解説記事2024年03月18日 SCOPE 米国で課税されない保険料、租税負担割合の分母に算入(2024年3月18日号・№1019)

高裁もキャプティブ保険会社にCFC税制適用
米国で課税されない保険料、租税負担割合の分母に算入


 原告のキャプティブ保険子会社がタックスヘイブン対策税制(CFC税制)の適用対象となる租税負担割合20%以下要件を満たすかどうかが争われた事案で、東京高裁第5民事部(木納敏和裁判長)は令和6年3月6日、納税者の控訴を棄却した。
 東京高裁は、米国の内国歳入法(以下、米国歳入法)に基づき課税の対象とならなかった保険料収入は、租税負担割合の計算式の分母に加算する「課税標準外所得金額」に含まれ、その結果、租税負担割合は20%以下となりCFC税制が適用されるとした原判決を支持した。

「課税標準外所得金額」は外国法令で明示的に定めているものに限らず

 米国歳入法によれば、保険料収入が120万ドル(2017年以降は220万ドル)を超えない場合であって、保険会社が同法831条(b)項に定める小規模保険会社課税の適用を選択するときは、課税投資所得に対して税が課されることとなるが、保険料収入はこの課税投資所得には含まれない。本件では、この措置により課税されなかったK社の保険料収入が、租税負担割合の計算式の分母に加算する「その本店所在地国の法令の規定により外国法人税の課税標準に含まれないこととされる所得の金額(課税標準外所得金額)(現行の措令39条の17の2②一イ(1))に当たるか否かが争われた。分母に含まれれば、租税負担割合は20%以下となり、CFC税制が適用される。


 一審の東京地裁は、本件保険料収入は「課税標準外所得金額」に算入されるべきとして、CFC税制を適用した課税処分は適法との判決を下していた。
 これに対し原告は、ある所得が「課税標準外所得金額」に該当するかどうかは、当該外国法令の定めによって明確に課税標準に含まれないと規定されているかどうかによって判断されるべきと主張した。
 東京高裁は、「本店所在地国の法令において、特定の所得について課税標準に含まれないことを明示的に定めている場合と、課税の対象となる所得の金額の計算上、決算に基づく所得の金額から控除される結果、その控除された部分に対する課税がされないこととなる場合とで、本店所在地国における税負担は実質的に異なるものではないにもかかわらず、我が国が規定のあり方を定めることができない本店所在地国の法令の定め方いかんによって本邦における税負担との比較において両者を異なる取扱いとすることは、外国子会社合算税制の目的を達成する観点からも、課税の公平の観点からも、相当とはいえない」との考えを示し、原告の主張を斥けた。
保険料収入は税額算定の基礎とされておらず
 また、原告は、収支相等の原則から、米国歳入法831条(b)項は、所得認識上はいわば相殺的位置づけにある収益サイドの受取保険料と費用サイドの支払保険金及び保険責任準備金を同額のものとして両建てしているのであり、収益サイドの受取保険料収入に係る所得を非課税としているわけではないから、同条(a)項の場合も同条(b)項の場合も、課税ベースは実質的には同等であると主張した。
 しかし東京高裁は、控訴人の主張は、同条(a)項及び同条(b)項の規定の実質的根拠や立脚する考え方を説明するものにすぎず、仮に同条(b)項がそのような根拠や考え方に基づき規定されたものであったとしても、ある所得金額が課税標準に含まれているか否かは、税率を乗じる対象として税額の算定の基礎とされているか否かにより判断するのが相当であるとして、本件保険料収入は「課税標準外所得金額」に含まれるとした。
責任準備金の控除も不可
 さらに原告は、控訴審における追加主張として、「K社の基準所得金額の計算において責任準備金の金額を控除すべき」と主張した。
 これに対し東京高裁は、K社は、米国法上、責任準備金の積立ては義務付けられておらず、計算方法も定められていないのであるから、日本の保険業法上は責任準備金の積立てが強制され、関係法令や通達が定める方法により算出している旨の控訴人の主張を考慮しても、計上された責任準備金の額が、類型的に、控訴人ないしK社の恣意が入り込みにくいとも、利益操作に悪用されにくいともいい難く、公正会計処理基準に適合しない疑いがあるとした。また、控訴人が当該主張を控訴審に至って初めてした上、貸借対照表及び損益計算書の修正を複数回繰り返していること等からも認められないとしている。

当ページの閲覧には、週刊T&Amasterの年間購読、
及び新日本法規WEB会員のご登録が必要です。

週刊T&Amaster 年間購読

お申し込み

新日本法規WEB会員

試読申し込みをいただくと、「【電子版】T&Amaster最新号1冊」と当データベースが2週間無料でお試しいただけます。

週刊T&Amaster無料試読申し込みはこちら

人気記事

人気商品

  • footer_購読者専用ダウンロードサービス
  • footer_法苑WEB
  • footer_裁判官検索