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解説記事2021年05月03日 論考 企業統治指針(CGコード)改訂の意義(2021年5月3日号・№881)

論考
企業統治指針(CGコード)改訂の意義
 神奈川大学法学部教授 葭田英人

1 はじめに

 金融庁・東京証券取引所に設置された「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」の第26回会議(2021年3月31日)において、「コーポレートガバナンス・コード(以下、CGコード)〜会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上のために〜(改訂案)」が3年ぶりに公表された。1か月のパブリックコメントを経て、6月から上場会社に適用する。
 改訂案の主な内容は、①取締役会の機能発揮、②企業の中核人材における多様性(ダイバーシティ)の確保、③サステナビリティ(ESG要素を含む中長期的な持続可能性)を巡る課題への取り組み、④その他の個別項目(グループガバナンスの在り方、全社的リスク管理体制の整備と内部監査部門との連携、株主総会の在り方、事業ポートフォリオの状況の開示)などであり、会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上を目的としている。従わない場合は理由を説明する必要がある。
 また、年内には、2022年4月に予定する市場再編に伴う市場選択手続のため、改訂後のCGコードへの対応が必要になる。プライム市場とスタンダード市場の上場会社には、各市場に対応したコーポレートガバナンス報告書の提出が求められる。特に、現在の東証一部を引き継ぐ「プライム市場」に上場する会社は、海外マネーを取り込むために、これまでより高いガバナンス水準が求められる。

