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解説記事2023年02月13日 特別解説 公認会計士と職業倫理 倫理規則の改正(2023年2月13日号・№966)

特別解説
公認会計士と職業倫理 倫理規則の改正

はじめに

 公認会計士は、監査業務や非監査業務の提供先から報酬を得て業務を実施する一方で、後述するように、資本市場の健全な維持発展や財務諸表の利用者である投資者や債権者等の保護をその使命としていることから、顧客である業務提供先からの独立性や倫理規則の遵守がとりわけ重視される。職業会計人である公認会計士が遵守すべき倫理規則は、職業的専門家団体である日本公認会計士協会が定めているが、2022年7月25日付で改正が行われた。
 昭和41年(1966年)に制定された倫理規則は、会計上の不祥事の増加や国際的な規制や倫理規程との調和、投資家のニーズの反映などのために、特に2003年以降は頻繁に改正が行われてきたが、今回の改正はこれまでの例に比べると極めて大幅な、抜本的な改正であった。なお、今後本稿での「倫理規則」とは、すべてこの改正後の倫理規則のことを指す。
 倫理規則は全体で200ページを超える大部であり、専門的で、かつ一般にはあまりなじみがない用語や細かな規則が多いため、本稿で個別の規定について説明することは行わない。その代わりに、倫理規則の体系や構成、倫理規則の根底を流れる基本的な考え方等を中心に概観することとしたい。以降の文章で記載している項番号は、すべて倫理規則のものである。
 なお、倫理規則は、原則として2023年4月1日から施行するとされている。

公認会計士の使命と職業倫理の必要性

 2003年の公認会計士法改正においては、公認会計士の使命が第1条に掲げられた。

 公認会計士は、監査及び会計の専門家として、独立した立場において、財務書類その他の財務に関する情報の信頼性を確保することにより、会社等の公正な事業活動、投資者及び債権者の保護等を図り、もって国民経済の健全な発展に寄与することを使命とする(公認会計士法第1条)。

 そして、職業的専門家団体である日本公認会計士協会が、所属する会員及び準会員(公認会計士、及び公認会計士試験合格者並びに会計士補)がその使命を全うできるように、自主規制として職業倫理に関する規範(倫理規則)を定めている。「倫理規則の目的」では、次のように記載されている。
 「会員及び準会員(以下「会員」という。)は、その使命を自覚し、達成に努めることにより、社会から期待された責任を果たし、もって公共の利益に資することが求められるのであり、個々の依頼人(=被監査会社等)や雇用主(=監査法人や事業会社等)の要請を満たすだけでなく、自らを律しその職責を果たすために厳格な職業倫理に従って行動しなければならない。日本公認会計士協会は、会員が職業的専門家としての社会的役割を自覚し、自らを律し、かつ、社会の期待に応え、公共の利益に資することができるよう、その職責を果たすために遵守すべき倫理の規範として、ここに倫理規則を定める。会員は、本規則の定めるところやその趣旨に注意を払い、これを遵守して行動しなければならず、本規則に定められていない事項についても、本規則の制定の趣旨を正しく理解して行動しなければならない。」
 上記の「倫理規則の目的」には、公認会計士や職業倫理、独立性を考える上でのキーワードでもある「社会(から)の期待」と「公共の利益に資する」という言葉が2回ずつ登場する。また、監査基準の第二「一般基準」の2では、「監査人は、監査を行うに当たって、常に公正不偏の態度を保持し、独立の立場を損なう利害や独立の立場に疑いを招く外観を有してはならない。」と定められており、これが、公認会計士による独立性の保持と職業倫理の遵守の必要性を規定している部分である。なお、倫理規則で「会員」又は「会員又は準会員」とされている部分は、今後は便宜的に「公認会計士」と読み替えることとしたい。

