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解説記事2024年04月01日 税務マエストロ お問合せの多いご質問(Part3)(2024年4月1日号・№1021)

税務マエストロ
#299
お問合せの多いご質問(Part3)
 税理士 熊王征秀

マエストロの解説

 「お問合せの多いご質問」が令和6年1月26日に更新され、新たに4問が追加された。また、翌月の2月19日には、新問の追加はなかったものの問⑮が改訂され、内定者や採用面接者に支払った交通費の取扱いが明記された。その後、2月29日には問が追加となり、めまぐるしいまでの追加と改訂に追いつけない実務家も多いのではないだろうか。
 本稿では「お問合せの多いご質問」のうち、令和6年2月19日に改訂された問⑮を再確認するとともに、1月26日と2月29日に追加公表された6題(問⑲~問)の内容について検討する。
 なお、問①~⑱については、本誌No.1006(2023.12.11号)とNo.1011(2024.1.22号)にて解説しているので参照されたい。

問⑮ 派遣社員等や内定者等へ支払った出張旅費等の仕入税額控除

 当社は、自社で雇用している従業員と同様に、派遣社員や出向社員が出張した際にも、旅費規程に基づき出張旅費を支払っています。当該出張旅費については、派遣元企業や出向元企業を通じて当該社員に支払われることになるのですが、仕入税額控除の要件として派遣元企業や出向元企業から請求書等の交付を受け、これを保存する必要はありますか。また、内定者や採用面接者に対し、内定者説明会会場や面接会場までの交通費等を支給する場合の取扱いはどうなりますか。【令和6年2月19日改訂】

<ポイント>
 従業員等に支給する出張旅費等(出張旅費、宿泊費、日当等)のうち、その旅行に通常必要であると認められる部分の金額については課税仕入高として取り扱われ、一定の事項を記載した帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められる(出張旅費等特例)。
 出張旅費等特例の対象とならない旅費交通費等であっても、派遣社員や内定者等を通じて公共交通機関に直接支払っているものと認められる場合には、3万円未満の旅費交通費等について、一定の事項を記載した帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められる(公共交通機関特例)。
 なお、海外出張のために支給する出張旅費等は、原則として課税仕入れには該当しない。
 出張旅費等特例や公共交通機関特例の対象にはならない旅費交通費等を仕入税額控除の対象とする場合には、派遣社員や内定者等から(簡易)インボイスの提出を受けて保存する必要がある。また、派遣社員や内定者等の氏名が宛名として記載されている場合には、原則として、立替金精算書の保存も必要となる(「お問合せの多いご質問」の問⑩を参照)。

 この場合、出張旅費等(実費)に相当する金額について、派遣(出向)元事業者においては立替払を行ったものとして取り扱うこととなるため、その金額は課税仕入れには該当せず、仕入税額控除の対象とすることはできない。

問⑲(消費税課税事業者選択届出書を提出しても2割特例の適用ができる場合)

 私は、今まで免税事業者であったものの、令和5年に入ってから適格請求書発行事業者の登録申請書を提出し、令和5年10月1日から適格請求書発行事業者(課税事業者)となった個人事業者です。当該登録申請書の提出に当たり、「消費税課税事業者選択届出書」も同時に提出したのですが、その提出日によっては令和5年分の確定申告において2割特例が適用できないことがあると聞きました。私のような場合には、令和5年分の申告において2割特例を適用できますか。

<ポイント>
1 質問の回答

 「課税事業者選択届出書」を提出している事業者がインボイスの登録をしている場合には、次の①と②のいずれの要件も満たす場合について、「2割特例」の適用が認められる。
① インボイスの登録をしなければ免税事業者となれる課税期間であること
② 「課税事業者選択届出書」を提出しなければ免税事業者となれる課税期間であること

 ただし、「課税事業者選択届出書」の提出により、令和5年10月1日前から引き続き課税事業者となっている事業者は、令和5年10月1日の属する課税期間について「2割特例」を適用することはできない。
 なお、「課税事業者選択届出書」の提出により「2割特例」の適用が制限されるのは、令和5年10月1日にまたがる課税期間に限定されている。よって、下記<具体例>のケースでは、令和5年中に調整対象固定資産を取得しない限り、令和6年分の申告で「2割特例」を適用することができる。
(注)令和5年中に調整対象固定資産を取得した場合には、令和6年と令和7年は「2割特例」の適用を受けることができない。
<具体例>
 令和5年中に「課税事業者選択届出書」と登録申請書を提出した個人事業者は、「課税事業者選択届出書」の効力が令和6年1月1日から生ずることから、令和5年分の申告(令和5年10月1日~12月31日期間分)と令和6年分の申告のいずれについても2割特例の適用を受けることができる。

