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解説記事2021年08月09日 ニュース特集 ADW控訴審で国が逆転勝訴、ムゲンより厳しい判決に(2021年8月9日号・№893)

ニュース特集
“過去事例”の存在、過少申告加算税の取消しにつながらず
ADW控訴審で国が逆転勝訴、ムゲンより厳しい判決に


 マンション販売事業者の仕入税額控除の可否を巡り係争中の2件の裁判では、(株)ムゲンエステート(ムゲン社)が、一審に続き控訴審でも敗訴したのは既報のとおり(本誌881号13頁)。これに対し(株)エー・ディー・ワークス(ADW社)の一審では納税者が勝訴していたものの、ムゲン社の控訴審で、ADW社の勝訴判決を引用したムゲン社の主張が斥けられたことから、ADW社の控訴審への影響が注目されていた。
 こうした中、東京高裁(第16民事部・岩井伸晃裁判長)は令和3年7月29日、ADW社が勝訴した原判決を取り消し、国の逆転勝訴となる判決を下した。ムゲン社の控訴審は、“過去事例”の存在を踏まえ過少申告加算税のみが取り消されるという異例の判決となったが、今回のADW社の控訴審では、過少申告加算税の賦課決定処分も含め原処分はすべて適法とされた。
 ADW社の控訴審判決は、「課税対応課税仕入れに区分する」と東京国税局が下級行政機関に回答した平成9年賃貸マンション事例について、「その内容がその後において個々の事案における個別の事例判断の範囲を超えた一般的通用性を有する規範として課税庁において是認され、かつ、一般に周知されていたことを認めるに足りる的確な証拠はない」として、「平成17年頃に課税庁が取扱いを変更したことが窺われる」と認定したムゲン社の控訴審判決とは正反対の評価を下した。

用途区分判定の基準はムゲン判決同様「将来客観的に見込まれるかどうか」

 周知の通り、マンション販売事業者の仕入税額控除の可否を巡る一連の事案では、「仕入時」において、取得した建物を最終的には販売に供することを予定するとともに、その間、住宅用の賃貸にも供されることが見込まれるという状況における、建物の取得費用の用途区分の考え方(課税売上対応の課税仕入れか、共通売上対応の課税仕入れか)が論点となっている。
 ADW社の一審判決では、「消費税法30条2項1号の文言及び趣旨に鑑みると、課税仕入れ等の用途区分に係る判断は、当該課税仕入れ等を行った日を基準に、事業者が将来におけるどのような取引のために当該課税仕入れ等を行ったのかを認定して行うべき」との解釈とともに、「本件ビジネスモデル下における課税仕入れについては、仕入日に将来の賃料収入が確実に見込まれるというだけで直ちに共通対応課税仕入れに区分されるものと解すべきではなく」「当該事業者が行う経済活動に関する個別の事情に基づく検討がされるべき」との新たな考え方が示され、注目を集めた。
 一方、東京高裁は、表2のとおり、①から③を理由として「消費税法30条2項1号の定める各課税仕入れについては、同号の文言及び趣旨等に即して、当該課税仕入れにつき将来課税売上げを生ずる取引と非課税売上げを生ずる取引の双方が客観的に見込まれる課税仕入れについては、全て共通対応課税仕入れに区分されるものと解するのが相当である」との判断基準を示した。これは、「将来確実に見込まれるかどうか」が判断要素となるとのムゲン社の控訴審判決と同様の考え方と言ってよいだろう。

