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解説記事2024年03月25日 判例評釈 取引相場のない株式の評価における総則6項適用の可否−東京地判令和6年1月18日−(2024年3月25日号・№1020)

判例評釈
取引相場のない株式の評価における総則6項適用の可否
−東京地判令和6年1月18日−
 弁護士 迫野馨恵

第1 はじめに

 相続税法22条は相続税における相続財産の評価の原則を定めており、「特別の定めのあるものを除くほか、相続、遺贈又は贈与により取得した財産の価額は、当該財産の取得の時における時価」により評価することとしている。この時価とは「当該財産の客観的な交換価値をいう」とされている(脚注1)が、その評価方法は一部を除いて法令上定められておらず、実務上、財産評価基本通達(以下「評価通達」という。)により評価されている。
 評価通達では時価の意義について、課税時期においてそれぞれの財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額をいい、その価額は、評価通達の定めによって評価した価額によることとされており、財産の評価に当たっては、その財産の価額に影響を及ぼすべきすべての事情を考慮するとされている(評価通達1項(2)(3))。
 もっとも、評価通達6項において、評価通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価することとされている(以下「総則6項」という。)。
 総則6項については、最高裁判例(最判令和4年4月19日(以下「令和4年最判」という。))がある。この事案では、相続した不動産の評価が問題となり、総則6項を適用して評価通達による評価額を上回る価額とすることについて、租税法上の一般原則としての平等原則の例外として認められるか否かという観点からの判断が示された。
 本稿において紹介する東京地判令和6年1月18日(脚注2)(以下「本判決」という。)の事案は、相続した取引相場のない株式について、課税庁が総則6項に基づき評価通達とは異なる方法で評価して更正処分等を行い、その適否が問題となったものである。本判決は令和4年最判の判断枠組みを使用しつつ、結論としては総則6項の適用を否定しており(脚注3)、以下ではその概要を確認し、平等原則の例外が認められる事情について検討を行いたい。

第2 事案の概要

1.株式の相続及び売却(上記参照)

2.相続税の申告及び更正処分等
 評価通達上、取引相場のない大会社の株式の評価は、納税者の選択により類似業種比準価額又は純資産価額のいずれかの方法で評価することとされているところ、X1、X2及びBは、甲社株式の価額について類似業種比準価額によることとし、評価通達の定めに従って1株当たり8186円(以下「本件通達評価額」という。)と評価して相続税の申告を行った。
 これに対し、課税庁は、総則6項を適用し、課税庁が依頼した大手アドバイザリー会社作成の株式価値算定報告書に基づき甲社株式の価額を1株当たり8万0373円(以下「本件算定報告額」という。)と評価し、更正処分等を行った。

第3 争点及び本判決の概要

 本件の争点は、総則6項を適用して甲社株式を株式価値算定報告書に従って評価することの適否であり、結論として、裁判所は総則6項の適用を認めず、原告らの請求を認容し更正処分等を取り消した(脚注4)。
 裁判所は、令和4年最判の判断枠組みに沿って判断しており、同判断枠組みについて以下のとおり述べた上で、本判決の事実関係に当てはめて判断した。

1.令和4年最判の判断枠組み
・相続税法22条の時価とは相続等により取得した財産の客観的な交換価値をいい、評価通達は時価の評価方法を定めたものであるが、行政機関内部の通達にすぎず、国民に対し直接の法的効力を有するというべき根拠は見当たらない。
・相続税の課税価格に算入される財産の価額は、当該財産の取得の時における客観的な交換価値としての時価を上回らない限り、同条に違反するものではなく、このことは、当該価額が評価通達の定める方法により評価した価額を上回るか否かによっては左右されない。
・他方、租税法上の一般原則としての平等原則は、租税法の適用に関し、同様の状況にあるものは同様に取り扱われることを要求するものと解される。そして、評価通達は相続財産の価額の評価の一般的な方法を定めたものであり、課税庁がこれに従って画一的に評価を行っていることは公知の事実であるから、課税庁が、特定の者の相続財産の価額についてのみ評価通達の定める方法により評価した価額を上回る価額によるものとすることは、たとえ当該価額が客観的な交換価値としての時価を上回らないとしても、合理的な理由がない限り、上記平等原則に違反するものとして違法というべきである。
・もっとも、相続税の課税価格に算入される財産の価額について、評価通達の定める方法による画一的な評価を行うことが実質的な租税負担の公平に反するというべき事情がある場合には、合理的な理由があると認められるから、当該財産の価額を評価通達の定める方法により評価した価額を上回る価額によるものとすることも上記の平等原則に違反するものではないと解するのが相当である。ただし、本件通達評価額と本件算定報告額との間に大きなかい離があるということのみをもって直ちに上記事情があるということはできない。

