解説記事2023年01月16日 SCOPE 地裁の鑑定評価額を不服とした納税者の控訴は棄却(2023年1月16日号・№962)
固定資産税評価額を否定された国は控訴せず
地裁の鑑定評価額を不服とした納税者の控訴は棄却
競売により一括取得した土地、建物等の評価額を巡り争われていた裁判の一審では、国が主張する固定資産税評価額ではなく鑑定評価額によるべきとの判決が下され、注目を集めた。国側は控訴しなかったが、採用された鑑定評価額が納税者の鑑定評価額ではなく、裁判所の鑑定評価額であったことから、これを不服とした納税者が控訴していた(本誌856号)。
これに対し東京高裁第21民事部(永谷典雄裁判長)も一審で採用された鑑定評価額を支持。納税者の鑑定評価額は、建物等の再調達原価が実際の工事価格ともかい離しており合理的な説明がされていないなどとして、納税者の控訴を棄却した(令和4年12月22日判決)。
敷金債務相当額は未確定債務に該当、不動産の取得価額に算入できず
採用すべき鑑定評価額についての納税者の主張と東京高裁の判断は表のとおり。
【表】採用すべき鑑定評価額についての納税者の主張と高裁の判断
納税者の主張 | 高裁の判断 |
・納税者評価額を採用して本件落札金額の按分を行うべき。 | ・本件鑑定(裁判所鑑定)を採用すべき。 |
・本件鑑定は、対象不動産の類型、地域性、市場参加者の属性当を総合的に勘案して収益価格を標準とし、積算価格を参考にとどめるとしながらも、土地、建物及び内部造作の構成割合を判定するに当たっては原価法を用いているが、その合理的な理由は何ら示されていない。 | ・土地及び建物一体としての収益を算定する手法として収益還元法を採用しつつ、土地と建物の各評価額については、原価法による積算価格を用いて判断することも、不動産鑑定の一つの在り方として実践されていることが認められ、本件鑑定もこの手法を採用したものであって不合理とはいえない。 |
・本件鑑定によると、土地の収益力が建物の収益力の4.5倍に及ぶことになるが、再調達原価を算出するに当たって参考とした本件建物の類似不動産は、繁華性、収益性の点で本件建物の所在地とはその地理的特性が大きく異なっている。 | ・本件鑑定は、本件土地の評価額が本件建物の約4.5倍になると結論付けるものであるが、その積算価格の算定過程に不合理な点は認められず、本件競売評価書においても、本件土地の積算価格が本件建物の約4.3倍と評価しているのであるから、本件鑑定における本件土地と本件建物の収益力評価がアンバランスにすぎるということはない。また、本件鑑定が本件建物の再調達価格を算出するに当たって参考とした本件不動産の類似不動産も、本件建物と同様に港区の周辺区内にあり、都内有数の繁華街に所在する物件であるから、繁華性、収益性の点で地理的特性が大きく異なっているとまでは認められない。 |
・納税者評価書が本件建物の再調達原価を求めるに当たって参照した建設事例は合理的。 | ・納税者評価書において本件建物等の積算価格の基礎とされた再調達原価は1㎡当たり49万2,000円であって、これは、本件鑑定における再調達原価(1㎡当たり23万円)の2倍を超え、本件建物等の実際の工事価格(時点修正後の価格は1㎡当たり約22万円)とも大きくかい離しており、また、納税者評価書の参照した建設事例につき合理的な説明がされたといえないことは原判決のとおり。(原判決:参照された建設事例は、いずれも、地下2階建てであるなど本件建物等と構造や階数が異なる上、建具にも高価な部材等が使用されるなど、相当高額な工事価格によるものであった) |
・本件建物においても、今後の賃料低下のおそれがある一方で、その後の賃料上昇の可能性も見込まれることから、納税者評価書は、状況を総合的に考慮して評価日当時に実現していた現実の賃料を収益価格の算定基礎としたものであり、不合理とは考えられない。 | ・納税者評価書において現行賃料に基づいて賃料収入を算定したことが当時の市場動向を十分に考慮せずにされたものといわざるを得ないことは、原判決に説示するとおり。 (原判決:当時の本件建物の各賃貸物件に係る現行賃料は市場相場よりも高位にあった) |
東京高裁も、一審で採用された鑑定評価額を支持。納税者が本件建物等の積算価格の基礎とした再調達原価は、実際の工事価格ともかい離しており高額であり、また、現行賃料に基づいて賃料収入を算定したことは当時の市場動向を十分に考慮していないとして、納税者の主張を斥けた。
また、納税者は、一審同様、不動産の取得価額として、落札金額のほかに敷金債務相当額を加算すべきとも主張していた。
納税者の主張は、不動産取引における経済的実態として、譲受人が賃貸借契約上の貸主の地位を承継し、それに伴い敷金返還債務を承継する場合、当該敷金返還債務額を不動産価値から差し引いて考えるべきことは、不動産取引上確立した当然の商慣習であり、本件建物の「購入のために要した費用」に当たるというもの。
これに対し東京高裁は、「敷金債務相当額については、不動産取引における経済的実態として、取引価格から控除されることが多く、代金のいわば一部後払いの一面があることは否定できないが、敷金返還債務は飽くまでも賃貸借終了後賃借人が目的物を返還した時に発生するものであり、その時点で賃料の滞納・原状回復費用の未払いなどがあれば、これを差し引くことができるのであって、それまでは具体的な給付額が確定していない」として、これを斥けた。
また、納税者は、「賃借人の未払賃料や原状回復費用等の債務不履行額を敷金から控除して残額を賃借人に返還することの実態は、『本来受領できたはずの賃料』又は『本来負担する必要のない原状回復費用相当額分』等を物件の明渡時点で賃貸人(譲受人)が負担し、支出しているものにほかならず、物件の譲受時点で引受債務相当額(敷金)全額を費用として支出することは既に確定している」などとも主張したが、東京高裁は、「賃借人の未払賃料等の債務不履行額については、これを控除して賃借人に返還することになる敷金返還額とともに、その時点における損金として処理されるべき問題であり、減価償却資産の取得価額に含めることはできない」として、この主張も斥けている。
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