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解説記事2021年09月27日 未公開判決事例紹介 塗装作業員への報酬が給与に該当するか争われた事件(2021年9月27日号・№899)

未公開判決事例紹介
塗装作業員への報酬が給与に該当するか争われた事件
東京地裁、給与に該当し仕入税額控除を認めず

 本誌874号40頁で紹介した消費税更正処分等取消請求事件の判決について、仮名処理した上で紹介する。

○塗装工事業等を営む原告が作業員2名に支払った報酬が「給与等」に該当するかが争われた事件で、東京地裁民事3部(市原義孝裁判長)は令和3年2月26日、当該報酬は所得税法28条1項に規定される「給与等」に該当し仕入税額控除の対象にはならないとして、課税処分を適法と認め、原告の請求を棄却した(令和2年(行ウ)第68号)。裁判所は、消費税法基本通達1−1−1に掲げる4つの事項を検討した上で、当該報酬は「原告から空間的、時間的な拘束を受け、継続的ないし断続的にされる労務又は役務の提供の対価として支給されたものであり、雇用契約又はこれに類する原因に基づき使用者の指揮命令に服して提供した労務の対価として使用者から受ける給付というべきである」として、「給与等」に該当すると結論づけた。なお、東京高裁も東京地裁を支持する判決を8月24日に下している(今号11頁参照)(上告あり)。

主  文

1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1 請求
1
 M税務署長が、平成27年5月1日から平成28年4月30日までの課税期間(以下「平成28年4月課税期間」といい、他の課税期間についても、その終期に応じて同様に表記する。)及び平成29年4月課税期間(以下、平成28年4月課税期間と併せて「本件各課税期間」という。)の消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)について、原告に対して、平成30年6月13日付けでした、平成28年4月課税期間に係る消費税等の更正処分のうち納付すべき消費税額194万8800円及び納付すべき地方消費税額52万6300円を超える部分、平成29年4月課税期間に係る消費税等の更正処分のうち納付すべき消費税額193万2600円及び納付すべき地方消費税額52万1600円を超える部分並びに本件各課税期間の消費税等に係る過少申告加算税の賦課決定処分を取り消す。
2 M税務署長が、平成27年1月から同年6月まで、同年7月から同年12月まで、平成28年1月から同年6月まで及び同年7月から同年12月までの各期間分の源泉徴収に係る所得税及び復興特別所得税(以下「源泉所得税等」という。)について、原告に対し、平成30年6月13日付けでした各納税告知処分を取り消す。

第2 事案の概要
1
 本件は、原告が、作業員2名に支払った報酬を課税仕入れとしてこれに係る消費税額を仕入税額控除に計上して消費税等の申告をしたところ、M税務署長から、当該報酬は作業員にとって給与所得であるから課税仕入れに当たらないなどとして、消費税等の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分並びに源泉所得税等の納税告知処分を受けたことから、これらの処分の取消しを求める事案である。
2 法令の定め
(1)所得税法等
ア 給与所得

 所得税法28条1項は、給与所得とは、俸給、給料、賃金、歳費及び賞与並びにこれらの性質を有する給与(以下「給与等」という。)に係る所得をいう旨を定める。
イ 源泉徴収義務者
 所得税法6条は、給与等の支払をする者は、その支払に係る金額につき源泉徴収をする義務がある旨を定める。
ウ 源泉徴収義務