【表2】ADW控訴審判決 用途区分の判定基準について

① このような個別対応方式の計算方法は、前示のとおり、課税資産の譲渡等に対応する課税仕入れの税額だけが仕入税額控除の対象となり、その他の資産の譲渡等に要する課税仕入れに係る消費税額は控除の対象とならないという仕入税額控除の原則的な考え方に従って控除対象仕入税額を計算することとされたものと解されること、
② 消費税法30条2項1号が、課税対応課税仕入れを「課税資産の譲渡等にのみ要するもの」、非課税対応課税仕入れを「課税資産の譲渡等以外の資産の譲渡等にのみ要するもの」、共通対応課税仕入れを「課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要するもの」と規定し、いずれも「要したもの」ではなく「要するもの」と規定され、かつ、前二者は「にのみ」と限定的に規定されており、当該課税仕入れを行った日の属する課税期間が仕入税額控除の対象期間とされていることなどからすると、当該課税仕入れが行われた日の状況に基づいてその取引が事業者において行う将来の多様な取引のうちのどのような取引に要するものであるかを客観的に判断するのが相当と解されること、
③ 共通対応課税仕入控除税額においても、課税売上割合自体、共通対応課税仕入課税売上割合に近似するのが通例のものとして採用されたものであり、当該課税仕入れの行われた課税期間の課税売上割合よりも合理的な割合の算出が可能である場合には所轄税務署長の承認を得た上でその割合を適用することが認められており、これらによって税負担の累積の排除を適正かつ公平に実現できる仕組みが設けられていることなどに照らすと、
同条2項1号の定める各課税仕入れについては、同号の文言及び趣旨等に即して、課税対応課税仕入れとは、当該課税仕入れにつき将来課税売上げを生ずる取引のみをいい、非課税対応課税仕入れとは、当該課税仕入れにつき将来非課税売上げを生ずる取引のみが客観的に見込まれている課税仕入れのみをいい、当該課税仕入れにつき将来課税売上げを生ずる取引と非課税売上げを生ずる取引の双方が客観的に見込まれる課税仕入れについては、全て共通対応課税仕入れに区分されるものと解するのが相当である。

“準ずる割合”を巡る主張はすべて排斥

 ADW社は、「『にのみ要するもの』という文言は、『その資産の譲渡等を行わないのであればそもそも事業者はその課税仕入れ等を行わなかった』という条件関係を意味するものと解され、そうすると、用途区分の判定については、その対象となる課税仕入れ等が、課税資産の譲渡等との間でのみ条件関係を満たす場合には課税対応課税仕入れに、その他の資産の譲渡等との間でのみ条件関係を満たす場合には非課税対応課税仕入れに、それぞれ区分されるものと解するのが相当である」旨主張したが、東京高裁は「被控訴人の主張に係る解釈及びその適用の結果は、消費税法30条2項の規定の文言及び趣旨並びに同条所定の仕入税額控除制度の仕組みと整合しない」としてこれを斥けた。
 また、ADW社は、①課税売上割合に準ずる割合の規定(消費税法30条3項)があるからといって、「将来客観的に見込まれているか否か」のみを基準として用途区分の判定を行うのが消費税の仕組みとはいえない、②課税売上割合が非常に低いがために共通対応課税仕入れに区分された場合に建物の取得に係る消費税額の大部分が控除されないというギャップの問題を課税売上割合に準ずる割合の適用によって解決することは不可能であった点なども主張したが、東京高裁は「消費税法30条2項1号の定める課税対応課税仕入れが将来課税売上げを生ずる取引のみが客観的に見込まれている課税仕入れのみを意味すると解すべきことが否定されるものではない」との判断を示し、課税売上割合に準ずる割合を巡る主張はすべて排斥された。
 さらに東京高裁は、ADW社の「消費税法基本通達11−1−12における『行うために』との表現を素直に解すれば、行為の目的を意味すると解するほかなく、課税仕入れの目的というものを忠実に解釈しようとすれば、他の収入の得られる過程や位置付け、他の収入が得られることが課税仕入れ等やこれに対応する取引に及ぼす影響、全体の収入のうちに他の収入の見込額が占める割合などの事業者の経済活動に関する個別事情を踏まえて判断するのが相当である」との主張に対し、「それらの事業者の経済活動に関する個別事情を踏まえて、当該課税仕入れが課税対応課税仕入れ、非課税対応課税仕入れ又は共通対応課税仕入れのいずれの区分に該当するかを判断するとしても(当該課税仕入れにつき将来課税売上げを生ずる取引のみが客観的に見込まれるか否かを判断するに当たっても、事業者の経済活動に関する諸要素を総合して判断すること自体は否定されない。)、事業者の取引の客観的な内容や性質等を捨象して専らその目的のみに依拠してこれらのいずれの区分に当たるかを判断するのは相当とは解されない」として、客観的に見込まれるかどうかの判断においては経済活動に関する諸要素を考慮することは否定されないとしながらも、用途区分は「目的」によってではなく、「見込まれるかどうか」により判断すべきだという考えをここでも示した。

