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解説記事2022年02月21日 巻頭特集 鼎談 「新しい資本主義」の下での税制のあり方(2022年2月21日号・№919)

巻頭特集
鼎談
「新しい資本主義」の下での税制のあり方
 自由民主党 税制調査会会長 宮沢洋一
 日本経済団体連合会 経済基盤本部長 小畑良晴
 公認会計士・税理士 緑川正博


 岸田政権が掲げる「新しい資本主義」の下では、株主のみならず、従業員や下請業者など幅広いステークホルダーに目を向けた企業経営が求められる。令和4年度税制改正では、それを具現化するものとして賃上げ税制が導入されている。
 本鼎談では、公認会計士・税理士の緑川正博先生を進行役として、税制改正の責任者である自民党の宮沢洋一税制調査会会長と経済界を代弁する立場にある経団連の小畑良晴経済基盤本部長に、賃上げ税制、新たな技術の創出に向けた投資減税、日本社会の公平感を保つための所得税制、さらには法人税法や所得税法で簿外経費を認めないとした令和4年度税制改正の実務への影響、社会保障と税の一体改革まで幅広いテーマについて、「新しい資本主義」の下における税制のあり方を語っていただいた。(文責:編集部)

賃上げ税制

“賃上げ宣言”が求められることとなった背景

緑川正博氏(以下、敬称略):皆さま本日はお時間をいただきありがとうございます。まずは法人税課税の話題から取り上げていきたいと思います。
 令和4年度税制改正では、平成30年度の税制改正で導入された「賃上げ・生産性向上のための税制」に戻す形で、いわゆる賃上げ税制が導入されましたが、資本金10億円以上かつ常時使用する従業員の数1,000人以上の企業に対しては、インターネット上での“賃上げ宣言” (マルチステークホルダー宣言)の公表が要件に追加されました。なぜ、こうした宣言を税額控除の要件とする税制が登場したのでしょうか。
宮沢洋一氏(以下、敬称略):今回は岸田政権が発足してから初めての税制改正だったわけですが、新政権の下では「新しい資本主義」が重要な政策として掲げられました。株主ばかりに目を向けるのではなく、幅広いステークホルダー、例えば従業員、取引業者・下請業者にも目を向けた企業経営をして欲しいというのが新しい資本主義の基本的な考え方です。従業員に目を向ければ賃上げということになりますし、取引業者・下請業者に目を向ければ、いわゆる下請け叩きなどはもってのほかということになります。
 ご指摘の通り、賃上げ税制自体は第二次安倍政権時代の2015年改正においてできたものであり、その後、逐次税制改正を重ねてきました。ただ、これまでは「賃上げをする企業を優遇する」という旗を立てることがある意味一番重要であって、政策の中身について税調の中で詳細な議論がされたわけではありません。むしろ、累次の税制改正の中で、財務省主税局と経産省のある意味の“貸し借り”、要するにここで少し減税するからこちらで増税して丁度増減収をなしにする道具として使われてきた面は否定できないと思います。旧賃上げ税制は、例えば業績連動型賞与が増えて、それなりに人件費・賃金が上がってくると結果として使えるようになる仕組みであり、おそらく意識して使うものではありませんでした。
 これに対し今年の税制改正では、「賃金を上げる」という意欲を持って、意識的に使ってもらう税制にしたいというところから議論がスタートしています。この点、業績連動型賞与は文字通り業績に連動するわけですから、労働分配率を増やすという方向の話ではありません。したがって、今回の賃上げ税制は、業績が良くなったから使えるという制度にはしたくないという考えが税調幹部の間にはありました。すなわち、業績連動型賞与は対象外とし、固定給・基本給の昇給に対象を絞るのが筋であり、これによって初めて労働分配率が上がるだろうといった議論をかなりやっていました。
 ただその一方で、企業側からは「それではなかなか使いにくい」というお話が多々ありました。税制というのはかつて我々が子供の頃にやったパン食い競争のようなところがあります。パンがあまり低いところに吊るしてあると誰でも食べられますが、あまり高いところにあると跳躍能力のある一部の限られた人しか食べられない。これを税制に当てはめれば、それなりに努力した人がそれなりにパンを食べられるぐらいの高さにするというのが、良い塩梅の税制なんだろうと思います。ということで、今回の賃上げ税制では賞与も対象にすることになりました。ただし、以前と同じように「結果として使える」仕組みでは困るということで、大企業についてはマルチステークホルダー宣言というものをしてもらうことを制度を使うための条件にしたということです。この点は税法に書いた上で、マルチステークホルダー宣言の中身は経産省の省令で書きますけれども、先ほど申し上げたような「新しい資本主義」に沿った宣言をしてくださいということになろうかと思います。