 所得税法183条1項は、居住者に対し国内において給与等の支払をする者は、その支払の際、その給与等について所得税を徴収し、その徴収の日の属する月の翌月10日までにこれを国に納付しなければならない旨を定め、同法216条は、所定の要件を満たし所轄税務署長の承認を受けた場合は、1月から6月までの期間に係る給与等について徴収した所得税は当該期間の属する年の7月10日までに、7月から12月までの期間に係る給与等について徴収した所得税は当該期間の属する年の翌年1月20日までに、国に納付することができる旨を定める。
エ 復興特別所得税の源泉徴収義務
 東日本大震災からの復興のための施策を実施するために必要な財源の確保に関する特別措置法8条2項、28条1項は、所得税を徴収して納付すべき者は、その徴収の際、復興特別所得税を併せて徴収し、国に納付しなければならない旨を定める。
(2)消費税法
ア 課税仕入れ

 消費税法2条1項12号は、課税仕入れとは、事業者が、事業として他の者から資産を譲り受け、若しくは借り受け、又は役務の提供(所得税法28条1項に規定する給与等を対価とする役務の提供を除く。)を受けること(当該他の者が事業として当該資産を譲り渡し、若しくは貸し付け、又は当該役務の提供をしたとした場合に課税資産の譲渡等に該当することとなるもので、消費税法7条1項各号に掲げる資産の譲渡等に該当するもの及び同法8条1項その他の法律又は条約の規定により消費税が免除されるもの以外のものに限る。)をいう旨を定める。
イ 仕入税額控除
 消費税法30条1項及び同項1号は、事業者が、国内において行う課税仕入れについては、当該課税仕入れを行った日の属する課税期間の課税標準額に対する消費税額から、当該課税期間中に国内において行った課税仕入れに係る消費税額を控除する旨を定めている。
3 前提事実(証拠等の掲記のない事実は、当事者間に争いがない。)
(1)原告は、塗装工事業等を営む株式会社であり、源泉所得税等の納付について、所得税法216条の納期の特例の承認を受けている。
(2)原告は、塗装工事を受注すると、その雇用する4、5名の従業員を塗装作業に従事させていたが、従業員だけでは作業員の人数が足りない場合には、外注先に依頼して塗装作業を行わせていた。
  原告代表者は、月ごとの日付、受注した作業先、必要な作業員(従業員又は外注先)の人数があらかじめ記載された表に、毎日、各作業先で作業に従事させる作業員の略称を手書きで記載した出面表(甲23、乙4の1~3)を作成していた(甲25、弁論の全趣旨)。
(3)原告は、平成27年3月まで、原告の各従業員に対し、1日当たりの基本給にその月の作業従事日数を乗じた金額及び1時間当たりの残業給に残業時間を乗じた時間外手当の合計額を、その月の翌月末又は翌々月1日に給与として支払い、源泉所得税等を徴収し、雇用保険料を控除していた。
(4)原告は、平成26年10月頃、原告の各従業員に対し、平成27年4月から健康保険及び厚生年金保険に加入し、各人の給与から健康保険及び厚生年金保険に係る各保険料を徴収する旨説明したところ、原告の従業員であった△△△△(以下「本件作業員甲」という。)及び□□□□(以下「本件作業員乙」といい、本件作業員甲と併せて「本件各作業員」という。)から、給与が減額されるのは困るので、「外注先」として取り扱ってほしいとの申出があった。
  原告は、上記申出を受け、平成27年4月から本件各作業員を「外注先」として取り扱うこととし、同年3月、M公共職業安定所長に対し、本件各作業員が同月31日に離職する旨を記載した「雇用保険被保険者資格喪失届」を提出し、同年4月7日付けで同所長から「雇用保険被保険者資格喪失確認通知書(被保険者通知用)」の交付を受けた。
(5)本件各作業員は、平成27年4月以降も原告の塗装作業に従事し、本件各作業員が原告の従業員として取り扱われるようになるまで、原告に対し請求書を提出し、原告から、各請求書に基づき、別表1「本件支出金の明細」の各「支払日」欄記載の年月日に、同表の「支払金額」欄記載の各金員(以下、併せて「本件支出金」という。)の支払を受けた。
  上記各請求書には、作業先ごとに、①作業工数、②作業単価、③作業工数に作業単価を乗じた金額、④残業時間、⑤残業単価、⑥残業時間に残業単価を乗じた金額、⑦上記③の金額に上記⑥の金額を加えた合計額がそれぞれ記載されていた。
