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解説記事2021年12月27日 SCOPE 再生計画に基づく債務免除、会社が受けた利益は存在せず(2021年12月27日号・№912)

第二次納税義務めぐる事案で国が逆転敗訴
再生計画に基づく債務免除、会社が受けた利益は存在せず


 中小企業再生支援協議会による再生計画に基づき金融機関からの債権放棄を含む金融支援を受けるため、取締役らが会社(原告)に対する債務免除を行ったことにより、原告に取締役らの滞納国税についての第二次納税義務が生じるのか否かが争われた事件では、一審で納税者が敗訴していたが(本誌872号4頁参照)、東京高裁第4民事部(鹿子木康裁判長)は、令和3年12月9日、一転、納税者勝訴の判決を下した。
 東京高裁は、本件各債務免除は国税徴収法(以下「徴収法」)39条の「債務の免除」に当たるとの原判決を支持したものの、債務免除の時における各求償債権の価額が0円を超えるとは認められず、債務免除により原告の受けた利益は現に存しないとして、第二次納税義務に係る納付通知書による各告知処分を取り消した。

東京高裁、債務免除された債権の額は清算価値で評価すべき

 本件の概要はのとおり。酒類の製造販売等を行う株式会社である原告S社は、経営状況が悪化し、企業再生を図るため、N県中小企業再生支援協議会(本件協議会)に対し中小企業再生支援協議会事業実施基本要領(本件要領)に係る支援について相談した。本件協議会の指導により、取締役らは所有する不動産を売却し、売却代金を原資としてS社のH銀行に対する借入金債務を代位弁済するとともに、S社に対し取得した求償債権につき債務免除した(本件各債務免除)。その後、S社は、本件協議会の支援の下、金融支援として各金融機関に債務免除を求める内容を含む事業再生計画書を作成し、各金融機関の同意を得て再生計画が成立した。

 処分行政庁は、S社には、本件各債務免除により、取締役らの滞納国税についての徴収法39条に基づく第二次納税義務があるとして、本件各告知処分を行った。
一審、原告が受けた利益は債務免除の額
 本件訴訟では、本件各債務免除は徴収法39条の「債務の免除」に当たるか(争点1)、本件各債務免除により原告の受けた利益が現に存するか(争点2)について検討が行われた。
 一審は、徴収法39条に定める「債務の免除」を含む「無償譲渡等の処分」とは、①第三者に「異常な利益」を与え、②実質的にみてそれが「必要かつ合理的な理由」に基づくものとはいえないと評価することができるものを意味するとの解釈を示した上で、本件各債務免除は、それがS社の選択した企業再生の手続にとって事実上必要なものではあっても、実質的な対価関係があるとはいえず「異常な利益」を与えるものであり、本件協議会による指導と本件要領に沿った企業再生に係る手続には社会通念上の必要性・合理性があると認められるものの、それをもって、無償譲渡等の処分の該当性が否定されるべき「必要かつ合理的な理由」があると直ちに解することはできないとした。
 さらに、一審は、本件各債務免除によりS社の受けた利益は本件各債務免除に係る額であり、本件各告知処分の当時もその利益は現に存することが認められるとして、本件納付告知処分は適法であるとの判断を下していた。
高裁、求償債権は回収不能・困難と認定
 これに対し東京高裁は、争点1については原判決を支持したものの、争点2については、本件各債務免除の時における本件各求償債権の価額が0円を超えるとは認められず、本件各債務免除によりS社の受けた利益は現に存しないとして、正反対の判断を示した。
 国側は、S社の受けた利益の額は、本件各求償債権の額面上の金額であると主張したが、これに対し東京高裁は、各認定事実から、本件各債務免除の時において、本件各求償債権の全部又は一部の回収が不可能又は著しく困難であると認められるような状況にあったことは明らかとして、国の主張を斥けた。
 また東京高裁は、私的整理の実務においては、債務者企業が債権放棄等の金融支援の要請を含む再生計画案を金融債権者に提案する場合、経営者による求償権等の放棄等がなされなければ、当該再生計画案につき金融債権者から同意を得ることはできず、再生計画は成立せず、この場合、金融債権者において個別に権利行使がなされることとなり、債務者企業は早晩支払不能に陥るため、法的整理に移行せざるを得なくなると見込まれるから、本件各債務免除の時の本件各求償債権の価額については、S社が破産した場合に予想される回収額(清算価値)によって評価することが相当であるとした。その上で、各資産の評価を行ったところ、本件各求償債権を含む一般債務に対する配当の原資は存在せず、控訴人が破産した場合に予想される本件各求償債権の回収額(清算価値)が0円を超えるとは認められないと判断し、したがって、本件各本件各債務免除によりS社の受けた利益は現に存せず、徴収法39条の要件を満たさないとして本件各告知処分を取り消した。

国税徴収法39条(要約)
 滞納者の国税につき滞納処分を執行してもなおその徴収すべき額に不足すると認められる場合において、その不足すると認められることが、当該国税の法定納期限の1年前の日以後に、滞納者がその財産につき行った無償又は著しく低い額の対価による譲渡、債務の免除その他第三者に利益を与える処分(無償譲渡等の処分)に起因すると認められるときは、これらの処分により権利を取得し、又は義務を免れた者は、これらの処分により受けた利益が現に存する限度において、その滞納に係る国税の第二次納税義務を負う。

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