 さらに、その宣言をしていただいた後に2つやらなければいけないことがあります。1つは経済産業省に届出をしてもらうということです。したがって、経産省令に則った宣言をしてもらわなければなりません。もう一つは、先ほどお話があったように、その企業は宣言をしている企業かしていない企業か誰もが分かるように公表してくださいということです。このような税制ですから、マスコミもどの企業がいつ宣言をするのか、かなり注目していますので、経団連の主要企業であるにもかかわらず宣言していない企業はどこか、また、こういう重要な宣言は会計年度が始まってかなり早い時期でするのが普通だと思いますが、会計年度が終わりに近づいてきて、今年はいけそうだなと思った途端に宣言する企業はどこか、さらには、宣言はしたけれども実際にどの程度の賃上げが行われているのか、あるいは宣言はしたにもかかわらず下請けいじめが激しい企業がある、といったことがおそらく報道されると思います。このような状況の中で使っていただくわけですから、「宣言」を適用要件としたことで、旧賃上げ税制よりも高い実効性が期待できるのではないかと思っています。
緑川:宮沢先生のおっしゃる通り、マスコミは大手企業の宣言状況を報道するでしょうね。一方、賃上げするかどうかは経営判断であり、企業にとっては「宣言」の有無や時期が報道され、それによって批判を浴びるようなことになればたまったものではないと思います。このような仕組みになぜ経団連はOKを出したのか、経団連の考え方を聞かせてください。

小畑良晴氏(以下、敬称略):経団連も岸田政権になる前から、新しい資本主義を唱えてきました。その背景には、株主偏重の経済が格差を生み、また生態系の破壊を生んでいるのではないかという問題意識があります。その反省に立って資本主義のあり方を見直し、企業活動をやっていこうという方針をちょうど打ち出したところです(経団連会長新年メッセージ「サステイナブルな資本主義で持続可能な未来社会の確立を」参照)。こうした考え方に立てば、当然、従業員に対する配分も増やしていかなければいけないし、取引先とも共存共栄の関係を作っていかなければならないということなります。これは賃上げ税制の趣旨と軌を一にするところです。
 日本の産業構造の大部分を中小企業が占める中、特に下請け中小企業の方に賃上げが起こるためには、取引価格を何とかしなければならないということは我々も認識しております。緑川先生のおっしゃるように「宣言」が税制上の要件に入るということについては正直驚きましたが、マルチステークホルダー宣言の趣旨はよく理解しております。

 ちょうど1月27日から春季労使交渉が始まり、経済界の方針としての「経営労働政策特別委員会報告」を公表したところですが、そこでも、企業が増やした付加価値に応じて賃金引上げとともに総合的な処遇改善によって還元していくことが企業の責務であるということをしっかり書かせていただいており、取引先との関係についても、中小企業の処遇改善の原資の確保に向け、「パートナーシップ構築宣言」等を通じた取引価格適正化の推進を呼びかけております。今回の賃上げ税制と方向性はぴったり一致していると思っております。