(6)原告は、平成27年7月から本件作業員乙を、平成29年7月から本件作業員甲を、それぞれ再び従業員として取り扱い、他の従業員と同様に給与を支払うなどした。
(7)原告は、本件各課税期間の消費税等につき、本件支出金を課税仕入れであるとして仕入税額控除を行い、法定申告期限内に、平成28年4月課税期間の納付すべき消費税等の額は合計41万5500円、平成29年4月課税期間の納付すべき消費税等の額は合計37万4900円である旨の確定申告をした。
(8)原告は、平成30年5月18日、平成28年4月課税期間の納付すべき消費税等の額は合計247万2400円(納付すべき消費税額194万8800円、納付すべき地方消費税額52万6300円)、平成29年4月課税期間の納付すべき消費税等の額は合計245万4200円(納付すべき消費税額193万2600円、納付すべき地方消費税額52万1600円)である旨の修正申告をした。
(9)M税務署長は、原告に対し、平成30年6月13日、本件支出金は従業員に対する給与であり、課税仕入れに当たらないなどとして、平成28年4月課税期間の納付すべき消費税等の額は合計289万0600円(納付すべき消費税額227万6000円、納付すべき地方消費税額61万4600円)、平成29年4月課税期間の納付すべき消費税等の額は合計287万9100円(納付すべき消費税額227万7800円、納付すべき地方消費税額60万1300円)である旨の更正処分(以下「本件各更正処分」という。)、平成28年4月課税期間の消費税等に係る納付すべき過少申告加算税額は4万1000円、平成29年4月課税期間の消費税等に係る納付すべき過少申告加算税額は3万7000円である旨の賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」という。)、平成27年1月から平成28年12月までの期間に係る納付すべき源泉所得税等の額は合計10万2700円(平成27年1月から同年6月までの期間につき2736円、同年7月から同年12月までの期間につき1万8064円、平成28年1月から同年6月までの期間につき3万2117円、同年7月から同年12月までの期間につき4万9783円)である旨の納税告知処分(以下「本件各納税告知処分」といい、本件各更正処分、本件各賦課決定処分と併せて「本件各処分」という。)をした。
(10)原告は審査請求をしたが、国税不服審判所長は、令和元年8月27日付けで、原告の審査請求をいずれも棄却する旨の裁決をした。
(11)原告は、令和2年2月21日、本件訴えを提起した。
4 争点及び争点に関する当事者の主張
(原告の主張)

(1)給与所得とは雇用契約又はこれに類する原因に基づき使用者の指揮命令に服して提供した労務の対価として使用者から受ける給付をいう(最高裁昭和52年(行ツ)第12号同56年4月24日第二小法廷判決・民集35巻3号672頁[甲5])が、ここに「雇用契約又はこれに類する原因」とは、民法上の雇用契約のことであり、民法からの借用概念であるから同義に解釈すべきであり、ある契約が雇用契約であるかどうかという私法上の区別は、一次的には、私的自治の原則から、当事者の合意を基準とすべきであり、「給与所得」性も、一次的には当事者の合意を基準とすべきである。
  本件各作業員は、雇用契約を離脱したいとの申出により雇用契約を離脱しているから、原告と本件各作業員との間の合意を基準に判断すれば、一次的には、本件支出金は「給与所得」に当たらない。
(2)「給与所得」性の二次的な判断基準としては、「自己の計算と危険において独立して営まれ」ているかという基準(非独立性の基準)によって判断すべきである。
  本件各作業員は、自己の所得についての確定申告手続を自ら行い、自らの意思により原告の労働保険から離脱し、労働災害があった場合には自己の責任を負うこととなっており、自己の事業を「自己の計算と危険において独立して営」んでいるから、非独立性の基準によっても、本件支出金は「給与所得」に当たらない。
