解説記事2022年10月10日 ニュース特集 要耐震改修住宅用家屋と住宅取得等資金特例の関係(2022年10月10日号・№949)
ニュース特集
Q&A 贈与税の審理上の留意点
要耐震改修住宅用家屋と住宅取得等資金特例の関係
東京国税局の資料「贈与税の審理上の留意点」(令和4年8月作成)から「要耐震改修住宅用家屋に係る住宅取得等資金の非課税の特例の適用可否」「教育資金に係る非課税特例の対象となる教育資金の範囲」を取り上げる。要耐震改修住宅用家屋に係るQ&Aでは、住宅借入金控除(措法40①)と住宅取得等資金の非課税特例(措法70の2①)の規定ぶりの違いから取扱いが異なることにも言及している。
Q1
要耐震改修住宅用家屋に係る住宅取得等資金の非課税の特例の適用可否(1)
下記の事実関係がある場合において、Xは、下記①の贈与(以下「本件贈与」という)について、租税特別措置法70条の2《直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の贈与税の非課税》第1項に規定する特例(以下、本事例及びQ2の事例において「本件特例」という)の適用を受けることができるか。
①令和4年5月1日 | Xは、父Yから現金300万円の贈与を受けた。 |
②令和4年6月1日 | Xは自己の居住の用に供するために耐震基準に適合しない建築後使用されたことのある住宅用家屋(省エネ等住宅以外の住宅に該当。以下「B家屋」という)の取得をし、上記①で贈与を受けた資金の全額をその取得のための対価に充てた。なお、Xは、同日までにB家屋に耐震改修を行うことにつき一定の手続※1を行っている。 |
③令和4年8月1日 | Xは、B家屋を耐震基準に適合させるための耐震改修工事に係る請負契約を法人Zと締結した。 |
④令和4年10月1日 | Xは、③の工事により耐震基準を満たしたB家屋の引渡しを受け、居住を開始した。なお、B家屋は、耐震基準を満たすことにつき一定の証明※2がされている。 |
※1 租税特別措置法施行規則23条の5の2《直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の贈与税の非課税》第6項に定めるところにより行う申請をいう(措法70の2⑦、平成26年国土交通省告示第430号。以下、本事例及びQ2の事例において同じ)。
※2 租税特別措置法施行規則23条の5の2第7項に定めるところによりされた証明をいう(措法70の2⑦、平成26年国土交通省告示第431号。以下、本事例及びQ2の事例において同じ)。
A
適用を受けることができる(なお、課税価格に算入されない金額は300万円である)。
【理由】
1 本件特例の概要
令和4年1月1日から令和5年12月31日までの間にその直系尊属からの贈与により、自己の居住の用に供する住宅用の家屋の新築若しくは取得又は増改築等(以下、本事例及びQ2の事例において「新築等」という)の対価に充てるための金銭(以下、本事例及びQ2の事例において「住宅取得等資金」という)を取得した場合において、次に掲げる場合の区分に応じて、それぞれに定める要件に該当するときは、その贈与により取得をした住宅取得等資金のうち、住宅資金非課税限度額までの金額については、贈与税の課税価格に算入しない(措法70の2①)。
(1)住宅用家屋の新築(その新築とともにするその敷地の用に供される土地等又はその新築に先行してするその敷地の用に供されることとなる土地等の取得を含む)又は建築後使用されたことのない住宅用家屋若しくは既存住宅用家屋※3の取得(その取得とともにするその敷地の用に供される土地等の取得を含む)をした場合(措法70の2①一二)
(要件)住宅取得等資金の取得をした日の属する年の翌年3月15日までに当該住宅取得等資金の全額を当該新築又は取得の対価に充てて当該新築又は取得をし、同日までに当該住宅用家屋若しくは既存住宅用家屋を居住の用に供したこと又は同日後遅滞なくこれらの家屋を居住の用に供することが確実であると見込まれること