「何に投資すべきか」さえ分からない時代に求められる柔軟な投資減税

緑川:ただ、別に税でやらなくてもよいではないかという気もするのですが、この点はいかがでしょうか。企業が賃上げ税制を使って税額控除をすればするほど、税収減対応も必要になるはずですし。
宮澤:確かに税制だけで世の中が変わるということはなく、他の部分が大きく動いていかなければならない時代です。具体的には2つあって、1つは企業に未来に向けた経営をしていただくということです。特に2050年のカーボンニュートラルというこれまでなかった目標があり、2030年にはマイナス46%を達成しなければなりませんが、正直何をやればよいのか分からないという企業も多いと思います。しかし、新しいことにどんどん挑戦して突破口を見つけ、そこから付加価値を生み、生産性を上げていくということをやらなければなりません。
 もう1つは、カーボンニュートラルとも重なるところがありますが、生産性の向上です。日本では大企業も中小企業も国際比較で生産性が低いと言われています。しかし、それは何も労働者の質が悪いということではなくて、簡単に言えば商品やサービスを安く売りすぎているんですね。ここを改め、それなりの利益が出るような価格設定を社会全体とやっていかなければ、過去20年、30年のように様々な危機が生じたり、経済が変調したりします。それでも皆で我慢して、大企業も我慢して売値を上げない代わりに、従業員の賃金も上げず、また下請け事業者にも泣いてもらう。こうやって皆で泣いて、何とかやり過ごしてきた20年、30年の結果、日本は世界的に見ても驚異的に物価の安い国になってしまいました。日本のマクドナルドのビッグマックの価格は、先進国はもちろん、アジア諸国に比べても安いくらいだと言われています。やはりこの構造的な問題は変えていかなければなりません。
 この2つが実現すれば、その相乗効果もあって賃上げが実現し、経済が動き出します。そして、物価が上がると思えば皆がお金を使います。そういうサイクルを作るということが、今最も大事な政策であると思っています。ただ、物価を上げるということは非常に難易度が高く、政治的にもなかなか難しい。賃上げと物価の上昇にはニワトリと卵のような関係がありますが、政治的には賃上げから入っていかないともちません。そういう中で実現したのが今回の賃上げ税制だったとも言えます。
緑川:宮沢先生がおっしゃった「未来に向けた経営」というのは、できる能力の企業は既にどんどんやっています。逆に言えば、できない企業、やりようのない企業がやっていないんですね。そういう中で、今回の賃上げ税制というのは実効性があるのかなという疑問は残ります。
宮沢:私が言っている未来というのは、2年先、5年先、10年先の未来ではなく、2050年が視野に入ってくるような未来なんですね。
 日本企業では伝統的にOJT(On The Job Training)が大事にされてきましたが、現在のように非連続的なことが起こり得る時には、OJTをやっている限りは、上限でも熟練工と同じレベルにしか到達しないわけです。これからの時代はおそらくOJTだけでは不十分で、例えばアルゴリズムを書ける人材をどう育てるかといったことが重要になってきます。それこそ経団連が中心となって専門学校を作り、そこで各会員企業の中で才能のある人材を徹底的に鍛えるとか、そういうことが必要な時代だと思うんですよ。
緑川:それはすごく分かりやすいですね。期限を決めて、そういう人材投資をどんどんやっていきましょうといったシンプルな税制であれば、実効性も高いのではないでしょうか。
宮沢:緑川先生のおっしゃる通り、これまでの投資減税というのは雁字搦(がんじがらめ)であることは否定できません。投資計画を作らせてそれを経産省が認定して、実際にその通りに投資したら減税対象になる、みたいな。これまでの投資減税とは全く違う発想で、こうした枠をとっぱらった、もっと柔軟な投資減税があってもよいのかもしれませんね。
緑川:要件をなるべく緩和して、実行した企業には大きな額の投資減税をする一方で、やらなかった企業はペナルティとして税率をアップするという、アメとムチを使い分けた税制ですかね。
宮沢:はい、実はそういう税制を考えてくれと言っているんですよ。
緑川:どうですか、小畑さん。
小畑:ありがとうございます(笑)。投資減税の作り方というのはまさにそうあるべきだと思います。これまで本当に細かい要件に該当するのかしないのかということばかりやってきて、使い勝手も悪いですし、非常に夢がないなと。先ほど宮沢先生もおっしゃった通り、これからどういう技術が必要になるのか、何に投資するべきなのかは全く分からないわけです。また、仮に必要な技術を特定できたとしても、それが実現可能なのかどうか分からないものがたくさんあります。例えば製鉄では、現在は炭素と鉄と混ぜて酸化還元反応を起こしているわけですが、CO2を削減するために炭素を水素に置き換えるという研究が行われています。しかし、まだ技術は全く確立できていない状況です。こういった新たな技術の開発に向けどんどん投資をしなさいということで、税制面でそこに光を当てていただくのは非常にありがたいことだと思います。
 また、人への投資というところでも、研究開発をするのもイノベーションを起こすのも結局「人」しかいないわけですから、そこに思い切って資金を投じられるようどう誘導していくかということが非常に重要になります。その後押しになる税制は有効な手段であり、是非実現していただきたいと思います。
緑川:経団連が職業訓練校のようなものを作るための予算案が出てもよいのではないでしょうか。
宮沢:それは良いアイデアですね。例えばトヨタであれば1社でできるかもしれませんが、一般的な大企業は1社ではとてもできなくて、その音頭取りは経団連がやらなければいけないんじゃないかなあ。
緑川:小畑さんどうですか(笑)。
小畑:ありがとうございます(苦笑)。