(3)「給与所得」性の判断基準として、「使用者の指揮命令に服して」いるかという基準(従属性の基準)は、就業形態の多様化に伴って従属性が希薄化していることから、そもそも重視されるべきではない。
  その上で、本件各作業員は約8年の経験を有する熟練工であり、原告に対して従属性があるとはいえない。
  原告は、本件各作業員を原告の従業員とは明確に区別し、作業衣、工事用へら等、健康診断の費用を負担せず、本件各作業員に請求書の発行を行わせるなど、自己に従属する者ではないものとして取り扱っている。
  本件各作業員の空間的・時間的拘束は、原告がその元請から受ける空間的・時間的拘束の当然の帰結でしかない。
(4)以上によれば、本件支出金は本件各作業員にとって給与所得に当たらないから、本件各更正処分のうち修正申告に係る納付すべき税額を超える部分、本件各賦課決定処分及び本件各納税告知処分はいずれも違法である。
(被告の主張)
(1)人的役務の提供から生ずる所得が給与所得に該当するか否かは、非独立的ないし従属的な勤労の対価と認められるか否かによって判断すべきであり、より具体的には、役務提供契約の内容が、①使用者の指揮命令に服しているか、②使用者との関係において何らかの空間的、時間的な拘束を受けているか、③継続的ないし断続的に労務又は役務の提供をしており、当該所得はその対価として支給されるものか、さらには、④危険負担や費用の負担など種々の要素を考慮して総合的に判断すべきである。
(2)原告代表者は、本件各作業員につき、原告の従業員と同様に、その作業に係る作業先、作業内容、作業時間等を管理し、作業の指示をしていたこと等からすれば、本件各作業員は、作業に従事するに当たり、原告の管理下にあったということができ、原告の指揮命令に服しており、原告から空間的、時間的な拘束も受けていた。
(3)本件各作業員は、本件支出金が外注費に計上されることとなった平成27年4月以降も、原告代表者の指示の下で、継続的に毎月ほぼ20日以上原告の作業に従事し、対価についても、1日当たりの基本単価や1時間当たりの残業代等、時間単位で定められており、その勤務態様や対価の在り方は、同年3月以前に原告の従業員であった時と変わりがなかった。
(4)本件各作業員は、休むときに代替の作業員の手配を行わず、仕事量ではなく作業時間に応じて対価が支払われ、業務に必要な費用は原告に負担してもらい、手で持っていくことができる工具を除き、材料等は自ら用意してはいなかったことからすれば、本件各作業員が、自己の計算と危険において独立して事業を営んでいたとみることはできない。
(5)以上によれば、本件支出金は、本件各作業員と原告との間の雇用契約に類する原因に基づき、原告の指揮命令に服して提供した労務の対価、すなわち「給与等」に該当する。
  「給与等」に該当する本件支出金を対価とする役務の提供は課税仕入れに該当せず、本件各処分はいずれも適法である。

第3 当裁判所の判断
1 「給与等」該当性の判断枠組み

(1)およそ役務の提供の対価として支払われる金員が所得税法上の「給与等」に該当するか否かを判断するに当たっては、所得税法の趣旨、目的に照らし、当該役務の提供及び対価の態様等を考慮しなければならず、作業員に対する外注費として経理処理された金員についても、これを一般的抽象的に「給与等」該当性を判断すべきものではなく、その役務の提供の具体的態様に応じてその法的性格を判断しなければならない。その場合、判断の一応の目安として、対価を得て継続的に行う事業から生ずる所得である事業所得とは、自己の計算と危険において独立して営まれ、営利性、有償性を有し、かつ反覆継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務から生ずる所得をいい、これに対し、給与等に係る所得である給与所得とは、雇用契約又はこれに類する原因に基づき使用者の指揮命令に服して提供した労務の対価として使用者から受ける給付をいい、取り分け、給与支給者との関係において何らかの空間的、時間的な拘束を受け、継続的ないし断続的に労務又は役務の提供があり、その対価として支給されるものであるかどうかが重視されなければならない(前掲最高裁昭和56年4月24日第二小法廷判決参照)。
