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解説記事2022年01月17日 未公開判決事例紹介 会社分割の試験研究費の「移転分加算」を巡る判決(2022年1月17日号・№914)

未公開判決事例紹介
会社分割の試験研究費の「移転分加算」を巡る判決
期限後届出可能の経過措置の適用なし

 本誌899号40頁で紹介した法人税等取消請求事件の判決について、一部仮名処理した上で紹介する。

○光学機器大手のH社の子会社(原告)が、H社から吸収分割契約により実施した事業の承継に際し行った試験研究費の特別控除の可否が争われていた事件。東京地裁(清水知恵子裁判長)は令和3年9月9日、納税者敗訴の判決を下した(令和元年(行ウ)第357号)。移転事業に係る部分のみの加算の特例を受けるための認定申請・届出が期限までに行われていなかったことにより分割法人の試験研究費等の「全額加算」の課税処分を受けた原告が、処分の取消しを求め訴訟を提起したが認められなかった。

主  文

1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1 請求
1
 N税務署長が平成30年8月28日付けでC株式会社(以下「C社」という。)に対してした平成27年4月1日から平成28年3月31日までの事業年度に係る法人税の更正処分のうち納付すべき税額1億4284万4900円を超える部分及び同更正処分に伴う過少申告加算税賦課決定処分のうち税額24万6000円を超える部分をいずれも取り消す。
2 N税務署長が平成30年8月28日付けでC社に対してした平成27年4月1日から平成28年3月31日までの課税事業年度に係る地方法人税の更正処分のうち納付すべき税額628万5700円を超える部分及び同更正処分に伴う過少申告加算税賦課決定処分のうち税額1万円を超える部分をいずれも取り消す。
3 N税務署長が平成30年8月28日付けでC社に対してした平成28年4月1日から平成29年3月31日までの事業年度に係る法人税の更正処分のうち納付すべき税額1億7303万5000円を超える部分及び同更正処分に伴う過少申告加算税賦課決定処分のうち税額56万1000円を超える部分をいずれも取り消す。
4 N税務署長が平成30年8月28日付けでC社に対してした平成28年4月1日から平成29年3月31日までの課税事業年度に係る地方法人税の更正処分のうち納付すべき税額762万0500円を超える部分及び同更正処分に伴う過少申告加算税賦課決定処分のうち税額2万4000円を超える部分をいずれも取り消す。
第2 事案の概要
 C社と原告(原告については、後記分割前の法人を、現在の法人と区別するため、以下「本件分割法人」ということがある。)は、平成27年11月6日付けで原告を分割法人としC社を分割承継法人とする吸収分割契約を締結し、同年12月11日、原告(本件分割法人)のレーザースキャンユニット関連事業(以下「本件移転事業」という。)がC社に承継された(以下「本件分割」という。)。
 C社は、平成28年3月期(平成27年4月1日から平成28年3月31日までの事業年度。以下、他の事業年度及び地方法人税に係る課税事業年度についても同様に表記する。)及び平成29年3月期(以下、平成28年3月期と併せて「本件各事業年度」という。)の法人税及び地方法人税(以下「法人税等」という。)の確定申告(以下「本件確定申告」という。)において、租税特別措置法(平成29年法律第4号による改正前のもの。以下「法」という。)42条の4に規定する試験研究費に関する法人税額の特別控除(以下「本件特別控除」という。)の額の計算に際し、本件分割法人の売上金額及び試験研究費の額を加算することなく本件特別控除の額を算出して申告した。
 これに対し、N税務署長は、C社の本件各事業年度における本件特別控除の額の計算は、租税特別措置法施行令(平成29年政令第114号による改正前のもの。以下「施行令」という。)27条の4第9項、14項及び18項の規定に従い、本件分割法人の売上金額及び試験研究費の額を全額加算して行う必要があるなどとして、本件各事業年度に係る法人税等の更正処分(以下「本件各更正処分」という。)及びこれらの更正処分に伴う過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」といい、本件各更正処分と併せて「本件各処分」という。)をした。
 本件は、その後にC社を吸収合併して訴訟承継人となった原告が、被告を相手に、本件各処分(請求の趣旨記載の各税額を超える部分)の取消しを求める事案である。
1 関係法令等の定め
(1)本件に関係する法の定めは別紙2−1、施行令の定めは別紙2−2、租税特別措置法施行規則(平成29年省令第24号による改正前のもの。以下「施行規則」という。)の定めは別紙2−3にそれぞれ記載したとおりである。
(2)会社分割があった場合における本件特別控除の制度の概要は、次のとおりである。