所得課税と資産課税

法人税改正より難易度が高い所得税改正

緑川:では、テーマを所得課税と資産課税に移したいと思います。「課税の公平」や「格差の固定化防止」といった以前から大綱に記載されている“お題目”が並んでいますが、方向感はまだ出ていないと理解しています。
宮沢:そうですね、出ていません。
緑川:とはいえ、例えば所得税ですと高所得者の1億円の壁、贈与税ですと家族間の利用は不公平だとか、格差を固定化するといった、具体的な問題点も挙げられています。これらについてどうされるつもりなのか、お聞かせいただけないでしょうか。
宮沢:まず所得税の控除のあり方についてですが、基本的な話が2つあります。1つは、所得の種類による控除と人的控除のあり方で、これは所得税を巡る大きな流れとして常に頭の中にあります。既に所得税はここ5年ほどで2回見直しています。その第一歩が、配偶者控除の存在によって働く意欲を止めないようにするということであり、もう1つは、給与所得控除から基礎控除に変えていくという、所得における控除から人的控除へという潮流の中の話です。そして、おそらくこれからそういう方向の改正を何回かやっていかなければならないでしょう。といいますのも、法人税の改正に比べ所得税の改正というのは、正直に申し上げて我々からするとかなり難しいんです。法人税の改正ではステークホルダーが割と明確ですし、経団連も色んなことをおっしゃって下さるので(笑)。
緑川:わかります(笑)。

宮沢:法人税はどういう方向でどの辺りで納めようかという議論の仕方ができるのですが、所得税は全国民、全居住者に関係する割にはステークホルダーが見えないんですよ。そこで僕は、同じ税制改正でも、法人税の改正は鏡を見ながら化粧しているようなものだけれども、所得税の場合は鏡無しで化粧しなければならないんだとよく言っているんです。それくらい、税制改正の責任者としてやりにくい、難しいのが所得税の改正です。
 しかも、2年なり3年おいてから実施した上に、自分が得したのか損したのかが年末調整や確定申告、地方税まで含めればさらにその1年後に分かるというように“時差”がかなりあることも所得税改正の難しさです。
緑川:なるほど、確かにそういう難しさはありますね。
宮沢:そうなんです。私的年金を含む年金への課税をどういう形に持っていくかということも大きなテーマです。特に私的年金のところはそれなりに複雑なシステムになっているので、それをどう統一していくかということはかねてからの宿題になっているので、そう遠くない将来に手を付けなければならないだろうと思っています。
緑川:金融所得、特にIPO時の株式の売却益について、重く課税するという話に一旦はなった後、株価への影響が問題になったらすぐに立ち消えになってしまいましたが、ここはある程度のことをやっていく必要があるのではないかという気がしているのですがいかがでしょうか。
宮沢:一般の方からすると相当気になるテーマでしょうね。岸田内閣が「分配」を主要な政策に掲げる中で、日本の社会において問題があると思われるのは、おそらく一つは金融所得、土地の譲渡所得も含めてと言ったほうが正解かもしれませんが、相当多額の所得を得ている方達が20%の課税で済んでいるということです。これは間違いなくあると思います。プライベートジェットを所有していたり、それこそネットでお金を配ったり宇宙まで行ったりしているような人たちが基本的に20%の課税で済んでいるような世界をどうしていくかということは、日本社会の公平感を保つためにはそれなりに手を付けなければいけない部分だとは思います。日本はアメリカみたいに大金持ちがたくさんいる国ではありませんので、税収的には実はそれほど大きなウェイトがある話ではありませんけれども、社会の公平さを保っていくという政権の方向性の中で、それなりの形にはしていかなければならないと考えています。

