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解説記事2022年09月19日 法令解説 公認会計士法の一部改正の概要(2022年9月19日号・№947)

法令解説
公認会計士法の一部改正の概要 
 金融庁企画市場局企業開示課課長補佐 鳥屋尾大介

はじめに

 近年、会計監査を取り巻く経済社会情勢が変化する中、会計監査の信頼性の確保並びに公認会計士の一層の能力発揮及び能力向上を図り、企業財務書類の信頼性を一層高めていくことが重要な課題となっている。このような状況を踏まえ、上場会社等の財務書類について監査証明業務を行う監査法人等に関する登録制度の導入、監査法人の社員の配偶者が会社等の役員等である場合における当該監査法人による業務提供の制限の見直しなどの施策を盛り込んだ「公認会計士法及び金融商品取引法の一部を改正する法律」(以下「本法」という。)が、令和4年5月11日に成立、同月18日に公布された。
 本稿では、本法の制定経緯及び概要を解説する。なお、本文中、意見にわたる部分は、筆者の個人的見解である。

Ⅰ 制定の経緯

1 会計監査の在り方に関する懇談会
 近年、会計監査に関しては、大手企業の不正会計事案を契機に、平成27年10月に「会計監査の在り方に関する懇談会」が設置され、同懇談会の提言(脚注1)を踏まえた対応として、「監査法人の組織的な運営に関する原則」(監査法人のガバナンス・コード)(脚注2)が策定されるなど、その信頼性確保に向けた取組みが進められてきた。
 こうした中、足下では、経済社会情勢の変化に伴う監査品質に対する社会からの期待の高まり、公認会計士が担う役割の広がり、働き方の多様化、AIを含むITを活用した監査手法の導入・開発の進展、サステナビリティ情報等の非財務情報に対する投資家の関心の高まりなど、会計監査を巡る環境にも変化がみられている。
 このような環境変化を踏まえ、令和3年9月15日以降、「会計監査の在り方に関する懇談会(令和3事務年度)」において、会計監査の信頼性を確保するためには何が必要かという観点から、3回にわたり幅広い論点について総合的に議論が行われ、同年11月12日に「会計監査の在り方に関する懇談会(令和3事務年度)論点整理−会計監査の更なる信頼性確保に向けて−」(以下「論点整理」という。)が公表された(脚注3)。
 論点整理では幅広い論点が取り上げられ、上場会社の監査に高い規律を求める制度的枠組みや、女性公認会計士を含む公認会計士が持てる能力を十全に発揮できるような環境整備といった公認会計士制度に関する事項のほか、中小監査事務所(脚注4)に対する支援(脚注5)の充実、継続的専門研修(以下「CPE」という。)等の一層の充実、監査人と監査役等及び内部監査部門との連携強化などの事項について、検討の必要性が提言された。

2 金融審議会公認会計士制度部会
 論点整理における提言のうち、公認会計士制度に関する事項について、令和3年11月22日の金融審議会総会で行われた諮問に基づき、同月29日以降、同審議会の公認会計士制度部会(以下「制度部会」という。)において3回にわたって議論が行われ、令和4年1月4日に「金融審議会公認会計士制度部会報告−上場会社の監査品質の確保と公認会計士の能力発揮に向けて−」(以下「報告書」という。)が公表された(脚注6)。
 報告書では、上場会社の監査の担い手の裾野の拡大等により中小監査事務所を含む上場会社の監査の担い手全体の監査品質の一層の向上が急務となっていること、共働き世帯の増加や女性活躍の進展がみられること等の環境変化を踏まえ、上場会社等の財務書類について監査証明業務を行う監査法人等に対する登録制度の導入、監査法人の社員の配偶関係に基づく業務制限の見直し等が提言された。
 
3 本法案の策定から公布まで
 報告書で示された提言を盛り込んだ本法案は、令和4年3月1日に閣議決定され、同日国会に提出された。本法案は、第208回国会(常会)における衆議院財務金融委員会の審議を経て同年4月12日の衆議院本会議で可決され、参議院に送付された。その後、参議院財政金融委員会の審議を経て同年5月11日に参議院本会議で可決・成立し、同月18日に公布された(令和4年法律第41号)。