ア 総額型特別控除と増加型特別控除
 法42条の4第1項は、青色申告書を提出する法人について、当該事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入される試験研究費の額がある場合には、当該法人の当該事業年度の所得に対する調整前法人税額(同条6項2号参照)から、当該事業年度の当該試験研究費の額の100分の10に相当する金額(試験研究費割合〔同項3号参照〕が10%未満であるときは別途の割合による。)を控除する旨規定する(以下、この規定による本件特別控除を「総額型特別控除」という。また、後記の増加型特別控除を通じて、上記のように本件特別控除によって控除される金額を、以下「税額控除限度額」という。)。
 法42条の4第4項は、青色申告書を提出する法人が平成20年4月1日から平成29年3月31日までの間に開始する各事業年度において同項各号に該当する場合には、当該各号に掲げる場合の区分に応じ、所定の金額(ただし、調整前法人税額の100分の10を限度とする。)を控除するものとし、同項1号は、増加試験研究費の額(損金の額に算入される試験研究費の額から比較試験研究費の額〔同条6項8号参照〕を控除した残額)が所定の計算による金額を超える場合について、当該試験研究費の額に100分の30(増加試験研究費割合〔同条4項1号〕が30%未満であるときはその割合)を乗じて計算した金額を控除する旨規定している(以下、この規定による本件特別控除を「増加型特別控除」という。)。
イ 政令への委任
 法42条の4第9項は、同条6項から8項までに定めるもののほか、同条4項の規定の適用を受けようとする法人が合併法人、分割法人又は分割承継法人等である場合における各事業年度(適用年度〔同条6項8号参照〕の開始の日前3年以内に開始したもの。)の所得の金額の計算上損金の額に算入される試験研究費の額の計算その他同条1項から5項までの規定の適用に関し必要な事項は、政令で定める旨規定している。
ウ 全額加算方式
 施行令27条の4第9項は、増加型特別控除の適用を受ける法人が同項各号に掲げる合併法人、分割承継法人、被現物出資法人等(以下「合併法人等」という。)に該当する場合の適用年度における比較試験研究費の額の計算については、当該法人の各事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入される試験研究費の額は同項各号に定めるところによるものとし、同項1号及び2号は、①調整対象年度(同項柱書き参照)に係る合併法人等の試験研究費の額と、②該当期間に係る被合併法人、分割法人、現物出資法人等(以下「被合併法人等」という。)の試験研究費の額を合計した金額とする旨規定している。
 また、施行令27条の4第18項は、総額型特別控除又は増加型特別控除の適用を受ける法人が同項各号に掲げる合併法人等に該当する場合の当該総額方式等適用年度(同条17項参照)における当該法人の平均売上金額(法42条の4第6項10号、施行令27条の4第17項参照)の計算について、当該法人の売上調整年度(同項参照)の売上金額は同項各号に定めるところによるものとし、同条18項1号及び2号は、①合併法人等の当該売上調整年度に係る売上金額と、②該当期間に係る被合併法人等の売上金額を合計した金額とする旨規定している(以下、上記の同条9項の定めによる比較試験研究費の額の計算方法と併せて「全額加算方式」という。)。
エ 移転分加算方式
 上記ウの全額加算方式に対し、施行令27条の4第11項は、増加型特別控除の適用を受ける法人が分割法人等(分割法人又は現物出資法人。以下同じ)又は分割承継法人等(分割承継法人又は被現物出資法人。以下同じ)である場合の比較試験研究費の額の計算について、分割法人等が財務省令で定めるところにより納税地の所轄税務署長(以下、単に「所轄税務署長」という。)の認定(以下、後記の同条20項に係る認定と併せて「移転試験研究費等に係る認定」という。)を受けた合理的な方法に従って当該分割法人等の各事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入される試験研究費の額を移転事業(分割法人から分割承継法人に移転する事業。以下同じ)に係る試験研究費の額(以下「移転試験研究費の額」という。)とそれ以外の事業に係る試験研究費の額とに区分しているときは、当該分割等に係る分割法人等及び分割承継法人等の全てが財務省令で定めるところによりそれぞれの所轄税務署長に同条11項の適用を受ける旨の届出(以下、後記の同条20項に係る届出と併せて「移転分加算の適用に係る届出」という。)をしたときに限り、分割法人等及び分割承継法人等の同条11項各号に規定する調整対象年度に係る試験研究費の額は同項各号に定める金額とするものとし、同項2号は、当該法人が分割承継法人等である場合について、①分割承継法人の調整対象年度に係る試験研究費の額と、②該当期間に係る分割法人の移転試験研究費の額との合計額を試験研究費の額とする旨規定している。
