解説記事2022年06月27日 特別解説 監査意見の不表明と限定付適正意見②(2022年6月27日号・№936)

特別解説
監査意見の不表明と限定付適正意見②

はじめに

 本稿では、前段では、前回に引き続いて監査意見又は結論が不表明となった事例の紹介を行い、後段では、限定付適正意見(限定付結論)が表明された事例について、そのような意見が表明された理由を中心に調査分析を実施することとする。

意見(結論)が不表明となった事例の紹介(続き)

【2021年】

会社名 監査法人 意見(結論)不表明となった理由(一部要約等あり)
レッド・プラネット・ジャパン 監査法人やまぶき  継続企業の前提に関する注記に記載されているとおり、会社は過年度より継続して営業損失、経常損失及び営業キャッシュ・フローのマイナスを計上しており、また、当第3四半期連結累計期間において、営業損失、経常損失を計上していることから、継続企業の前提に重要な疑義を生じさせるような状況が存在しており、現時点では継続企業の前提に関する重要な不確実性が認められる。当該状況に対する対応策は当該注記に記載されているが、現時点において事業の遂行に必要な資金調達の目処が立っておらず、具体的な資金計画が提示されなかった。したがって、当監査法人は経営者が継続企業を前提として四半期連結財務諸表を作成することの適切性に関して結論の表明の基礎となる証拠を入手することができなかった。
Edulab 有限責任あずさ監査法人  あずさ監査法人は複数の業務提携先に対する売上高の実在性及び期間帰属の適切性に関連する証憑類の信頼性に疑義を抱いたため、当該業務提携先等との取引の裏付けとして入手した証憑類が十分かつ適切な監査証拠であると判断することができず、業務提携先等との取引以外の売上高等においても同様に会計処理の裏付けを入手できていない取引が存在するか否かについての心証を得ることができなかった。当社は、二度にわたり特別調査委員会の調査範囲を拡大し、売上高に関する事実関係、内部統制への影響及び他の財務数値への影響についての調査を継続中である。当該調査の結果によっては、売上高以外の勘定科目を含めて、連結財務諸表に重要な影響を与える可能性がある。上記により、あずさ監査法人は、当社の前連結会計年度に係る訂正後の連結財務諸表に対して意見表明の根拠となる十分かつ適切な証拠を入手することができず、当該連結財務諸表に重要な修正が必要かどうかについて判断することができなかった。このため、あずさ監査法人は、前連結会計年度に係る訂正後の連結財務諸表に対して監査意見を表明していない。
五洋インテックス フロンティア監査法人  当社は外部調査委員会を再設置し、連結子会社であるA社における中国の取引先との取引及び会社の不動産賃貸借契約に関する調査を目的として調査を行っている。外部調査委員会による調査は現在終了していないが、当社は連結財務諸表を作成し、提出することとした。フロンティア監査法人は外部調査委員会による最終調査報告書を受領していないため、最終的な調査結果を評価できていない状況にある。その結果、フロンティア監査法人は、上記のA社における中国の取引先との取引及び会社の不動産賃貸借契約について、会社の財務諸表に関する意見表明の基礎となる十分かつ適切な監査証拠を入手することができなかったため、内部統制報告書及び財務諸表の内容に修正が必要となるか否かについて判断することはできなかった。

