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解説記事2021年09月27日 特別解説 日本企業による会計監査人交代の理由(臨時報告書における開示例) その2(2021年9月27日号・№899)

特別解説
日本企業による会計監査人交代の理由(臨時報告書における開示例) その2

はじめに

 本稿では、前回に引き続き、会計監査人の交代を行った会社が臨時報告書で行った開示を、会計監査人交代の理由(異動の決定または異動に至った理由及び経緯)を中心に紹介することとする。
 本稿では、以下の各社の事例を取り上げる。

(1)信越ポリマー
(2)ユー・エム・シー・エレクトロニクス
(3)アジア開発キャピタル
(4)燦キャピタルマネージメント
(5)天昇電気工業
(6)サクサホールディングス
(7)ネットワンシステムズ
(8)小倉クラッチ

 これらの企業のうち、(1)の信越ポリマーは、公認会計士・監査審査会から金融庁長官に対し、会計監査人である監査法人原会計事務所についての勧告があったこと等を理由とする(監査法人側に原因がある)会計監査人の交代であったが、それ以外の7社については、いずれも会社側で生じた会計上の不祥事(不適切な会計処理等)や会社と会計監査人との間で生じた見解の相違等を契機とする会計監査人の交代であった。

(1)信越ポリマー 東証1部上場 臨時報告書提出日:2021年5月17日 監査法人原会計事務所からEY新日本有限責任監査法人に交代
 信越ポリマーは化学メーカーであり、我が国を代表する優良企業の一つに数えられる信越化学工業の子会社である。会社は1980年より監査法人原会計事務所を会計監査人として選任してきたが、公認会計士・監査審査会から金融庁長官に対し、同会計事務所についての勧告があったこと等を理由に、会計監査人の交代を決定した。なお、会社の親会社である信越化学工業の会計監査人はEY新日本であることから、今回の交代により、親子会社間で会計監査人が統一されることになった。
 また、信越ポリマーと同一の理由により、大崎電気工業(東証1部上場、電気機器)も会計監査人を監査法人原会計事務所からRSM清和監査法人に変更している。
 信越ポリマーが行った「異動の決定または異動に至った理由及び経緯」の開示は以下のとおりであった。

 当社の会計監査人である監査法人原会計事務所については、2021年6月25日開催予定の定時株主総会終結の時をもって任期満了となります。当社は長年にわたり同監査法人を会計監査人として選任してまいりましたが、同監査法人による監査継続期間が長期にわたること、及び2021年2月26日に公認会計士・監査審査会から金融庁長官に対し、同監査法人についての勧告があったことから、他の監査法人の比較検討を行ってまいりました。
 検討の結果、当社の監査役会は、新たな視点での監査が期待できることに加え、会計監査人に求められる独立性、品質管理体制、専門性及び適切性等のほか、当社の事業規模や業務内容に適した監査対応等を総合的に勘案し、当社の会計監査人としてEY新日本有限責任監査法人が適任であると判断いたしました。

(2)ユー・エム・シー・エレクトロニクス 東証1部上場 臨時報告書提出日:2021年5月28日 EY新日本有限責任監査法人からPwCあらた有限責任監査法人に交代
 ユー・エム・シー・エレクトロニクスは、埼玉県に本社を置く電子回路基板の実装ならびに加工組立製造・開発をメーカーから受託するEMS(エレクトロニクス・マニュファクチャリングサービス)である。2019年に発生した、中国の連結子会社における不適切な会計処理について外部調査委員会が設置され、報告書が公表された。そして、2021年に事業再生ADR(裁判外紛争解決手続)が成立し、豊田自動織機やアイシン精機等のトヨタグループ各社の傘下に入って再出発することとなった。
 ユー・エム・シー・エレクトロニクスが行った「異動の決定または異動に至った理由及び経緯」の開示は以下のとおりであり、このような会社の状況が記載内容に反映されていた。

 当社は、株式会社東京証券取引所から2019年12月19日付で「特設注意市場銘柄」の指定を受け、2020年9月11日付で開示いたしました「改善計画・状況報告書」に則り、コーポレート・ガバナンス体制の再構築に取り組んでおります。監査等委員会設置会社への体制移行に伴う監視監督機能の強化、管理部門の体制整備、内部監査体制の強化等を推進しておりますが、コーポレート・ガバナンス体制のさらなる強化を図るべく、監査体制の刷新の一環として、また、2021年3月30日付にて実施した第三者割当増資により筆頭株主となった株式会社豊田自動織機との会計監査人統一の観点もあり、会計監査人につきましても新たな会計監査人を選任することといたしました。
 なお、当社の会計監査人であるEY新日本有限責任監査法人は、2021年6月29日開催予定の第54回定時株主総会終結の時をもって任期満了となります。

(3)アジア開発キャピタル 東証1部上場 臨時報告書提出日:2021年4月23日 アスカ監査法人から監査法人アリアに交代
 アジア開発キャピタルは、都内に本社を置く投資事業を展開する会社である。
 会社が過去に行った取引及びその会計処理の妥当性について疑義が生じたため、外部専門家による第三者委員会を設置して調査を委任することが決定されたが、それらの調査に対して会計監査人が協力的ではなかったことが会計監査人交代の理由とされている。非常に珍しいケースであると言えよう。
 アジア開発キャピタルが行った「異動の決定または異動に至った理由及び経緯」の開示は以下のとおりであった。