 また、施行令27条の4第20項は、総額型特別控除又は増加型特別控除の適用を受ける法人が分割法人等又は分割承継法人等である場合の平均売上金額の計算について、分割法人等が財務省令で定めるところにより所轄税務署長の認定(移転試験研究費等に係る認定)を受けた合理的な方法に従って当該分割法人等の各事業年度の売上額を移転事業に係る売上額(以下「移転売上金額」という。)とそれ以外の事業に係る売上金額とに区分しているときは、当該分割等に係る分割法人等及び分割承継法人等の全てが財務省令で定めるところによりそれぞれの所轄税務署長に同項の適用を受ける旨の届出(移転分加算の適用に係る届出)をしたときに限り、当該分割法人等及び当該分割承継法人等の売上調整年度に係る売上金額は同項各号に定める金額とするものとし、同項2号は、当該法人が分割承継法人等である場合について、①分割承継法人の売上調整年度に係る売上金額と、②該当期間に係る分割法人等の売上金額を合計した金額とする旨規定している(以下、上記の同条11項の定めによる比較試験研究費の額の計算方法と併せて「移転分加算方式」という。)。
オ 移転分加算方式の適用を受けるための手続
 施行規則20条12項及び19項は、移転試験研究費等に係る認定(上記エ)を受けようとする分割法人等は、分割等の日以後2月以内に、認定を受けようとする合理的な方法など所定の事項を記載した申請書に分割計画書又は分割契約書等の写しを添付して、所轄税務署長に提出しなければならない旨規定している(以下、上記申請書の提出による申請を「移転試験研究費等に係る認定申請」又は単に「認定申請」といい、同申請について上記のとおり定められた期限を「2月の期限」又は「本件期限」といい、この期限を定めた上記各規定を「本件期限規定」という。)。
 また、施行規則20条17項及び24項は、移転分加算の適用に係る届出(上記エ)は、分割等の日以後2月以内に、同条11項及び20項の規定の適用を受ける旨並びに移転試験研究費の額及び移転売上金額など所定の事項を記載した届出書により行わなければならない旨規定している(以下、移転試験研究費等に係る認定申請と移転分加算の適用に係る届出を併せて「認定申請・届出」ということがある。)。
2 前提事実(争いのない事実、顕著な事実並びに掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
(1)当事者等

ア 原告(本件分割法人)は、昭和19年に設立され、各種ガラス及びセラミックス製品、各種化学材料・製品、エレクトロニクス関連素材・部品・機器、電子光学関連素材・部品・機器等の製造販売等を目的とする株式会社である。
イ C社は、昭和63年に設立され、光ファイバー関連素材・部品・機器等の製造販売等を目的とする株式会社であり(甲1)、原告に発行済株式の全部を保有されている完全子会社であったが、本件各処分を受けて本件訴訟を提起した後の令和2年1月1日、原告に吸収合併された。
  なお、C社の事業は、規模としては親会社である原告に比べて小さい(売上金額で約29分の1)が、売上金額に占める試験研究費の額の割合は高く、平成28年3月期において、原告の上記割合が約2.56%であったのに対し、C社の上記割合は約8.80%であった。このように、C社においては、毎年高額の試験研究費を支出しているため、従前から試験研究費に関する法人税額の特別控除(本件特別控除)の適用を受けてきた。
(2)本件分割に至る経緯等
ア 原告は、平成20年にP株式会社(以下「P社」という。)と合併し、3つの事業から成るオプトデバイス事業を承継したところ、そのうち1つは廃止され、もう1つは原告の既存の事業と統合されることとなり、残る1つであるレーザースキャンユニット関連事業(レーザープリンターやデジタル複写機等の情報入出力機器、検査機器及び測定機器に利用される製品に係るもの)については、従前から光学機器製品を取り扱ってきたC社の事業と統合されることになった。
  そのため、C社と原告(本件分割法人)は、平成27年11月6日付けで吸収分割契約を締結し、原告を分割法人、C社を分割承継法人として、レーザースキャンユニット関連事業(本件移転事業)を吸収分割の方法によりC社に承継させる旨の合意をした。同契約に基づき、約定の効力発生日である平成27年12月11日に、本件移転事業は本件分割法人からC社に承継された(本件分割)。(甲2)
イ ところが、本件分割法人は、本件分割のあった日から2月以内に、施行令27条の4第11項及び第20項に定める認定(移転試験研究費等に係る認定)を受けるための申請書を所轄税務署長に提出しておらず、また、C社及び本件分割法人は、本件分割のあった日から2月以内に、上記各項に定める届出(移転分加算の適用に係る届出)に係る届出書を所轄税務署長に提出していなかった。
(3)本件移転事業の内容等
