解説記事2021年07月19日 SCOPE 国外支配株主等の該当性は、利子等の支払時で判断すべき(2021年7月19日号・№891)

Mファンド過少資本税制事案、納税者再び敗訴
国外支配株主等の該当性は、利子等の支払時で判断すべき


 著名な「Mファンド」を主宰するM氏の節税スキームの下、M氏から資金を借り入れたX社への過少資本税制の適用が争われた事案の一審ではX社側が敗訴していたが(本誌852号40頁参照)、令和3年7月7日、東京高裁(第23民事部・小野瀬厚裁判長)でもX社敗訴の判決が下された。
 本件の争点は、M氏がX社の「国外支配株主等」に該当するか否かにある。X社側は、一審に続き二審でも「借入れの時点においてM氏は非居住者ではなかったから『非居住者等からの借入れ』には該当しない」点を規定の字義等を根拠として強く主張。東京高裁は、過少資本税制の規定から「国外支配株主等に該当するか否かは、利子等の支払時を基準として決定される」と、地裁判決よりもさらに明確かつ踏み込んだ解釈を示している。

「貸付後に国外移転、国外で支払利子受取り」は過少資本税制の趣旨を潜脱

 内国法人が海外の関連企業等から資金を調達するに際し、出資(関連企業等への配当は損金算入不可)を少なくし、貸付け(関連企業等への支払利子は損金算入可能)を多くすれば、我が国での税負担を軽減することができる。そこで、このような海外の関連企業等から過大な貸付けを受けることによる租税回避を防止するため、出資と貸付けの比率が一定の割合(原則として3倍)を超える部分の支払利子について損金算入を認めないこととする制度として過少資本税制(措法66条の5第1項)がある。
 本件は、過少資本税制の適用が法廷で争われたほぼ初めての事例という点だけでなく、貸主である個人の投資家(関連企業ではない)が、過少資本税制の適用対象とされる「国外支配株主等」に該当するか否かが争われた点でも注目されていた。
 「国外支配株主等」とはのとおり。本件ではその該当性について、表の措置法施行令39条の13第11項3号の要件、①「その事業活動に必要とされる資金の相当部分を当該非居住者等からの借入れにより調達しているか」(同号ロ)②「当該非居住者等が当該内国法人の事業の方針の全部又は一部につき実質的に決定できる関係を有するか」(事業方針決定関係)の順で検討された。

【表】「国外支配株主等」とは (下線は編集部)

 非居住者又は外国法人で、内国法人との間に、当該非居住者等が当該内国法人の発行済株式等の総数等の100分の50以上を直接または間接に保有する関係その他の政令で定める特殊の関係のあるもの(措法66条の5第4項1号)。
 これを受けた措置法施行令39条の13第11項(現12項)は上記「特殊の関係」について定め、3号はその一つとして、「当該内国法人と非居住者等との間に次のイからハまでに掲げる事実その他これに類する事実が存在することにより、当該非居住者等が当該内国法人の事業の方針の全部又は一部につき客観的に決定できる関係」(事業方針決定関係)を掲げている。
イ 当該内国法人がその事業活動の相当部分を当該非居住者等との取引に依存して行っていること
ロ 当該内国法人がその事業活動に必要とされる資金の相当部分を当該非居住者等からの借入れにより、又は当該非居住者等の保証を受けて調達していること
ハ 当該内国法人の役員の2分の1以上又は代表する権限を有する役員が、当該外国法人の役員又は使用人を兼務している者又は当該外国法人の役員若しくは使用人であった者であること

 ①の要件について原告X社は、貸主であるM氏が居住者である間に本件借入れが行われ(平成23年6月30日から同年7月4日まで)、その後M氏が同年7月4日にシンガポールに転居し、同月5日以降非居住者となった後に本件借入金に係る本件支払利子が支払われたため、「本件借入れが実行された時点でM氏は非居住者ではなかったから、『非居住者等からの借入れ』には該当しない」などと主張。
 一審の東京地裁は、貸付け後に貸主が日本国外に住所地を移転した場合に過少資本税制が適用されないこととなれば、上記の過少資本税制の趣旨が「容易に潜脱されることとなってしまう」ことに加えて、「国外支配株主等に対する支払利子について損金算入を認められない場合の一つとして同号ロが定められていることにも鑑みれば」、損金算入が認められるか否かが問題とされている支払利子との関係で判断すべきであり、「貸付けの実行時において貸主が非居住者であることを要しないものと解されるのが相当」としていた。
 東京高裁も原判決のこの解釈を引用し、さらに原判決の補正として「措置法66条の5第1項は、『国外支配株主等(略)に負債の利子を支払う場合において』と規定しているから、国外支配株主等に該当するか否かは、利子等の支払時を基準として決定されることとなる。したがって、同条4項1号の『非居住者』であるか否か、政令で定める特殊の関係があるか否かも、利子等の支払時を基準として決定されることとなる。」との記載等を加え、国外支配株主等の該当性判断は“支払時基準”によるとの解釈を明確に示した。
 その上で、認定事実から「その事業活動に必要とされる資金の相当部分を当該非居住者等(M氏)からの借入れにより調達していた」と判断した原判決を支持した。
二審もM氏の主導・X社への影響力認める
 また、東京地裁は、②の「事業方針決定関係」の有無の検討において、①の事業資金の調達に係る事情以外の事情についても、認定事実から「X社の税負担の軽減を図るための一連の措置等はM氏の主導により行われ、そのほかのX社の投資事業等の運営や、X社の役員人事等の重要事項の決定についてもM氏が重要な影響力を行使していた」と指摘し、M氏はX社の事業の方針の全部又は一部につき実質的に決定できる関係を有していたとの結論を下していたが、この点についても東京高裁は原判決を支持。控訴審でX社が訴えた「X社の税負担の軽減を図るための一連の措置等はM氏の主導により行われたものではない」ことの根拠とするいくつかの主張は、いずれも「それらの主張を認めるに足りる証拠はない」としてすべて斥けられた。

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