解説記事2022年03月21日 特別解説 2021年下半期における会計監査人の交代(2022年3月21日号・№923)

特別解説
2021年下半期における会計監査人の交代

はじめに

 会計監査人の任期は、選任後1年以内に終了する事業年度のうち、最終のものに関する定時株主総会の終結の時までとされており、当該定時株主総会において別段の決議がされなかったときは、会計監査人は定時株主総会において再任されたものとみなされる(会社法第328条)。
 これまで会計監査人が交代した場合、我が国では、臨時報告書において適時開示が行われてきたが、会計監査人交代の理由が、「任期満了」といった形式的な記載にとどまり、「本音ベースの理由」が外部からは分からなかった。そこで、金融庁は2019年6月に企業内容等開示ガイドライン(以下、ガイドライン)を改正し、臨時報告書に会計監査人が異動した実質的な理由が記載されるよう、具体的な交代理由を例示している(企業内容等開示ガイドラインB基本ガイドライン(監査公認会計士等の異動理由及び経緯)24の5−23−(21))。そして、実質的な異動の理由として、以下のようなものが挙げられている。
① 連結グループでの監査公認会計士等の統一
② 海外展開のため国際的なネットワークを有する監査公認会計士等へ異動
③ 監査公認会計士等の対応の適時性や人員への不満
④ 監査報酬
⑤ 継続監査期間
⑥ 監査期間中に直面した困難な状況
⑦ 会計・監査上の見解相違
⑧ 会計不祥事の発生
⑨ 企業環境の変化等による監査リスクの高まり
⑩ その他異動理由として重要と考えられるもの
 開示ガイドラインは、2019年6月21日付で公布・施行された。
 本稿では、2021年7月1日以後、同年12月末日までに提出された臨時報告書(会計監査人の交代に関するもの)について調査するとともに、同期間に会計監査人の交代に踏み切った各社が臨時報告書において開示した会計監査人交代に関する理由や経緯等に関する特徴的な事例を紹介することとしたい。

会計監査のあり方に関する懇談会(令和3事務年度)による論点整理

 令和3年11月12日付で、会計監査のあり方に関する懇談会(令和3事務年度)は、論点整理「会計監査のさらなる信頼性確保に向けて」を公表した。
 令和3事務年度の同懇談会は、同年9月15日付で1回目が開催され、2か月弱という極めて短期間の間に論点整理を取りまとめて公表したことになる。
 この論点整理の中に、以下のようなくだりがある。
 「足元の上場会社の監査事務所の異動状況を見ると、大手監査法人から準大手監査法人や中小監査事務所にシフトしている傾向があり、こうした傾向を踏まえれば、中小監査事務所を含む上場会社の監査の担い手全体の監査品質の向上が急務となっている。」
 実際のところ、そのような傾向が見られるのであろうか。本稿では、この認識を実際の監査法人の異動事例を調査・集計することで裏付けてみたい。

今回の調査対象とした企業

 今回の調査対象とした企業は、2021年7月1日から同年12月末日までの間にEDINET上で会計監査人交代に関する臨時報告書を開示した企業61社である。
 なお、会計監査人交代の開示に関する根拠規定は、金融商品取引法第24条の5第4項及び企業内容等の開示に関する内閣府令第19条第2項第9号の4である。

全般的な分析

 今回の調査の対象とした61社の事例において、もっとも目立った特徴と言えるのが、我が国における4大監査法人を形成しているEY新日本有限責任監査法人(以下「新日本」という。)、有限責任監査法人トーマツ(以下「トーマツ」という。)及びあずさ有限責任監査法人(以下「あずさ」という。)の3法人が多くの上場被監査会社との監査契約を解除している点である。
 3法人が契約を解除した上場被監査会社の件数を示すと、下記のとおりとなった。