ア 本件分割前における本件移転事業の内容は、本件分割法人がグループ会社である●●●● HOLDING CO.,LTD.,Hong Kong(以下「PS社」という。)からレーザースキャニングユニット製品の販売営業業務及び技術開発業務(以下「本件委託業務」という。)の委託を受け、これらの業務を行う対価として委託料の支払を受けるというものであった。このように、本件分割法人が本件移転事業において行っていた技術開発業務については委託料が支払われていたことから、その業務に係る費用は、本件特別控除の額の計算において所得の金額の計算上損金の額に算入される試験研究費の額(法42条の4第1項)に該当せず、本件移転事業には移転試験研究費の額(関係法令等(2)エ)が存在しない。
イ C社は、本件分割の効力発生日である平成27年12月11日付けで、PS社との間で本件委託業務の委託に関する覚書を締結した。これにより、C社を受託者、PS社を委託者として、本件分割前と同様の事業が継続されることとなった。(乙7)
(4)本件確定申告
 C社は、本件各事業年度の法人税等について、それぞれ別表1及び2の各「確定申告」欄のとおり、いずれも法定申告期限までに申告した(乙3及び4、本件確定申告)。
 C社は、本件確定申告における本件特別控除の額の計算を行うに当たり、本件分割法人の試験研究費の額や売上金額を加算することなく、C社における試験研究費の額及び売上金額のみに基づいて、比較試験研究費の額等や平均売上金額を算出していた。
 なお、仮に、本件各事業年度の法人税等に係る本件特別控除の額の計算において本件分割法人の試験研究費の額及び売上金額を加算することとした場合には、全額加算方式よりも移転分加算方式による方が、本件分割法人の事業全体の規模と売上金額に占める試験研究費の額の割合(上記(1)イ)、本件移転事業の規模等に照らし、増加型特別控除における税額控除限度額の計算の基礎となる増加試験研究費割合(関係法令等(2)ア)の計算において納税者(C社)に有利になるが、同社は、この時点においては移転分加算方式の適用を受けるのに必要な認定申請・届出(関係法令等(2)エ)をしていなかった。
(5)本件各処分に至る経緯等
ア K国税局調査査察部の職員は、平成30年3月15日以降、C社の税務調査(以下「本件調査」という。)を行った。
イ N税務署長は、本件調査の結果に基づいて、C社が本件特別控除の額の計算に際し、本件分割法人の試験研究費の額や売上金額を加算することなく比較試験研究費の額等や平均売上金額を算出したことなどを理由に、平成30年8月28日付けで、別表1及び2の各「更正処分等」欄のとおり本件各更正処分及びこれに伴う本件各賦課決定処分をした(甲9の1〜4。なお、本件各更正処分においては、C社がPS社から受領した委託料を試験研究費の額から控除していなかったことも理由の一つとされているが、この点については原告は争っていない。)。
ウ なお、本件分割法人は、本件各処分に先立つ平成30年6月11日、所轄税務署長に対し、本件分割に関する移転試験研究費等に係る認定申請をした(甲3、4。以下「本件認定申請」という。)。しかし、所轄税務署長は、これに対する認定をせず、T国税局の職員において、同年11月5日、本件分割法人に対し、本件認定申請は本件期限規定(関係法令等(2)オ)に定める2月の期限を過ぎて提出されたものであるから無効であり、書面による認定又は却下は行わない旨の電話連絡をした。
(6)本件訴訟に至る経緯等
 C社は、平成30年11月26日、本件各処分の取消しを求め、国税不服審判所長に審査請求をし、その裁決がされる前の令和元年7月10日に本件訴訟を提起した。なお、上記審査請求は、同年9月5日に取り下げられた(乙1)。
(7)原告による訴訟承継
 原告は、令和2年1月1日、C社を吸収合併し、本件訴訟を承継した。
3 税額等に関する当事者の主張
 本件各処分における課税の計算に係る被告の主張は別紙3のとおりであり、原告は、後記4の争点に関する部分を除き、その計算の根拠となる金額及び計算方法を明らかに争わない。
4 争点及び当事者の主張
 本件の争点は本件各処分の適法性であり、被告が施行令27条の4第9項及び18項に規定する全額加算方式の適用を主張するのに対し、原告は、①本件分割のように移転試験研究費の額が存在しない場合(前提事実(3)ア参照)は上記各項にいう「合併等」に当たらないから、全額加算方式を適用することはできない、②仮にそうでないとしても、法は、移転事業に係る試験研究費の額及び売上金額を客観的に区分できる場合について移転分加算方式を適用することを原則としているものと解すべきであるから、施行令27条の4の規定のうち、これに反して全額加算方式を原則とし、移転試験研究費等に係る認定及び移転分加算の適用に係る届出を経なければ移転分加算方式の適用を受けられないとしている部分については、法の委任の範囲を逸脱し無効である、③また、仮にそうでないとしても、移転試験研究費等に係る認定申請について2月の期限(本件期限)を定める施行規則20条12項及び19項の規定(本件期限規定)は、これが手続的な課税要件を定めるものであるとすれば法律の有効な委任がないものとして無効となるから、行政手続の便宜のために手続要件を定めたものに過ぎないものというべきであって、原告が本件期限後にした本件認定申請(前提事実(5)ウ)に対し所轄税務署長の認定がないままにされた本件各処分は違法である、などと主張している。したがって、本件の争点は、具体的には次の(1)から(3)までのとおりであり、これらに関する当事者の主張の要旨は、別紙4記載のとおりである。