※3 建築後使用されたことのある住宅用家屋で耐震基準に適合するものをいう(措法70の2②三。以下、本事例及びQ2の事例において同じ)。
(2)受贈者が居住の用に供している住宅用の家屋の増改築等※4(その増改築等とともにするその敷地の用に供される土地等の取得を含む)をした場合(措法70の2①三)
(要件)住宅取得等資金の取得をした日の属する年の翌年3月15日までに当該住宅取得等資金の全額を当該増改築等の対価に充てて、同日までに当該増改築等をした住宅用の家屋を居住の用に供したこと又は同日後遅滞なく当該住宅用の家屋を居住の用に供することが確実であると見込まれること
※4 受贈者が所有している家屋につき行う増築、改築その他の工事で一定のものをいう(措法70の2②四、措令40の4の2⑤。Q2の事例において同じ)。
2 取得後に耐震改修を行う場合の特例
贈与により住宅取得等資金の取得をした日の属する年の翌年3月15日(以下「取得期限」という)までに、①当該住宅取得等資金の全額を耐震基準に適合しない建築後使用されたことのある住宅用家屋(以下、本事例及びQ2の事例において「要耐震改修住宅用家屋」という)の取得の対価に充てて取得をした場合において、②当該取得の日までに耐震改修を行うことにつき一定の手続をし、かつ、③取得期限までに当該要耐震改修住宅用家屋が当該耐震改修により耐震基準に適合することとなったことにつき一定の証明がされたときは、当該要耐震改修住宅用家屋の取得を既存住宅用家屋の取得と、当該要耐震改修住宅用家屋を既存住宅用家屋とみなして本件特例を適用する(措法70の2⑦)。
3 当てはめ
本事例においてXが取得したB家屋は、要耐震改修住宅用家屋であり、耐震基準を満たさないことから、一義的には本件特例の対象となる既存住宅用家屋に該当しないところ、上記2の下線部①ないし③の要件を満たす場合には、「要耐震改修住宅用家屋(の取得)」は本件特例の対象である「既存住宅用家屋(の取得)」とみなされることとなる。
この点、本事例においては、①本件贈与により取得した現金300万円の全額をB家屋の取得のための対価に充ててB家屋を取得していること、②B家屋の取得の日である令和4年6月1日までに耐震改修を行うことにつき一定の手続をしていること、及び③B家屋の取得期限である令和5年3月15日までにB家屋が耐震基準を満たすことにつき一定の証明がされていることから、上記2の下線部①ないし③の要件を満たしており、B家屋(の取得)は本件特例の対象となる既存住宅用家屋(の取得)とみなされる。
したがって、本事例では、本件贈与につき本件特例の適用を受けることができる。
なお、B家屋は省エネ等住宅に該当しないため、その住宅資金非課税限度額は500万円となるところ、本件贈与により取得した金銭は300万円であるから、その300万円の全額が贈与税の課税価格に算入されないこととなる。
Q2
要耐震改修住宅用家屋に係る住宅取得等資金の非課税の特例の適用可否(2)
下記の事実関係がある場合において、Xは、下記②の贈与(以下「本件贈与」という)について、本件特例の適用を受けることができるか。
なお、下記③の耐震改修工事は、Q1の事例の1(2)※4の増改築等に該当するものとする。
①令和4年6月1日 | Xは、要耐震改修住宅用家屋(省エネ等住宅以外の住宅に該当。以下「B家屋」という)を取得した。なお、Xは、同日までにB家屋に耐震改修を行うことにつき一定の手続を行っている。 |
②令和4年7月1日 | Xは、父Yから現金500万円の贈与を受けた。 |
③令和4年8月1日 | Xは、B家屋を耐震基準に適合させるための耐震改修工事(以下「本件工事」という)に係る請負契約を法人Zと締結し、本件贈与により取得した資金の全額をその対価に充てた。 |
④令和4年10月1日 | Xは、本件工事により耐震基準を満たしたB家屋の引渡しを受け、居住を開始した(Xは同日までにB家屋に居住したことがない)。なお、B家屋は、耐震基準を満たすことにつき一定の証明がされている。 |