2.当てはめ
 本判決は、「評価通達の定める方法による画一的な評価を行うことが実質的な租税負担の公平に反するというべき事情」を「特段の事情」と定義した上でその有無を判断している。
(1)令和4年最判が租税回避行為をしなかった他の納税者との不均衡、租税負担の公平に言及している点に鑑みると、租税回避行為をしたことによって納税者が不当ないし不公平な利得を得ている点を問題にしていることがうかがわれる。
(2)本件は、令和4年最判の事案とは異なり、被相続人及び相続人らが相続税その他の租税回避の目的で甲社株式の売却を行った(又は行おうとした)とは認められない。
  そうすると、更正処分等の適否は、相続開始日以前に本件通達評価額を大きく超える金額での売却予定があった甲社株式について、実際に相続開始日直後に当該金額で予定どおりの売却ができ、その代金を相続人らが得たことをもって、この事実を評価しなければ、「(取引相場のない大会社の株式を相続しながら評価通達の定める方法による評価額を大幅に超えるこのような売却による利益を得ることができなかった)他の納税者と原告らとの間に看過し難い不均衡を生じさせ、実質的な租税負担の公平に反する」といえるかどうかによって判断すべきこととなる。
(3)本件では、相続開始日以前からAが甲社株式の売却の交渉をしており、かつ、乙社との間で譲渡予定価格まで基本合意していたという事情が認められるが、Aの相続開始により乙社が株式の買取りを取りやめる可能性もあったことがうかがわれ、本件基本合意が相続後もそのまま存続するかが不透明な状況であったこと等を踏まえれば、相続開始日以前から譲渡予定価格が事実上合意されていたという事情を殊更重視するのは相当ではなく、特段の事情ということはできない。
(4)本件のように、相続財産となるべき株式売却に向けた交渉が相続開始前から進行しており、相続開始後に実際に相続開始前に合意されていた価格で売却することができ、かつ、当該価格が評価通達の定める方法による評価額を著しく超えていたという事実をもってしても、直ちに納税者側に不当ないし不公平な利得があるという評価をすることは相当ではない。
  総則6項を納税者の不利に適用するに当たっては、不均衡や不利益等を納税者に甘受させるに足りる程度の一定の納税者側の事情が必要と解すべきである。例えば、被相続人の生前に実質的に売却の合意が整っており、かつ、売却手続を完了することができたにもかかわらず、相続税の負担を回避する目的をもって、他に合理的な理由もなく、殊更売却手続を相続開始後まで遅らせたり、売却時期を被相続人の死後に設定しておいたりしたなどの場合であるとか、令和4年最判の事例のように、納税者側が、それがなかった場合と比較して相続税額が相当程度軽減される効果を持つ多額の借入れやそれによる不動産等の購入といった積極的な行為を相続開始前にしていたという程度の事情が特段の事情として必要なものと解される。
(5)本件では、甲社株式の売却手続が進行中にAが死亡しているところ、その手続が遅れたとか、本来はAの生前に売却手続を完了することができたといった事情は認められない。
  よって、本件において特段の事情はないものというほかはないから、甲社株式の価額については本件通達評価額によって評価すべきであり、総則6項を適用して本件算定報告額を用いて甲社株式を評価した更正処分等は、令和4年最判の示した判断枠組みに照らし、平等原則という観点から違法である。

第4 検  討

1.通達評価額を上回る価額による更正処分の適否
 令和4年最判では、相続税の課税価格に算入される不動産の価額について、評価通達の定める方法により評価した額(以下「通達評価額」という。)を上回る額を相続財産の価額とした更正処分の適否が問題となったが、調査官による解説(以下「令和4年最判解説」という。)(脚注5)では、判断枠組み(相続税法22条の「時価」の問題と平等原則の問題との区別)や、当該価額を通達評価額を上回る価額によるものとすることが平等原則に違反しない場合についての法理判断は、通達評価額を上回る額を相続財産の価額としてされた更正処分の適否が問題となる事案一般に妥当するとされている。
 取引相場のない株式の価額が問題となった本判決においても、令和4年最判の判断枠組みにより平等原則という観点から更正処分等が違法か否かを判断しており、不動産以外の相続財産の価額についても令和4年最判の射程が及ぶことが明らかになったと考えられる。

