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解説記事2023年09月04日 SCOPE 外国親法人からの利息債務の消滅の際に源泉徴収義務あり(2023年9月4日号・№993)

租税条約の「支払」には支払債務の免除も該当
外国親法人からの利息債務の消滅の際に源泉徴収義務あり


 外国法人である親法人による利息債務の免除が所得税法212条1項の「支払」に該当し、源泉徴収義務があるか否かが争われた裁決で、国税不服審判所は、租税条約における「支払」の意義は日本の所得税法と同様、支払と同視すべき事実によって支払債務が消滅する一切の場合が含まれ、支払債務の免除があった際に源泉徴収義務を負うとの判断を示し、請求人の請求を棄却した(大裁(諸)令4第2号)。

支払債務の免除は日ル租税条約の「支払」に含まれないと主張

 本件は、原処分庁が、外国法人である親法人から事業買収に係る株式購入資金の立替払いを受けていた請求人に対し、立替金の一部に係る支払利息について親法人から債務免除を受けたとして源泉所得税の納税告知処分及び不納付加算税の賦課決定処分を行ったところ、請求人が親法人から支払利息についての債務免除を受けたことなどを争い、その全部の取消しを求めた事案である。
 請求人は、平成26年8月29日に親法人(ルクセンブルク大公国に設立された外国法人)との間で、親法人が事業買収に係る株式購入費金を立替払いすることを定めた契約を締結。その後、平成28年2月24日には、利息に係る債権債務を消滅させる旨のクレジット・ノートを電子メールにより受領し、平成28年3月18日には、親法人との間で、利息債務を免除することを確認する取決書を締結した。
 請求人は、利息債務に係る所得税には日ル租税条約の適用があり、同条約の規定にいう「支払」とは、債務者によって債権者が資金を自由に処分できる状態にする義務の履行をいうから、所基通181~223共−2に定める支払債務の免除は同条約の規定にいう「支払」に含まれず、利息債務の消滅は所得税法212条1項に規定する「支払」によるものではないなどと主張した。

支払と同視すべき事実によって支払債務が消滅する一切の場合を含む

 審判所は、所得税法212条1項の規定にいう「支払」には、金銭債務を負う者が債権者に対して弁済のために現実に金銭を交付する最も一般的な形態のみならず、支払と同視すべき事実によって支払債務が消滅する一切の場合が含まれるとし、支払債務の免除は、債務の消滅原因である上、債権者が自らの意思で弁済によって受ける経済的利益を放棄するに等しく、その実質において、債権者が弁済によって現実に受領した金銭を任意に処分する場合と異なるところがないから、支払者の債務超過の状態が相当期間継続してその支払ができないと認める場合に行われたものであるなどの事情がない限り、「支払」に含まれると解するのが相当であるとした。
 その上で審判所は、日ル租税条約における「支払」の意義については日本の所得税法と同様、支払と同視すべき事実によって支払債務が消滅する一切の場合が含まれ、これには原則として支払債務の免除も含まれると解するのが相当であるとした。また、利息債務の消滅は取決書に記載されているとおり、クレジット・ノートの授受による利息債務の免除によって生じたものというべきであり、その実質において、親法人が一旦利息債務の弁済によって受領した金銭を任意に処分するのと異ならないから、所得税法212条1項の「支払」に当たるとの判断を示した。
 したがって、審判所は、利息債務はクレジット・ノートが授受された平成28年2月24日に所基通181~233共−2にいう支払債務の免除があり、その時が所得税法212条1項の「支払の際」に当たり、請求人は平成28年2月分の利息債務の「支払」に係る源泉徴収義務を負うとした。

【表】当事者の主な主張

原処分庁 請求人

 所基通181~223共−2に定める支払債務の免除は、次のとおり、所得税法212条1項に規定する「支払」に当たる。日ル租税条約は、支払債務の免除が所得税法212条1項に規定する「支払」に該当しない根拠とはならない。
・所基通181~223共−2は、源泉徴収の対象となるものの支払者が源泉徴収の対象となるもので未払のものにつき支払債務の免除を受けた場合、当該債務の免除があった時に支払があったものとする旨定めている。そして、日ル租税条約の規定にいう「支払」には、支払に係る債務が金銭債務である場合、債務者が債権者に対して弁済のために現実に金銭を交付する行為のみならず、債務免除など支払義務の消滅する一切の行為が含まれると解するのが相当である。
・日ル租税条約3条2項は、一方の締約国によるこの条約の適用上、同条約で定義されていない用語については、文脈により別に解釈すべき場合を除くほか、同条約の適用を受ける租税に関する当該一方の締約国の法令における当該用語の意義を有するものとする旨規定している。そして、所基通181~223共−1(支払の意義)及び所基通181~223共−2は、日本国の所得税法の源泉徴収に関する規定における「支払」には、支払債務の免除を含む支払義務の消滅する一切の行為が含まれることを明らかにしている。したがって、日ル租税条約にいう「支払」は、必ずしも資金の移動が生じることを要件とするものではなく、債務免除など支払義務の消滅する一切の行為を含むものである。

 所基通181~223共−2に定める支払債務の免除は、次のとおり、日ル租税条約の規定にいう「支払」に該当しないから、所得税法212条1項に規定する「支払」にも当たらない。
・日ル租税条約の規定にいう「支払」とは、債務者によって債権者が資金を自由に処分できる状態にする義務の履行をいう。債務免除は、債務者の義務の履行に基づく資金の移動を伴わず、債権者の一方的な行為によって成立することから、上記「支払」には含まれない。そして、日ル租税条約は、日本国憲法98条2項が租税条約優先主義を採用していることから、国内法の定めに優先するため、日ル租税条約の規定にいう「支払」に含まれない債務免除は、所得税法212条1項の規定にいう「支払」にも当たらない。
・原処分庁が根拠とする日ル租税条約3条2項の規定は、同条約で定義されていない用語の意義を文脈により別に解釈すべき場合には適用がない。同条約の規定にいう「支払」の意義を文脈により債権者が資金を自由に処分できる状態にする義務の履行と解すべきことは上記のとおりであるから、原処分庁の主張には理由がない。

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