Ⅱ 本法の概要

 以下、報告書の構成に沿って、本法の概要を解説する(次頁参照)。

1 会計監査の信頼性確保のための方策
(1)上場会社の監査を担う監査事務所の規律の在り方

 公認会計士法(昭和23年法律第103号。以下「公認会計士法」又は「法」という。)上、公認会計士又は監査法人は、他人の求めに応じ報酬を得て、財務書類の監査又は証明をすること(監査証明業務)を業とするとされている(法2①、34の5)。監査証明業務は、会社法(平成17年法律第86号)や金融商品取引法(昭和23年法律第25号。以下「金商法」という。)に基づく監査などの法定監査のほかに、任意で行われる監査もあり、その対象は多岐にわたっている。
 いずれの監査についても高い品質確保が求められることに変わりはないが、上場会社については、一般投資家を含む多数のステークホルダーを有しており、その財務報告の信頼性の確保は、我が国の資本市場が十全にその機能を発揮するために不可欠な要素である。この点、上場会社の財務書類について監査証明業務を行うに当たって、公認会計士法上は特別の参入規制等を設けていない一方(脚注7)、日本公認会計士協会(以下「協会」という。)の自主規制として、平成19年4月より、「上場会社監査事務所登録制度」が導入されている(脚注8)。
 この自主規制を通じて、上場会社監査の品質管理の充実強化と資本市場における財務諸表監査の信頼性確保が図られてきたところであるが、報告書では、
・上場会社の事業活動のグローバル化や業務内容の複雑化・多様化が進むとともに、会計基準の見積り要素が増大していること
・上場会社監査の担い手が大手監査法人から準大手監査法人や中小監査事務所に拡大しており(脚注9)、中小監査事務所を含む担い手全体の監査品質の一層の向上が急務となっていること
・諸外国においては、上場会社等の監査を行う監査事務所に対して監査監督機関による規律付けを行う制度枠組みが講じられていること
等を踏まえ、より高い規律付けを行う制度枠組みを検討すべきとの提言がなされた。
 これを踏まえ、本法では、以下のような公認会計士法上の規律を設けることとしている。
 ① 登録制度の導入
 公認会計士又は監査法人は、協会が備える「上場会社等監査人名簿」への登録を受けなければ、上場会社等の財務書類について監査証明業務を行うことができないこととしている(本法による改正後の公認会計士法(以下「新法」という。)34の34の2)。
 ここで、「上場会社等」の範囲については、金融商品取引所に株券を上場している会社のほか、金融商品取引所に株券を上場しようとする会社などを想定しているところであるが、具体的には政令において定めることとしている。
 また、上場会社等の財務書類に係る監査証明業務には、会社法上の監査や任意監査も含まれるところ、登録を受けなければ行うことができない監査証明業務は、金商法上の財務計算に関する書類及び内部統制報告書に係る監査証明に限ることとしている(脚注10)。これは、我が国の資本市場が十全にその機能を発揮することとなるよう、上場会社の財務報告の信頼性を確保するという本登録制度の趣旨に鑑みると、資本市場に関する基本法である金商法に基づく監査証明のみを対象とすることが適当と考えられるためである。
 ② 適格性の審査
 上場会社等監査人名簿は協会に備えることとし(新法34の34の3)、登録を受けようとする者は、名称(公認会計士にあっては氏名)、事務所の所在地等を記載した申請書を協会に提出しなければならない(新法34の34の4)。そして、協会は、登録拒否事由に基づき申請者の適格性を確認し(新法34の34の6)、登録を拒否する場合を除くほか、一定の事項を上場会社等監査人名簿に登録しなければならない(新法34の34の5)。
 このように、適格性の確認は協会が行うこととしている。これは、本登録制度を実効性のあるものとするためには、自主規制として「上場会社監査事務所登録制度」を運用してきた協会の知見・ノウハウを活用することや、上場会社等の監査の担い手として中小監査法人等においても十分な能力・態勢を整えられるよう、法制度による規律付けとともに、協会において育成支援策を併せて講ずることが有効であると考えられるためである。