【2022年】

会社名 監査法人 意見(結論)不表明となった理由(一部要約等あり)
ホープ 有限責任監査法人トーマツ  継続企業の前提に関する注記に記載されているとおり、会社は、前連結会計年度において重要な営業損失、親会社株主に帰属する当期純損失を計上し、債務超過となった。また、2021年10月以降においても営業損失、親会社株主に帰属する四半期純損失を計上して債務超過が継続しており、2022年1月末返済予定としていた銀行借入の返済の一部に遅滞が生じている。さらに、株式会社ホープエナジーのエネルギー事業に係る債務のうち、総額約58億円について、2022年3月中旬以降、期日どおりの全額弁済ができない可能性がある。これらのことから、継続企業の前提に重要な疑義を生じさせるような事象又は状況が存在している。このような状況に対する対応策は当該注記に記載されているが、いずれの対応策も検討途上であることから、当第2四半期に係る四半期報告書の提出日時点においては事業の遂行に必要な資金調達の目途が立っておらず、そのため上記のエネルギー事業に係る債務の弁済を含め、2022年3月末までの具体的な資金計画も当監査法人に提示されなかった。したがって、当監査法人は、経営者が進めている対応策の実現可能性等、継続企業を前提として四半期連結財務諸表を作成することの適切性に関する十分かつ適切な証拠を入手することができなかった。
ジャパンディスプレイ 有限責任あずさ監査法人  当社は、過年度決算において不適切な会計処理についての具体的な疑義が複数生じている中で、2013年4月1日に吸収合併した親会社、兄弟会社及び子会社の合併前の財務諸表について再度検討を行った。当時の会計帳簿自体は保存されているものの、会計帳票及び勘定科目残高明細等について網羅的に保存されておらず、また、当時の会計処理を担当していた従業員はすでに退職しているため、その内容について確認できない状況であり、財務諸表全体において不適切な会計処理が行われていたか否か、また、その内容と金額影響を含めて確認することができない状況である。そのため、監査法人は、財務諸表全体に対して十分な監査手続を実施することができなかった。
 また、当社は2014年3月期連結会計年度の製品及び仕掛品の評価に関する証憑の一部を保存していないことが判明した。そのため監査法人は、監査手続の一部を実施することができず、連結財務諸表に何らかの修正が必要かどうかについて判断することができなかった。

限定付適正意見(限定付結論)となった各社について、会計監査人がそのように判断した理由

 以下では、限定付適正意見(限定的結論)となった各社について、会計監査人がそのように判断した理由を簡潔に記載することとする。
 なお、前回と同様に、2020年以降の事例について、1社につき1度ずつ取り上げており、1社の限定付適正意見(限定付結論)が複数年に跨っている場合は、最初の事例のみ取り上げている。

【2020年】

会社名 監査法人 意見(結論)不表明となった理由(一部要約等あり)
ネットワンシステムズ 有限責任監査法人トーマツ  当社は、納品実体のない取引にかかる支出の一部に実体のある取引の原価を構成する役務提供等にかかる支出が含まれていた可能性に鑑み、不正行為による支出額の一部を実体のある取引の売上原価として追加計上しているが、監査法人は、実体のある取引にかかる役務提供等であることの裏付けとなる十分な記録及び資料を当社から入手することができなかった。
 この影響は、売上原価に限定されており、当該影響を除外すれば、訂正後の連結財務諸表及び財務諸表は、当社の各期末日現在の財政状態及び各期末日をもって終了する各会計年度の経営成績を全ての重要な点において適正に表示している。したがって、連結財務諸表及び財務諸表に及ぼす可能性のある影響は重要であるが広範ではない。
サクサHD EY新日本有限責任監査法人  当監査法人は、前連結会計年度の連結財務諸表に対する監査における重要な拠点の見直しにより重要な拠点となった連結子会社については、前連結会計年度末の棚卸資産の実地棚卸に立ち会うことができず、また、代替手続によって当該棚卸資産の数量を検証することができなかった。そのため、前連結会計年度末の一部の連結子会社の棚卸資産については、その実在性に関して、十分かつ適切な監査証拠を入手することができなかった。この影響は前連結会計年度の棚卸資産、売上原価等及び当連結会計年度の売上原価等の特定の勘定科目に限定され、他の勘定科目には影響を及ぼさないことから、連結財務諸表全体に及ぼす影響は限定的である。したがって、連結財務諸表に及ぼす可能性のある影響は重要であるが広範ではない。
日本フォームサービス 史彩監査法人  当監査法人は、前連結会計年度末後に監査契約を締結したため、前連結会計年度末における棚卸資産の実地棚卸に立ち会うことができず、2018年9月30日時点に保有する棚卸資産160,927千円(商品及び製品24,150千円、仕掛品9,895千円、原材料126,881千円)の数量に関して、十分かつ適切な監査証拠を入手することができず、この金額に修正が必要となるかどうかについて判断することができない。当該事項が、当第3四半期連結累計期間の売上原価に影響を及ぼす可能性があるため、当連結会計年度の第3四半期連結会計期間及び第3四半期連結累計期間の四半期連結財務諸表に対して限定付結論を表明している。