(2)消費税法は、事業者を消費税の納税義務者とし(5条1項)、事業者とは個人事業者及び法人をいい(2条1項4号)、個人事業者とは事業を行う個人をいうものとしているところ(同項3号)、消費税法基本通達1-1-1は、個人が雇用契約又はこれに準ずる契約に基づき他の者に従属し、かつ、当該他の者の計算により行われる事業に役務を提供する場合は事業に該当せず、また、請負による報酬を対価とする役務の提供は事業に該当するが、支払を受けた役務の提供の対価が出来高払いの給与であるか請負による報酬であるかの区分については雇用契約又はこれに準ずる契約に基づく対価であるかどうかによるとし、その区分が明らかでないときは、例えば、次の事項を総合勘案して判定することとしている(甲6)。
ア その契約に係る役務の提供の内容が他人の代替をいれるかどうか。
イ 役務の提供に当たり事業者の指揮監督を受けるかどうか。
ウ まだ引渡しを了していない完成品が不可抗力のため滅失した場合等においても、その個人が権利として既に提供した役務の報酬を請求することができるかどうか。
エ 役務の提供に係る材料又は用具等を供与されているかどうか。
  これは、消費税法2条1項12号で課税仕入れから除外される「給与等を対価とする役務の提供」に該当するか否かの基準ではないが、その判断に当たっても参考となる基準といえる。
2 本件支出金の「給与等」該当性について
(1)非代替性

 請負人は、注文者の承諾を得なくても仕事を下請人に請け負わせることができるが、労働者は、使用者の承諾を得なければ、自己に代わって第三者を労働に従事させることができない(民法625条2項)。
 したがって、本人に代わって他の者が役務を提供することが認められている場合や、本人が自らの判断によって補助者を使うことが認められている場合等役務の提供の代替性が認められている場合には、「給与等」該当性を否定する要素の一つとなる。他方、代替性が認められていない場合には、「給与等」該当性を補強する要素の一つとなる。ただし、雇用契約の内容によっては、本人の判断で必要な数の補助者を使用する権限が与えられている場合もある。このため、単なる補助者の使用の有無という外形的な判断のみではなく、自分の判断で人を採用できるかどうかなど補助者の使用に関する本人の権限の程度や、作業の一部を手伝わせるだけかあるいは作業の全部を任せるのかなど本人と補助者との作業の分担状況等を勘案する必要がある。
 これを本件についてみると、本件作業員甲は、平成30年1月に個人事業主として独立した後は、受注した仕事を外注(下請け)に出すこともあるが、平成29年12月までは、本件各課税期間を含め、仕事を外注に出すことはなかった(乙19)。
 本件各作業員が予定されていた作業を休むこととなった場合には、本件各作業員が代替の作業員を手配するのではなく、原告が代替の作業員を手配していた(甲19、22)。
 このことは、本件各作業員は、原告の他の従業員と同様、代替性が認められていなかったことを示すものであり、「給与等」該当性を補強する要素の一つである。
(2)指揮監督性
ア 仕事の依頼、業務に従事すべき旨の指示等に対する諾否の自由の有無
 具体的な仕事の依頼、業務に従事すべき旨の指示等に対して諾否の自由があることは、「給与等」該当性を否定する重要な要素となる。他方、このような諾否の自由がないことは、一応、「給与等」該当性を肯定する要素の一つとなる。ただし、断ると次から仕事が来なくなることなどの事情により事実上仕事の依頼に対する諾否の自由がない場合や、例えば電気工事が終わらないと壁の工事ができないなど作業が他の職種との有機的連続性をもって行われるため、業務従事の指示を拒否することが業務の性質上そもそもできない場合には、諾否の自由の制約は直ちに「給与等」該当性を肯定する要素とはならず、契約内容や諾否の自由が制限される程度等を勘案する必要がある。
