目から5項目程度のKAMが選定されており、中には7項目、あるいは8項目のKAMが監査報告書に記載され、監査報告書が合計10ページ以上にわたるようなケースも決して珍しくない。さらには文章による説明に加えて、リスクマップのような図表を用いて工夫をしているような事例もよく見られる。その点、主要な米国企業の場合、監査報告書に記載されるCAMは、個数が少ないことに加えて、各項目の記述は1項目あたり半ページ程度であり、記載内容も比較的あっさりとしている。
 求められている内容にはほぼ差はないといわれるKAMとCAMであるが、同じ英語圏である英国と米国であっても、取り上げられる項目の個数や説明する文章の記載ぶり等は、かなり様相が異なっている印象を受ける。

終わりに

 2021年3月期から我が国の上場企業に対しても、監査報告書において監査上の主要な検討事項(KAM)の記載が行われるようになる。これまでに公表された50社程度のKAMの早期適用事例を見る限り、我が国の企業の監査報告書に記載されるKAMは、個数も記載ぶりも、欧州大陸の企業のそれに近くなるのではないかと予想される。なお、これまでに監査報告書にKAMが記載された我が国の企業の中で、Covid-19の影響等が1つの項目として取り上げられていた事例はない。
 KAMは企業の経営者や監査役会等、会計監査人と投資家とを結ぶ重要なコミュニケーションのツールであり、監査報告書に記載された個数や個々のボリュームといった「量」で表面的な評価をすべきではなく、その「質」で評価されなければならないことは言うまでもない。
 今回の調査は、特に欧州の企業のサンプル数が少ないため、2020年12月期決算の米国や欧州、英国の企業、及び2021年3月期決算の我が国の企業に対する監査報告書が出そろった段階で、改めて調査分析をしてみたいと考える。
 Covid-19による影響が長期化することが予想される中、世界中の企業の監査報告書に記載されるKAM(CAM)の今後の動向がどのようになるかに注目したい。

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