2.評価通達の意義
 評価通達は、「財産評価の基本的な方針を定めたのち、納税者間の公平の維持、納税者および租税行政庁双方の便宜、徴税費の節減等の観点から各種財産について画一的かつ詳細な評価方法を定めている」とされている(脚注6)。
 また、裁判例においても、評価通達に定められた画一的な評価方式によって相続財産を評価することの意義について「納税者間の公平、納税者の便宜、徴税費用の節減という見地からみて合理的であるという理由に基づくものである」とされている(脚注7)。
 このように、評価通達の意義については、多種多様な財産の時価を的確に評価することが必ずしも容易ではないことから、課税庁内部の取扱いを統一するとともに、納税者間の公平の維持に資すると考えられている。

3.相続税法22条における「時価」と通達評価額
 令和4年最判以前には、通達評価額について、「通達に規定する評価方法によるべきではない特別な事情がない限り、同通達に規定する評価方法によって評価するのが相当であり、同通達に規定する評価方法に従い算定された評価額をもって『時価』であると事実上推認することができるものというべきである」として、時価と推認できるとし、評価通達に規定する評価方法によるべきではない「特別な事情」の有無を判断する裁判例(脚注8)も見受けられた。
 これに対し、令和4年最判は、相続税の課税価格に算入される財産の価額は、当該財産の取得の時における客観的な交換価値としての時価を上回らない限り、相続税法22条に違反するものではなく、このことは、当該価額が通達評価額を上回るか否かによって左右されないとしている。そして、通達評価額によるべきか否かについては相続税法22条の時価の問題ではなく、租税法上の一般原則としての平等原則の問題としており、「評価通達の定める方法による画一的な評価を行うことが実質的な租税負担の公平に反するというべき事情」(以下「実質的な租税負担の公平に反するというべき事情」という。)がある場合には、合理的な理由があると認められるとして、事案に即して平等原則の例外が認められるかを判断している。

4.租税法上の平等原則
 租税法の基本原則の一つである租税公平主義は、税負担は国民の間に担税力に即して公平に配分されなければならず、各種の租税法律関係において国民は平等に取り扱われなければならないとする原則をいい、租税平等主義とも呼ばれており、「担税力に即した課税」と租税の「公平」ないし「中立性」を要請するものとされている(脚注9)。
 このうち公平ないし中立性の原則は、憲法14条1項に由来する「平等取扱原則」ないし「不平等取扱禁止原則」を内容とするもので、課税のうえで、同様の状況にあるものは同様に、異なる状況にあるものは状況に応じて異なって取り扱われるべきことを要求するとされており(脚注10)、合理的な差別は容認されていると考えられる。
 令和4年最判以前の裁判例においては、評価通達に定められた評価方法を画一的に適用するという形式的な平等を貫くことによって、かえって実質的な租税負担の公平を著しく害することが明らかな場合など、特別な事情がある場合には、他の合理的な方法によることが許されるものと解すべきであり、このことは総則6項の定めからも明らかであるとするものが見受けられた(脚注11)。
 これに対し令和4年最判では、総則6項に触れることなく、租税法上の一般原則としての平等原則の例外が認められるかといった観点から判断しているが(脚注12)、例外が認められる事情として、従前の裁判例が挙げていた「実質的な租税負担の公平」を考慮していることから、判断基準の内実が大きく変更されたとはいえないように思われる。