2 CGコード改訂案の内容

(1)取締役会の機能発揮
 ① 独立社外取締役の選任

 改訂CGコード原則4−8において、「独立社外取締役は会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上に寄与するように役割・責務を果たすべきであり、プライム市場上場会社はそのような資質を十分に備えた独立社外取締役を少なくとも3分の1(その他の市場の上場会社においては2名)以上選任すべきである。
 また、上記にかかわらず、業種・規模・事業特性・機関設計・会社をとりまく環境等を総合的に勘案して、過半数の独立社外取締役を選任することが必要と考えるプライム市場上場会社(その他の市場の上場会社においては少なくとも3分の1以上の独立社外取締役を選任することが必要と考える上場会社)は、十分な人数の独立社外取締役を選任すべきである。」としている。
 海外の大企業は、取締役会の半数以上を社外取締役で占める事例が多く、ジェンダー、国際性、職歴、年齢など様々な人材を社外取締役とする、取締役会の多様性が進んでいる海外の流れを意識してのことであり、経営の透明性を高め、海外の投資を促す狙いがある。
 社外取締役の人数が増えることが取締役会の実効性を高めるとは限らないが、複数の社外取締役が増加すればアドバイスの質も向上し、内部者の提案に対して異議を唱える場合にも、実効性をもたせる可能性が高い。社外取締役が過半数になれば、取締役会の性格は変わらざるを得ないであろう。
 しかし、独立社外取締役が機能しづらい理由は、実態として、社長(CEO)が独立社外取締役を選任していることである。監視される人(社長)が、監視する人(独立社外取締役)の人事権と報酬決定権を実質的に握っていることになる(脚注1)。
 一方、経営に関する知見や高い見識を有する社外取締役候補者を見つけることは難しいという会社が多いことから、社長などの経営陣の人脈に頼らざるを得ない面もある。経営陣から独立した社外取締役の人材の市場が諸外国に比べて整っていない現状では、過半数の独立社外取締役の選任の検討を促すことは容易ではない。指名の検討に先駆けて人材の市場を形成することが重要なプロセスとなる。
 ② 独立した指名委員会・報酬委員会の設置
 改訂CGコード補充原則4−10①において、「上場会社が監査役会設置会社または監査等委員会設置会社であって、独立社外取締役が取締役会の過半数に達していない場合には、経営陣幹部・取締役の指名(後継者計画を含む)・報酬などに係る取締役会の機能の独立性・客観性と説明責任を強化するため、取締役会の下に独立社外取締役を主要な構成員とする独立した指名委員会・報酬委員会を設置することにより、指名や報酬などの特に重要な事項に関する検討に当たり、ジェンダー等の多様性やスキルの観点を含め、これらの委員会の適切な関与・助言を得るべきである。
 特に、プライム市場上場会社は、各委員会の構成員の過半数を独立社外取締役とすることを基本とし、その委員会構成の独立性に関する考え方・権限・役割等を開示すべきである。」としている。
 上場会社が監査役会設置会社または監査等委員会設置会社であって、独立社外取締役が取締役会の過半数に達していない場合には、取締役会の下に独立社外取締役を主要な構成員とする独立した指名委員会・報酬委員会を設置することを求めている。また、指名委員会については、経営陣幹部・取締役の選任だけではなく、後継者計画に関与することも求めている。そして、報酬委員会については、企業戦略と整合的な報酬体系の構築に関与することを求めている。これは、指名委員会・報酬委員会の独立性を重視し、さらに強化した攻めのガバナンスを目指すものであるといえる。
 ③ スキル・マトリックスの導入
 改訂CGコード補充原則4−11①において、「取締役会は、経営戦略に照らして自らが備えるべきスキル等を特定した上で、取締役会の全体としての知識・経験・能力のバランス、多様性及び規模に関する考え方を定め、各取締役の知識・経験・能力等を一覧化したいわゆるスキル・マトリックスをはじめ、経営環境や事業特性等に応じた適切な形で取締役の有するスキル等の組み合わせを取締役の選任に関する方針・手続と併せて開示すべきである。その際、独立社外取締役には、他社での経営経験を有する者を含めるべきである。」としている。
 取締役会が本来の役割を果たすには、経営戦略に応じて多様な経験や技能を持った社内外の取締役をそろえる必要がある。そこで、各取締役が有するスキルを表形式に示したスキル・マトリックスを開示することを求めている。その際、各取締役が期待される役割とスキル・マトリックスの整合性が問われることになり、一定のスキルを有する取締役をどのように選任すべきかという方針の開示も求められることとなった。
 また、取締役会は、既存の枠組みにとらわれない異なる視点やスキルを取り入れることによりリスクを減らすことができる。全体として、取締役会の機能発揮を促進するためにスキル・マトリックスが導入され公表されることになった。
 スキル・マトリックス導入により、取締役会の質的・量的な充実が要請され、会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上のための、より実効的な内容が盛り込まれることとなる。
 ④ 社外取締役・監査役の株主との対話
 改訂CGコード補充原則5−1①において、「株主との実際の対話(面談)の対応者については、株主の希望と面談の主な関心事項も踏まえた上で、合理的な範囲で、経営陣幹部、社外取締役を含む取締役または監査役が面談に臨むことを基本とすべきである。」とされた。
 株主との対話の相手方として、経営陣幹部のほか、社外取締役・監査役が面談に臨むことが追加された。これは、取締役会の機能強化の一環として、株主との対話を社外取締役(場合によっては、筆頭独立社外取締役)と監査役の役割とすることを求めているものである。
(2)企業の中核人材における多様性(ダイバーシティ)の確保
 新設された改訂CGコード補充原則2−4①において、「上場会社は、女性・外国人・中途採用者の管理職への登用等、中核人材の登用等における多様性の確保についての考え方と自主的かつ測定可能な目標を示すとともに、その状況を開示すべきである。
 また、中長期的な企業価値の向上に向けた人材戦略の重要性に鑑み、多様性の確保に向けた人材育成方針と社内環境整備方針をその実施状況と併せて開示すべきである。」としている。
 当該コードに、ダイバーシティの要素として女性・外国人や中途採用者が明記され、取締役だけでなく、管理職・中核人材に対する取り組みが必要であるとし、ダイバーシティについての方針・考え方と目標や達成状況の開示を求めている。具体的には、管理職の多様性についての考え方と測定可能な自主目標の設定を求め、人材育成方針・社内環境整備方針をその実施状況とあわせて公表することとしている。
 多様性の具体的な要素は各社各様であり、詳細に決めることは容易ではない。しかし、男女格差や新卒一括採用など、これまでの日本型の制度そのものの変革を促しているといえる。
(3)サステナビリティ(ESG要素を含む中長期的な持続可能性)を巡る課題への取り組み
 ① 取締役会のサステナビリティへの取り組み