 なお、登録拒否事由については、申請者が、上場会社等監査人登録を取り消されてから3年を経過しないとき(新法34の34の6①一)、業務停止期間を経過していない者であるとき(同項二イ、三イ、四イ)、上場会社等の財務書類に係る監査証明業務を公正かつ的確に遂行するに足りる人的体制その他の当該業務を公正かつ的確に遂行するための体制として内閣府令で定めるものの整備が行われていないとき(同項五)等のほか、申請者が監査法人である場合にあっては、社員に法第34条の4第2項各号に掲げる事由(業務停止期間を経過していない者であること等)に該当する者がいるとき(同項三ロ、四イ)、公認会計士である社員の数が政令で定める数に満たないとき(同項三ヘ、四イ)等を規定している。このうち、政令で定めることとしている公認会計士である社員の人数について、報告書では、本登録制度の導入当初は、現行の公認会計士法上、監査法人には公認会計士である社員が5人以上必要とされていること(法34の7①、34の18②)と同じく5人以上とし、制度導入後の協会の育成支援による体制整備の進展等を踏まえ、見直すことも考えられるとされている。また、公正かつ的確に業務を遂行するための体制については、上場会社等の財務書類に係る監査証明業務を行う上で確保されるべき体制として、内閣府令において具体化していくことになる。
 ③ 体制整備等
 上場会社等の財務書類に係る監査証明業務を適正に実施していくためには、より高い規律付けが必要と考えられることから、新法第34条の34の2の登録を受けた公認会計士又は監査法人(以下「登録上場会社等監査人」という。)に対し、
イ.登録上場会社等監査人が公認会計士である場合における共同監査(新法34の34の13)
ロ.上場会社等の財務書類に係る監査証明業務を公正かつ的確に遂行するための業務管理体制の整備(新法34の34の14)
を求めることとしている。
 イについて、現状、少数ではあるものの、公認会計士個人が他の公認会計士と共同して上場会社の財務書類について監査証明業務を行っている例(脚注11)がある。報告書においては、本登録制度の導入に際して、法改正により一律にこれを制限するのではなく、協会において、育成支援の一環として、監査法人への移行に向けた取組みを計画的に進めるべきであるとされている。こうした提言を踏まえつつ、公認会計士が上場会社等の財務書類に係る監査証明業務を行う場合には、
・上場会社等監査人登録を受けた監査法人と共同して行うこと
・政令で定める数以上の他の上場会社等監査人登録を受けた公認会計士と共同し、かつ、当該他の公認会計士の数と補助者として使用する他の公認会計士の数を合計した数が政令で定める数以上であること
のいずれかの要件を満たさなければならないこととした。具体的な人数については、公認会計士による組織的監査の実現という観点から、今後、政令で定めることとしている。
 次にロについて、上場会社等は、一般に、事業の規模が大きく複雑性が高いものと考えられることに加え、前述のように多数のステークホルダーを有しており、その財務報告の信頼性を確保することは、我が国の資本市場の十全な機能発揮のために不可欠な要素である。こうした上場会社等の財務書類に係る監査証明業務が公正かつ的確に行われるよう、報告書では、体制整備や情報開示等(脚注12)についてより高い規律付けを設けることとし、登録を受けた監査事務所に対して「監査法人のガバナンス・コード」の受入れを求めること(脚注13)や充実した情報開示を求めることが提言されている。体制整備の具体的内容については、本登録制度の趣旨や報告書の提言を踏まえ、今後、内閣府令で定めることとしている。
 ④ 登録取消し
 登録上場会社等監査人が、登録後に登録拒否事由に該当することとなったときのほか、不正の手段により登録を受けたとき、本登録制度を規定する新法第5章の4の規定又は同章の規定に基づく命令に違反したときは、協会は、その登録を取り消すことができることとしている(新法34の34の9①)。
 なお、登録上場会社等監査人がその登録を取り消された場合、公認会計士法上、当該登録上場会社等監査人であった者は、上場会社等の財務書類について監査証明業務ができないこととなる。この結果、当該登録上場会社等監査人であった者から監査を受けていた上場会社等は、改正後の金商法第193条の2第1項及び第2項により他の登録上場会社等監査人である公認会計士又は監査法人を選定してその監査証明を受けなければならないこととなり(後記⑤参照)、当該上場会社等やその投資家、ひいては資本市場全体に不測の事態が生じるおそれがある。このため、登録上場会社等監査人がその登録を取り消された場合であっても、取消しの日前に締結された契約に係る監査証明業務を行うことができることとし、その履行の目的の範囲内でなお登録上場会社等監査人とみなして、新法の規定が適用されるよう措置している(新法34の34の9⑥)。
