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解説記事2022年08月29日 税務マエストロ 課税事業者選択(不適用)届出書の実務(2022年8月29日号・№944)

税務マエストロ
課税事業者選択(不適用)届出書の実務
#277
 税理士 熊王征秀

マエストロの解説

 基準期間における課税売上高が1,000万円以下の事業者は、免税事業者として消費税の納税義務が免除される(消法9①)。
 免税事業者は、納税義務がない代わりに仕入税額控除もできないことになっているので、いくら多額の設備投資をしたとしても消費税の還付を受けることはできない(消法30①)。したがって、免税事業者が消費税の還付を受けるためには、自らが率先して課税事業者を選択しなければならない。
 免税事業者が課税事業者になろうとする場合には、所轄税務署長に「課税事業者選択届出書」を提出する必要がある。今回は、この課税事業者の選択に関する実務上のポイントを確認する。

1 課税事業者選択届出書

 課税事業者を選択する場合には、課税事業者になろうとする課税期間の開始の日の前日までに「課税事業者選択届出書」を納税地の所轄税務署長に提出しなければならない(消法9④)。
 ただし、事前に提出することが不可能な場合もあるので、次のケースについては、それぞれの課税期間中に提出すれば、その課税期間から課税事業者となることができる(消令20)。
① 新規に開業(設立)をした日の属する課税期間
② 個人事業者が、相続により課税事業者を選択していた被相続人の事業を承継した場合の相続があった日の属する課税期間
③ 法人が、合併により課税事業者を選択していた被合併法人の事業を承継した場合の合併があった日の属する課税期間
④ 法人が吸収分割により課税事業者を選択していた分割法人の事業を承継した場合の吸収分割があった日の属する課税期間
 提出する届出書は「課税事業者選択届出書」であり、「課税事業者届出書」ではないことに注意されたい。

2 課税事業者選択不適用届出書

 課税事業者を選択した事業者が、設備投資などについて還付を受けた後は、課税売上高が1,000万円以下であるならば、免税事業者に戻ったほうが無駄な税金を払わなくてすむことになる。
 課税選択をした事業者が免税事業者に戻る場合には、「課税事業者選択不適用届出書」を提出しなければならない(消法9⑤)。
 「課税事業者選択不適用届出書」を提出した場合には、その提出日の属する課税期間の翌課税期間から免税事業者となれるので、これも事前の提出が必要となる(消法9⑧)。

3 宥恕規定

 「課税事業者選択届出書」又は「課税事業者選択不適用届出書」を提出期限までに提出できなかった場合において、次のような事情がある場合には、承認申請をすることにより、その適用を認めることとしている(消法9⑨、消令20の2①、消基通1−4−16〜17)。
① 天災、火災、自己の責めに帰さない人災が生じた場合など
② その課税期間の末日前おおむね1ヶ月以内に相続があった場合で、課税事業者を選択していた被相続人の事業を承継した場合
 承認申請をする場合には、災害等の場合には事情がやんだ後2か月以内に、相続の場合には翌年2月末日までにする必要がある。
 ただ単に提出し忘れた場合などは、当然のことながら宥恕規定は適用されないので注意が必要だ。

