解説記事2021年11月08日 未公開判決事例紹介 駐車場業を巡る個人事業税の控訴審判決(2021年11月8日号・№905)

未公開判決事例紹介
駐車場業を巡る個人事業税の控訴審判決
東京高裁も原審支持し課税処分取消し

 本誌896号40頁、898号40頁で紹介した事業税賦課処分取消請求控訴事件の判決について、一部仮名処理した上で紹介する。原審の判決は895号24頁に掲載。

○コインパーキング事業者に土地を賃貸した個人への個人事業税課税の是非が争われた事件。東京高裁は令和3年8月26日、被控訴人が「駐車場業」を行う者であると認めることはできないと判断し、原審に引き続き東京都(控訴人)の個人事業税賦課決定処分を取り消した(令和3年(行コ)第93号)(東京都は上告を断念したため確定)。

主  文

1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第1 控訴の趣旨
1 主位的控訴の趣旨

(1)原判決を取り消す。
(2)本件訴えのうち、処分行政庁が令和元年8月1日付けでした平成30年所得分に係る個人事業税賦課決定処分の取消しを求める部分を却下する。
(3)被控訴人のその余の請求をいずれも棄却する。
2 予備的控訴の趣旨
(1)原判決を取り消す。
(2)被控訴人の請求をいずれも棄却する。
第2 事案の概要
1
 本件は、所有する土地を訴外A産業株式会社(以下「訴外A」という。)に貸し付けて同社の運営する駐車場用地として使用させている被控訴人が、平成28年分から平成30年分までの所得税及び復興特別所得税につき、上記土地の賃料収入を不動産所得として確定申告をしたところ、処分行政庁から、被控訴人は個人事業税の課税対象となる「駐車場業」を行う者に該当するとして、平成28年分から平成30年分までの各個人事業税賦課決定処分を受けたことから、被控訴人は訴外Aに上記土地を賃貸しているにすぎず、駐車場事業を行っているものではないなどと主張して、上記各個人事業税賦課決定処分の取消しを求めた事案である。
  原審は、被控訴人の請求をいずれも認容したところ、これを不服とする控訴人が控訴をした。
2 関係法令等の定め、前提事実、争点及び争点に対する当事者の主張は、原判決18頁14行目の冒頭に「税額を各4万9200円とする」と、9頁1行目の「令和元年8月1日付けで、」の次に「税額を4万9200円とする」とそれぞれ加え、次項のとおり当審における控訴人の補充主張を付加するほか、原判決の「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要」の1ないし4に記載のとおりであるから、これを引用する。以下、略称の使用は、特に断らない限り、原判決の例による。
3 当審における控訴人の補充主張
(1)審査請求を前置しないことについての正当な理由の有無について