 作業の指示がされている場合であっても、当該指示が通常注文者が行う程度の指示等にとどまる場合には、「給与等」該当性を肯定する要素とはならない。他方、作業の具体的内容・方法等が指示されており、業務の遂行が「使用者」の具体的な指揮命令を受けて行われていると認められる場合には、「給与等」該当性を肯定する重要な要素となる。
 「使用者」の命令、依頼等により通常予定されている業務以外の業務に従事することがある場合には、「給与等」該当性を補強する重要な要素となる。
 勤務場所が建築現場等に指定されていることは、建築業においては業務の性格上当然であるので、このことは直ちに「給与等」該当性を肯定する要素とはならない。
 勤務時間が指定され、管理されていることは、一般的には「給与等」該当性を肯定する要素となる。ただし、他職種との工程の調整の必要がある場合や、近隣に対する騒音等の配慮の必要がある場合には、勤務時間の指定がされたというだけでは「給与等」該当性を肯定する要素とはならない。一方、役務の提供の量及び配分を自ら決定でき、契約に定められた量の役務を提供すれば、契約において予定された工期の終了前でも契約が履行されたこととなり、他の仕事に従事できる場合には、「給与等」該当性を弱める要素となる。
イ これを本件についてみると、本件各作業員は、作業日、作業内容や作業時間を自由に決めることはなく、原告が各作業員の希望を聞いた上で作成する出面表(甲23、乙4の1~3)に従って原告から作業先を割り振られ、そこで、受注先の現場監督、原告代表者又はその指名した職長の指示に従って作業を行っていた。本件各作業員の作業時間は午前8時から午後5時までと決められており、原告代表者の指示に応じて残業することもあった。これは、本件各作業員が原告の従業員であった時期及び従業員に復帰した後の時期のそれと同様であった。(甲19、22、乙19)
  原告代表者は、毎日作成する出面表に、当日作業を行う原告の従業員及び本件各作業員の略称を出面表の作業先及び作業員数の右横に記載する一方、本件各作業員以外の外注先の略称は作業先及び作業員数の下に記載していた(甲23、乙4の1~3、乙5)。
  また、原告代表者は、当日休みの原告の従業員の略称を日付の左側に記載していたところ、本件各作業員についても、休みの日には日付の左側に略称を記載していた(甲23、乙4の1~3、乙5)。
ウ 本件作業員甲は、本件支出金が支出されていた平成27年4月から平成29年6月までの間において、1か月当たり19.0~28.0日(夜間作業を行った場合の加算0.5日を含む。)、原告の作業に従事していたところ、これは、本件作業員甲が原告の従業員であった時期及び従業員に復帰した後の時期と同様であった(乙6、乙9の1~25、乙19)。
  本件作業員乙は、本件支出金が支出されていた平成27年4月から同年6月まで、1か月当たり25.0~28.0日(夜間作業を行った場合の加算0.5日を含む。)、原告の作業に従事していたところ、これは、本件作業員乙が原告の従業員であった時期及び従業員に復帰した後の時期と同様であった(乙6、乙10の1~3)。
  本件各作業員は、本件支出金が支出されていた期間、原告以外の者に役務を提供することはなかった(乙19、弁論の全趣旨)。
エ 本件作業員甲の平成27年3月までの給与は、1日当たりの基本給1万7000円に作業日数を乗じた金額を基本給とし、これに残業時間に応じた時間外手当を加算し、雇用保険、源泉所得税を控除して支払われていた(甲27の2、乙6)。
  本件作業員甲の本件支出金が支出されていた平成27年4月から平成29年6月までの間における報酬は、作業単価1万7000円に作業工数を乗じた金額に、残業単価2000円に残業時間を乗じた金額を加算して支払われていた(乙9の1~25)。この作業単価及び残業単価は、平成27年3月までの1日当たりの基本給及び時間外手当の基準単価と同一であった(乙19)。
  本件作業員甲は平成29年7月に原告の従業員に復帰したが、その後の給与は、1日当たりの基本給1万6000円に作業日数を乗じた金額を基本給とし、これに残業時間に応じた時間外手当を加算し、健康保険、厚生年金、雇用保険、源泉所得税を控除して支払われていた(甲27の4、乙6)。
