解説記事2023年02月13日 SCOPE 地裁 経済的利益の移転なく、自用地評価額の80%と判断(2023年2月13日号・№966)
無償返還届出書が提出された土地の評価額は
地裁 経済的利益の移転なく、自用地評価額の80%と判断
「土地の無償返還に関する届出書」が提出されていた土地の評価額が争われていた事案で、東京地裁民事2部(品田幸男裁判長)は令和5年1月26日、借地権設定契約がされても、借地人に対し何ら経済的利益が移転していない場合には、その客観的な交換価値は自用地の80%を下回るものではないと判断。地上権が設定されていることを理由に、自用地評価額から借地権割合70%相当額を控除した価額として評価すべきとの原告の主張を斥けた。
借地権割合70%を控除すべき地上権が設定された土地との原告の主張を排斥
権利金等を支払わずに土地を無償で借りた場合、権利金相当額の受贈益に課税されるが、「土地の無償返還に関する届出書」を税務署に提出すれば、借地権の認定課税は行われない。そのため、法人が経営者の所有する土地を無償で借りる場合等に、当該届出書が提出されることが多い。
本件は、原告が亡母から相続した土地の2分の1については、亡母と原告が主宰する法人I社との間で賃貸借契約がされ、土地の無償返還に関する届出書が提出されていたことから、同部分の時価は宅地の価額の80%相当額であるとして、相続税の更正処分等を受けたことから訴訟に発展した事案である。

原告は、当該土地には、I社を地上権者とする「本件マンション低層階の敷地利用権である地上権」が設定されているから、自用地としての価額から借地権割合70%相当額を控除した価額として評価すべきであると主張した。
東京地裁はまず、第三者が建物所有を目的とする地上権又は土地の賃借権に基づき当該土地を利用している場合には、当該土地は底地価額として評価し、借地権の客観的な交換価値は、当該土地の自用地としての価額に、状況類似地域ごとに定められた国税局長の定める割合を乗じて評価するのが相当である(評価通達25(1)、27)とした。
ただし、「借地権設定契約がされても、土地所有者が現にその利用につき一定の制限を受けるほかには、借地人に対し何ら経済的利益が移転していない場合は、(中略)その客観的な交換価値は自用地としての価額の80%相当額を下回るものではない」との考えを示した。
その上で、「①借地権の設定に際しその設定の対価として通常権利金を支払う取引慣行があると認められる地域であるにもかかわらず、権利金の授受がされておらず、②実際に支払っている地代が通常の地代と同程度かそれよりも低い額であって、③土地所有者と借地人との間で、将来借地人が当該土地を無償で返還する旨合意されている場合には、特段の事情がない限り、借地権設定契約がされても、土地所有者から借地人に対しては何ら経済的利益が移転していないというべきである(相当地代通達5及び8)。」として、本件土地については、上記3つの要件を満たしているから、亡母からI社に対しては何ら経済的利益が移転しておらず、その客観的な交換価値は、自用地としての価額の80%相当額を下回るものではないとの結論を下した。
なお、東京地裁は、無償返還届出書の提出については、「土地所有者から借地人に対し何ら経済的利益が移転していないとの事実を推認させる事情として考慮されるにとどまるというべき」としている。
地上権の承継取得も認められず
そして、原告の主張については、「①亡父、亡母、原告及びI社のいずれもが、地上権が存在するとの認識を有していなかったこと、②亡母及びI社は、地上権が登記簿上存することを知った後も、これを前提とした行動は一切採らなかったこと、③本件マンション低層階の敷地利用権である地上権の対価として権利金も地代も支払われていないことからすれば、仮に、原告が主張するように本件マンションの敷地部分にI社を地上権者とする地上権が設定されていたとしても、亡母とI社との間では、当該地上権の経済的価値はないものとして取り扱われていたものと認められる」として斥けた。
また、I社が住宅公社から地上権を承継取得したという原告の主張についても、住宅公社とI社との間で地上権の移転に関する契約書が作成されたことはなく、登記移転原因も贈与とされていることなどから、「平成21年1月に住宅公社からI社に対して地上権設定登記の持分移転登記がされているものの、これに伴い、I社が本件マンション低層階の敷地利用権として何らかの経済的価値のある権利を取得したと認めることはできず、これにより、本件マンション低層階の敷地部分の客観的な交換価値が減少したということはできない」として、斥けている。
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