税務当局の“見解変更”は認定されず

 また、ムゲン社の控訴審判決で注目を集めたのが、当事者間では激しく争われながらも、一審では取り上げられなかった“過去事例”の存在が過少申告加算税の取消しにつながった点だ。
 ムゲン社は、一審から「税務当局は従前から、複数の事例で最終的な目的により用途区分の判定を行なっており、副次的に収受する対価をその判定で考慮していない」と強く主張していた。特に、下級行政機関に対し「課税対応課税仕入れに区分する」旨を回答・通知した分譲マンション購入費用事例(平成7年事例)及び賃貸中マンション購入費用事例(平成9年事例)についてはADW社も採用し、文書の存在自体に加え、税務当局が平成17年頃にその取扱いを変更したのかどうかという点でも激しく争ってきた。納税者側は一審で、これらの過去事例を「最終的な目的によって用途区分を判断すべき」との主張の根拠とするとともに、租税平等主義違反の主張の根拠としても、また、原告による過少申告の「正当な理由」の根拠としても主張していた。
 ムゲン社の控訴審判決では、消費税等の更正処分については適法とされたものの、過少申告加算税の賦課決定処分については、表3のとおり、「税務当局は、平成17年頃には、平成9年事例の見解を変更したことが窺われるが、税務当局として、従来の見解を変更したことを納税者に周知するなど、これが定着するような必要な措置を講じているとは認められない」と指摘、原告による過少申告に「正当な理由」があると認め、処分を取り消した。国は「過去の見解を変更したことが窺われる」と認定されたこの判決を不服とし、過少申告加算税の取消し部分のみを争い上告している。

【表3】過少申告の「正当な理由」の有無に対する判断の違い(下線は編集部)