 改訂CGコード補充原則2−3①において、「取締役会は、気候変動などの地球環境問題への配慮、人権の尊重、従業員の健康・労働環境への配慮や公正・適切な処遇、取引先との公正・適正な取引、自然災害等への危機管理など、サステナビリティを巡る課題への対応は、リスクの減少のみならず収益機会にもつながる重要な経営課題であると認識し、中長期的な企業価値の向上の観点から、これらの課題に積極的・能動的に取り組むよう検討を深めるべきである。」としている。
 サステナビリティを巡る課題は多様であり、これに対して積極的・能動的に取り組むために、サステナビリティについて検討する「サステナビリティ委員会」を設置する上場企業が増えている。客観的な評価や判断ができ、各社の実情に応じた実質的な対応ができる体制を構築するための取り組みが必要である。
 ② サステナビリティの基本方針の策定と監督
 新設された改訂CGコード補充原則4−2②において、「取締役会は、中長期的な企業価値の向上の観点から、自社のサステナビリティを巡る取組みについて基本的な方針を策定すべきである。
 また、人的資本・知的財産への投資等の重要性に鑑み、これらをはじめとする経営資源の配分や、事業ポートフォリオに関する戦略の実行が、企業の持続的な成長に資するよう、実効的に監督を行うべきである。」としている。
 サステナビリティに関する課題は経営の様々な面に存在することから、取締役会は、自社のサステナビリティを巡る取組みについて基本的な方針を策定しておく必要がある。さらに、取締役の中から、人的資本や知的財産への投資等の戦略の策定や実行に関する権限と責任を与えられた最高責任者を選定し、実効的に監督を行わせる必要がある。
 特に、非財務情報として扱われていた人材に関する項目が「人的資本」として独立項目とされ、投資等として取締役会の責務であると明記されることとなった。
 ③ サステナビリティの開示
 新設された改訂CGコード補充原則3−1③において、「上場会社は、経営戦略の開示に当たって、自社のサステナビリティについての取組みを適切に開示すべきである。また、人的資本や知的財産への投資等についても、自社の経営戦略・経営課題との整合性を意識しつつ分かりやすく具体的に情報を開示・提供すべきである。
 特に、プライム市場上場会社は、気候変動に係るリスク及び収益機会が自社の事業活動や収益等に与える影響について、必要なデータの収集と分析を行い、国際的に確立された開示の枠組みであるTCFDまたはそれと同等の枠組みに基づく開示の質と量の充実を進めるべきである。」としている。
 機関投資家と企業の間で建設的な対話をするためには、自社のサステナビリティについての情報開示は極めて重要である。上場会社は、自社のサステナビリティについての取組みを、持続的な経営戦略や投資戦略を踏まえ、具体的に情報を開示・提供すべきである。
 特に、プライム市場上場企業に対しては、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)か、同等の国際的枠組みに基づく気候変動に対する取り組みの情報開示を行う必要がある。背景には、海外の機関投資家が、企業の気候変動に対する対策に高い関心を示していることから、企業が気候変動に係るリスクや対応策を開示することにより、海外の投資家が日本企業に投資しやすい環境を整える必要性からである。
(4)その他の個別項目
 ① グループガバナンスの在り方