 原判決は、平成28・29年分賦課処分と平成30年分賦課処分については、被控訴人が駐車場業を営んでいると認められるかどうかという争点は共通であり、その前提となる事実関係及び関係法令等も同様であり、本件では、平成30年分賦課処分について、被控訴人が審査請求に対する裁決を経ていないことにつき正当な理由があるというべきであると判示するが、個人事業税の賦課決定処分は、基準年ごとに独立して行われる行政処分であり、その前提となる事実関係も異なるものである。また、平成30年分賦課処分について新たに審査請求をしていれば、平成28・29年分賦課処分に係る審査請求の際と異なる審理員や異なる部会(諮問機関である東京都行政不服審査会には4つの部会が設けられている。)が審理、審査を担当していた可能性があり、前処分に係る審査請求の判断を変更する余地がないとはいえないから、審査請求を前置しないことについての正当な理由があるとは認められない。したがって、原判決の判断には誤りがあるから、本件訴えのうち平成30年分賦課処分の取消請求に係る訴えは不適法として却下されるべきである。
(2)本件各処分の適法性について
ア 個人の具体的な営みが個人事業税の賦課決定対象となる「事業」に該当するか否かは一義的に明確でなく、あらかじめ課税庁が基準となる指針を定めておくことは納税者間の公平、徴税費用の削減等の見地からみて合理的であるところ、そのための判断基準として控訴人には都事務提要及び本件留意事項が存在する(以下「本件判定基準」という。)。そこで、控訴人は、原審において、本件判定基準が合理的である限り、本件判定基準は上記事業性の判断基準として妥当性を有するものというべきであり、したがって、これに依ってされた控訴人の判断も適法とされるべきであると主張した。これに対し、原判決は、本件判定基準の合理性について何ら検討せず、原審認定事実を法律上の文言である「駐車場業」に関する抽象的な定義に単純に当てはめるだけで判断したが、かかる判断方法は、控訴人が本件判定基準を定めた趣旨を没却し、納税者間の公平、徴税費用の削減等の実現が困難となるおそれがあるほか、控訴人が土地賃貸方式による駐車場事業に対する個人事業税の課税を明確にした趣旨からも、妥当でないというべきである。したがって、原判決の判断手法には誤りがある。
イ 原判決は、被控訴人による本件土地の賃貸を課税庁が本件判定基準に当てはめて本件各処分をしたことについて、「駐車場業」との地方税法の文言を拡張解釈するものであると判示するが、個人の事業の方式や形態は時代の変化に伴い変容するものであり、駐車場に関する経営手法についても、従前の自己経営方式から近年は土地賃貸方式が主流となっているところ、この場合、駐車場を経営しようとする個人の土地所有者は、自由に駐車場運営会社を選択することが可能であり、これは経営行為そのものであるから、その利益に対して事業税を課すことは合理的であり、むしろ、土地賃貸方式のみを課税の対象から外すことは不均衡というべきである。したがって、土地賃貸方式による駐車場経営が「駐車場業」という文言の拡張解釈であるとする原判決の判断には誤りがある。
ウ 原判決は、都事務提要の認定基準の文理からしても、駐車場事業の一般的な理解からしても、「対価の取得を目的として、自動車の駐車のための場所を提供する行為」とは、通常は「自動車の駐車のための場所を提供する行為」の相手方ないしこれと同視し得る者が、「自動車の駐車」をし、「自動車の駐車」の「対価」を支払う場合をいうものと解するのが合理的であると判示するが、本件判定基準に当てはめれば、土地賃貸方式による駐車場経営が「駐車場業」に含まれることは明らかである。よって、原判決の判断は誤りがあるから、取消しを免れない。
第3 当裁判所の判断
1
 当裁判所も、本件各処分は違法であり、被控訴人の請求はいずれも理由があると判断する。その理由は、次のとおり原判決を補正し、次項に当審における控訴人の補充主張に対する判断を付加するほか、原判決の「事実及び理由」欄の「第3 当裁判所の判断」に記載のとおりであるから、これを引用する。
(原判決の補正)
(1)原判決14頁12行目の「すなわち、」を「例えば、」と、13行目から14行目にかけての「かつ客観的にみてその変更の余地がないと考えられるため、」から16行目の末尾までを「かつ、その判断の内容等に照らし、客観的にみて結論を異にする裁決を期待することができないと考えられるため、改めて審査請求をして行政庁等の判断を求めることがもはや無意味といえる場合等であることを要すると解すべきである。」と、それぞれ改める。
(2)原判決15頁6行目から次行にかけての「共通であり、」及び同行の「同様であり、」を、いずれも「同一であり、」と改め、9行目から次行にかけての「客観的にみてその変更の余地がないと考えられるのであるから、」を「その判断の内容等に照らし、客観的にみて結論を異にする裁決を期待することができないと考えられるのであるから、改めて平成30年分課税処分について審査請求をして同知事の判断を求めることはもはや無意味であるということができる。そうすると、」と改める。
(3)「原判決20頁2行目の「評価できるのに対し」を「評価できる余地もあるのに対し」と、7行目の「評価し難い」を「およそ評価し難い」と、15行目の「都事務提要の」から26行目の「支払っているものでもないから、」までを「事業税は、事業を行う者と道府県との間の応益負担の原則に立脚するものであり、事業税の課税がこのような前提の下に個人の「事業」に対して行われているものであることからすれば、個人事業税の課税される駐車場事業とは、当該個人において、事業といえる程度の形態で有料の駐車場が営まれていることが必要であり、単に企画運営会社に駐車場事業の用に供するための土地を貸し付けて、同事業の運営には直接関与せず、定額の賃料を受け取るにすぎないような典型的な土地賃貸方式の場合には、少なくとも、」と、それぞれ改める。
(4)原判決21頁10行目から次行にかけての「ホームページにおいて」を「自身のホームページにおいて」と、15行目から次行にかけての「必ずしも借主が駐車しているかどうかでは判断していない旨の」を「『ただし、土地の貸主に対し駐車場業を認定する場合は、法72条の2の3により、事業(駐車場業)から生じる収益が貸主に帰属する場合に限ります。』、『駐車場業として認定するかどうかは貸し主が駐車場の管理運営を行っているかどうかで判断しており、借り主が駐車場を利用しているかどうかでは判断していない。そのため、「②限定していない」と回答するものである。』等の」と、それぞれ改める。
2 当審における控訴人の補充主張に対する判断
(1)審査請求を前置しないことについての正当な理由の有無について

