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解説記事2023年05月15日 SCOPE 地裁、冠婚葬祭会社の前受金を確実な債務と認めず(2023年5月15日号・№978)

1株当たり純資産価額の算定で控除不可
地裁、冠婚葬祭会社の前受金を確実な債務と認めず


 原告らの亡母が生前に法人に譲渡した冠婚葬祭会社株式の1株当たり純資産価額の算定をめぐり争われていた事案で、東京地裁民事38部(鎌野真敬裁判長)は令和5年4月21日、冠婚葬祭会社が会員から受領した掛金(前受金)のうち雑収入に振り替えられた部分について、確実と認められる債務に該当しないとして控除しなかった原処分を適法とした。

取引相場のない株式は画一的評価、各債務の履行の蓋然性は個別に評価せず

 原告らの亡母が株式を保有していたS社は、割賦販売法2条6項に規定する前払式特定取引に該当する冠婚葬祭等に関する役務の提供等を行う株式会社で、S社との間で互助会契約を締結した会員が毎月一定額の掛金を支払うことによって、冠婚葬祭の儀式に関するサービスが受けられる冠婚葬祭互助会を運営していた。
 S社が互助会契約に基づいて会員から支払を受けた掛金は、割賦販売法18条の3第1項に規定する前受金に当たり、当該契約によって生じたS社の債務が同条2項に基づく前受金保全措置の対象となる法律上の債務であることから、原則として、会計上も負債として計上されていたが、会員が掛金の支払を中断してから一定期間が経過するなどした場合、雑収入に振替計上されていた。本件で主な争点となったのは、この「雑収入計上済既払掛金」(S社が引き続き当該掛金に係る法律上の債務を負うもののうち、会計上は負債として計上されていないもの)が、1株当たり純資産価額の算定において控除できるかどうかである。
一般的合理性を有する評価方法ならOK
 本件譲渡は、所得税法59条1項2号にいう低額譲渡に該当し、本件株式は、所基通23~35共−9の(4)ニの株式及び評価通達における取引相場のない株式に該当する。
 東京地裁はまず、取引相場のない株式の客観的交換価値は必ずしも一義的に確定されるものではなく、これを個別に評価することとすると、その評価方法及び基礎資料の選択の仕方等により異なった評価額が生じることが避け難く、また、課税庁の事務負担が重くなり、課税事務の迅速な処理が困難になるおそれがあることなどから、あらかじめ定められた評価方法によって画一的に評価すること(所基通59−6、23~25共−9、評価通達178~189−7)が、納税者間の公平、納税者の便宜及び徴税費用の節減という見地から見て合理的であるとの解釈を示した。
 そして、所基通及び評価通達の定める評価方法が、当該株式の価額すなわち客観的交換価値を算定する方法として一般的な合理性を有するものといえる場合においては、これに従って算出された価額は、特別の事情の存しない限り、その客観的交換価値を超えるものではないと推認できるとの考えを示した。
企業価値評価等とは前提が異なる
 続いて東京地裁は、評価通達185は確実と認められる債務に限って純資産価額の計算上控除する趣旨であるとの解釈を示し、このような評価方法は、将来履行されるか否かが不確実であるため、当該株式の客観的交換価値を低下させないような債務を控除の対象から除外する趣旨によるものであり、株式の客観的交換価値について、あらかじめ定められた画一的な評価方法によりつつ、これを適切に算定するための方法として、一般的な合理性を有するものということができるとの考えを示した。
 原告らは、企業価値評価及び株式評価の実務では、確実と認められる債務に該当しない債務も考慮されており、履行の可能性が高く、将来において法人の純資産を減少させる可能性が高い債務についてまで、確実と認められる債務に該当しないとして控除しないとなると、かえって当該株式の客観的交換価値を適切に評価できなくなると主張した。
 これに対し東京地裁は、①譲渡時価額の評価を含む課税標準の計算に当たっては、あらかじめ定められた評価方法によって画一的に評価することが要請されており、企業価値評価等とはその前提が異なる、②発行会社が負う各債務が現実に履行される蓋然性の多寡等について個別に評価することは画一的な評価の要請にそぐわないなどとして、原告らの主張を斥けた。
実際に資産を減少させた割合は30%
 その上で、雑収入計上済既払掛金対応債務が確実と認められる債務に当たるかについて検討した結果、通産省通達及び協会基準、S社における運用によれば、一般に、冠婚葬祭の施行又は解約返戻金の支払等が請求される蓋然性が低いと考えられる掛金について、雑収入への計上が認められており、現に、冠婚葬祭の施行等に用いられ、又は解約返戻金として払い戻され、「復活損」として計上される割合は、約30%にとどまることなどを指摘。雑収入計上済既払掛金全体について、S社の資産を減少させることが確実と認めることはできないとして、1株当たり純資産価額によって評価するに当たり負債として控除しなかった処分が違法とはいえないと結論づけた。

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