 当社は、当社が過去に行った取引およびその会計処理の妥当性について疑義が生じたため、外部専門家による第三者委員会を設置し、それら取引および会計処理に関する調査を委任することを決定しております。
 そうした中で、今後はより慎重なリスク対応手続や内部統制評価が必要となることを踏まえ、今後の監査体制及び第三者委員会による調査への協力についてアスカ監査法人と誠実に協議を続けた結果、同監査法人が協力的でなかったことから、当社から会計監査人の交代を打診し、監査契約を終了することで同監査法人の合意を得ました。
 これに伴い、当社監査役会は、適正な監査業務が行われる体制を維持するため、監査法人アリアを一時会計監査人に選任することを決定いたしました。
 なお、アスカ監査法人からは、監査業務の引継についての協力を得ることができる旨の確約を頂いております。

(4)燦キャピタルマネージメント 東証ジャスダック上場 臨時報告書提出日:2021年5月26日 監査法人アリアから柴田洋氏、及び大瀧秀樹氏に交代
 燦キャピタルマネージメントは、大阪府内に本社を置く投資、投資マネジメント会社である。
 この会社の場合には、のれんの評価や投資先の事業の見通しについて、会社側と会計監査人との間で見解の相違が生じ、協議を重ねたものの相互理解には至らなかったために監査契約を解除したとされている。
 燦キャピタルマネージメントが行った「異動の決定または異動に至った理由及び経緯」の開示は以下のとおりであった。

 当社は、当社の会計監査人である監査法人アリアと、2021年3月期連結決算にかかる監査業務において、当社の投資先である国内外の事業及び案件に係る評価等の会計処理を行うにあたり、現在コロナ禍による緊急事態宣言が発令されている中、当社として、同監査法人の要請に応じて、評価確定のために必要な事業計画及び証憑を出来るだけ入手する等、監査の実施について誠実に対応して参りました。しかしながら、当社と同監査法人との間でのれんの評価及び投資先の事業の見通し等について見解の相違が生じ、協議を重ねて参りましたが、相互理解には至らなかったことから、当社は、同監査法人に対して監査契約解除の申し入れを行い、2021年5月25日付で監査契約の解除について合意いたしました。
 これに伴い、会計監査人が不在となることを回避し、適法な監査業務が継続される体制を維持するため、当社監査役会は2021年5月25日付で柴田洋氏及び大瀧秀樹氏を一時会計監査人に選任いたしました。


(5)天昇電気工業 東証2部上場 臨時報告書提出日:2021年6月23日 アーク有限責任監査法人から清陽監査法人に交代
 天昇電気工業は、都内に本社を置く、プラスチック製品の設計、製造及び販売を行っている会社である。会社は、会計監査人との間で引当金の認識に関して見解の相違が生じ、最終的には相違は解消されたものの、この経緯から会計監査人から退任の申し出を受けたとしている。
 天昇電気工業が行った「異動の決定または異動に至った理由及び経緯」の開示は以下のとおりであった。

 当社は、会計監査人のアーク有限責任監査法人と、引当金の会計認識に関し見解の相違が生じ、協議を重ねてきました。結果、会計認識の見解相違は解消されましたが、この経緯から、2021年6月25日開催の第95期定時株主総会終結時をもって任期満了、会計監査人退任の申し出がありました。これを受け、監査役会は、当社の事業規模に適した会計監査人としての専門性、独立性、監査品質の確保、監査計画及び監査体制の適切性を有し、会計監査が適正かつ妥当に行われることを確保する体制を整えており、さらに監査費用等を総合的に勘案した結果、清陽監査法人を新たに会計監査人として選任するものであります。

(6)サクサホールディングス 東証1部上場 臨時報告書提出日:2021年5月31日 EY新日本有限責任監査法人から東光監査法人に交代
 サクサホールディングスは、都内に本社を置く大手情報通信機器メーカーであり、2004年に、田村電機製作所と大興電機製作所の経営統合により設立された会社である。下記の開示にもあるように、ソフトウェアに関する架空取引等の不適切な会計処理が行われたことにより、過年度決算の訂正や財務報告に係る内部統制の開示すべき重要な不備の開示が行われた。
 サクサホールディングスが行った「異動の決定または異動に至った理由及び経緯」の開示は以下のとおりであった。