A
適用を受けることはできない。
【理由】
1 耐震改修の対価に充てた住宅取得等資金の本件特例の該当性について
本件特例の規定上、増改築等の対象となる住宅用の家屋は、受贈者が居住の用に供している住宅用の家屋に限られているところ(Q1の事例の1(2))、居住の用に供していない家屋の耐震改修の対価に充てた住宅取得等資金は、その耐震改修が増改築等の定義(Q1の事例の1(2)※4)に該当した場合であっても、本件特例の対象とはならない(措法70の2①三)。
また、取得後に耐震改修を行う場合の特例(措法70の2⑦)においては、Q1の事例の2のとおり、住宅取得等資金の全額を要耐震改修住宅用家屋の取得の対価に充てること等によって、「要耐震改修住宅用家屋(の取得)」が「既存住宅用家屋(の取得)」とみなされるところ、要耐震改修住宅用家屋の耐震改修(増改築等)に充てた住宅取得等資金は、同特例の対象とはならない。
2 当てはめ
本件特例の適用に係る増改築等の対象となる住宅取得等資金は、受贈者が居住の用に供している住宅用の家屋の増改築等に充てられるものに限られているところ、Xは、本件贈与により取得した金銭を居住の用に供していないB家屋の増改築等の対価に充てていることから、当該金銭について本件特例を適用することはできない。
また、取得後に耐震改修を行う場合の特例の対象となる住宅取得等資金は、要耐震改修住宅用家屋の取得に充てられるものに限られているところ、Xは、本件贈与により取得した金銭をB家屋の取得のための対価に充てず、耐震改修の対価に充てていることから、当該金銭について同特例の適用を受けることはできない。
したがって、本事例では、本件贈与について本件特例の適用を受けることはできない。
【参考】住宅借入金控除との整合性について
租税特別措置法41条《住宅借入金等を有する場合の所得税額の特別控除》第1項に規定する特例(以下「住宅借入金控除」という)では、同条33項に規定する要耐震改修住宅について行う耐震改修に係る費用は家屋の取得の対価に含まれる(住宅借入金控除の対象)としており(措通41−24)、本件特例と整合がとれていないとも考えられる。
しかしながら、同条1項は「…その者の居住の用に供する家屋で政令で定めるものの増改築等…をして…」と規定し、「居住の用に供する家屋」に行う増改築等を対象としているのに対し、同法70条の2第1項3号は「…特定受贈者が居住の用に供している住宅用の家屋について行う増改築等…をした…」と規定し、「居住の用に供している家屋」に行う増改築等を対象としている。住宅借入金控除と本件特例との取扱いの違いはこの法令の規定ぶりの違いから生じるものであり、両特例で取扱いを同様にする必要はないものと考えられる。
Q3
教育資金に係る非課税特例の対象となる教育資金の範囲
下記の事実関係のとおり、Xは、祖父Y及び祖母Zと信託会社との間の教育資金管理契約に基づき信託の受益権を取得し、その取得について租税特別措置法70条の2の2《直系尊属から教育資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税》第1項に規定する特例(以下「教育資金非課税特例」という)の適用を受けて、信託財産から払い出した金銭で教育資金の支払をしていた。
この場合において、教育資金非課税特例の対象である教育資金と認められない支出はどれか。
①令和元年7月31日 | 200万円を授業料の名目で学校等に支払 |
②令和2年6月30日 | 150万円をインストラクターへの指導料の名目でプライベートジムに支払 |
③令和3年3月31日 | 20万円を麻雀の指導料の名目で麻雀教室の講師に支払 |
④令和4年1月1日 | Xの23歳の誕生日 |
⑤令和4年6月30日 | 100万円をインストラクターへの指導料の名目でプライベートジムに支払 |