(1)本件分割は、施行令27条の4第9項及び18項の「合併等」に該当するか否か。
(2)施行令27条の4の規定は、法42条の4による委任の範囲を逸脱しているか否か。
(3)本件期限規定(施行規則20条12項及び19項)は、有効に課税要件を定めたものであるか否か。
第3 当裁判所の判断
 当裁判所は、争点に係る原告の主張はいずれも採用することができず、N税務署長がC社の本件各事業年度における本件特別控除について全額加算方式を適用したことに違法はないから、本件各処分はいずれも適法であり、原告の請求は理由がなく棄却すべきものと判断する。その理由の詳細は以下のとおりである。
1 争点(1)(本件分割は「合併等」に該当するか)について
(1)租税法規の解釈の方法について

 憲法は、国民は、法律の定めるところにより納税の義務を負うことを定め(30条)、新たに課税を課し又は現行の租税を変更するには、法律又は法律の定める条件によることを必要としており(84条)、それゆえ課税要件及び租税の賦課徴収の手続は、法律で明確に定めることが必要である。このような租税法律主義の原則に照らすと、租税法規はみだりに規定の文言を離れて解釈すべきものではないというべきである。これは、法的安定性が強く要請される租税法規の性質や課税庁による恣意的な運用を防ぐという観点から、租税法規を納税者の有利に解釈する場合についても同様である。
(2)施行令27条の4第9項及び18項の「合併等」の意義について
ア 法42条の4第9項は、同条4項に定める増加型特別控除の適用を受けようとする法人が合併法人、分割法人若しくは分割承継法人、現物出資法人若しくは被現物出資法人又は現物分配法人若しくは被現物分配法人である場合における各事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入される試験研究費の額の計算その他同条1項から5項までの規定の適用に関し必要な事項は政令で定めるものとしている。これを受けた施行令27条の4第9項及び18項は、その適用対象となる「合併等」の意義につき、同各項の各1号において、合併、分割、現物出資又は現物分配とする旨規定しており、これは、上記のとおり委任規定である法42条の4第9項が、「合併法人、分割法人若しくは分割承継法人、現物出資法人若しくは被現物出資法人又は現物分配法人若しくは被現物分配法人」が対象法人である場合の規律について政令に委任したことに呼応するものと解される。そして、上記各項の文理上、「合併等」の範囲を限定し、あるいは、上記各項が適用されるための要件を付加するような定めはなく、およそ分割である以上は「合併等」に該当し上記各項が適用されると解するのが素直な解釈である。
イ これに対し、原告は、本件分割のように移転事業に移転試験研究費の額が存在しない場合には施行令27条の4第9項及び18項の「合併等」に該当しないと解すべきである旨主張する。
  しかしながら、上記各項に関しては、分割の対象となる移転事業に移転試験研究費の額が存在しない場合に「合併等」に当たらず上記各項が適用されないとする規定はなく、原告の上記主張は、法令の明文にない要件を付加するものといわざるを得ない。
(3)原告のその余の主張について
ア 原告は、文理上も、移転事業に移転試験研究費の額が存在することを前提としている規定(施行令27条の4第11項等)が存在している旨主張する。
  しかしながら、原告が指摘する施行令27条の4第11項は、同条9項の「合併等」に該当する場合であっても、分割又は現物出資においては分割法人又は現物出資法人(分割法人等)の事業の一部が移転対象となるため、分割法人等に生じる試験研究費が移転事業に係るもの(移転試験研究費の額)とそれ以外の事業に係るものに合理的に区分し得る場合があることから、その区分の合理性が認められること(所轄税務署長の認定を受けること)を条件に移転分加算方式を適用するというものである。かかる規定が存在することが、同条9項の「合併等」の範囲が限定され、あるいは同項が適用されるための要件が付加されていると解すべき根拠となるものとは、到底いうことができない。