 3監査法人が監査契約を解除した上場被監査会社数の合計は32社と、それだけで今回の調査対象会社数(61社)の過半を占めている。監査契約の解除に至るまでには様々な要因や経緯があろうが、全体として、新日本、トーマツ及びあずさの3大監査法人が、監査契約締結先企業の選別を進めていることは間違いないであろう。これらの32社の企業の監査は、そのほとんどを、準大手未満の中小規模の監査法人が引き受けていた。

具体的な開示例

 ここでは、2021年7月1日以後、同年12月末日までに会計監査人の交代に関する臨時報告書を提出した企業のうち、特徴的な開示事例を6件紹介することとする。会計監査人交代の理由としては、継続監査年数の長期化や監査報酬の増額、企業規模に見合った監査法人の選定や新たな観点による監査が期待できる、といったものがよく見られるが、今回の調査対象とした61件の中では、これらのほかに、企業グループとして会計監査人を統一するための交代の事例が7件あった。
 まず、その中からGMOフィナンシャルゲートとハイアス・アンド・カンパニーの事例を紹介することとしたい。なお、以下で紹介する開示はいずれも、臨時報告書の「当該異動の決定又は当該異動に至った理由及び経緯」に記載されたものである。

(1)GMOフィナンシャルゲート 東証マザーズ上場 臨時報告書提出日:2021年11月24日 トーマツから新日本に交代
 GMOフィナンシャルゲート(株)は、GMOインターネットグループの中で、クレジットカード、デビットカード、電子マネー等のキャッシュレス決済インフラ提供事業を行っている会社である。会社は、親会社であるGMOペイメントゲートウェイ(株)が会計監査人を変更したことを契機として会計監査人を変更し、以下のような開示を行った。

 当社の会計監査人である有限責任監査法人トーマツは、2021年12月17日開催予定の第23期定時株主総会終結の時をもって任期満了となります。(中略)また、当社親会社であるGMOペイメントゲートウェイ(株)も2021年12月19日開催予定の第28期定時株主総会において、公認会計士等の異動を予定しており、EY新日本有限責任監査法人を新たな公認会計士等の候補者としております。これに伴い、当社も会計監査人を統一することでグループにおける連結決算監査及びガバナンスの有効性、効率性の向上が図れると判断し、EY新日本有限責任監査法人を当社の会計監査人候補者としております。

 なお、親会社のGMOペイメントゲートウェイ(株)も同日付で臨時報告書を提出しており、その中で、「監査役会は現会計監査人(有限責任監査法人トーマツ)の継続監査年数を考慮し、EY新日本有限責任監査法人を起用することにより、新たな視点での監査が期待できることに加え、同監査法人の専門性、独立性、品質管理体制及びグローバル監査体制について検討を行った結果、適任であると判断いたしました。」と開示している。

(2)ハイアス・アンド・カンパニー 東証マザーズ上場 臨時報告書提出日:2021年11月26日 監査法人アリアから誠栄監査法人に交代
 ハイアス・アンド・カンパニー(株)は、全国各地の工務店、建設会社、不動産仲介・管理会社など、住生活全般に関わる事業者を支援するコンサルティング会社である。
 会社は臨時報告書において、次のような開示を行った。

 当社は、株式会社くふうカンパニーの連結子会社であり、株式会社くふうカンパニーは、会計監査人として誠栄監査法人を選任しており、当社と株式会社くふうカンパニーの会計監査人を統一することにより、当社のガバナンスの有効性・効率性及び連結決算等の監査体制の品質向上が図られるため、誠栄監査法人が候補者として適任であると判断いたしました。