 当社の会計監査人であるEY新日本有限責任監査法人は、2021年6月29日開催予定の第18回定時株主総会終結の時をもって任期満了となります。
 当社は、2020年10月12日付で不適切な会計処理に伴う過年度決算に関する訂正報告書等を提出し、また、同日、「財務報告に係る内部統制の開示すべき重要な不備に関するお知らせ」を公表し、当該不備を前提とした通常の監査内容以上の監査手続きが必要な状況が続いております。さらに、同年12月4日付で株式会社東京証券取引所に「改善報告書」を提出し、同報告書に基づく改善措置を実施しております。
 このような状況の中、現会計監査人から来期の受嘱にあたり、必要な監査リソースが確保できないことを理由に2021年6月29日開催予定の当社第18回定時株主総会終結の時をもって退任したい旨の申し出があり、当社の監査役会は新たな会計監査人の検討を行ったところ、新たな視点での監査が期待できることに加え、会計監査人としての品質管理体制、専門性、独立性および監査報酬の水準等を総合的に勘案した結果、東光監査法人が当社に適した効率的かつ効果的な監査業務を遂行できると判断したため、同法人を会計監査人として選任することといたしました。

(7)ネットワンシステムズ 東証1部上場 臨時報告書提出日:2021年5月17日 有限責任監査法人トーマツから太陽有限責任監査法人に交代
 ネットワンシステムズは、都内に本社を置くネットワーク・インテグレーターであり、ネットワーク基盤の設計・構築・運用に強みを持つ企業である。また、シスコシステムズ社製品の取扱いに関して、国内屈指の実績を誇る。
 ネットワンシステムズは、2019年に複数のIT企業が絡んだ合計1,000億円超に及ぶ循環取引が明らかになったほか、2020年に別の従業員による資金流用や原価付け替えなどが新たに判明した。2013年以降、実に4度の不正会計を起こしており、「お騒がせ企業」の代表格になってしまった。
 ネットワンシステムズが行った「異動の決定または異動に至った理由及び経緯」の開示は以下のとおりであった。

 当社の会計監査人である有限責任監査法人トーマツは、2021年6月23日開催予定の第34回定時株主総会終結の時をもって任期満了となります。一連の過年度訂正が発生したことも踏まえて、同監査法人から新たな視点での監査の必要性についての提案がありました。当社としても外部調査委員会からの提言を受けて2021年4月1日付で刷新した経営体制の下、組織改革を伴う新たな再発防止策を講じていくことや、同監査法人の継続監査期間が長期にわたっていることを踏まえて、会計監査人の異動を行うこととし、太陽有限責任監査法人を当社の会計監査人として選任することといたしました。
 太陽有限責任監査法人を起用することにより、専門性、独立性、適切性及び品質管理体制等の観点から、会計監査が適正に行われることを評価したことに加えて、会計監査人の交代により新たな視点での監査が期待できることから、適任であると判断したものであります。

(8)小倉クラッチ 東証ジャスダック上場 臨時報告書提出日:2021年5月14日 有限責任あずさ監査法人から監査法人アヴァンティアに交代
 小倉クラッチは、群馬県に本社を置く、カーエアコンなどの一般産業用クラッチや、機械式スーパーチャージャーの開発、製造、販売を行っている企業である。また、レース用強化クラッチも製造販売している。
 小倉クラッチも2020年及び2021年は、会計上の不祥事への対応に忙殺された。中国の子会社2社では、生産管理システムの不具合や在庫入力時のミス、生産管理の未整備などから在庫を過大に計上していたため、この費用を5年さかのぼって各年の決算に計上した。
 また、米国の子会社では、2018年から2020年まで、経理担当者が自身の銀行口座に不正送金などし、約1億5,500万円を着服した。
 小倉クラッチが行った「異動の決定または異動に至った理由及び経緯」の開示は以下のとおりであった。

 当社の会計監査人である有限責任あずさ監査法人は、2021年6月29日開催予定の定時株主総会終結の時をもって任期満了となります。当社は、有限責任あずさ監査法人を会計監査人として長期にわたって選任してまいりましたが、同監査法人による監査継続年数等に鑑み、また、海外子会社に起因する棚卸資産及び売上原価の訂正を契機に改めて会計監査人を検討することといたしました。その結果、当社の監査役会は、当社の会計監査に必要な独立性、専門性、品質管理体制、監査体制等を備え、また、海外子会社を有する企業の監査実績が複数あることから、監査法人アヴァンティアが海外子会社を有する当社の会計監査人として適任であると判断いたしました。

終わりに

 本稿では、会計監査人の交代に伴う臨時報告書における開示のうち、不適切な会計処理や会社と会計監査人との間の見解の相違といった、かなり特殊な要因を契機とする会計監査人の交代事例を中心に取り上げて紹介したが、会計監査人が交代する理由のほとんどが、継続監査年数の長期化(新たな視点による監査の実施)と監査報酬の高騰(会社規模に見合った会計監査人の選定)である。
 本稿で取り上げたような、いわば「会社側や会計監査人側の本音がむき出しになっている。」ようなケースはまだ氷山の一角に過ぎず、「表向きの理由」と「本音ベースの理由」とが乖離しているようなケースはまだ水面下に少なからず存在していると予想されるとはいえ、2年前までは会計監査人の交代理由はほぼすべてが形式的な「任期満了」であったことを考えれば、開示制度の変更により、一歩進んで、会社や会計監査人側の「本音」に多少なりとも迫ることができるようになったということが言えるかもしれない。
 今後も開示内容のボイラープレート化を防ぎつつ、企業や会計監査人側の本音を伺い知ることができるような有効な制度として運用されていくことが望まれる。

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