 ⑤ 金融商品取引法上の規律
 金商法上、財務計算に関する書類及び内部統制報告書には、利害関係のない公認会計士又は監査法人による監査証明を受けなければならない(金商法193の2①・②)。本登録制度の新設に伴い、金商法を改正し、新法第34条の34の2の「上場会社等」に該当する者は、財務計算に関する書類及び内部統制報告書につき登録上場会社等監査人から監査証明を受けることを求めることとし、公認会計士法の規律との整合性を図ることとしている。
 ⑥ 経過措置
 本法施行後は、従前から上場会社等の財務書類について監査証明業務を行っていた公認会計士又は監査法人であっても、上場会社等監査人登録を受けなければ、当該業務を引き続き行うことができないこととなる。これにより、上記④と同様の事態が生じるおそれがある。このため、本法では、本法施行の際現に上場会社等の財務書類について監査証明業務を行っている公認会計士又は監査法人(以下「経過措置対象者」という。)について、必要な経過措置を設けている。 
 まず、経過措置対象者が本法施行日から起算して2週間以内に必要な届出をしたときは、施行日から起算して1年6月間は、引き続き、当該業務を行うことができることとしている(本法附則3①、4①)。
 次に、上場会社等監査人名簿への登録申請を拒否された場合であっても、拒否処分の日前に上場会社等と締結した監査契約に係る監査証明業務に限り、引き続き行うことができることとしている(本法附則3②)。
 以上の経過措置の適用を受けた経過措置対象者は、登録上場会社等監査人とみなされ、新法及び改正後の金商法第193条の2第1項及び第2項の規定が適用されることとなる(本法附則3③、5)。
(2)公認会計士・監査審査会によるモニタリング
 公認会計士法上、内閣総理大臣は、公益又は投資者保護のため必要かつ適当であると認めるときは、公認会計士又は監査法人に対し、検査・報告徴収の権限を行使できることとされている(法49の3①・②)。この権限は、内閣総理大臣から金融庁長官に委任され(法49の4①)、更に、そのうち公認会計士又は監査法人による業務の運営の状況(脚注14)に関するものは、金融庁長官から公認会計士・監査審査会(以下「審査会」という。)に委任されている(同条②)。
 これは、「公認会計士法の一部を改正する法律」(平成15年法律第67号。以下「平成15年改正法」という。)による公認会計士法の改正により、協会による業務の運営の状況に関する調査(以下「品質管理レビュー」という。)を法定した際(法46の9の2①)、その実効性確保のための当局によるモニタリングの手段として、協会から提出される品質管理レビューの結果報告の受理とともに(同条②、法49の4②)、前述した検査等の権限のうち品質管理レビューの結果報告に関して行うものが、審査会に委任されたことによるものである(脚注15)。
 他方で、業務の運営の状況に関するものではない検査等の権限、具体的には、虚偽証明等(脚注16)の検証を行うための権限等については、金融庁長官から審査会に委任されておらず、金融庁長官が行使すべき権限とされている(脚注17)。
 この結果、例えば、審査会が業務の運営の状況に関して検査を実施している監査法人等に虚偽証明等の疑義が生じている場合であっても、審査会が虚偽証明等の検証を併せて行うことはできず、金融庁が別途、虚偽証明等に関する調査を行う必要性が生ずるなど、効率的・効果的なモニタリングを実施する上での課題があるとの指摘があり、報告書では権限の委任の在り方について見直すことが提言された。
 これを受け、本法では、法第49条の4第2項を改正し、審査会に委任される検査等の権限を監査法人等の業務の運営の状況に関するものに限定していた規定を削除している(脚注18)。
 これにより、例えば、虚偽証明等の疑義がある監査法人等に対して審査会が検査等を行う際、当該監査法人等の業務の運営の状況の検証を行うとともに、虚偽証明等の検証を併せて行うという運用が可能となる。そして、その中で虚偽証明等に相当する監査手続の不備が確認されれば、必要に応じて、審査会が金融庁に対して行政処分等の勧告を行うことで、モニタリングの結果を実効的に監督行政につなげていくことが期待される。
 なお、本改正は、あくまで行政内部の権限委任関係を見直すものであり、品質管理レビューの実効性を高める観点から行われるものであるという審査会による検査等の位置付けを変えるものではない。