倫理規則の構成と体系

 倫理規則の内容の個別的な説明に入る前に、改正後倫理規則の構成と体系について述べておきたい。
 改正後の倫理規則では、基本原則の遵守及び独立性の保持は倫理規則全体を通じた要求事項であることを強調するため、各セクションに「はじめに」を設け、概要及び背景を記述するとともに、基本原則の遵守、独立性の保持及び概念的枠組みの適用に関する規定を定め、その重要性を強調している。
 また、監査基準報告書と同様に、一般的及び具体的な義務を定める要求事項(「R」が付された項)と要求事項の遵守を支援するためのガイダンスを提供する適用指針(「A」が付された項)とを明確に区別している。
 さらに、国際会計士倫理基準審議会(IESBA)が作成する国際的な倫理規程との整合性や比較可能性を考慮して、項番号の付し方は、100.5 A1、R100.6のように、IESBA倫理規程と同一の付番とされたほか、IESBAの倫理規程のうち、法令等を踏まえて我が国に導入していない規定については、欠番とされた。さらに、我が国固有の規定については、項番号に「JP」を付す、といった工夫がなされている(例えば、(R120.18 JP)。
 次に、倫理規則の体系であるが、次頁の図表のとおり、パート1からパート4、及び用語集に分けられている。

 まずパート1として、組織に所属しているかどうかに関わらず、全ての公認会計士が遵守すべき項目(倫理規則、基本的原則及び概念的枠組みの遵守)が最初の100番台のセクションにまとめられている。次のパート2には、「組織所属の公認会計士」が適用対象となる規定がまとめられている。これらの規定の適用対象者には、いわゆる「組織内会計士(日本公認会計士協会の会員(公認会計士)及び準会員(公認会計士試験合格者等)のうち、会社その他の法人(監査法人、税理士法人及びネットワークファームに該当する法人を除く。)又は行政機関に雇用され、又はその業務に従事している者(役員に就任している者を含む。)」のほか、監査法人などの会計事務所等所属の公認会計士も、会計事務所等という組織の中においては、当該組織に所属する公認会計士であるため、「組織所属の公認会計士」に対する規定が適用されることになる。
 パート3は会計事務所等所属の会員、パート4は、会計事務所等のうち、監査等の保証業務を実施する会計事務所等所属の会員が適用対象となる。このように、パート1からパート4に向けて進むにつれて、適用範囲の広い規定から狭い規定へと絞り込まれる構造になっている点が特徴的である。

倫理規則の基本原則

 倫理規則において、公認会計士は、次の倫理上の5つの基本原則を遵守しなければならないとされている(110.1 A1)。
(1)誠実性
 すべての職業的専門家としての関係及びビジネス上の関係において率直かつ正直であること。
(2)客観性
 次のいずれにも影響されることなく、職業的専門家としての判断又は業務上の判断を行うこと。
① バイアス
② 利益相反
③ 個人、組織、テクノロジー若しくはその他の要因からの過度の影響又はこれらへの過度の依存
(3)職業的専門家としての能力及び正当な注意
① 現在の技術的及び職業的専門家としての基準並びに関連する法令等に基づき、依頼人(被監査会社等)又は所属する組織が適切な専門業務を確実に受けられるようにするために職業的専門家として必要な水準の知識及び技能を修得し、維持すること。
② 適用される技術的及び職業的専門家としての基準に従って、勤勉に行動すること。
(4)守秘義務
 業務上知り得た秘密を守ること。
(5)職業的専門家としての行動
① 関連する法令等を遵守すること。
② 全ての専門業務及びビジネス上の関係において、公共の利益のために行動するという職業的専門家の責任を全うするように行動すること。
③ 職業的専門家に対する社会的信用を傷付ける可能性があることを会員が知っている、又は当然に知っているべき行動をしないこと。
 後述する阻害要因の存在等により、これらの基本原則を遵守することが困難な場合や、職業的専門家としての判断が不当な影響を受けるような場合には、公認会計士等は、当該業務を引き受けてはならないとされている(R112.2他)。