 控訴人は、個人事業税の賦課決定処分は基準年ごとに独立して行われる行政処分であり、その前提となる事実関係も異なるものであるし、平成30年分賦課処分について新たに審査請求をしていれば、平成28・29年分賦課処分に係る審査請求の際と異なる審理員や異なる部会が審理、審査を担当していた可能性があり、前処分に係る審査請求の判断を変更する余地がないとはいえず、本件について審査請求を前置しないことについての正当な理由があるとは認められないから、これと異なる原判決の判断は誤りであり、本件訴えのうち平成30年分賦課処分の取消請求に係る訴えは不適法であると主張する。
 しかし、東京都知事に対して平成30年分賦課処分について新たな審査請求がされれば、平成28・29年分賦課処分に係る審査請求の際と異なる審理員や異なる部会が審理、審査を担当する可能性があるとしても、平成28・29年分賦課処分と平成30年分賦課処分については、被控訴人が駐車場事業を営んでいると認められるかどうかという争点は同一であり、その前提となる事実関係及び関係法令等も同一であって、客観的にみても平成28・29年分賦課処分に係る審査請求と結論を異にする裁決がされることを期待することはできないと考えられることから、改めて平成30年分課税処分について審査請求をして同知事の判断を求めることはもはや無意味であるといえることは、当審が補正の上引用する原判決(第31(2))に説示のとおりである。
 これに対し、控訴人は、原判決の上記判断は、平成6年度の国民健康保険料の賦課処分及び減免非該当処分について審査請求をした一方で、平成7年度の国民健康保険料の賦課処分及び減免非該当処分について審査請求をしなかったことが行政事件訴訟法8条2項3号の正当な理由があるとはいえないと判断した裁判例(札幌高裁平成11年12月21日判決・判例時報1723号37頁参照)に反すると指摘するが、同法8条2項3号は、同項1号及び2号のいずれにも該当しない場合において救済を要するときのための一般的な救済規定であり、同項3号に該当するかどうかは、各年度の賦課額や減免申請の理由等の事情に応じ、個々の具体的事案に即して判断されるべきものであって、控訴人が指摘する上記裁判例における事情と本件における事情が同一でない以上、これが同一であることを前提にした主張は、その根拠に乏しいというべきである。
 したがって、平成30年分賦課処分について、被控訴人が審査請求に対する裁決を経ていないことにつき正当な理由があるとした原判決の判断に誤りはないから、控訴人の上記主張を採用することはできない。
(2)本件各処分の適法性について
ア 控訴人は、個人の具体的な営みが個人事業税の賦課決定対象となる「事業」に該当するか否かは一義的に明確でないことから、課税庁においてあらかじめ本件判定基準が定められており、課税庁はこれに従って本件各処分をしたのであるから、本件判定基準が合理的である限り、本件各処分も適法であるというべきであり、適法でないというのであれば、本件判定基準の合理性がまず検討されるべきものであるところ、本件判定基準の合理性について何ら検討することなく、原審認定事実を地方税法上の文言である「駐車場業」に関する抽象的な定義に単純に当てはめるだけで判断した原判決の判断方法は、本件判定基準が存在する趣旨を没却し、納税者間の公平、徴税費用の削減等の実現が困難となるおそれがあるほか、課税庁が土地賃貸方式による駐車場事業に対する個人事業税の賦課を明確にした趣旨からも妥当でないというべきであると主張する。
  しかし、道府県が個人事業税を賦課する根拠は、地方税法72条の2第3項以外にないのであり、被控訴人が「駐車場業」を行う者であると認められなければ、「駐車場業」を行う者として個人事業税を賦課することは許されないことは自明である。そして、地方税法は、「駐車場業」の内容のほか、「事業」自体の意義についても一般的な定義規定を置いていないため、社会通念に従ってこれを判断するほかなく、個人事業税の対象となる「事業」とは、自己の計算と危険において独立して営まれ、営利性、有償性を有し、かつ、反復継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務をいうものと解するのが相当である(なお、法令ではない都事務提要も同旨の指摘をしている。)。そうすると、地方税72条の2第8項13号の「駐車場業」とは、対価の取得を目的として、自動車の駐車のための場所を提供する業務を自己の計算と危険において独立して反復継続的に行うものであることを要すると解すべきであることは、当審が引用する原判決(第32(1)、(2))が説示するとおりである。