2 公認会計士の能力発揮に向けた環境整備
(1)監査法人の社員の配偶関係に基づく業務制限

 公認会計士法第1条に「公認会計士は、監査及び会計の専門家として、独立した立場において、財務書類その他の財務に関する情報の信頼性を確保する」とされているように(法第34条の2の2第2項で監査法人について準用)、会計監査の信頼性・公正性を確保するためには、公認会計士・監査法人の被監査会社等からの独立性を確保することが不可欠である。このため、公認会計士法では、公認会計士・監査法人について、被監査会社等と利害関係がある場合の業務制限、監査証明業務と一定の非監査証明業務との同時提供の原則禁止、被監査会社等への就職制限、継続的監査の制限(ローテーションルール)といった、独立性確保のための規律を設けている。
 このうち、監査法人の利害関係に基づく業務制限について規律する現行の法第34条の11をみると、第1項第2号で、監査法人の社員のうちに会社その他の者(以下「会社等」という。)と法第24条第1項第1号に規定する関係を有する者がある場合、すなわち、社員又はその配偶者が会社等の役員、これに準ずるもの若しくは財務に関する事務の責任ある担当者(以下「役員等」という。)であり、又は過去1年以内に役員等であった場合、当該監査法人による当該会社等への監査証明業務の提供を禁止している。
 この業務制限は、当該社員が当該会社等の監査証明業務に関与するか否かにかかわらず適用されるところ、監査法人の大規模化や共働き世帯の増加がみられる中、配偶者が被監査会社等の役員等である場合に本業務制限に抵触しないよう、監査法人の社員への登用を見合わせる事例が出てきているとの指摘がある。こうした事例は、今後、監査の分野における女性活躍の進展や上場会社の女性役員比率の高まり(脚注19)に伴い、さらに増大することも見込まれる。
 この点、「監査法人と被監査会社等との間の独立性の確保」という当該業務制限規定の本旨に立ち返って考えると、社員の配偶者が被監査会社等の役員等である場合であっても、当該社員が監査証明業務に影響を与える立場にない限り、監査法人の独立性に及ぼす影響は限定的であると考えられる。また、諸外国における業務制限規定においては、監査法人の社員と監査先の役職員との間に配偶関係があることのみをもって一律に業務制限の対象とすることとはされていない(脚注20)。こうしたことを踏まえ、報告書では、本業務制限の対象となる監査法人の社員の範囲を、被監査会社等の財務書類について当該監査法人が行う監査証明業務に関与する社員等に限ることとすべきであると提言された。
 これを受け、本法では、法第34条の11第1項第2号を改正し、業務制限の対象となる社員の範囲に限定を加えている。具体的には、配偶者のみが会社等の役員等である場合(又は、過去1年以内に役員等であった場合)にあっては、業務制限の対象となる社員の範囲を、当該会社等の財務書類に係る監査証明業務に関与する者その他の政令で定める者に限ることとした。「配偶者のみ」としているため、社員自身が会社等の役員等である場合又は社員及びその配偶者がそれぞれ会社等の役員等である場合は、引き続き、当該会社等への監査証明業務の提供は制限されることとなる。なお、「その他の政令で定める者」の範囲については、監査証明業務への影響等を勘案し、今後、検討していくこととなる。
(2)組織内会計士向けの指導・支援を広げるための方策
 近年、事業会社や行政機関等での業務に従事する、いわゆる組織内会計士が増加傾向にある(脚注21)。公認会計士が、財務や会計等に関する専門知識を活かして、それぞれの分野で活躍することは、財務報告の信頼性を確保することにつながるものと考えられる。
 この点に関連して、現行の公認会計士名簿は、公認会計士の業務(法2)を行う「事務所」の登録が必須となっているところ(法17)、公認会計士の業務を行っていない組織内会計士については、かかる事務所が存在しないことから、便宜上、自宅等を事務所として登録している例があるとの指摘がある。報告書では、これにより公認会計士名簿が組織内会計士の実態を表せていないために、組織内会計士に対する協会からの適切な指導・支援が行われにくいとの問題意識の下、公認会計士名簿への登録事項として、「勤務先」を追加することが提言されている。
 これを受け、本法では、公認会計士名簿への登録事項に「勤務先」が追加されるよう、法第17条の改正を行った。

3 公認会計士の能力向上に向けた環境整備
(1)実務経験期間の見直し
 ① 改正の内容

 公認会計士となる資格を有するためには、公認会計士試験に合格し(脚注22)、業務補助等の期間(脚注23) が2年以上であり、かつ、実務補習を修了し内閣総理大臣の確認を受ける必要がある(法3)。
 このうち、業務補助等については、企業活動のグローバル化や業務内容の複雑化・専門化が進み、監査基準も高度化する中、監査の現場でこれに対応できる能力を養う観点から、実務経験を通じて学ぶ知見の重要性が高まっているとの指摘や、近年、大学等の在学中に公認会計士試験に合格した者の割合が増加しているところ(脚注24)、そうした者の社会経験の場としての意義を有するとの指摘がある。また、職業会計士志望者向けの初期専門能力開発を定める国際教育基準(IES)第5号では、3年の実務経験を求めることを例示しており、欧州の各国では、3年以上の実務経験要件を設けている例がみられる(脚注25)。
 これらを踏まえ、報告書では、業務補助等の期間について、現行の「2年以上」を「3年以上」に見直すべきであるとの提言がなされている。
 これを受け、本法では、法第3条を改正し、公認会計士となる資格を有するために必要な業務補助等の期間を「2年以上」から「3年以上」に改めることとした。
 ② 経過措置
 本法施行とともに、公認会計士となる資格を有するために必要な業務補助等の期間は3年以上となる。この点について、本法施行日において業務補助等の期間が2年以上である者に不利益を与えることのないよう、かかる者に求められる業務補助等の期間を引き続き2年以上とする経過措置を置いている(本法附則2)。
(2)継続的専門研修の確実な受講を通じた公認会計士の能力向上
 ① 登録抹消事由の追加

