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税務ニュース2021年05月28日 法人に遺贈された株式の評価巡り国敗訴(2021年5月31日号・№884) 東京地裁、同時に遺贈された貸付金債権により債務は混同消滅せず

  • 法人に遺贈された株式の価額を純資産価額方式で算定するに当たり、同時に遺贈された貸付金債権に係る債務を当該法人の負債として計上することの適否が争われた事件で、東京地裁民事3部は令和3年5月21日、負債として計上すべきとして更正処分のほぼ全てを取消し。

 亡T氏は、持株会社であるH社(本件法人)に対し、保有するH社の株式及びH社に対する貸付金債権を遺贈した。これを受け、T氏の妻(相続人)が、T氏の所得税等の準確定申告において、財産評価基本通達185《純資産価額方式》に基づき本件株式の1株当たりの純資産価額を算定するに当たり、本件貸付金債務を本件法人の負債として計上し算定して更正の請求をしたところ、処分行政庁は本件貸付金債務を本件法人の負債として計上すべきでないとして更正処分を下した。
 国税不服審判所は、「所得税法第59条第1項に規定する『その事由が生じた時』は、遺言者である亡T氏の死亡の時であり、この時には、本件遺贈の効力が生じて本件貸付金は混同により消滅している。本件貸付金が混同により消滅した後に本件株式の移転があったと捉えるのが条文の文理上相当であることなどから、本件株式の価額を純資産価額方式で算定するに当たり、本件借入金を本件法人の負債に計上することはできない。」として、納税者の請求を棄却していた(平成30年7月9日付裁決)。その後、T氏の妻が平成31年2月10日に死亡したことから、妻の相続人である妹が本件訴訟を提起した。
 東京地裁は、まず譲渡所得に対する課税の趣旨について、「移転の時点において所有者である譲渡人の下に生じている増加益に対して課税されることとなる」とした上で、所得税法59条1項については、非上場株のみなし譲渡課税を巡り控訴審に審理を差し戻した最高裁令和2年3月24日判決を引用し、「同項各号に掲げる事由により譲渡所得の基因となる資産の移転があった場合に当該資産についてその時点において生じている増加益の全部又は一部に対して課税できなくなる事態を防止するため、『その時における価額』に相当する金額により資産の譲渡があったものとみなすこととしたものと解される」との解釈を示した。
 そして、「評価通達185の本文は、1株当たりの純資産価額(相続税評価額によって計算した金額)は、課税時期における各資産を評価通達に定めるところにより評価した価額の合計額から課税時期における各負債の金額の合計額に相当する金額を控除した金額を課税時期における発行済株式数で除して計算した金額とするものとする。評価通達は、相続税及び贈与税の課税における財産の評価に関するものであり、株式保有特定会社の各資産及び各負債の評価の基準時となる上記課税時期とは、相続、遺贈又は贈与により取得した財産の価額の評価の基準時となる当該財産の取得の時(相続税法22条)をいうものと解される」「これに対し、譲渡所得に対する課税の上記趣旨に照らせば、譲渡人が当該株式を保有していた当時における株式保有特定会社の各資産及び各負債の価額に応じた評価方法を用いるべきものと解され、そうすると、株式保有特定会社の1株当たりの純資産価額(相続税評価額によって計算した金額)の計算は、当該譲渡の直前におけるその各資産及び各負債の価額に基づき行うべきであると解するのが相当である」と判示している。
 国は、本件訴訟においては、本件株式の「その時における価額」をその1株当たりの純資産価額によって評価するに当たって、本件遺贈の直前の状態に基づいて行うべきであるとしており、この点では国税不服審判所ではなく東京地裁と同じ考えを示していたが、「①本件遺贈の直前においてはもはや亡T氏により遺言の一部が撤回されることは考えられず、本件貸付金債権が本件法人に移転することが確実な状況であったといえる、②仮に本件貸付金債務を本件法人の負債として計上した場合には、本件遺贈により生ずる本件株式の価額の増加部分については、本件株式が自己株式となることとの関係で、将来においてキャピタル・ゲインに対する課税がされないこととなり、無限の課税繰延べを防止するという所得税法59条1項の趣旨を没却し、不合理な結果を招来する」と主張していた。
 ①の主張に対し東京地裁は、「遺言は遺言者の死亡により初めてその効力が生ずるものであり、遺言者はいつでも既にした遺言を取り消すことができ、遺言者の死亡以前に受遺者が死亡したときには遺贈の効力は生じないのであるから、遺言者の生存中は遺贈を定めた遺言によって何らの法律関係も発生しない」などの遺贈の性質に鑑みれば、「遺言が作成されてからその効力が発生するまでの間において、遺贈の目的である権利が受遺者とされた者に移転することが確実であるとは通常は考え難いというべきである」として国の主張を排斥した。
 また、②の主張に対しても、「本件貸付金債務が本件遺贈の直前においていまだ存在していた以上、被告が主張する本件株式の価額の増加部分は、そもそも本件遺贈の時点において譲渡人である亡T氏の下に生じている増加益ではないから、譲渡所得に対する課税の対象にはならないものである」「また、本件遺贈がされた後において、本件株式を含む自己株式以外の本件法人の株式が譲渡された場合には、その時のその価額に応じて、上記増加部分に対する課税がされる可能性があるから、本件遺贈に伴う本件貸付金債務の消滅により生ずる価額の増加部分について譲渡所得に対する課税の機会が失われるとはいえない」として国の主張を斥けている。

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