  本件作業員乙の平成27年3月までの給与は、1日当たりの基本給1万6000円に作業日数を乗じた金額を基本給とし、これに残業時間に応じた時間外手当を加算し、雇用保険、源泉所得税を控除して支払われていた(甲27の1、乙6)。
  本件作業員乙の本件支出金が支出されていた平成27年4月から同年6月までの間における報酬は、作業単価1万6000円に作業工数を乗じた金額に、残業単価2000円に残業時間を乗じた金額を加算して支払われていた(乙10の1~3)。この作業単価及び残業単価は、平成27年3月までの1日当たりの基本給及び時間外手当の基準単価と同一であった(甲19、弁論の全趣旨)。
  本件作業員乙は平成27年7月に原告の従業員に復帰したが、その後の給与は、1日当たりの基本給1万5350円に作業日数を乗じた金額を基本給とし、これに残業時間に応じた時間外手当を加算し、健康保険、厚生年金、雇用保険、源泉所得税を控除して支払われていた(甲27の3、乙6)。
  原告の他の従業員2名は、平成27年4月、健康保険に加入するに際し、従前の1日当たりの基本給を1万6000円から1万5000円に減額されていた(甲27の5~8)。
  原告は、従業員に対し、「寸志」名目で不定期の手当を支給することがあり、平成28年4月には「寸志」として従業員に各3万円を支給したところ(甲4・8頁、乙6・8頁)、本件作業員甲は、平成28年4月分の報酬として「寸志」3万円を請求し(乙9の13)、原告はこれを含めて報酬を支払った(乙11、弁論の全趣旨)。
オ 以上を総合すると、本件各作業員は、本件支出金が支出されていた間も、従業員であった時期と同様に、原告から空間的、時間的な拘束を受け、原告の指揮命令に服し、原告に対して継続的ないし断続的に労務又は役務を提供していたものというべきであり、このことは、本件支出金の「給与等」該当性判断において最も重視されなければならない。
(3)危険負担
 請負人は、請負契約が債務不履行により解除される場合においても、工事内容が可分であり、しかも当事者が既施工部分の給付に関し利益を有するときは、特段の事情のない限り、既施工部分については契約を解除することができず、既施工部分につき出来高報酬を請求できるが(最高裁昭和52年(オ)第630号同56年2月17日第三小法廷判決・裁判集民事132号129頁。本件支出金支出後に改正された規定であるが、民法634条参照)、当事者双方の責めに帰すことができない事由により引渡し前の完成品が滅失した場合には、報酬を請求することができない(民法536条1項)。
 これに対し、雇用契約における労働者は、労務の提供に係る完成品が滅失しても、報酬請求権を失わない。
 したがって、報酬が、完成した仕事の内容ではなく、時間給、日給、月給等時間を単位として計算される場合には、「給与等」該当性を補強する重要な要素となる。
 本件各作業員には、完成すべき作業の定めはなく、依頼した作業が完成しなかったとしても、作業日数に応じた報酬が支払われていた(甲19)。原告と本件各作業員との間で契約書は交わされておらず、危険負担についての定めもなかった(弁論の全趣旨)。
 このことは、本件支出金が、仕事の完成の対価ではなく、労務の提供に対する対価であったことを示すものであり、「給与等」該当性を補強する要素の一つである。
(4)材料等の支給
 据置式の工具など高価な器具を所有しており、これを使用している場合には、事業者としての性格が強く、「給与等」該当性を弱める要素となる。他方、電動の手持ち工具程度の器具を所有していることや、釘材等の軽微な材料費を負担していることは、「給与等」該当性を弱める要素とはならない。
 これを本件についてみると、原告は、その元請から材料(塗装材)を有償で支給されて作業を請け負っているため、作業員が材料を購入することはなかった(甲19、24)。