⑥令和4年7月31日 | 40万円を保育士資格の取得講座(教育訓練給付金の対象講座)の受講料の名目で教育訓練施設に支払 |
A
③令和3年3月31日の麻雀教室の講師に対する支出20万円及び⑤令和4年6月30日のプライベートジムに対する支出100万円は、教育資金とは認められない。
【理由】
1 教育資金非課税特例の対象となる教育資金の範囲について
教育資金非課税特例は、受贈者の将来の教育に要する費用を一括贈与により確保するための制度であることから、資金の使途は教育に関する一定の費用に限定されており、具体的には支払先により次の2つに大別される(措法70の2の2②一、平成25年文科省告示第68号)
(1)学校等の設置者に対して直接支払われる金銭で、次に掲げるもの イ)入学金、授業料、入園料及び保育料並びに施設設備費、ロ)入学又は入園のための試験に係る検定料、ハ)在学証明、成績証明その他学生、生徒、児童、幼児又は乳児(以下「学生等」という)の記録に係る証明に係る手数料及びこれに類する手数料、ニ)学用品の購入費、修学旅行費又は学校給食費その他学校等における教育に伴って必要な費用に充てるための金銭
(2)学校等以外の者に直接支払われる次に掲げる金銭で、教育のために支払われるものとして社会通念上相当※と認められるもの(受贈者が23歳に達した日の翌日以後に支払われる場合には、①次のイないしニの金銭のうち教育訓練(教育訓練給付金の支給対象となるものに限る。以下同じ)を受けるために支払われるもの及び②次のホないしトの金銭) イ)教育に関する役務の提供の対価、ロ)施設の使用料、ハ)スポーツ又は文化芸術に関する活動その他教養の向上のための活動に係る指導への対価として支払われるもの、ニ)イの役務の提供又はハの指導において使用する物品の購入に要する金銭であって、その役務の提供又は指導を行う者に直接支払われるもの、ホ)学用品の購入費、修学旅行費又は学校給食費その他学校等における教育に伴って必要な費用に充てるための金銭であって、学生等の全部又は大部分が支払うべきものとその学校等が認めたもの、へ)通学定期券代、ト)留学渡航費(1回の就学につき1往復に要するものに限る)又は学校等への就学に伴う転居に要する交通費であって、公共交通機関に支払われるもの(1回の就学につき1往復に要するものに限る)
※「社会通念上相当」でないものとして、例えば、賭博やギャンブルに関するもの(カジノの手法を教える教室)、酒類やたばこを楽しむことを目的とする講習、遊興・遊技を内容とするもの(トランプ、パチンコ、麻雀、ゲーム、カラオケ、手品、占い等を教える教室など)、娯楽目的の鑑賞を行うことを目的とするものなどが挙げられる。
2 当てはめ
教育資金非課税特例の対象となる教育資金のうち学校等以外の者に支払われるものについては、上記1(2)のとおり、受贈者が23歳未満である場合と23歳以上である場合とでは、その範囲が異なっている。本事例の支出をそれぞれの場合に分けて、その支出が教育資金の支出に該当するか否かを整理すると以下のとおりとなる。
(1)Xが23歳未満で行った支出について
イ ①令和元年7月31日の支出 上記1の(1)イに該当し、教育資金の支出と認められる。
ロ ②令和2年6月30日の支出 上記1の(2)ハに該当し、教育資金の支出と認められる。
ハ ③令和3年3月31日の支出 麻雀の指導料に対する支出は、教育のために支払われるものとして社会通念上相当と認められないから、教育資金の支出とは認められない。
(2)Xが23歳以上で行った支出について
イ ⑤令和4年6月30日の支出 上記1の(2)ハに該当するが、23歳以上である場合には教育訓練を受けるために支払われる金銭でなければ対象とならないため、教育資金の支出とは認められない。
ロ ⑥令和4年7月31日の支出 上記1の(2)イに該当し、かつ、教育訓練を受けるために支払われるものに該当するため、教育資金の支出と認められる。
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