 なお、会社は、2020年10月1日付で有限責任あずさ監査法人から退任の申し入れを受けて(不適切な会計処理が行われ、会社から会計監査人に虚偽の説明が行われたことで、相互の信頼関係が失われたことに起因する交代)監査法人アリアを会計監査人に選任しており、2年連続での会計監査人の交代となった。
 企業グループとして会計監査人を統一するために会計監査人を交代させた会社は、ここで紹介した2社のほかに、(株)新南愛知(非上場。あずさから新日本に交代)、THEグローバル社グループ(東証1部上場。あずさからアスカ監査法人に交代)、リバーホールディングス(株)(東証2部上場。新日本からあずさに交代)、(株)AFC−HDアムスライフサイエンス(東証ジャスダック上場。トーマツから監査法人アヴァンティアに交代)及び(株)セプテーニ・ホールディングス(東証ジャスダック上場。トーマツからあずさに交代)であった。

 ここからは、不適切な会計処理の発生や、会社と会計監査人との間に生じた見解の相違を原因とする会計監査人交代に関する開示事例を見ていくこととしたい。

不適切な会計処理の発生や、会社と会計監査人との間に生じた見解の相違を原因とする会計監査人交代に関する開示事例

(3)OKK 東証1部上場 臨時報告書提出日:2021年10月6日 新日本から監査法人やまぶきに交代
 OKK(株)は、旧社名が大阪機工(株)であり、100年を超える歴史と伝統を持つ工作機械メーカーの老舗である。
 会社は臨時報告書において、次のような開示を行った。

 2020年9月17日、当社の会計監査人であるEY新日本有限責任監査法人から次期以降の監査工数の増加見通しを考慮すると報酬希望額が増加していくこと等を理由に2021年3月期有価証券報告書の監査業務終了の時をもって、会計監査人を退任する旨の正式な申し出がありました。かねてより会計監査人候補先を模索してきた中で、会計監査人よりの申し出を契機として後任の選定作業に入り、数社への申し入れを行い、折衝を行った結果、監査法人やまぶきを選任することが適当であるとの判断にいったんは至りました。
 しかしながら、2021年3月期有価証券報告書の提出期限を延長するに至ったことから、定時株主総会では後任会計監査人の選任議案を提出せず、EY新日本有限責任監査法人による2021年3月期の会計監査業務が継続されました。本日(2021年10月6日)付で、2021年3月期の監査業務が終了したことにより、株主総会決議までの間、会計監査人が不在となるため、一時会計監査人選任が必要となりました。
 これを受け、監査等委員会は、品質管理体制、独立性、専門性、監査業務の実施体制及び監査報酬の水準等を総合的に勘案した結果、当社の一時会計監査人として適任と判断し監査法人やまぶきを一時会計監査人に選任するものです。

(4)フォーシーズホールディングス 東証2部上場 臨時報告書提出日:2021年11月17日 三優監査法人から海南監査法人に交代
 フォーシーズホールディングス(株)は、化粧品、健康食品及び入浴剤等の販売や衛生コンサルティング等を行っている会社である。
 会社は臨時報告書において、次のような開示を行った。

 当社の会計監査人である三優監査法人は、2021年12月17日開催予定の第19期定時株主総会の終結の時をもって任期満了となります。当社と同監査法人は、当社のグループ会社の増加に伴う第19期の期中における連結範囲の変更(新規1件)に伴う追加の監査報酬に関して見解の相違があり、結果、見解の相違は解消されましたが、この経緯から、同監査法人より第20期の監査契約の更新を辞退したい旨の申し出を受けたため、それを了承し、当社グループの事業規模に見合った監査及び監査費用の相当性を総合的に勘案した結果、新たに海南監査法人を会計監査人として選任するものであります。

(5)テラ 東証ジャスダック上場 臨時報告書提出日:2021年11月25日 有限責任開花監査法人からHLB Meisei監査法人に交代
 テラ(株)は、医療機関に対する樹状細胞ワクチン療法等、細胞医療に関する技術・運用ノウハウの提供や研究開発を行う製薬企業である。
 会社は臨時報告書において、次のような開示を行った。