 工具については、現場で着る作業着と手持ちの道具箱に入るくらいのコテとへラを本件各作業員が用意し、それ以外の軍手、ハケ、ローラー、研磨機、マゼラーなどの道具や機械は原告から支給されたり貸与されたりしていた(甲19、乙5、18、19)。これは、本件各作業員が従業員であった時期と同様であった(乙19)。
 そうすると、本件各作業員が手持ちの工具を用意していたことは、特に「給与等」該当性を弱める要素となるものではない。
(5)雇用保険被保険者資格喪失届等
ア 雇用保険法4条1項は、適用事業に雇用される労働者であって同法6条各号に掲げる者以外のものを「被保険者」とし、同法7条は、事業主は、その雇用する労働者に関し、当該事業主の行う適用事業に係る被保険者でなくなったことを厚生労働大臣に届け出なければならない旨を定め、同法9条1項は、厚生労働大臣は、同法7条の届出により労働者が被保険者でなくなったことの確認を行うものとする旨を定め、同法81条は、厚生労働大臣の権限を公共職業安定所長に委任することができる旨を定める。
  原告は、平成27年3月、M公共職業安定所長に対し、本件各作業員が同月31日に離職する旨を記載した「雇用保険被保険者資格喪失届」を提出し、同年4月7日付けで同所長から「雇用保険被保険者資格喪失確認通知書(被保険者通知用)」(乙8)の交付を受けている。
イ また、原告は、本件支出金を外注費に計上し(乙11)、本件支出金につき源泉所得税を徴収せず(甲3)、本件各作業員は本件支出金を事業所得として申告していた(甲26、乙19)。
ウ これらの事実は、原告及び本件各作業員が、平成27年4月から本件各作業員が原告の従業員に復帰するまでの間、本件各作業員は「労働者」でなく、また、本件支出金は給与所得でなく事業所得であると取り扱っていたことを示すものである。
  しかし、役務の提供の対価として支出された金員が所得税法上の「給与等」に該当するか否かは、所得税法の趣旨、目的に照らし、当該対価の性質から実質的に判断すべきものであり、当事者の主観的意図に拘束されるものではない。
  なお、本件作業員甲は、K税務署の指導に基づき、本件支出金を給与所得とする修正申告を行う見込みである(乙19)。
(6)小括
 以上の事情を総合すると、本件支出金は、原告から空間的、時間的な拘束を受け、継続的ないし断続的にされる労務又は役務の提供の対価として支給されたものであり、雇用契約又はこれに類する原因に基づき使用者の指揮命令に服して提供した労務の対価として使用者から受ける給付というべきであるから、所得税法28条1項の「給与等」に該当する。
3 結論
(1)上記2のとおり、本件支出金は「給与等」に該当するから、消費税法2条1項12号にいう「課税仕入れ」に当たらず、仕入税額控除の対象とならない。
  本件支出金が課税仕入れに当たらないことを前提に計算した本件各課税期間における納付すべき消費税等の額は、本件各更正処分のとおりである(弁論の全趣旨)。
  したがって、本件各更正処分は適法である。
(2)本件各更正処分は適法であり、本件各課税期間の消費税等に係る確定申告及び修正申告は過少申告であり、更正前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて正当な理由も認められない。これを前提に計算した納付すべき過少申告加算税の額は、本件各賦課決定処分のとおりである(弁論の全趣旨)。
  したがって、本件各賦課決定処分は適法である。
(3)本件支出金は「給与等」に該当するから、原告は本件支出金につき源泉所得税等を徴収して納付すべきであったところ、納付すべき源泉所得税等の額は、本件各納税告知処分のとおりである(弁論の全趣旨)。
  したがって、本件各納税告知処分は適法である。
(4)以上によれば、本件各処分はいずれも適法であり、原告の請求は理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第3部
裁判長裁判官 市原義孝
裁判官 西村康夫
裁判官 永田大貴  

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