イ 原告は、施行令27条の4第9項及び18項の「合併等」について、分割に係る移転事業に移転試験研究費の額が存在しない場合が含まれるとすれば、試験研究への支出を増加させるインセンティブを失い、企業が試験研究に投じる費用の割合の拡大や増額を税制面から支援することにより、試験研究への支出を後押しし、技術革新等を促そうとする法42条の4第1項の趣旨に反するなどと主張する。
  しかしながら、原告の上記主張は試験研究への支出を増加させるインセンティブを増大させるためには全額加算方式を適用すべきでない旨をいうものにすぎず、上記「合併等」について、その範囲が限定され、あるいは上記各項が適用されるための要件が付加されていると解すべき根拠となるものではなく、立法政策の当否を論ずるに帰するものというべきである。また、この点を措くとしても、原告が主張するような問題点は、所定の手続を経て移転分加算方式の適用を受けることにより回避し得るものであり(移転試験研究費の額が0円であることは、移転試験研究費等に係る認定を受けることの妨げとなるものではない。)、この点においても原告の主張は採用することができない。
2 争点(2)(施行令27条の4の規定は法による委任の範囲を逸脱しているか)について
(1)法42条の4の趣旨と施行令における移転分加算方式の導入について

 法42条の4に定める本件特別控除は、我が国における技術開発の促進のため、民間企業の試験研究活動に対して税制面からも積極的な助成措置を講ずることを目的として、昭和42年法律第24号により創設されたものである。その後、平成12年の商法改正により会社分割制度(平成13年4月1日施行)が導入されたことに伴い、平成13年度税制改正において、政令への委任規定である法42条の4第6項(当時)が改正され、本件特別控除の適用を受けようとする法人が分割法人又は分割承継法人等である場合にも、当該法人が合併法人である場合と同様に、その適用に関し必要な事項は政令で定めることとされた(乙10の1、11の1)。
 そして、平成13年度税制改正前の施行令27条の4においては、全額加算方式のみが定められていた(乙10の2)のに対し、同改正後の同条においては、移転分加算方式が導入された(乙11の2)。これは、分割の場合には、合併と異なり、分割法人に生じた試験研究費の額が移転事業と無関係な場合もあり得ることから、納税者において移転分加算方式を選択し得るものとしたものであり、法が本件特別控除の制度を定めた趣旨に合致するものということができる。
(2)施行令の規定の合理性について
 施行令27条の4は、増加型特別控除の適用を受けようとする法人が分割承継法人である場合に、移転分加算方式の適用を受けるためには、移転試験研究費等に係る認定と移転分加算の適用に係る届出を要するものとし、これらを欠く場合には全額加算方式が適用されるものとしている。原告は、このような同条の規定が不合理で法の委任の趣旨に反し、その委任の範囲を逸脱していると主張するので、以下、この点について検討する。
 分割法人に生じた試験研究費の額のうち、移転事業における移転試験研究費の額とそれ以外の事業に係る試験研究費の額との区分は、分割法人でなければ適切に行えないところ、分割法人による区分が恣意的に行われないようにするためには、所轄税務署長によってその区分が合理的な方法に従って行われたものであるか否かを認定する必要がある。また、本件特別控除の額の算定は、分割法人及び分割承継法人において相互に矛盾しないように行う必要があるから、分割法人及び分割承継法人の全てがそれぞれ所轄税務署長に対して届出を要するものとしているものである。
 以上によれば、施行令27条の4が、移転分加算方式の適用を受けるために上記の認定及び届出を要するものとし、これらを欠く場合には全額加算方式が適用されることとしたことは、合理的なものであるというべきであって、かかる規定が法の趣旨に反するものでないことは明らかであるから、法による委任の範囲の逸脱をいう原告の主張は採用することができない。
(3)原告のその余の主張について
 原告は、企業が行う試験研究を税制面から支援するために本件特別控除を定めた法42条の4の趣旨に照らすと、同条は、移転試験研究費の額を客観的に区分することができる場合については移転分加算方式を適用することを原則としていると解すべきものであり、施行令27条の4の規定はこの原則と例外を逆転させている点で委任の範囲を逸脱していると主張する。
 しかしながら、そもそも法42条の4の文言や趣旨から、同条が分割の場合について移転分加算方式の適用を原則としているとは、直ちに読み取り難い。また、上記のとおり、施行令27条の4は、分割の場合について移転分加算方式を設け、所定の手続を経ることによってその適用を受けることができるとしているのであって、このことは、原告が指摘する法の趣旨に合致するものである。そして、移転分加算方式の適用を受けるための手続として、移転試験研究費等に係る認定及び移転分加算の適用に係る届出を定めたことが合理的であることは、上記(2)に説示したとおりである。
