税務ニュース2022年12月16日 非上場株式への総則6項適用事案訴訟に(2022年12月19日号・№959) 類似業種比準価額方式認めず鑑定評価、再び問われる評価基本通達の意義

  • 非上場株式への総則6項適用事案が訴訟に発展。原告らは平等原則違反を主張。
  • 原告らが採用した評価通達に基づく評価額と、民間会社の評価額に約2.6〜3.0倍のかい離。
  • 審判所は、被相続人が相続開始直前の株式購入資金借り入れによる請求人の相続税の大幅な減少を問題視、税務署の評価額を容認。

 既報の通り、令和4年4月19日には、不動産の相続税評価を巡る総則6項適用事案について最高裁が納税者側敗訴の判決を下したが(本誌936、943、951号参照)、今年8月には、非上場株式への総則6項事案が訴訟に発展していたことが確認された。
 2014年に名古屋の教育系出版社「中央出版」の創業者である元会長の相続人である原告らは、相続した中央出版HDの株式(本件株式)の評価を純資産価額方式で行うこととし、同社が保有する子会社(中央出版HDグループ)の株式の価額について、評価通達の定めに基づき、一部の子会社には類似業種比準方式を適用し、その他の子会社には純資産価額方式を適用して算定した上で、本件株式の価額を63億4,734万3,312円(1株当たり18円)とし、相続税の確定申告を行った。
 これに対し税務署は、本件株式の評価について総則6項を適用、評価額の算定を大手監査法人系のトランザクション・アドバイザリー・サービス会社(以下、アドバイザリー会社)に依頼した。同社は株式を「DCF法」「類似会社比準法」「修正簿価純資産法」により評価した上で、各手法の算定結果(代表値)の平均値を採用し、本件株式の評価額を193億4,997万4,747円(1株当たり55円)と評価した。当該評価額は評価通達による評価額の約3.0倍となる。この結果を受け税務署は、両者には著しいかい離が認められることから、本件株式の価額を評価通達の定めによる評価方法を画一的に適用して評価することは著しく不適当と認められる「特別の事情」があるとして更正処分を行った。なお、税務署は、その後、納税者からの再調査の請求を受けてアドバイザリー会社から改めて株価評価を取得しており、同評価では本件株式の評価額は174億8,480万4,319円(1株当たり46.48円)とされ、同額を上回る評価に基づく限度で更正処分が一部取り消されている。
 本件は審査請求に至ったが、審判所(名裁(諸)令3第35号 令和4年3月25日)は、「……評価通達の定める評価方法により算出された評価額の水準の価額が通常成立すると認めることは困難であり、また、本件株式の価額を当該評価額とすると、被相続人が、相続の発生を見越して、相続開始直前に、購入資金を借り入れて本件株式を取得したことによって請求人の相続税の負担が大幅に減少する結果となったことが認められる。これらのことからすると、……相続の発生を見越して購入資金の借入れ及び本件株式の取得に相当するような行為を行わなかった納税者との間での実質的な租税負担の公平を著しく害することが明らか」と判断、他の合理的な評価方法により本件株式の適正な時価を評価すべき特別の事情があると認められるとし、税務署による評価額を認め、請求を棄却している。
 納税者はこれを不服として提訴し、アドバイザリー会社による株式価値の算定結果について、同社による中央出版HDの株式価値の算定結果は、中央出版HD及びその子会社が保有する現預金の全てを非事業用資産として取り扱っている点、米国の上場会社の未登録普通株式に関する調査に基づき非流動性ディスカウント率を決定している点、コントロールプレミアムを考慮している点など、その算定過程に不合理な点が多数あり、中央出版HDの株式の客観的な交換価値としての時価の範囲内にあるとは認められないことから、本件相続株式の価額について、同社による株式価値の算定結果に基づき1株当たり46.48円(総額174億8,480万4,319円)と評価して行われた本件各更正処分は、相続税法22条に違反するものと主張している。
 また、仮に、同社による中央出版HDの株式価値の算定結果が、中央出版HDの株式の客観的な交換価値としての時価の範囲内にあるとしても、同社による中央出版HDの株式価値の算定結果は、財産評価基本通達の定める方法により評価した価額(1株あたり18円)を上回るものであるところ、本件株式の価額については、財産評価基本通達の定める方法による画一的な評価を行うことが実質的な租税負担の公平に反するというべき事情が認められないことから、本件株式の価額について、同社による株式価値の算定結果に基づき行われた本件各更正処分は、租税法上の一般原則としての平等原則に違反する(最高裁第三小法廷令和4年4月19日判決・令和2年(行ヒ)第283号参照)として、本件各更正処分及びそれに基づく本件各賦課決定処分はいずれも違法であるから、速やかに取り消されるべきとも主張している。
 上記のとおり、本件では評価通達による評価額とアドバイザリー会社による評価額のかい離が問題となっているが、法律専門誌に掲載された令和4年4月19日の最高裁判決の匿名解説(一般には担当した最高裁調査官の手によるもの)では、通達評価額と鑑定評価額のかい離を理由に通達評価額を上回る価額によることは平等原則に違反し許されない旨明言されており、さらに「このようなかい離は、本来、評価通達の見直し等によって解消されるべきものといえる」とまで述べている。この匿名解説に示された最高裁判決の考え方が地裁の判断に与える影響も注目されよう。

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