ムゲン控訴審判決
 平成9年頃、賃貸中マンション購入費用事例について、「課税資産の譲渡等にのみ要するもの」との回答をしており、税務当局が、個別対応方式における用途区分において、主たる目的又は最終的な使用目的を考慮して用途区分を判定したとしても理解し得るような事実が認められることは、前記(2)に指摘のとおりである。その後、税務当局は、本件と争点を同一にする平成17年裁決、平成22年裁決、平成24年裁決において、用途区分を「課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要するもの」であると主張して、これが是認されており、遅くとも平成17年頃には上記回答の見解を変更したことが窺われるが、税務当局として、従来の見解を変更したことを納税者に周知するなど、これが定着するよう必要な措置を講じるのが相当であったと解されるにもかかわらず、そのような措置を講じているとは認められない。平成9年以降の事例における回答の変更や、裁判例、裁決、文献及び雑誌の記事において共通課税仕入れに区分されることが示唆されたり、示されたりしているが、なお裁判においてその適法性は争われており、上記必要な措置が講じられたものと評価することもできない。以上のとおり、税務当局の従前の対応例、これを根拠とする係争が継続している事情の下では、本件各確定申告において、控訴人が、本件各課税仕入れを「課税資産の譲渡等にのみ要するもの」に区分した上で控除対象仕入税額の計算をしたことについては、真に控訴人の責めに帰することのできない客観的な事情があり、過少申告加算税の趣旨に照らしてもなお、控訴人に過少申告加算税を賦課することが不当又は酷になるというのが相当である。
ADW控訴審判決
 しかしながら、①上記及び前記において摘示した各文献等の存在及び内容、②被控訴人が本件各確定申告を行った当時において、オフィスビル及び居住契約付マンション(住宅用)の物件を購入してバリューアップ後に転売する業者が、既に居住契約のある建物の課税仕入れにつき、共通対応課税仕入れとして消費税法上処理していたこと、③本件と同様に販売目的による居住用の建物の取得費について課税仕入れの区分が争点となった事案につき、公刊物に掲載された平成17年、平成22年及び平成24年の各裁決並びに平成25年の裁判例において、当該各事案の所轄行政庁及び控訴人が、当該各課税仕入れが共通対応課税仕入れに当たるとする本件処分と同旨の主張をし、その主張が採用されていたことなどに照らすと、これらの文献や事例等に表れた平成17年以降の課税庁の取扱いは、被控訴人が本件各確定申告を行った当時、被控訴人と同様に中古マンション等を購入してこれを転売する事業を行う業者の間において相当程度周知されていたものということができ(前記において説示したところに照らせば、被控訴人の指摘に係る平成9年賃貸マンション事例の存在を踏まえても、その内容がその後において個々の事案における個別の事例判断の範囲を超えた一般的通用性を有する規範として課税庁において是認され一般に周知されていたことを認めるに足りる的確な証拠はない以上、被控訴人の主張に係る平成17年の前後における課税庁の取扱いの差異の有無については、本件全証拠によっても明らかではないといわざるを得ない。また、被控訴人の指摘に係る平成7年分譲マンション事例をもって直ちに被控訴人の主張する解釈に沿うものと解することが困難であることも、前記において説示したとおりである。)、平成15年から不動産投資事業に本格的に参入し、平成27年以降は東京証券取引市場第1部に上場している被控訴人も、上記の周知の対象とされた転売事業を行う業者に含まれるものというべきであるから、被控訴人の指摘に係る諸点を踏まえても、上記の課税庁の取扱いと異なり、被控訴人が本件各課税仕入れを課税対応課税仕入れに区分した上で、本件各課税仕入れに係る消費税額の全額を課税標準額に対する消費税額から控除して本件各確定申告を行ったことにつき、被控訴人に真に責めに帰することのできない客観的な事情があり、過少申告加算税の趣旨に照らしてもなお被控訴人に過少申告加算税を賦課することが不当又は酷になるとは認め難いものといわざるを得ない。

 一方、ADW社の控訴審判決は、平成9年事例について、「前記の平成17年11月5日刊行の国税庁職員の執筆に係る『こんなときどうする 消費税Q&A』と題する文献に記載された見解に必ずしも沿うものとはいえないことがうかがわれるものの」としながらも、「平成9年の当時におけるもので、その内容がその後において個々の事案における個別の事例判断の範囲を超えた一般的通用性を有する規範として課税庁において是認され、かつ、一般に周知されていたことを認めるに足りる的確な証拠はなく、かえって、上記(a)ないし(d)のとおり平成17年の上記文献の公刊以降に同文献の見解が一般的通用性を有する規範として課税庁において是認されたものとして一般的に周知される中で、本件各確定申告が行われた当時に至るまでの十数年の間に、課税庁によってその見解が変更されたことをうかがわせる公刊の文献等が現れたことを認めるに足りる証拠は存しない。」とし、表3のとおり「平成17年前後における課税庁の取扱いの差異の有無については、全証拠によっても明らかではない」とムゲン社の控訴審判決とは正反対の判断を下した。その上で、ムゲン社の一審判決と同様に、「本件各確定申告当時には、本件課税仕入れについて共通課税仕入れに区分されることを示唆する裁判例や裁決、文献、実務等が存在していた」ことから、過少申告の正当な理由があるとはいえないとして、過少申告加算税の賦課決定処分を適法とした(表3)。
 なお、平成7年事例については、「『課税仕入れの時点では課税資産の譲渡等にのみ要するものに該当することは明らかである』とされており、課税仕入れの時点で当該マンションを賃貸の用に供することが予定されていたかどうかは明らかではなく、当該事例をもって直ちに被控訴人の主張する解釈に沿うものと解することは困難」との評価が下されている。
 ムゲン社よりもさらに厳しい内容でADW社が“完敗”したことで、同種の事件で係争中の同業他社にとっては厳しい結果が突き付けられたことになる。ムゲン社は本税について上告せず、争う姿勢を見せていないが、ADW社が果たしてどう出るのか注目される。

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