 なお、施行令27条の4がこれらの手続を定めていることは、分割法人又は分割承継法人に過重な負担を課すものとはいえず、同条11項及び20項の委任を受けた施行規則20条12項、17項、19項及び24項が移転試験研究費等に係る認定申請及び移転分加算の適用に係る届出について2月の期限を設けていることを考慮に入れたとしても、当該期限内に認定申請及び届出をすることは通常困難であるとはいえないから、かかる手続の定めにより移転分加算方式の適用が不当に狭められているということはできない。
 以上によれば、原告の上記主張は採用することができない。
3 争点(3)(本件期限規定は有効に課税要件を定めたものであるか)について
(1)本件期限規定は課税要件を定めたものか

ア 施行規則20条12項及び19項(本件期限規定)は、施行令27条の4第11項及び20項の委任を受け、移転試験研究費等に係る認定を受けるための申請書を分割等の日以後2月(本件期限)以内に提出しなければならない旨規定している。
イ 本件期限規定への委任規定である施行令27条の4第11項及び20項は、上記2のとおり、法42条の4第9項の委任を受け、増加型特別控除の適用を受ける法人が分割承継法人である場合に全額加算方式又は移転分加算方式が適用されるべきこと及びその適用の要件を定め、移転分加算方式の適用を受けるためには移転試験研究費等に係る認定を要するものとしている。そして、施行令27条の4第11項及び20項の文言において「分割法人等が財務省令で定めるところにより納税地の所轄税務署長の認定を受けた合理的な方法」と規定されていることからすると、上記各項は、移転分加算方式が適用されるための要件である上記認定に係る手続について財務省令に委任したと解されるのであって、かかる委任を受けて施行規則20条12項及び19項(本件期限規定)が認定申請を2月の期限内にすべきことを定めたのは、移転分加算方式が適用されるための要件(すなわち課税要件)であると解するのが相当である。
(2)本件期限規定が課税要件として本件期限を定めたことは租税法律主義に反するか
ア 原告は、法42条の4第9項及び施行令27条の4第11項及び18項の委任文言はいずれも包括的・抽象的であり、法において定められるべき手続的な課税要件を施行規則において定めているに等しいから、本件期限規定が課税要件として本件期限を定めているとすれば法律の有効な委任がないものとして無効である旨主張する。
イ 租税法律主義を規定する憲法84条の下においては、納税義務者、課税標準及び税率などの課税要件並びに租税の賦課徴収の手続が法律で明確に定められるべきものであるところ(最高裁昭和28年(オ)第616号同30年3月23日大法廷判決・民集9巻3号336頁、最高裁平成12年(行ツ)第62号同18年3月1日大法廷判決・民集60巻2号587頁参照)、租税の優遇措置を定める場合や、課税要件として手続的な事項を定める場合もこれを法律により定めることを要するものである。
  一方、多分に専門的・技術的かつ細目的な事項が存在する租税法においては、社会経済活動の多様化・複雑化やこれに伴い関連法令の制定が複雑多岐に及ぶ事態に有効かつ適切に対処するために、一定の範囲で課税要件及び租税の賦課徴収の手続を政令等の行政立法に委任することも許容されるというべきであり、憲法もそのこと自体を排除する趣旨ではないと解される。
  もっとも、租税法律主義に照らせば、上記のような行政立法への委任は具体的・個別的な委任に限り許容され、概括的・白紙的な委任は許されないというべきであり、委任する法律の規定において委任の目的・内容・範囲等が明確にされていることが必要である。また、行政立法への委任が許容される趣旨に照らすと、委任の対象は専門的・技術的かつ細目的な事項であることを要するものというべきである。
ウ 上記イの観点から、法42条の4の規定を見ると、同条1項から5項までは本件特別控除の内容・種類及びこれらが適用されるための実体要件を、6項は各規定の適用に関する用語の定義を、7項は月数の計算方法を、8項は本件特別控除の適用を受けるために必要な確定申告書等への書類の添付等を定めている。そして、これらに続いて規定されている同条9項は、同条4項(増加型特別控除)の適用を受けようとする法人が合併法人、分割法人若しくは分割承継法人、現物出資法人若しくは被現物出資法人又は現物分配法人若しくは被現物分配法人である場合における適用年度の開始の日前3年以内に開始した各事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入される試験研究費の額の計算その他同条1項から5項までの規定の適用に関し必要な事項(同条6項から8項までに定めるものを除く。)の定めを政令に委任している。