  また、事業税は、事業を行う者と道府県との間の応益負担の原則に立脚するものであることからすれば、個人事業税の対象となる「駐車場業」とは、当該個人において、事業といえる程度の形態で有料の駐車場が営まれていることが必要であると解すべきことも、当審が補正の上引用する原判決(第32(4)ウ)が説示するとおりであって、これらを前提に、原判決の前提事実(第22)及び認定事実(第32(3))を総合すると、被控訴人が「駐車場業」を行う者であると認めることはできないというべきであり、原判決の認定判断は、その手法も含め相当であると認められるから、控訴人の上記主張を採用することはできない。
  なお、控訴人は、本件各処分が適法でないというのであれば、本件判定基準の合理性がまず検討されるべきであると主張するが、国取扱通知も都事務提要も法令ではなく、課税庁の解釈の統一や課税事務の公平さを確保するため等に設けられるものであり、その必要性は首肯できるものではあるが、飽くまで課税処分の根拠となる地方税法72条の2第3項の個人の行う事業に対する事業課税の趣旨(これを受けた同法72条の2第8項13号の「駐車場業」に対する事業課税の趣旨)と整合する解釈を行う限りにおいてその合理性を有するものであることに留意する必要がある。そして、被控訴人が訴外Aに対して土地を賃貸し、訴外Aが同土地上で駐車場を経営するという土地賃貸方式による駐車場の事業が、土地の賃貸人である被控訴人との関係で、本件判定基準にいう「対価の取得を目的として、自動車の駐車のための場所を提供する行為」には当たらないと解すべきことは、上記原判決(第32(4)ウ)が説示するとおりであり、そのように解釈する限度において本件判定基準の合理性を肯定できるにとどまる。仮に、これが本件判定基準にいう「対価の取得を目的として、自動車の駐車のための場所を提供する行為」に当たると解する可能性があるというのであれば、本件判定基準は、地方税法上の「駐車場業」に当たらないものを含めて個人事業税の賦課を可能にする不合理な判断基準と評価せざるを得ないというべきである。
イ 控訴人は、個人の事業の方式や形態は時代の変化に伴い変容するものであり、駐車場に関する経営手法についても、従前の自己経営方式から近年は土地賃貸方式が主流となっているところ、その利益に対して事業税を課すことは合理的であり、土地賃貸方式のみを課税の対象から外すことは不均衡というべきであるから、土地賃貸方式による駐車場経営が「駐車場業」という文言の拡張解釈であると判示する原判決の判断には誤りがあると主張する。
  しかし、個人事業税の対象となる「駐車場業」とは、当該個人において事業といえる程度の形態で有料の駐車場が営まれていることが必要であると解すべきことは、前記アに説示したとおりである。控訴人が指摘する土地賃貸方式による駐車場事業を個人事業税の賦課の対象から外すことは不均衡であるとの主張は、課税対象となる個人において行う「事業」の意義を正しく理解せず、都事務提要の「駐車場業について」の規定文言にとらわれ、土地賃貸方式による駐車場事業に関わる当該土地の賃貸人も一律に「駐車場業」を行う者に該当するとの誤った解釈を行うものであって相当でないから、控訴人の主張は採用することができない(ちなみに、都事務提要の「駐車場業について」の規定を前提としても、本件留意事項にあるとおり、被控訴人は、賃借人である訴外Aが行う駐車場の運営について、一切関与をしていない場合に当たると解釈することも可能である。)。
ウ 控訴人は、本件判定基準に当てはめれば、土地賃貸方式による駐車場経営が「駐車場業」に含まれることは明らかであるから、「対価の取得を目的として、自動車の駐車のための場所を提供する行為」とは、通常は「自動車の駐車のための場所を提供する行為」の相手方ないしこれと同視し得る者が「自動車の駐車」をし、「自動車の駐車」の「対価」を支払う場合をいうものと解するのが合理的であるとした原判決の判断は誤りがあると主張する。
  しかし、個人事業税の対象となる「駐車場業」とは、当該個人において事業といえる程度の形態で有料の駐車場が営まれていることが必要であると解すべきことは、これまでに説示してきたとおりであって、本件賃貸借契約の対価である賃料を訴外Aから収受するのみで、同社が行う駐車場経営自体に関与しているとはおよそ評価し難い被控訴人に対し、「駐車場業」として個人事業税を賦課することはできないというべきであるから、控訴人の上記主張を採用することはできない。
第4 結論
 したがって、当裁判所と同旨の原判決は相当であり、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。

東京高等裁判所第24民事部
裁判長裁判官 中山孝雄
裁判官 遠藤東路
裁判官 本多哲哉

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