阻害要因と概念的枠組み(フレームワーク)アプローチ

 公認会計士を取り巻く環境は、基本原則の遵守を阻害する様々な要因(阻害要因)を生じさせる可能性がある。倫理規則のセクション120では、概念的枠組みを含め、公認会計士が基本原則を遵守し、公共の利益のために行動するという責任を果たす上で役立つ要求事項及び適用指針を定めている。そのような要求事項及び適用指針は、様々な専門業務、利害及び関係等、基本原則の遵守に対する阻害要因が生じる幅広い事実及び状況を対象としている。また、それらは、特定の状況が倫理規則によって明確に禁止されていないという理由のみによって、当該状況が認められていると公認会計士が結論付けることを未然に防ぐ(120.1)。この最後に記載されている部分が、「細則主義アプローチ」ではなく、「概念的枠組みアプローチ」が求められる最大の理由であると考えられる。
 公認会計士は概念的な枠組みを適用して、次のことを行わなければならない(120.2)。
(1)基本原則の遵守に対する阻害要因の識別
(2)識別した阻害要因の評価(重要性があるかどうか)
(3)阻害要因を除去又は許容可能な水準(事情に精通し、合理的な判断を行うことができる第三者テストを利用する公認会計士が、自らが基本原則を遵守していると結論付ける可能性が高いと考えられる水準)にまで軽減することによるそれらの阻害要因への対処
 公認会計士が基本原則の遵守に対する阻害要因を許容可能な水準にまで効果的に軽減するために講じる、個別の又は複合的な対応策のことを、セーフガードという(120.10 A2)。
 
 公認会計士は、概念的枠組みを適用する際に、次の事項を行わなければならない(R120.5)。
(1)探求心を持つこと。
(2)職業的専門家としての判断の行使
(3)事情に精通し、合理的な判断を行うことができる第三者テストの利用

 なお、「探求心(inquiring mind)を持つ」とは、次のことを意味するとされている(120.5 A1)。
・実施する専門業務の内容、範囲及び結果を考慮し、入手した情報の情報源、関連性及び十分性を検討すること。
・更なる調査又はその他の行動の必要性に目を向け、注意すること。

 基本原則の遵守に対する阻害要因は、次の一つ又は複数の種類に該当するとされている(120.6 A3)。
(1)自己利益
 金銭的その他の利害を有していることにより、公認会計士の判断又は行動に不当な影響を与える可能性があること。
(2)自己レビュー
 公認会計士が現在実施している活動の一環として判断を行うに当たって、当該公認会計士自身又は当該公認会計士が所属する会計事務所等若しくは所属する組織の他の者が過去に行った判断又は実施した活動の結果に依拠し、それらを適切に評価しない可能性が生じること。
(3)擁護
 公認会計士が、その客観性が損なわれるほど、依頼人又は所属する組織の立場を支持する姿勢を示すこと。
(4)馴れ合い
 公認会計士が、依頼人又は所属する組織と長期又は密接な関係を持ち、公認会計士がそれらの者の利害に過度に捉われること、又はそれらの者の作業を安易に受け入れること。
(5)不当なプレッシャー
 現実に生じているプレッシャー又は予見されるプレッシャーにより、公認会計士が不当な影響を受け、客観的に行動できなくなること。

 公認会計士は、識別された基本原則の遵守に対する阻害要因が許容可能な水準にないと判断する場合、それらを除去するか、又は許容可能な水準にまで軽減することにより、当該阻害要因に対処しなければならない。具体的には、公認会計士は次のいずれかによってそれを行わなければならないとされている(R120.10)
(1)利害又は関係を含め、阻害要因を生じさせている状況の除去
(2)利用可能であり、かつ適用可能な場合、阻害要因を許容可能な水準にまで軽減することを目的としたセーフガードの適用
(3)特定の専門業務の辞退又は終了