5.平等原則の例外が認められる場合
(1)実質的な租税負担の公平に反するというべき事情

 令和4年最判では、実質的な租税負担の公平に反するというべき事情がある場合には、相続財産の価額を通達評価額を上回る価額によるものとすることが許されるとして、平等原則の例外が認められる場合を示しており、本判決も当該事情の有無を判断している。
 この「実質的な租税負担の公平に反するというべき事情」について、令和4年最判解説(脚注13)では、「このような事情を網羅的、一般的に整理することは性質上困難であるが、実質的な租税負担の公平を問題とする以上、これに影響する当該財産の取得の経緯等の事情も含まれ得る一方、通達評価額によることが他の納税者との間の租税負担の均衡を害することになる事情に限られるというべきであり、そのような事情に当たるか否かを具体的に検討する必要があると考えられる」と説明されている。
 以下、本判決を踏まえ、どのような場合に実質的な租税負担の公平に反するというべき事情が認められるのかを検討する。
(2)通達評価額とのかい離
 本判決の事案では、本件通達評価額と譲渡予定価格又は本件算定報告額との間には約10倍の大きなかい離があった。
 この点、令和4年最判は、通達評価額との大きなかい離をもって実質的な租税負担の公平に反するというべき事情があるということはできないと判示しており、本判決においても、かい離があるということのみをもって直ちに同事情があるということはできないとしている。
 上記のとおり、評価通達による画一的な評価は、納税者間の公平の維持、納税者及び租税行政庁双方の便宜、徴税費の節減等の観点から納税者と課税庁双方にとって便宜的に定められているものである。
 そのため、通達評価額と実勢価格や課税庁による算定価額との間に大きなかい離が生じることは、同様のかい離がある財産を相続することとなる納税者一般に生じ得ると考えられ、当該事情のみをもって実質的な租税負担の公平に反するというべき事情と判断することはできないと考えられる(脚注14)。
(3)被相続人や相続人の行為
 令和4年最判は、被相続人らが不動産の購入及びその購入資金の借入れを行ったことにより、評価通達の定める方法により評価すると相続税の負担が著しく軽減されることになる点、及び租税回避の軽減をも意図して当該購入及び借入れを実施している点を、実質的な租税負担の公平に反するというべき事情の判断にあたり考慮している。
 この点の射程範囲につき令和4年最判解説(脚注15)では、事例判断ではあるが考え方は不動産以外の相続財産が問題となる事案においても参考になると説明されている。
 そして、本判決では、令和4年最判が租税回避行為をしたことによって納税者が不当ないし不公平な利得を得ている点を問題にしていることがうかがわれるとして、Aや相続人らが租税回避の目的で甲社株式の売却を行った(又は行おうとした)とは認められないことを前提に、実質的な租税負担の公平に反するといえるかを判断し(上記第32(1)(2))、Aや相続人らに租税回避的な要素は認められず、実質的な租税負担の公平に反するというべき事情はないと判断された。
 この点について、平等原則の観点から通達評価額を上回る価額で更正処分を行うことが合理的差別として許容されるためには、他の納税者に一般的に当てはまり得る事情や生じ得る事情では足りず、他の納税者との租税負担の均衡を害することになる、被相続人や相続人の行為が必要と考えられる。
 もっとも、当該行為は租税回避行為に限定されるものではなく、上記のとおり、令和4年最判解説において、実質的な租税負担の公平に反するというべき事情を網羅的、一般的に整理することは性質上困難であり、当該事情に当たるか否かを具体的に検討する必要があるとされていることも踏まえると、個別の事案ごとに判断することが必要と解される。

6.取引相場のない株式の評価に関する他事案
 本判決の他に、相続財産である取引相場のない株式の評価が問題となっている事案として、中央出版ホールディングス株式会社(以下「中央出版HD」という。)に関するもの(以下「中央出版HD事件」という。)がある。
 中央出版HD事件では、被相続人が亡くなる直前に自身が代表取締役を務める中央出版HDの子会社から購入資金(73億円)を借り入れて、翌日にそのほぼ全額を充当する形で中央出版HDが自己株式として保有していた中央出版HD株式を1株当たり76円で取得し、相続人が評価通達に従い1株当たり18円と評価し上記借入れに係る債務73億円を控除して相続税の申告を行ったところ、課税庁が総則6項を適用して第三者による鑑定評価額に基づき1株当たり55円(脚注16)として更正処分を行った。
 相続人が審査請求を行ったところ、国税不服審判所は、上記借入れによる取得は、結果として相続税に係る課税価格を38億円分圧縮させており、高齢に達した被相続人が入退院を繰り返していた時期に行われたものであり、相続が近い将来発生することを見越して行われたものであることが明らかであるとし、相続発生を見越して上記借入れ及び取得に相当するような行為を行わなかった納税者との間での実質的な租税負担の公平を著しく害することが明らかであるとして、審査請求を棄却している(脚注17)。
 現在訴訟係属中のようであり、本判決を踏まえると、中央出版HD事件も令和4年最判の判断枠組みに沿って判断され、平等原則の例外が認められるかが問題となると考えられる。
 この点、裁決では、令和4年最判のように、被相続人や相続人において相続財産の購入及びその購入資金の借入れが近い将来発生することが予想される被相続人からの相続において相続人の相続税の負担を減じ又は免れさせるものであることを知り、かつ、これを期待して、あえて企画して実行したものとまでは認定されていない。
 しかしながら、被相続人は年齢や病状から相続が近い将来発生することを想定していたと考えられ、自身が代表取締役を務める中央出版HDの子会社から多額の借入れを行った上で中央出版HD株式を取得し、結果として相続税に係る課税価格を38億円分圧縮したものであり、このような借入れ及び購入を行うことは、他の被相続人や相続人に一般的に当てはまり得るものではなく、実質的な租税負担の公平に反するというべき事情に該当し、平等原則の例外が認められるのではないかと思われる(脚注18)。