 公認会計士は、その資質の向上を図るため、協会が行うCPEを受けることが法律上求められている(法28)。監査基準や実務の高度化、公認会計士が担う役割の広がり、監査業務の IT化・デジタル化の進展など、監査を取り巻く環境が変化する中で、公認会計士が、職業専門家として求められる知識・能力を不断に磨いていくため、CPEは重要な機会であると考えられる。
 しかしながら、近年、CPEの受講単位数が不足したまま改善が認められずに金融庁から懲戒処分を受けた事例(脚注26)や、eラーニング形式の研修の二重受講(同時に複数の研修を受講)・早送り受講といった不適正な受講により協会から懲戒処分を受けた事例(脚注27)が確認されている。
 この点について、報告書では、懲戒処分によってもなお受講単位数が不足したまま改善されないケースに備え、CPEの受講状況が著しく不適当な公認会計士の登録を抹消することができることとすべきとの提言がなされた。さらに、協会によるCPEの受講状況の改善に向けた指導等ができない長期所在不明者や、虚偽の申請等に基づいて登録を受けた者についても、他士業の例(脚注28)も参考に、登録を抹消できることとすべきとされた。
 これを踏まえ、本法では、法第21条第2項に、協会が、資格審査会(脚注29)の議決を経て公認会計士の登録を抹消できる規定を整備し、その抹消事由を、
イ 不正の手段により登録を受けたこと
ロ 内閣府令で定める期間以上の期間にわたり、CPEを受けていないこと(脚注30)
ハ 2年以上継続して所在不明であること
  とした。
 さらに、現行の法第21条第1項に抹消しなければならない事由として規定されている、
ニ 心身の故障により公認会計士の業務を行わせることがその適正を欠くおそれがあるとき
については、資格審査会の議決が求められていることを考慮し、第2項の抹消できる事由として整理し直すこととした(脚注31)。
 なお、ロの期間については、当該規定が、懲戒処分によってもなお受講単位数が不足したまま改善されないケースに備えたものであることなどを踏まえて、今後、内閣府令において検討することとなる。
 ② 欠格事由の追加
 公認会計士法は、公認会計士としての能力や品位に照らして、公認会計士として相応しくない者を排除するために、欠格事由を置いており(法4)、欠格事由に該当した場合、公認会計士の登録申請が拒否され(法19③)、登録済みの公認会計士については、その登録が抹消されることとなる(法21①三)。
 この点①のイ及びロについては、いずれも法令違反が認められる状態であり、能力及び品位の観点から問題があると考えられるため、これらの事由により登録が抹消されてから5年を経過しない者を欠格事由に追加することとしている(新法4五の二)。
(3)会計に関する教育・啓発活動
 協会は、小・中学生を対象に会計講座を実施するなど、会計に関する教育・啓発活動の推進に取り組んでいるところである。このような取組みにより社会における会計リテラシーの定着と会計の有用性に関する認識向上を図ることは、将来的に能力ある公認会計士の裾野を広げることにつながるとともに、財務書類作成に対する意識の向上を通じて、資本市場の信頼維持にも資するものと考えられる。
 このため、本法では、法第44条第1項の協会の会則記載事項に、「会計に関する教育その他知識の普及及び啓発のための活動に関する規定」を追加することとした(新法44①一五)。