  このような条文の構造や内容に照らすと、委任規定である法42条の4第9項は、これら合併や分割等の場合においては、所得の金額の計算上損金の額に算入される試験研究費の額の計算に関し、それぞれの法形態に適した定めが必要となることや、これらの定めは専門的・技術的かつ細目的な事項にわたるものとなることから、これらの定めを政令に委任することとしたものと解される。そしてこれを受けて定められた施行令27条の4は、合併や分割等の場合における上記試験研究費の計算に当たり、相手法人の試験研究費の額や売上金額の加算をいかにして行うか(全額加算方式、移転分加算方式)、それぞれの加算方式を適用するのにいかなる要件をもって行うか等を定めているのであるから、上記の委任の趣旨に沿って、求められた専門的・技術的かつ細目的な事項を定めているものといえる(なお、施行令27条の4が法42条の4による委任の範囲を逸脱するものでないことは前記2に説示したとおりである。)。
エ 次に、施行令27条の4第11項及び20項による委任について見ると、移転試験研究費等に係る認定に関しては、上記各項において「分割法人等が財務省令で定めるところにより納税地の所轄税務署長の認定を受けた合理的な方法」と規定されており、上記認定に係る手続について財務省令に委任したものと解されるところ、分割があった場合の移転試験研究費の額と移転事業以外の事業に係る試験研究費の額との区分については、分割法人による認定申請がなければ所轄税務署長において適時適切に把握することができないのであるから、上記の委任の範囲には認定申請及びその実施に係る手続の定めが含まれることが、上記委任規定から明らかである。そして、認定申請が、法人税の確定申告について本件特別控除の適用を受けようとする法人との関係で、分割法人による移転試験研究費の額に係る上記区分を所轄税務署長に把握させ、その区分が合理的な方法によるものであるか否かの判断を適時適切に行わせるためのものであることを踏まえると、分割法人による認定申請が一定の合理的な期間内に行われるべきことは当然であるから、認定申請に係る期限を設けることについても、委任の範囲に含まれるものとして上記委任規定が予定しているものというべきである。
オ 以上によれば、法42条の4第9項から政令への委任、施行令27条の4第11項及び20項から財務省令への委任は、いずれも、委任規定において委任の目的・内容・範囲等が明確にされており、個別的かつ具体的な委任であるといえ、また、委任の対象は専門的・技術的かつ細目的な事項であるといえるから、租税法律主義に反するものということはできず、本件期限規定は課税要件として有効に定められたものである。
(3)原告のその余の主張について
ア 原告は、本件期限を徒過した場合の宥恕規定がないことを根拠に、本件期限規定が課税要件を定めたものではない旨主張する。
  しかしながら、租税手続上の期限を定める規定それ自体に原告の主張するような宥恕規定が設けられていない場合であっても、国税通則法11条、国税通則法施行令3条により、災害など納税者の責めに帰さないやむを得ない理由により、国税に関する法律に基づく申告、申請、請求、届出その他書類の提出又は納付等の期限までにこれらの行為をすることができないと認められるときは、その理由がやんだ日から2月以内に限り、その期限が延長されるのであるから、原告が主張するような個別の宥恕規定がないことは当該期限規定が課税要件を定めるものでないことの根拠となるものではない。
イ 原告は、本件期限規定が定める2月の期限は更正請求の期限と比べて短期に過ぎる旨主張する。
  しかしながら、そもそも本件期限の長短が、本件期限規定の有効性を左右するものとは直ちに解し難いところ、この点を措くとしても、分割法人において移転事業における試験研究費の額や売上金額を把握することが困難であるとはいい難く、租税法令における他の立法例との比較においても特にこれが短い期間を定めたものとも認め難いから、本件期限規定が分割の日以後2月以内に認定申請をすべきことと定めていることが不合理であるということもできない。
ウ したがって、原告の上記主張はいずれも採用することができない。
4 本件各処分の適法性
 以上によれば、移転試験研究費等に係る認定申請について2月の期限を定めた本件期限規定は課税要件として有効であり、本件期限を2年以上経過してされた本件分割法人による本件認定申請に対する所轄税務署長の認定がされないまま、N税務署長がC社の本件特別控除について全額加算方式を適用したことに、何ら違法はない。これによると、C社の本件各事業年度における法人税等の額は別紙3に記載するとおりであるから、本件各更正処分は適法であり、本件各更正処分に伴ってされた本件各賦課決定処分も適法である。なお、以上の判断に反する原告のその余の主張は、上記説示に照らし、いずれも採用することができない。
第4 結論
 以上によれば、原告の請求はいずれも理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第51部
裁判長裁判官 清水知恵子
裁判官 横地大輔
裁判官 定森俊昌

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