4 新規開業(設立)などの場合の適用時期

 新規開業などの場合には、提出日の属する課税期間から課税事業者となることができる。しかし、事業者によっては開業(設立)1期目は設備投資の予定はなく、2期目に設備投資を予定しているようなケースも想定されるところである。
 そこで、新規開業などの場合の届出書の効力発生時期については、提出日の属する課税期間か翌課税期間かのいずれかを任意に選択できる旨が基本通達に明らかにされている(消基通1-4−14)。いずれの場合にしても、届出書は1期目の課税期間中に提出する必要があることに注意されたい。
 また、「課税事業者選択届出書」の適用開始課税期間の欄に、適用開始課税期間の初日の年月日を記載しておかないと、届出書が無効となる危険性もあるので注意が必要だ。
○新規開業とは?
 新規開業の場合には、届出書の提出日の属する課税期間から課税事業者になることができるわけであるが、この「新規開業」については、消費税法施行令20条一号で「事業者が国内において課税資産の譲渡等に係る事業を開始した日の属する課税期間」と規定されている。
 ここで、「課税資産の譲渡等に係る事業を開始した日」というのは、「課税資産の譲渡等を開始した日」つまり課税売上げが発生した日を意味するものではないということに注意する必要がある。
 DHCコンメンタール(第一法規出版)によれば、「事業に必要な事務所、店舗等の賃貸借契約の締結や資材、商品の仕入などの開業準備行為を行った日もこれに該当する」とされているので、その翌期から課税事業者になろうとする場合には、これらの開業準備行為を行った日の属する課税期間中に届出書を提出する必要があるということである。
 建物の建築請負の場合であれば、建設会社と請負契約を締結し、その翌課税期間に引き渡しを受けるようなケースでは、建物が完成する課税期間は、いわゆる「新規開業」の課税期間には該当しない。結果、その前課税期間である請負契約を締結した課税期間中に「課税事業者選択届出書」を提出しておかなければ、消費税の還付を受けることはできないのである。
 ところで、消費税法基本通達1−4−7のなお書きには、「設立の日の属する課税期間においては設立登記を行ったのみで事業活動を行っていない法人が、その翌課税期間等において実質的に事業活動を開始した場合には、当該課税期間等も「事業を開始した日の属する課税期間等」に含むものとして取り扱う」との記述がある。
 これを現実問題として考えた場合、法人が設立登記を行うためには、まず、本店所在地を決めねばならない。小規模な同族法人が、代表者の自宅を本店として登記するようなケースを除いては、建物を購入する、あるいは借りるために家主と賃貸借契約を締結することになる。
 コンメンタールによれば、事務所などの賃貸借契約の締結日も「事業を開始した日」に該当するとのことなので、新設法人の課税選択は、事実認定をことさら慎重にする必要があるように感じている。
 また、消費税法の場合、所得税法と違って「事業」の規模は関係ないため、たとえ貸駐車場1台であっても、これを賃貸し、使用料収入を得ているような場合には「新規開業」には該当しないことになる。結果、「課税事業者選択届出書」は事前提出が必要になるのである。

5 2年以上休業した場合の適用時期

 長期間休業した後に改めて事業を再開した個人事業者や、休眠会社を買収して新たに事業を行うこととした法人などについては、基準期間の課税売上高はゼロであり、再開業した課税期間中は免税事業者となる。このような場合には、再開業した課税期間中に設備投資などがあったとしても、事前に「課税事業者選択届出書」を提出することができない。
 そこで、その課税期間の開始の日の前日まで2年以上にわたって営業実績がないような場合には、新規開業の場合と同様に取り扱うこととされている。
 つまり、再開業などをした課税期間において多額の設備投資などがある場合には、その再開業をした課税期間中に「課税事業者選択届出書」を提出することにより、その課税期間から課税事業者となって消費税の還付を受けることが可能となるのである(消基通1−4−8)。
○2年以上休業状態にあることの事実認定
 事実上休業状態にある法人でも、清算結了しない限りは税務申告が必要となる。では、休業期間中の税務申告に伴う税理士報酬や残高証明書の発行手数料などの課税仕入れがある場合でも、本通達を適用することにより、届出書の提出日の属する課税期間から課税事業者を選択することはできるのであろうか?
 「こんなときどうする消費税 1(和氣光編著)」323の2〜323の3(第一法規出版)には、「……(法人税の申告のための税理士報酬や残高証明書の発行手数料等)は課税資産の譲渡等には関係なく生じるものであり、このような課税仕入れがあったとしても……課税事業者選択届出書を提出した日の属する課税期間から課税事業者になれるものと考えます。」との記述があるが、消費税法基本通達1−4−8には、「……2年以上にわたって国内において行った課税資産の譲渡等又は課税仕入れ及び保税地域からの課税貨物の引取りがなかった事業者が……」と書かれているので、課税売上げは無論のこと、課税仕入れ等がある場合にも、本通達の適用はないものと考えるべきではないだろうか……?

6 課税事業者を選択した場合の拘束期間

 「課税事業者選択不適用届出書」は、新たに課税事業者となった課税期間の初日から2年を経過する日の属する課税期間の初日以降でなければ提出することができない(消法9⑥)。
 つまり、課税期間が1年サイクルの場合には、いったん課税事業者になったならば、翌期も課税事業者として申告しなければいけないということである。
(注)廃業の場合には届出時期についての制限はないのでいつでも提出することができる。

○新規開業の場合の拘束期間
 新規に開業した個人事業者や新設の法人が、開業(設立)当初の設備投資について消費税の還付を受けるために課税事業者を選択したケースについて考えてみたい。
 これらの事業者が、平年の課税売上高が1,000万円以下であることから免税事業者に戻ろうとする場合の「課税事業者選択不適用届出書」の提出時期は、個人事業者の場合と法人の場合とで異なっている。