4 その他の改正事項
 本法では、その他所要の改正を行っている。
 例えば、特定社員、すなわち、監査法人の社員のうち公認会計士でない者は、公認会計士と同様に協会に備える名簿への登録が求められているところ、その登録抹消事由、欠格事由について、3(2)で述べた内容と同趣旨の改正を行うこととしている(新法34の10の14②、34の10の10①八の二)(脚注32)。
 また、平成15年改正法による公認会計士法の改正により、従来、公認会計士試験第2次試験の合格者を対象としていた「会計士補」(脚注33)の資格が廃止されているが、平成15年改正法附則により、改正前の公認会計士法の規定のうち、欠格条項、登録拒否、登録事項、登録抹消等、会計士補の身分に関する規定については、制度変更による不利益が生じないよう、なお効力を有するものとされている。本法では、このなお効力を有するものとされる規定のうち、会計士補に係る登録抹消事由、欠格事由について、3(2)で述べた内容と同趣旨の改正を行うなどの対応をしている(脚注34)。

5 施行期日
 本法の施行日は、一部規定を除き、公布日(令和4年5月18日)から起算して1年を超えない範囲内において政令で定める日としている。

おわりに

 今般の公認会計士法の改正により、会計監査の信頼性確保や公認会計士の一層の能力発揮・能力向上に向け、一定の制度的な対応が行われた。見直し後の公認会計士制度が実効性のあるものとなることが重要であり、制度の趣旨・目的を踏まえた運用・取組みが着実に実施されることを期待したい(脚注35)。