 上記の(3)は、セーフガードの適用など、あらゆる手を尽くしても、阻害要因を許容可能な水準まで軽減することが出来なかった場合の対応である。

日本公認会計士協会による「倫理宣言」

 日本公認会計士協会は、2022年7月29日に、会員及び準会員(公認会計士や公認会計士試験合格者等)が職業倫理の実践に努めることを意思表明するための「倫理宣言」を公表し、9月には全国紙に広告を掲載した。これは、本稿でも概要を説明した倫理規則の5つの基本原則を踏まえて、次のように宣言している。

1. 誠実性
 私は、職業的専門家として常に誠実な態度を保持し、率直かつ正直に、強い意志を持って適切に行動します。また、重要な虚偽又は誤解を招くような情報、思慮なく提供された情報及び省略又は曖昧にすることにより誤解を生じさせる情報には関与せず、情報の信頼性の確保に努めます。
2. 客観性
 私は、バイアス、利益相反及び個人、組織、テクノロジー又はその他の要因に影響されることなく、職業的専門家として客観的な判断を行います。
3. 職業的専門家としての能力及び正当な注意
 私は、ビジネスの進展やテクノロジーの動向を継続的に把握し、専門業務の提供に必要な知識及び技能を修得及び保持します。また、職業的専門家として、注意深く、適切に、かつ適時にその職責を果たすよう行動します。
4. 守秘義務
 私は、自己又は第三者の利益のために業務上知り得た秘密を利用せず、公共の利益に対する社会の期待を認識し、正当な理由により守秘義務が解除される場合を除き、厳格に、業務上知り得た秘密を守ります。
5. 職業的専門家としての行動
 私は、その職責を果たすに当たり、関連する法令及び適用される基準等を遵守し、公共の利益のために行動するという責任を全うし、職業的専門家に対する社会的信用を守ります。

 変化が激しく、確かなものが見えにくいこの時代に、日本公認会計士協会がタグラインとして掲げる「信頼の力を未来へ」というコンセプトを実現することは容易ではないが、資本市場の維持発展に必要不可欠な社会的インフラとして、地道な取り組みが必要であろう。

終わりに

 「独立性」とは、監査基準にも記載されているように、「公正不偏の(客観的で偏りがない)態度」であり、まずは一人一人の公認会計士の「態度」や「気持ちの問題」である。しかし、それぞれの公認会計士の性格は各人各様であり、また、同じ人物であっても置かれた立場や状況によって態度や振る舞い、考え方は当然に変わってくる。このような「心の内面」を可視化して直接規制の網をかけることは極めて難いし、そうすべきでもないと考えられる。
 そこで、「独立の立場を損なう利害や独立の立場に疑いを招く外観を有してはならない。」という形で、公認会計士や監査事務所が有する外観を媒介にして、間接的に規制をすることになるが、いくら細かな規則を作ったとしても、想定外の事象が生じたり、抜け穴を探すような行為が生じたりすることは避けられない。そこで、いわゆる細則主義ではなく、概念的枠組み(フレームワーク)アプローチが採用されることとなる。こういった流れは、会計の基準である国際財務報告基準(IFRS)等と同様であろう。
 会計にせよ、監査にせよ、職業倫理にせよ、最後は「社会的通念」「人間の良心」「使命感」や「常識」といったことが決め手となることは変わらない。
 「社会的通念」や「常識」は時代や世界の流れを反映して変わりうるものであるが、「人間の良心」や「使命感」までもがそれらに引きずられて安易に流れてしまうようなことは避けたいものである。

参考文献
倫理規則(2022年7月25日最終改正。日本公認会計士協会)
「倫理規則改正及び倫理規則実務ガイダンスについて」 研修資料(2022年10月14日 日本公認会計士協会)
倫理規則の改正概要 研修資料(2022年10月31日 日本公認会計士協会)
倫理規則の改正とこれからの公認会計士の職業倫理のあり方について 第43回研究大会(2022年9月15日 日本公認会計士協会)

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