【具体例】
○年の中途の7/1に開業した個人事業者の場合

○年の中途の7/1に設立した法人の場合(事業年度=1/1〜12/31)

 上記【具体例】のように、個人事業者の場合、年の中途で開業した場合であっても「課税事業者となった課税期間の初日」はその年の1月1日となるのに対し、法人の場合には設立登記の日が「課税事業者となった課税期間の初日」となる。つまり、新規開業(設立)の場合の拘束期間は、個人事業者の場合と法人の場合とで1年間の違い(ズレ)が生ずるということである。

7 課税選択期間中に固定資産を取得した場合の取扱い

 課税事業者を選択した事業者が、課税選択の強制適用期間中に税抜対価が100万円以上の固定資産(調整対象固定資産)を取得した場合には、課税事業者としての拘束期間が更に延長されることとなるので注意が必要だ(消法9⑦)。
 具体的には、調整対象固定資産を取得した日の属する課税期間の初日から3年を経過する日の属する課税期間までの間は課税事業者として拘束されるとともに、この期間中は簡易課税制度の適用を受けることはできない(消法37③一)。
 結果、調整対象固定資産を取得した日の属する課税期間の初日から3年を経過する日の属する課税期間において、課税売上割合が著しく変動した場合の税額調整の適用判定が義務付けられることになる。
 ただし、調整対象固定資産を取得した日の属する課税期間において簡易課税制度の適用を受けている場合には、課税事業者としての拘束期間が延長されることはない。

【具体例1】課税選択をした個人事業者が調整対象固定資産を取得した場合

【具体例2】7月1日に資本金300万円で設立した12月決算法人が、設立事業年度から課税事業者を選択し、設立事業年度中に調整対象固定資産を取得した場合

【具体例3】7月1日に資本金300万円で設立した12月決算法人が、設立事業年度から課税事業者を選択し、設立3期目に調整対象固定資産を取得した場合

8 届出書が無効とされるケース

 課税選択の強制適用期間中に調整対象固定資産を取得した場合には、調整対象固定資産を取得した日の属する課税期間の初日から3年を経過する日の属する課税期間の初日以後でなければ「課税事業者選択不適用届出書」を提出することはできない。そこで、課税選択の強制適用期間中に、翌期から免税事業者となるために「課税事業者選択不適用届出書」を提出した事業者が、その後、同一の課税期間中に調整対象固定資産を取得することとなった場合には、その届出書の提出はなかったものとみなされる(消法9⑦)。

【具体例】課税事業者を選択した個人事業者が、「課税事業者選択不適用届出書」を提出した後に調整対象固定資産を取得した場合

9 相続人に対する課税事業者選択届出書の効力

 たとえば、被相続人が設備投資などについて消費税の還付を受けるために課税事業者を選択していたとしよう。ところが、建物などが完成する前にその被相続人が亡くなってしまったような場合には、被相続人に代わって、事業を承継した相続人が還付の申告をすることになる。
 この場合において、被相続人が提出していた「課税事業者選択届出書」は、あくまでも被相続人についてだけ適用されるものであり、事業を承継した相続人についてまで適用されるものではない。
 したがって、相続人が引き続き課税事業者を選択したいような場合には、あらためて「課税事業者選択届出書」を所轄税務署長に提出しなければならないのである。
 なお、「課税事業者選択届出書」は原則として事前に提出することになっているが、相続による事業承継の場合には、相続があった日の属する課税期間中に届出書を提出すれば、その課税期間から課税事業者になることができる。
 また、年末に相続があった場合には、その翌年の2月末日までに特例承認申請書とともに「課税事業者選択届出書」を提出することにより、相続があった年又はその翌年から課税事業者を選択することも認められている(3「宥恕規定」参照)。

10 特定非常災害に係る届出等に関する特例

 「特定非常災害」として指定された災害による被災事業者は、国税庁長官が定めた「指定日」までに「課税事業者選択(不適用)届出書」を提出することにより、本来の期限までに届出書を提出したものとして取り扱うことが認められている(措法86の5①③)。
 また、課税事業者の継続適用義務(いわゆる2年縛り)をはじめ、平成22年度改正法(旧3年縛り)や高額特定資産を取得した場合の納税義務の免除の特例(新3年縛り)による本則課税の強制適用も適用除外となるので、「課税事業者選択不適用届出書」を提出することにより、調整対象固定資産(高額特定資産)を取得した翌課税期間から免税事業者になることができる(措法86の5②⑤)。

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