解説記事2023年05月01日 SCOPE 地裁、賠償責任保険準備金を租税負担割合の分母に加算(2023年5月1日号・№977)
キャプティブへのCFC税制適用で納税者敗訴
地裁、賠償責任保険準備金を租税負担割合の分母に加算
キャプティブ保険会社へのタックスヘイブン対策税制の適用を巡り争われた事案で、東京地裁民事38部(鎌野真敬裁判長)は令和5年1月27日、原告のキャプティブ保険子会社の賠償責任保険準備金積立額は、租税負担割合の計算上問題とされる「異常危険準備金に類する準備金の額」に当たり、これを踏まえて租税負担割合を計算すると、租税負担割合は0%となることから、キャプティブ保険子会社は特定外国子会社等に該当するとして、更正処分等を適法とした。
原告、傷害保険のみへの準備金積立方針と異なる収入計算書の誤りを主張
本件は、マッサージ業を営む内国法人(原告)のマレーシア領ラブアンに所在するキャプティブ子会社が特定外国子会社等に該当するかどうかが争われた事案である。
事案の概要は図のとおり。原告の完全子会社ら(平成26年3月期は5社、平成27年3月期は6社、平成28年3月期は7社)は、被保険者を原告及び当該完全子会社の従業員とする傷害保険契約をG社との間で締結し、G社とC社との間で再保険契約、C社とキャプティブ子会社B社との間で再々保険契約が締結された。平成28年3月期には、子会社7社のうちの3社が、同社のセラピストを被保険者とする賠償責任保険契約(セラピストの業務遂行に起因して第三者の身体に損害を与えて第三者が死亡した場合に被保険者が負うべき法律上の損害賠償責任を補償するもの)をG社と締結し、同様に再保険契約、再々保険契約が締結された。

B社の平成28年3月期の収入計算書には、傷害保険に係る保険準備金として約82万米国ドルが、賠償責任保険に係る保険準備金として約38万米国ドルが費用の額として経理され、合計120万米国ドルの保険準備金積立額が計上されていた。
異常危険準備金、高率の繰入れが問題視
争点となったのは、本件賠償責任保険準備金積立額が租税負担割合の計算上問題とされる措置法施行令39条の14第2項1号ニ(現行の39条の17の2第2項1号イ(4))に規定する「異常危険準備金に類する準備金の額」に該当するかどうかだ。
諸外国の中には、保険会社に対して著しく高率の準備金の繰入れを認めている国があり、その繰入限度額が不相当に高額な場合には、課税所得が長年にわたって繰り延べられ、実質的に非課税措置と同様の効果を有する場合がある。そこで、上記規定は、我が国の法令に従って再計算することを求めている。具体的には、異常危険準備金に類する準備金は、租税負担割合の計算上、分母に加算することとされている。つまり、異常危険準備金に類する準備金に該当すれば、租税負担割合が低くなり、特定外国子会社等に該当する可能性が高くなるということだ。
合理的理由に基づかず事後的に訂正
本件においては、平成28年3月期の確定申告後に税務調査が入り、本件収入計算書について質問調査を受け、平成30年2月に、本件賠償責任保険準備金積立額を0米国ドルとし、傷害保険に係る保険準備金の積立額を120万米国ドルとする訂正が行われた。
そのため、裁判ではまず、「異常危険準備金に類する準備金の額」の該当性の判断に当たり、事後的に訂正された本件訂正後収入計算書を考慮すべきかどうかが検討された。
原告は、B社には、傷害保険のみについて保険準備金を積み立てるという方針があり、当該方針に沿わずに傷害保険及び賠償責任保険の双方に保険準備金が積み立てられた本件収入計算書は誤りであると主張した。これに対し東京地裁は、①B社の保険準備金の積立ての状況、経緯等、②経理担当者らに、保険準備金を障害保険のみに積み立てるという認識がなかったこと、③B社の取締役らにおいて、本件収入計算書の存在を指摘されるまでに訂正等の対応をとらなかったことなどを指摘し、傷害保険及び賠償責任保険の双方について保険準備金が積み立てられることとなったものと認めるのが相当であるとした。
その上で東京地裁は、本件収入計算書は、B社における保険準備金の積立状況を正確に反映したものであり、原告の主張するように「誤記」であるとはいえないから、これを基礎として租税負担割合を算定すべきとし、他方、本件訂正後収入計算書は、決算として確定したものを合理的理由に基づかず事後的に訂正したものであるから、租税負担割合の算定の基礎とすることはできないとした。
そして、本件収入計算書を基礎とすると、本件賠償責任保険準備金積立額は、措置法施行令39条の14第2項1号ニに規定する「異常危険準備金に類する準備金の額」に当たり、これを踏まえて租税負担割合を計算すると、租税負担割合は0%となることから、B社は特定外国子会社等に該当すると結論づけた。
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