【2021年】

会社名 監査法人 意見(結論)不表明となった理由(一部要約等あり)
OKK EY新日本有限責任監査法人  当社は、棚卸資産の残高確定の過程において過去の会計処理に誤りがある可能性が判明し、特別調査委員会から調査報告書を受領して、仕掛品計上された材料費や加工費等の一部が過去より適切に製品勘定に振り替えられず、適時適切に費用処理されてこなかった結果、棚卸資産(仕掛品)残高が過大に計上されていたとの報告を受けた。会社は、時の経過に伴い社内規程に従い加工費等に関する過年度の証憑を破棄しているため、当監査法人は、会社の仕掛品の評価について裏付けとなる十分な記録及び資料を入手することができなかった。このため、仕掛品の評価について、十分かつ適切な監査証拠を入手することができなかった。この影響は仕掛品、売上原価等の特定の勘定科目に限定され、他の勘定科目には影響を及ぼさないことから、連結財務諸表全体に及ぼす影響は限定的である。したがって、連結財務諸表に及ぼす可能性のある影響は重要であるが広範ではない。
ラサ商事 普賢監査法人  監査法人は、持分法適用会社について、前連結会計年度末及び当連結会計年度末の棚卸資産の実地棚卸に立ち会うことができず、また、代替手続によって当該棚卸資産の数量を検証することができなかった。そのため、前連結会計年度末及び当連結会計年度末の持分法適用会社に係る投資有価証券の評価の妥当性について、十分かつ適切な監査証拠を入手することができなかった。したがって、当監査法人は、これらの金額に修正が必要となるかどうかについて判断することができなかった。この影響は前連結会計年度及び当連結会計年度の投資有価証券及び持分法投資損益等の特定の勘定科目に限定され、他の勘定科目には影響を及ぼさないことから、連結財務諸表に及ぼす可能性のある影響は重要であるが広範ではない。

【2022年】

会社名 監査法人 意見(結論)不表明となった理由(一部要約等あり)
ASIAN STAR RSM清和監査法人  会社は、特定の不動産入札案件に関して、共同事業者に共同事業遂行に必要なデポジットを支払い、当連結会計年度末の連結貸借対照表に流動資産その他(預け金)として計上している。当監査法人は、監査報告書日までに明示的な入札公告が行われていないことから、入札案件の実在性を確認できなかった。また、共同事業者におけるデポジットの保全状況や返済能力に関する情報も入手できなかった。この結果、当該預け金150,000千円の評価について、十分かつ適切な監査証拠を入手することができず、この金額に修正が必要となるかどうかについて判断することができなかった。この影響は、特定の勘定科目に限定されており、他の勘定科目や注記事項に影響を及ぼさないことから、連結財務諸表全体に及ぼす影響は限定的である。したがって、連結財務諸表に及ぼす可能性のある影響は重要であるが広範ではない。

重要かつ「広範(pervasive)」であるかどうかの判断

 限定付適正意見(限定付結論)の場合、その理由の分析は、以下の2つの観点から行われる必要がある。
① なぜ、無限定適正意見ではなく、限定付適正意見となったのか
② なぜ、意見不表明ではなく、限定付適正意見となったのか
 上記②の判断を行うにあたり、カギとなるのが、問題の事象が連結財務諸表全体に与える影響が重要かつ「広範」であるかどうかである。
 「広範」は次のように定義されている。
 財務諸表に対して広範な影響を及ぼす場合とは、監査人の判断において以下のいずれかに該当する場合をいう。

① 未修正又は未発見の虚偽表示の及ぼす影響が、財務諸表の特定の構成要素、勘定又は項目に限定されない場合
② 未修正又は未発見の虚偽表示の及ぼす影響が、特定の構成要素、勘定又は項目に限定されているものの、財務諸表全体としての虚偽表示に当たる場合、又は当たる可能性がある場合
③ 注記事項における未修正又は未発見の虚偽表示の及ぼす影響が利用者の財務諸表の理解に不可欠であると判断される場合

