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解説記事2021年05月24日 SCOPE MBOの業務委託契約解除でコンサル会社が賠償請求も棄却(2021年5月24日号・№883)

二重契約を背信行為として会社側が契約解除
MBOの業務委託契約解除でコンサル会社が賠償請求も棄却


 今回紹介する損害賠償請求事件は、MBOに関するアドバイジング契約及び業務委託契約の解除を巡るもの。被告となった会社は、コンサルティング会社から紹介され業務委託契約を行ったX社とコンサルティング会社が顧問契約をしていたことが背信行為に当たるとしてアドバイジング契約等を解除したため、コンサルティング会社は被告会社に対し、MBOの実現直前に故意に妨害されたとして損害賠償請求を行ったものである。東京地裁(谷口安史裁判長)は被告会社に対するデューデリジェンスも完了していなかったことなどを考慮すれば、MBOが近日中に実現する準備が進んでいたとは認められないとし、原告のコンサルティング会社の請求を棄却した(令和2年7月14日判決)。

近日中にMBOが実現する準備が進んでいたと認めず

 本件は、株式の公開買付け及びMBOについてのアドバイジング契約等の解除を巡り、コンサルティング会社が顧客の会社に対して損害賠償請求を行ったものである。
 コンサルティング会社O社の代表取締役であるE(原告)は、東証1部上場の東都水産(被告)の代表取締役であったS(被告)に対し、同社の経営体制及び強化を図る方法として株式の公開買付け及びSが一部又は全部出資する特別目的会社による同社の買収(MBO)を提案。しかし、被告Sは原告Eに対し、原告O社が同社の紹介により東都水産と業務委託契約を締結したX社との間で顧問契約を締結していたことが東都水産に対する背信行為に当たるとし、原告O社と東都水産との間のアドバイジング契約及び業務委託契約を解除する旨の通知を口頭で行った。これにより原告及び被告が準備を進めていた公開買付け及びMBOは頓挫することになった。
 このため、原告Eは、被告SがMBOの実現を故意に妨害したなどとして被告S及び東都水産に対して約3億4,450万円の損害賠償請求等を行った(一方、被告会社は既払報酬の一部につき、不当利得に基づく返還請求として約155万円を請求した)。
MBO実現の一歩手前で故意に妨害
 原告Eは、被告Sが東都水産の取締役会において原告O社とX社とが顧問契約をしていることについて、同契約の締結を了解していたことを他の取締役に告知せず、東都水産が解除通知を行うことに何ら異議を述べなかったことは、MBOが実現の一歩手前の段階に至っていたことなどを考慮すれば、MBOを故意に妨害するものとして違法であることが明らかであるなどと主張した。
民法に基づく任意解除権と矛盾抵触せず
 東京地裁は、解除通知当時、MBOのホワイトナイトとしてJ社が候補に挙がっていたものの、決定には至っていなかったこと、J社についてもMBOを実現するためのSPCは設立されておらず、東都水産に対するデューデリジェンスも完了していなかったことなど(表1参照)を考慮すれば、MBOが近日中に実現され得るほどにその準備が進捗していたと認めることはできないと判断した。

【表1】裁判所の認定事実

(MBO関係)
・原告Eは、被告Sに対し、東都水産の経営体制の安定及び強化を図る方法として、非上場化スキームとして公開買付けないしMBOを提案した。被告Sも賛同し、以後原告O社のアドバイスを受けながら、公開買付け及びMBOの実現に向けた検討を開始した。
・J社は、MBOの実現には公開買付けの主体(実行会社)となる特別目的会社の設立が必要である旨、東都水産に関するデューデリジェンス及びMBOについてJ社の投資委員会の承認を得ることが必要である旨の記載がある説明資料を作成した。ただし、J社はMBOのホワイトナイトの候補に挙がっていたが、原告Eは、第2、第3の候補とも連絡をとっている段階であり、決定には至っていなかった。
・本件解除通知当時、SPCは設立されておらず、J社による東都水産に関するデューデリジェンスも完了しておらず、MBOについてJ社の投資委員会の承認も得ていなかった。

(X社関係)
・原告Eは、東都水産に対してX社を紹介した。
・東都水産は、X社が同社の水産物販事業の支援等の業務を行い、X社に対し合計4,100万円の報酬を支払う旨の業務委託契約を締結した。
・原告O社は、X社との間で顧問契約(業務委託契約)を締結し、東都水産とX社との間の業務委託契約に基づく報酬の5%に当たる月額20万円の金員を受領していた。その後、被告Sは、原告O社とX社との間で顧問契約を締結し、金員を受領していたことを知った。
・東都水産は、原告O社がX社から金員を受領するのであれば、同社にX社を紹介した立場である原告O社が東都水産とX社との間の業務委託契約に基づく報酬を軽減するなどの働きかけをするべきであり、原告O社と東都水産との間の信頼関係が破壊されたとして、本件アドバイジング契約及び業務委託契約の解除を行った。

 また、原告O社は、アドバイジング契約9条(表2参照)が民法651条(委任の解除)に基づく任意解除を制限する特約であるから、民法651条に基づく任意解除は認められないと主張するが、東京地裁は、本件アドバイジング契約9条には民法651条に基づく任意解除の適用を制限するような明文規定はないと指摘。約定解除権は要件を満たす限り、委任者において損害賠償義務を負担しないことを前提とするものであるから、委任者において損害賠償義務を負担する場合があることを前提とする民法651条に基づく任意解除権と矛盾抵触するものではなく、アドバイジング契約9条をもって民法651条に基づく任意解除を制限する特約とみることはできないとし、原告らの請求を棄却した。

【表2】原告O社と東都水産のアドバイジング契約9条(契約解除)

 甲(被告東都水産)又は乙(原告O社)は、相手方が本契約に違反している事実が判明したとき又は本契約の遂行が困難と判断される客観的事由が生じたときは、文書にてその是正を求め、当該文書による通知後2週間以内に相手方がその是正を行わないときは、自己の債務の履行を提供しないで即時に本契約を解除し、併せて損害賠償を請求できるものとする。

 一方、東都水産は、原告O社に対し既払報酬約155万円の不当利得返還請求を有すると判断した。

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