納税環境整備

簿外経費を認めない旨の改正で“本当の経費”も否認される恐れ

緑川:令和4年度税制改正で、もう一つ特徴的だったのが納税環境整備だと思います。特に法人税法や所得税法で簿外経費が認められないとした点は非常に気になるところです。「隠蔽」「仮装」については国税通則法に規定があるのに、なぜ別途、法人税法、所得税法でも「隠蔽仮装行為」を新たに立法化したのでしょうか。
宮沢:本件については、帳簿もつけずにとりあえず申告はしてくるのだけれども、調査で色々突き詰めていくと「実はこれだけ領収書があります」と突然出してくるような悪質な人がいて、彼らにはそれなりのペナルティが必要なんだということで、税調ではほとんど議論することなく、導入が決まってます。納税環境整備は、基本的に関係省庁で話がついているのであればそれは認めてあげましょうというスタンスです。
緑川:領収書の経費性を否認するということは、本当の経費さえも否認できるということであって、所得課税である法人税と所得税の根本を揺るがすものだという気がしています。例えば、納税者が除外した売上に伴う簿外リベートを調査の段階で明らかにすることもあります。これは簿外であっても経費です。
宮沢:我々は、突然ありもしない経費の領収書が出てくることが多いという話を聞いています。経費として否認されるようなものが想定されているということではないでしょうか。
緑川:実務的な観点からは、経費性が否認されるような領収書についてのみアウトというように執行を明確にしていただきたいですね。重加算税の対象になるかどうかを判断する際、隠蔽又は仮装なのか、無申告、無帳簿なのか、執行側もいつも迷っているわけですよ。実際、判例もたくさんあります。そこで、帳簿記載がなかったら税金をとるということにしてしまおうというスタンスが、この改正には見え隠れしているように感じます。
宮沢:納税環境整備ということもあり、本件に関してはそこまでの深謀遠慮は我々にはなかったですね。そこは税理士会などとよく話をするんじゃないですか。
緑川:「納税環境整備に関する専門家会合」で、税理士会は問題として捉えていないんですね。
宮沢:実際の執行についてはこれからの話じゃないですかね。
緑川:早めにやらないと、既成事実を作られてしまうのではないかということは懸念しています。是非、執行面にも目配りをしていただきたいですね。そもそも、懲罰的規定を法人税法・所得税法に規定することに抵抗があるので。

税と社会保障制度

野党の四分五裂で、社会保障と税の一体改革の第二弾は不透明に

緑川:前回(本誌787号)に引き続き、税と社会保障制度についてもお話しできればと思います。今回取り上げたかったのは、先ほどもお話しがありました賃上げ税制との関係です。賃上げしないといけないというのは分かるのですが、賃上げをすればそれに応じて社会保険料も上がることになります。結局、賃上げしてもその分、可処分所得は減ってしまいます。この問題にきちんと対応しないと、賃上げ税制の本来の効果が期待できないのではないでしょうか。
宮沢:それはおそらく、どのくらいのマグニチュードで給料が上がっていくかということによるんだろうと思いますね。社会保険料については、年金の保険料が徐々に上がってきていますし、医療についても健保組合の負担率が上がってきており、今回、雇用保険の保険料もおそらく上がってくるという中で、これまでとは違う成長が見込める社会という絵を描けるようにしていかなければいけないというのが私の思いです。
 経済界の方たちと賃上げについて話すと、「ベースアップというのはやはり将来の固定費を増やすことなのでとてもできません」というようなことをおっしゃる方が多いのですが、経営者として企業をしっかり成長させていく自信がある人にとってみれば、確かに一時的に固定費は増えるかもしれませんがその固定費の割合はどんどん下がっていきます。それくらい「自分はこの会社を成長させていくんだ」という気概のある経営者に最近はお目にかからないですね。我々としては、そのような経営者が増えるような仕掛けを作っていかなければなりません。
緑川:その仕掛けとして、さきほど話が出た、頑張らない企業から税金をとって、これから期待できる未来投資に積極的な企業にその税金を渡すという投資減税は、非常に分かりやすいですよね。暴論でしょうか。
小畑:いえ、おっしゃる通りだと思います。おそらく、それが与党大綱の「アニマルスピリッツ」という言葉に凝縮されていると思いますね。まさに緑川先生がアニマルスピリッツを代表している人なのではないかと思うわけですけれども(笑)。