 したがって、ある事象が限定事項付適正意見となるのか、あるいは否定的意見、ないし意見不表明となるのかどうかは、当該事象による影響が広範か否かを、上記の定義に当てはめて判断してゆくことになる。
 ハイアス・アンド・カンパニーの監査報告書の限定付適正意見の根拠を読むと、意見不表明と限定付適正意見の「境界線」を垣間見ることができる。

会社名 監査法人 意見(結論)不表明となった理由(一部要約等あり)
ハイアス・アンド・カンパニー 監査法人アリア  前々期連結会計年度を含む過年度決算に関して、前任監査人の監査意見は、監査意見を表明する前提となる経営者の誠実性について深刻な疑義を生じさせる事象が存在したことから、意見不表明となった。これに対し、会社では、前任監査人の意見不表明の原因となった経営者が2020年9月30日付で退任し、2020年12月23日開催の臨時株主総会によって新経営体制に移行するなどの経営体制の刷新を図っており、経営の信頼を回復するため経営体制やガバナンスの更なる改革が進められた。当監査法人は、前任監査人の指摘を踏まえ、前期期首残高を含めた前連結会計年度の連結財務諸表についての潜在的な虚偽表示の存否を検討するために、第三者調査委員会の調査や前任監査人の監査状況を検討の上、追加的手続を実施した。前連結会計年度の途中まで、前任監査人の意見不表明の原因となった経営者が職務を執行していたため、経営者の誠実性に関する質的に重要性のある監査上の制約が存在したと考えられるが、経営者の交代により当該制約の解消が図られており、かつ、経営の信頼を回復するための経営体制やガバナンスの改革も進めており、現時点では、前連結会計年度の連結財務諸表に及ぼす可能性のある影響は重要かつ広範ではなくなったと判断している。また、第三者委員会の調査や前任監査人の監査での検討結果を踏まえて、当監査法人で実施した追加的手続の結果、前期期首残高を含めた連結財務諸表について重要な虚偽表示が発見されなかった。
 当監査法人は、これら検討の結果、前期期首残高を含めた前連結会計年度の連結財務諸表について、上記の制約に関連する未発見の虚偽表示の影響の広範性はないと判断できたが、前連結会計年度の数値と対応数値に影響を及ぼす可能性があるため、前連結会計年度の連結財務諸表に対して限定付適正意見を表明することとした。

意見不表明と限定付適正意見

 東証の上場廃止基準には「虚偽記載又は不適正意見等」という項目があり、監査意見に関する基準が定められている。同項目では「監査報告書又は四半期レビュー報告書に『不適正意見』又は『意見の表明をしない』旨等が記載された場合であって、直ちに上場を廃止しなければ市場の秩序を維持することが困難であることが明らかであると東証が認めるとき」は上場廃止となるとされ、意見不表明等が上場廃止に直結するわけではない。
 これまでに紹介した事例からも分かるように、意見不表明や限定付適正意見が表明されるほとんどのケースで、継続企業の前提の不確実性、あるいは会計上の不祥事の発生(第三者委員会等による調査の実施)が絡んでいる。
 継続企業の前提に関する不確実性の存在や、不正行為に代表される、経営者による内部統制の無効化は、監査上は、特定の勘定科目やアサーションではなく、財務諸表全体(に影響を与える)レベルのリスクとして評価・分類される。
 そのため、会計監査人が継続企業の前提に関する不確実性が解消するとの心証を十分に得られない場合や、心証を得るだけの十分な手続を実施できない場合、あるいは経営者が主導する会社ぐるみの不正や会社側による虚偽説明等による信頼関係の欠如など、会社の統制環境が脆弱で、監査手続を実施するだけの前提条件が十分に整わない場合には、監査人は監査意見不表明とする判断を下す可能性が高いと言えるであろう。
 一方で、監査手続を十分に実施できなかったことによる影響が、棚卸資産や売上原価等の一部の勘定科目に限定され、その部分を除けば、会社側の統制環境等にも問題は認められない(継続企業の前提の不確実性や不正行為等といった、財務諸表全体に影響するようなリスクは存在しない)場合には、限定付適正意見が表明されることになると思われる。

参考文献
週刊経営財務 No.3324号

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