2 【答】の(注)1の解説
 「課税事業者選択届出書」の提出により、令和5年10月1日の属する課税期間から課税事業者となる事業者は、その令和5年10月1日の属する課税期間中に「課税事業者選択不適用届出書」を提出することにより、提出日の属する課税期間(令和5年10月1日の属する課税期間)から「課税事業者選択届出書」の効力を失効させることができる。
<具体例>
 令和4年中に「課税事業者選択届出書」を提出し、令和5年から課税事業者になる個人事業者が、令和5年中に「課税事業者選択不適用届出書」を提出して「課税事業者選択届出書」の効力を失効させるケース

 上記の<具体例>では、「課税事業者選択届出書」の提出により課税事業者となったのは令和5年10月1日の属する課税期間(令和5年)であることから、令和5年中に「課税事業者選択不適用届出書」を提出することにより「課税事業者選択届出書」の効力を失効させ、「2割特例」の適用を受けることができる。問⑲のケースでは、「課税事業者選択届出書」の効力は令和6年1月1日から生ずることとなり、令和6年は令和5年10月1日の属する課税期間ではないことから、令和6年中に「課税事業者選択不適用届出書」を提出しても、令和6年から「課税事業者選択届出書」の効力を失効させることはできない。
3 疑問点
 令和5年10月1日から登録事業者になっているにもかかわらず、問⑲では、なぜ「課税事業者選択届出書」を提出しているのだろう……?
 免税事業者は、令和5年10月1日から令和11年9月30日までの日の属する課税期間から登録する場合には、登録申請書の提出だけで課税事業者(適格請求書発行事業者)になることができるのであるから、登録申請をした上で「課税事業者選択届出書」を提出する必要などないはずである(平成28年改正法附則44④)。
 また、「課税事業者選択届出書」は事前提出が原則とされていることから、インボイスの登録申請をした令和5年中の提出であれば、その効力は翌課税期間の初日である令和6年1月1日から生ずることになるのであるが、適用開始課税期間を文中に明記しておかないと、読み手にいらぬ勘違いをさせることにもなりかねない。
 さらに言えば、個人事業者の場合には、「課税事業者選択届出書」の提出により令和5年10月1日前から課税事業者となっている場合に限り、2割特例が適用できなくなるのであるから、問題となるのは令和5年分の申告なのであり、令和6年1月26日の公表では時機を逸しているのではないだろうか? 「課税事業者選択不適用届出書」の提出により2割特例の適用を認めるという救済措置についても、個人事業者の場合には令和5年中の届け出が必要なのであり、令和6年1月26日の公表では間に合わないのである。

問⑳(電気通信利用役務の提供と適格請求書の保存)

 当社は、国外事業者との間でリバースチャージ方式の対象となる取引(インターネット広告の配信)や、消費者向け電気通信利用役務の提供に該当する取引(電子書籍の購入)を行っていますが、仕入税額控除を行うために適格請求書の保存は必要でしょうか。

<ポイント>
1 インボイスの保存義務

 リバースチャージ方式については帳簿に法定事項を記載することにより、インボイスの保存は不要とされている(消法30⑦括弧書)。
 国外事業者申告納税方式の場合、インボイスの保存が仕入税額控除の要件とされているところではあるが、登録国外事業者については、登録国外事業者の登録の取り消しをしていない限り、令和5年10月1日にインボイスの登録を受けたものとみなされ、登録番号が付番されている(平成28年改正法附則45)。
2 非登録事業者からの課税仕入れに対する80%(50%)控除の経過措置
 80%(50%)控除の経過措置について、平成28年改正法附則52・53条では、「……国内において行った課税仕入れ……」と規定している。よって、リバースチャージ取引による特定課税仕入れは経過措置の対象とはならない。
 国外事業者申告納税方式については、登録国外事業者の登録番号等が記載された請求書等の保存が仕入税額控除の要件とされていた。よって、非登録国外事業者からの課税仕入れについて、インボイス導入後に80%(50%)控除ができることとなれば、インボイス導入前の取扱いとの均衡が保たれないこととなるため、平成30年改正令附則24条により適用除外にしたものと思われる。
3 少額特例
 非登録国外事業者からの課税仕入れであっても、税込課税仕入高が1万円未満であれば少額特例の適用を受けることは認められる(平成28年改正法附則53の2)。
 ただし、リバースチャージ取引による特定課税仕入れはそもそもが「課税仕入れ」ではないので少額特例の適用はない。

参考 デジタルサービス(電気通信利用役務の提供)とは?
 電気通信回線を介して行われる電子書籍・音楽・オンラインゲーム・広告の配信等の「電気通信利用役務の提供」については、役務の提供を受ける者(受益者)の住所等が日本国内にあれば国内取引となる(消法4③三)。
 また、国外事業者が国内に向けて行う「電気通信利用役務の提供」を「事業者向け電気通信利用役務の提供」と「事業者向け電気通信利用役務の提供以外の電気通信利用役務の提供」に区分し、「事業者向け電気通信利用役務の提供」については、国外事業者の納税義務を役務の提供を受ける事業者(受益者)に転換する(リバースチャージ方式)。
 「事業者向け電気通信利用役務の提供以外の電気通信利用役務の提供」については、役務の提供を行う国外事業者が日本の消費税の申告と納税義務を負うことになる(国外事業者申告納税方式)。