脚注
1 「『会計監査の在り方に関する懇談会』提言の公表について」(平成28年3月8日)(https://www.fsa.go.jp/news/27/singi/20160308-1.html
2 「『監査法人の組織的な運営に関する原則』(監査法人のガバナンス・コード)の確定について」(平成29年3月31日)(https://www.fsa.go.jp/news/28/sonota/20170331_auditfirmgovernancecoad.html
3 「『会計監査の在り方に関する懇談会(令和3事務年度)』論点整理の公表について」(令和3年11月12日)
(https://www.fsa.go.jp/news/r3/singi/20211112.html)
4 「中小監査事務所」とは、大手監査法人(有限責任あずさ監査法人、有限責任監査法人トーマツ、EY新日本有限責任監査法人及びPwCあらた有限責任監査法人の4法人)及び準大手監査法人(仰星監査法人、三優監査法人、太陽有限責任監査法人、東陽監査法人及びPwC京都監査法人の5法人)以外の監査事務所を指す。なお、「監査事務所」とは公認会計士及び監査法人を指す。
5 中小監査事務所に対する支援として、デジタル化支援、人的基盤の整備、経営相談体制の強化などの体制面・ノウハウ面での支援が挙げられている。(「論点整理」4ページ)
6 「金融審議会『公認会計士制度部会』報告の公表について」(令和4年1月4日)(https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/tosin/20220104.html
7 ただし、公認会計士が上場会社を含む「大会社等」(法24の2)の財務書類について監査証明業務を行う場合、原則として、他の公認会計士若しくは監査法人と共同し、又は他の公認会計士を補助者として使用して行わなければならないとの規定がある(法24の4)。
8 協会会則上、準登録事務所名簿(上場会社との監査契約締結を予定する監査事務所等が登録対象)に登録され、上場会社と監査契約を締結した監査事務所は、上場会社監査事務所名簿への登録を申請しなければならないこととされている。登録の可否の判断及び登録取消し等の措置の判断は、協会が行う品質管理レビューの結果等に基づき行われる。令和3年3月末時点の上場会社監査事務所名簿への登録件数は127件、準登録事務所名簿への登録件数は13件である。
 また、金融商品取引所の規則により、上場内国会社は、上場会社監査事務所(準登録事務所名簿に登録されている監査事務所を含む。)の監査を受けるものとされている(東京証券取引所「有価証券上場規程」441の3)。
9 第16回制度部会「資料2」の8ページ参照(https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/kounin/siryou/20211129/02.pdf)。
10 前提として、内部統制報告書が監査証明業務の対象である「財務書類」(法1の3①)に含まれると解されることについて、「『公認会計士法等の一部を改正する法律の施行に伴う関係政令・内閣府令(案)』に対するパブリックコメントの結果について」(平成19年12月7日)の「提出されたコメントの概要とコメントに対する金融庁の考え方」No.4参照。(https://www.fsa.go.jp/news/19/syouken/20071207-1.html
11 令和4年6月1日現在、上場会社監査事務所名簿・準登録事務所名簿に登録されている公認会計士事務所と共同事務所の数は、12事務所である。
12 「報告書」では、情報開示の内容として、「例えば、①品質管理、②ガバナンス、③IT・デジタル、④人材、⑤財務、⑥国際対応の6つの観点が考えられるとの意見があった」とされている(「報告書」6ページ脚注18)。
13 「報告書」では、監査法人のガバナンス・コードが大手監査法人における組織的な運営の姿を念頭に策定されていることを踏まえ、「準大手監査法人・中小監査法人における上場会社監査の品質確保にも資するコードとなるよう、また、監査法人の規模等に応じた実効性のある規律を求めるコードとなるよう、必要に応じて、その内容に改訂すべき点がないか検討されるべき」とされている(「報告書」7ページ)。
14 「業務の運営の状況」とは、業務の執行の適正を確保するための措置、業務の品質の管理の方針の策定及びその実施等をいう(法34の13②)。
15 「公認会計士法等の一部を改正する法律」(平成19年法律第99号)による公認会計士法の改正により、監査法人等が品質管理レビューを受けていないこと等により協会が品質管理レビューの報告を行っていない場合にも、業務の運営の状況に関する検査等を行えるよう、法第49条の4第2項の委任規定が改正されている。
16 「虚偽証明等」とは、①故意に虚偽、錯誤又は脱漏のある財務書類をこれらがないものとして証明すること、②相当の注意を怠り、重大な虚偽、錯誤又は脱漏のある財務書類をこれらがないものとして証明することをいう(法30①・②)。
17 虚偽証明等の検証に際し、審問、検査、報告徴収等の権限(法32③、33①、34の21④)を用いることもできる。これらの権限は内閣総理大臣から金融庁長官に委任されている(法49の4①)。
18 検査・報告徴収の権限については、金融庁長官が行うことを妨げないとしている。
19 女性公認会計士の割合は14.5%(令和2年12月末)、上場会社の女性役員の割合は6.2%(令和2年7月末)であり、いずれも増加傾向にある(第16回制度部会「資料2」の23ページ参照)。
20 第16回制度部会「資料2」の25ページ参照。
21 協会による「組織内会計士ネットワーク」に加入している正会員(組織内会計士である者)の数は、2,139名(令和2年12月末)とされている(第16回制度部会「資料2」の28ページ)。
22 同一回の公認会計士試験において、短答式試験・論文式試験の全部の免除を受けた者を含む(法3)。
23 業務補助等の期間については、公認会計士試験合格の前後を問わず、監査証明業務について公認会計士又は監査法人を補助した期間と、財務に関する監査、分析等の実務に従事した期間を通算した期間とされている(法15①)。
24 令和3年公認会計士試験の合格者のうち「学生」の占める割合は、59.4%である。(令和3年公認会計士試験合格者調(令和3年11月19日))
https://www.fsa.go.jp/cpaaob/kouninkaikeishi-shiken/ronbungoukaku_r03/03.pdf
25 第16回制度部会「資料2」の34ページ参照。
26 平成27年6月30日に、平成22年度、23年度にCPEの必要単位数(年間40単位)を履修しておらず、その後も改善が認められなかった公認会計士25名に対し、金融庁が懲戒処分(戒告)を実施。
27 令和3年3月9日に、eラーニング研修の二重受講(同時に複数の科目を受講)について、1つの監査法人と公認会計士43名に対し、協会が懲戒処分(法人:会員権停止、個人:戒告)を実施。また、同年8月12日に、eラーニング研修の早送り受講について1つの監査法人と公認会計士29名、二重受講について公認会計士21名に対し、協会が懲戒処分(法人:会員権停止、個人:戒告又は会員権停止)を実施。
28 虚偽申請者、2年以上の所在不明者について、それぞれ税理士法第25条第1項第1号、第3号。
29 公認会計士等の登録の拒否や抹消(心身の故障により業務を行わせることがその適正を欠くおそれがあるときに該当することによる抹消に限る。)について必要な審査を行うために協会に設置されている機関(法46の11①・②)。
30 内閣府令で定める場合には、当該抹消事由に該当しないこととしている。
31 他の士業法においても同様の整理をしている例がある(税理士法第25条第1項第2号、行政書士法第7条第2項第2号)。
32 もっとも、特定社員にはCPEの受講義務がないことから、公認会計士の抹消事由・欠格事由とは差異がある。
33 令和4年3月末時点の会計士補の数は、892名(協会会員517名、非会員375名)とされている。
34 会計士補についてもCPEの受講義務がないことから、公認会計士の抹消事由・欠格事由とは差異がある。
35 協会からも、令和4年5月11日に公表された会長声明において、本法に伴い整備された制度について、実効性を伴う制度として運用するために必要な検討を行っていくことが示されている。(https://jicpa.or.jp/specialized_field/20220511dac.html

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