 当社は、2度にわたり社内調査報告書を公表いたしました。同報告書には2020年4月から2021年3月までの1年間の期間において当社が行った適時開示60件のうち、合計24件の適時開示資料においてその一部又はその全部に事実と異なる内容またはその恐れがあると記載がされていました。
 また、有限責任開花監査法人から、「監査手続のため、プロメテウス・バイオテックの登記簿及び外注先の請求書の資料提出を当社に依頼したが虚偽の資料を提示された。」との指摘等を受けて、有限責任開花監査法人からは、これらの事実が監査手続に与える影響は甚大であり、監査契約の継続は困難であるとの連絡があり、2021年10月22日付で当社との監査契約が解除されることとなりました。
 その後、双方で協議を行った結果、当社といたしましては一時会計監査人就任の目処が立ったこともあり、同監査法人との監査及び四半期レビュー契約を2021年11月11日付で正式に合意解除することといたしました。

 なお、テラは、2018年3月にトーマツが退任して太陽有限責任監査法人が就任。翌年の2019年3月には太陽有限責任監査法人が退任して有限責任開花監査法人が就任しており、3年半で3回目の会計監査人交代となった。

(6)Edulab 東証1部上場 臨時報告書提出日:2021年11月29日 あずさが退任
 (株)Edulabは、学力測定技術やテスト法の開発、能力検査・試験の開発・実施・分析、および教育サービスの提供、並びに次世代教育の開発支援のため教育ITソリューションとプラットフォームの提供やEdTech分野における新規事業の開発・投資を行う企業である。
 会社は臨時報告書において、次のような開示を行った。
(前略)

 当社は、2021年8月より、あずさ監査法人から懸念が表された取引について、特別調査委員会を設置し、同委員会の調査に全面的に協力しております。同委員会の設置後、あずさ監査法人からの指摘に基づき特別調査委員会の調査範囲を拡大し、現在も、売上高に関する事実関係、内部統制への影響及び他の財務数値への影響についての調査を継続中です。
 こうした状況の下、(中略)当社はあずさ監査法人より2021年9月期第3四半期の四半期報告書に含まれる四半期連結財務諸表に対して結論不表明のレビュー報告書を受領しており、監査の前提となる当社との信頼関係が低下したことに加え、あずさ監査法人からは当該状況において2022年9月期以降も継続して監査手続を実施するための監査リソースを確保することは困難であるため、監査契約を終了したい旨の連絡を受けました。そこで、当社とあずさ監査法人は協議を重ねましたが、両者の信頼関係が低下していることも踏まえ、当社は同監査法人と合意の上、監査契約を継続しないことといたしました。

終わりに

 2022年に入っても、新日本、トーマツ及びあずさの3大監査法人による、上場被監査会社の選別や契約解除を進める動きの流れは大きくは変わらないと考えられる。一方で、企業の側から監査報酬の高騰や監査手続の大幅な増加、監査法人の非効率な対応等に不満を抱いて監査契約の解除を申し出るような事例や、(数は少ないであろうが)被監査会社と会計監査人との間での見解の不一致や相互の信頼関係の喪失等を理由とする監査契約解除の事例も引き続き出てくるものと思われる。
 また、2022年の4月4日からは東京証券取引所の上場市場区分の見直しが行われ、これまでの1部、2部、ジャスダック(スタンダード、グロース)及びマザーズという区分から、プライム市場(グローバルな投資家との建設的な対話を中心に据えた企業向けの市場)、スタンダード市場(公開された市場における投資対象として十分な流動性とガバナンス水準を備えた企業向けの市場)並びにグロース市場(高い成長可能性を有する企業向けの市場)の3つの市場に再編される。その中で、プライム市場に属する企業については引き続きPwCあらた有限責任監査法人も含めた4大監査法人や準大手監査法人が会計監査人として選任される場合が多いであろうが、スタンダード市場とグロース市場に属する上場企業を担当する会計監査人として、中小監査法人の割合が高まっていくのであろうか。今後の動向を興味深く注視していきたい。

参考
日本取引所ウェブサイト 市場区分見直しの概要

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