7.まとめ
 以上のとおり、実質的な租税負担の公平に反するというべき事情があるというためには、通達評価額と実勢価格や鑑定評価額とのかい離のみでは足りず、他の納税者との租税負担の均衡を害することになる被相続人や相続人の行為が必要と解される。
 本判決は、取引相場のない株式の評価における総則6項の適用について、令和4年最判の判断枠組みにより判断し、実質的な租税負担の公平に反するというべき事情について具体例を示した上で、租税回避的な要素は認められず平等原則の観点から更正処分等は違法と結論付けたものであり、総則6項を納税者の不利に適用するに当たっては租税回避行為が必要と判断した点に意義があると考えられる。
 もっとも、実質的な租税負担の公平に反するというべき事情は租税回避行為に限定されないと考えられるところ、被相続人や相続人の行為について、どのような場合に実質的な租税負担の公平に反するというべき事情があると判断され、通達評価額を上回る価額で更正処分を行うことが平等原則の例外として認められるのかについては、今後の事例の蓄積が待たれる。
 本判決については国側が控訴しており、中央出版HD事件は訴訟係属中である。引き続き総則6項の適用に関する裁判所の判断が注目される。

迫野馨恵 (さこの よしえ)
2007年弁護士登録。2016年から2021年まで名古屋国税局において任期付公務員(国際調査審理官)として勤務し、現在は三浦法律事務所名古屋オフィス所属(法人パートナー)。最近の論文として、「租税法務学会裁決事例研究 第297回『請求人の取締役による外注先への架空の請求書の発行依頼は、請求人による行為と同視できるとした事例』」(税務弘報2023年6月号)など、著書多数。

脚注
1 最判平成22年7月16日集民234号263頁、最判令和4年4月19日民集76巻4号411頁
2 TAINSコードZ888-2556
3 本判決は、令和4年最判後に総則6項の適用が否定された初めての事案のようである。
4 その他、総則6項に基づき評価した甲社株式の価額の適否及び過少申告加算税が賦課されない「正当な理由」の存否も争点とされているが、総則6項により評価することが認められなかったため、これらの争点について判断されていない。
5 山本拓「判解」ジュリスト1581号96頁
6 金子宏『租税法[第24版]』735頁(弘文堂、2021年)
7 東京地判平成4年7月29日(税務訴訟資料192号180頁)等
8 東京地判平成30年10月30日(税務訴訟資料268号順号13203)。贈与税の事案について東京高判平成27年12月17日(税務訴訟資料265号順号12771号)。
9 金子・前掲注6 88頁(弘文堂、2021年)
10 金子・前掲注6 89頁(弘文堂、2021年)
11 東京地判平成4年7月29日(税務訴訟資料192号180頁)、大阪高判平成17年5月31日(税務訴訟資料255号順号10042)等
12 令和4年最判解説93頁において、「課税処分の適法性は、飽くまでも法令に照らして判断されるべきであり、通達の解釈から結論が導かれるものではない」と説明されている。
13 95頁
14 令和4年最判解説95頁では、通達評価額と鑑定評価額との間に大きなかい離があることについて、「実質的な租税負担の公平という観点からは、同様のかい離は類似の不動産にも広く存在し得る以上、これを相続する潜在的な他の納税者と同じく通達評価額によったとしても租税負担の均衡が害されることはなく、むしろ、当該納税者についてのみ通達評価額を上回る価額によることは不合理というべきである」とし、「かい離を主張しても主張自体失当である」と説明されている。
15 96頁
16 その後、再調査請求により1株当たり46.48円とされている。
17 令4.3.25 名裁(諸)令3−35~38
18 中央出版HD事件をもとに総則6項適用の可否を論じたものとして、間所光洋 安部慶彦「令和4年最判を踏まえた非上場株式の評価に対する総則6項適用の可否(中央出版HD事件をもとに)」T&Amaster969号13頁。

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