令和4年度与党税制改正大綱3頁下段〜

「コロナ後の新しい社会の開拓」に向けて、デジタルトランスフォーメーションや脱炭素化、「人」への投資などへの取組みがより一層重要となる中、他の先進国との間に生じてきた所得や競争力の差を縮小するためにも、企業においては、リスク回避や横並びの意識を排してアニマルスピリッツを取り戻し、イノベーションに挑戦することが期待される。

宮沢:経費否認のことばっかり言ってないでね(一同笑)。
緑川:今のままだと益々少子高齢化がきつくなります。是非早めにやっていただかないと。もう一つ社会保障の問題で、コロナ禍の中、エッセンシャルワーカーの賃上げが実施されます。10月までは国費で賄うことが決まっていますが、10月以降は健康保険料からの負担となる。そうすると、また半分は企業負担となります。
宮沢:健康保険料はずっと上げられるものではないですからね。
緑川:だとすれば、エッセンシャルワーカーについては所得税をかけない、というのはどうでしょうか。現行法でも、所得税が課されないものはいくつもありますし。コロナ禍の間は、エッセンシャルワーカーの方達は所得税なし、と言ったら結構インパクトあるのではないかと思うのですが。
宮沢:ただ、エッセンシャルワーカーの方たちが払っている所得税はそれほど多くありませんよね。それよりは10万円もらった方が嬉しいんじゃないでしょうか。
緑川:それもすごくよく分かるのですが、医療従事者とか、ある所得層については少し考えてみてもよいのではないかなという気はします。
宮沢:税というかなり広い対象に一律に遡及する施策には今のお話は馴染まないかもしれませんね。例えば、一口に看護師さんと言っても色々な看護師さんがいるわけで、コロナ禍の最前線にいる方から、小さなビルの一角で開業している皮膚科とか眼科とかの看護師さんもいます。おそらく後者は、コロナで患者さんが少なくなったということはあるにしても、コロナ自体の影響はあまり受けていない。税という一律の政策はそういうものに使いづらいですね。
 配偶者控除の話にしても、税額控除にするっていう議論はあったわけです。しかし、税額控除にした方が所得の低い人には効くのですが、もともと払っている税金が少ないので、配偶者控除で受けているメリットが本当に小さいんですよ。
小畑:結局、給付付き税額控除でやるしかないんですよね。
緑川:それが今の日本の雇用実態であり、企業の給与体系ということなのでしょうか。
宮沢:どの国でも基本的には同じようなものじゃないかな。ターゲットを絞るというやり方は法人税法の方ではある程度できるけれども、所得税の世界でターゲットを絞ってやるというのはほとんど無理だと思います。
緑川:なるほど。そこは理解できました。となると、どうですればいいですか、小畑さん。
小畑:健康保険料にも限界があるとなると、最後は消費税という話にならざるを得ないでしょうね。
緑川:消費税の論議は、またいつかは復活させないと。
宮沢:まあそうでしょうね。
 社会保障と税の一体改革の第二弾をいつからやるかというのは政治的には大変重要なことなのですが、政治的にはやりにくくなっているというのが現状です。野党が同じ方向で議論して政治の責任として決めていくというのが前回の3党合意だったわけですが、今は野党が四分五裂しており、当事者が誰なのかすらよくわからないような政治状況なので、なかなかやりにくいですよね。
緑川:一方で、1年遅れるたびに負担が増えていくという現実もあります。是非早めの対応を見える形でお願いします。
宮沢:そうですね、政治状況も見極めながらということになりますが。1党だけでやっても、あとはみんなが格好の良いことを言い出したら話が進みませんので。
緑川:私としては、宮沢先生、小畑さんのご活躍に期待しています。皆さん、本日はありがとうございました。

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