 新設された改訂CGコード補充原則4−8③において、「支配株主を有する上場会社は、取締役会において支配株主からの独立性を有する独立社外取締役を少なくとも3分の1以上(プライム市場上場会社においては過半数)選任するか、または支配株主と少数株主との利益が相反する重要な取引・行為について審議・検討を行う、独立社外取締役を含む独立性を有する者で構成された特別委員会を設置すべきである。」としている。
 上場子会社では、一般株主の利益相反リスクがあるため、取締役会の中に独立社外取締役を多く置くか(プライム市場上場子会社では過半数、その他の市場の上場子会社は3分の1以上)、または利益相反取引・行為を審議・検討する独立社外取締役を有する特別委員会を設置することを求めるものである。なお、独立社外取締役の割合が基準に満たない場合には、comply or explainの原則により説明する必要がある。
 また、上場子会社は、一般株主の利益が犠牲にされる恐れが強いことから、親会社は、上場子会社として維持することの理由を一般株主に対して説明する責任がある。さらに、一般株主の利益に十分配慮し、上場子会社における実効性のあるグループガバナンス体制の在り方を説明する必要がある。
 なお、少なくとも、「親会社が損害賠償責任を負う場合であっても、子会社が責任を追求しないときには、子会社に代わって子会社の少数株主が親会社および親会社取締役に対する損害賠償請求権を認める必要がある。……仮に、親子会社間取引において、子会社が不利に見えるような場合でも、企業グループとしてはメリットがあり、トータルとして損はしていないとする経済的合理性の観点からの経営判断であることを親会社が立証すればいいのであって、子会社の少数株主に親会社および親会社取締役に対して直接責任を追及する権利を認めても不合理はないはずである。」(脚注2)と考える。
 ② 全社的リスク管理体制の整備と内部監査部門との連携
 改訂CGコード補充原則4−3④において、「内部統制や先を見越した全社的リスク管理体制の整備は、適切なコンプライアンスの確保とリスクテイクの裏付けとなり得るものであり、取締役会はグループ全体を含めたこれらの体制を適切に構築し、内部監査部門を活用しつつ、その運用状況を監督すべきである。」としている。
 取締役会は、グループ全体を含めた内部統制や全社的リスク管理体制の整備や内部監査部門を活用し、その運用状況を監督する必要がある。
 また、改訂CGコード補充原則4−13③において、「上場会社は、取締役会及び監査役会の機能発揮に向け、内部監査部門がこれらに対しても適切に直接報告を行う仕組みを構築すること等により、内部監査部門と取締役・監査役との連携を確保すべきである。また、上場会社は、例えば、社外取締役・社外監査役の指示を受けて会社の情報を適確に提供できるよう社内との連絡・調整にあたる者の選任など、社外取締役や社外監査役に必要な情報を適確に提供するための工夫を行うべきである。」としている。
 内部監査部門が経営陣のみの指揮命令下にある場合が多く、経営陣による不正が発生しても、独立した機能が発揮されないことから、内部監査部門が、社外取締役や社外監査役を含む取締役会や監査役会に対しても適切に直接報告を行う仕組みを構築する必要がある。
 ③ 株主総会の在り方
 改訂CGコード補充原則1−2④において、「上場会社は、自社の株主における機関投資家や海外投資家の比率等も踏まえ、議決権の電子行使を可能とするための環境作り(議決権電子行使プラットフォームの利用等)や招集通知の英訳を進めるべきである。
 特に、プライム市場上場会社は、少なくとも機関投資家向けに議決権電子行使プラットフォームを利用可能とすべきである。」としている。
 さらに、改訂CGコード補充原則3−1②において、「上場会社は、自社の株主における海外投資家等の比率も踏まえ、合理的な範囲において、英語での情報の開示・提供を進めるべきである。
 特に、プライム市場上場会社は、開示書類のうち必要とされる情報について、英語での開示・提供を行うべきである。」としている。
 投資対象となる上場会社は、機関投資家や海外投資家の利便性や効率性の観点から、議決権電子行使プラットフォームを利用する環境を整備する必要がある。特に、プライム市場上場会社は、従わない場合は理由を説明しなければならない。
 また、上場会社は、招集通知などの英語での情報の開示・提供を、国際競争力を持つ市場という観点から進めるべきである。なお、プライム市場上場会社は、英文開示が必須条件となった。ただ、英語での情報の開示は、合理的な範囲において、各社の判断に委ねられることとなった。
 ④ 事業ポートフォリオの状況の開示
 新設された改訂CGコード補充原則5−2①において、「上場会社は、経営戦略等の策定・公表に当たっては、取締役会において決定された事業ポートフォリオに関する基本的な方針や事業ポートフォリオの見直しの状況について分かりやすく示すべきである。」としている。
 コロナ禍の不確実な環境の中、取締役会は、事業セグメントごとの資本コストを踏まえた事業ポートフォリオに関する基本方針の決定や適時適切な見直しを行うべきであり、その状況を、株主に具体的に分かりやすく説明することが求められる。

3 むすび

 企業を取り巻く世界は、株主資本主義からステークホルダー資本主義に変わりつつある。それに応じて、取締役会は、マネジメントモデルから監督機能を重視したモニタリングモデルに移行しつつある。英米の企業は、モニタリングモデルを採用していることから、取締役会における独立社外取締役の比率が高く、指名・報酬委員会が設置されている。それゆえ、一定のスキルを有する独立社外取締役のニーズが高まることになる。
 今回のCGコードの改訂により、取締役会がより高次元の説明責任を果たし、形式的な対応にとどまらず、主体的な取組みをすることにより、企業価値が向上し、企業のガバナンスをめぐる課題の改善につながっていくことが期待される。

脚注
1 藤田 勉「英国のコーポレートガバナンス・コードの失敗に学ぶこと」月刊資本市場417号(2020年5月)78頁。
2 拙稿「グループ・ガバナンスの法的論点」神奈川法学52巻2号(2020年2月)22頁。

葭田英人 よしだ ひでと
筑波大学大学院修了。専門分野は、会社法・税法・信託法。近著は『コーポレートガバナンスと社外取締役・社外監査役』(三省堂・2020)、『会社法入門(第六版)』(同文舘出版・2020)、『合同会社の法制度と税制(第三版)』(税務経理協会・2019)など。

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