【具体例】

 サービスの対価(税抜)が100、消費税が10%(10)の場合の課税関係は次のようになる。

(セミナー参加費に係る適格請求書の交付方法)

 当協会は、協会に所属する会員向けに講師を招いてセミナーを開催しています。その際の講演料はまとめて当協会が支払いますが、一定割合を協会で負担することとした上で、残りをセミナーの参加予定者数で按分して参加費として受領しています(1,000円未満の端数は切上げ)。この場合、参加者に対してどのように適格請求書を交付すればよいでしょうか。

<ポイント>
1 セミナー参加費を課税売上高として処理した場合

 参加費は、主催者である協会の課税売上高、会員(参加者)の課税仕入高として処理をする。また、講師に支払う講演料は協会の課税仕入高となる。
 主催者である協会は、会員(参加者)に対し、簡易インボイスを発行することができる(問⑭参照)。

2 セミナー参加費を預り金として処理する場合
 主催者である協会と会員(参加者)との取り決め(契約)などにより、講演料の一部負担金として会員から参加費を受領する場合には、セミナー参加者の負担額が講演料の総額以下であることを条件に、預り金として処理することができる。
※セミナー参加者の負担額が講演料の総額を超える場合には、主催者である協会は、セミナーという役務提供の対価として参加費を課税売上高に計上する必要があるものと思われる。
 この場合、主催者である協会は会員(参加者)に立替金精算書を交付することとなるわけであるが、問の【答】には、【立替金精算書のイメージ】として下記のような解説を掲載している。
 この立替金精算書には、講師の登録番号が記載されていないようであるが、協会がインボイスを保存さえしておけば、このようなラフな書類でも構わないということなのであろうか?

(課税期間の中途から課税事業者となった場合の基準期間における課税売上高)

 私は、令和5年10月1日から適格請求書発行事業者となった個人事業者ですが、それまでの間は免税事業者でした。令和7年分の申告における基準期間(令和5年分)における課税売上高は、免税事業者であった令和5年1月から9月までの金額を含むのでしょうか。

<ポイント>
 個人事業者の基準期間は前々年であるから、基準期間の中途で開業した場合であっても、基準期間が1年でない法人のように年換算することはない。また、基準期間の中途から課税事業者になったとしても、その時点で基準期間が分断されるわけではない。

 よって、基準期間である令和5年の課税売上高は下記のように計算することになる。基準期間中が免税事業者の場合には、課税売上高の全額(税抜きにしない金額)を用いて計算することとされていることから、令和5年1月1日~9月30日までの課税売上高は税抜きにしない全額を用いて計算する(消基通1−4−5)。
 インボイスの登録をした場合、基準期間における課税売上高が1,000万円以下でも申告納税義務が発生することになるので、インボイスの登録をした事業者は、納税義務の判定をする必要がないと考えることもできる。ただ、基準期間における課税売上高の計算は、2割特例の適用判定に影響があることを忘れてはならない。基準期間中の課税売上高が免税点前後にある場合には特に注意が必要だ。

(金融機関の入出金手数料や振込手数料に係る適格請求書の保存方法)

 金融機関の窓口又はオンラインで決済を行った際の金融機関の入出金手数料や振込手数料について、仕入税額控除の適用を受けるために、何を保存すればよいでしょうか。

<ポイント>
 入出金手数料や振込手数料について仕入税額控除の適用を受けるには、原則として法定帳簿とインボイスの保存が必要となる。ただし、金融機関の入出金サービスや振込サービスは、不特定多数の者を対象とする取引であることから簡易インボイスの交付対象とすることができる。
 また、ATM取引であれば、自動サービス機により行われる3万円未満の取引としてインボイスの保存は必要ない(インボイスQ&A問47を参照)。

(消費者に限定した取引についての適格請求書の交付義務)

 当社は適格請求書発行事業者です。当社の提供しているサービスは、利用規約においてその対象を消費者に限定しているため、課税事業者から適格請求書の求めがあったとしても適格請求書の交付は行わないこととしてよいでしょうか。

<ポイント>
 登録事業者は、インボイスの交付を要求されない限りインボイスを交付する必要はない(消法57の4①)。ただし、利用規約により顧客(サービスの利用者)を消費者に限定していることを理由にインボイスを交付しないこととしている場合であっても、利用者から要求された場合にはインボイスを交付しなければならない。この場合において、不特定かつ多数の顧客に対するサービスであれば、簡易インボイスによることができる。

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