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解説記事2024年04月29日 未公開判決事例紹介 小規模宅地特例適用後の更正の請求の可否(2024年4月29日号・№1025)

未公開判決事例紹介
小規模宅地特例適用後の更正の請求の可否
東京地裁、申告書の選択範囲を超える適用を認めず

 本誌1015号13頁で紹介した相続税更正処分取消請求事件の判決について、一部仮名処理した上で紹介する。

〇小規模宅地等の特例の適用に当たり、特定事業用宅地等に区分すべき宅地について、誤って特定居住用宅地等として申告したとして行った更正の請求が認められるかどうか争われた事件。東京地方裁判所(品田幸男裁判長)は令和6年1月25日、小規模宅地等の特例は納税者が申告において明細書の記載によって選択した範囲で適用されるものであり、後になってこれを覆して本件特例の適用を拡大する趣旨で更正の請求は許されないとして、納税者の請求を棄却した(令和5年(行ウ)第172号)。

主  文

1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1 請求
 U務署長が令和4年1月6日付けで原告に対してした平成30年10月6日の相続開始に係る相続税更正処分のうち、課税価格6億6708万7000円、納付すべき税額1億8769万8300円を超える部分を取り消す。

第2 事案の概要
 本件は、被相続人を亡■■■■(平成30年10月6日死亡。以下「本件被相続人」という。)とする相続に際し、相続人の一人である原告が、本件被相続人から相続した宅地のうち、納屋の敷地の用に供されている部分を租税特別措置法69条の4第3項1号所定の特定事業用宅地等、それ以外の部分を同項2号所定の特定居住用宅地等として相続税の申告及び修正申告をしたところ、①上記宅地のうち倉庫の敷地の用に供されている部分についても特定事業用宅地等に含まれるのにその旨の申告をせず、特定居住用宅地等として申告したという誤りがあった、②上記宅地を含む複数筆の土地の価額に評価の誤りがあったとして、更正の請求をしたところ、上記②については更正をすべき理由があるが上記①については更正をすべき理由がないとする更正処分を受けたため、同更正処分のうち上記①に係る判断に不服があるとして、その一部の取消しを求める事案である。
1 関係法令の定め
 別紙1「関係法令の定め」に記載のとおりである(なお、同別紙中で定義した略称等は、以下の本文においても同様に用いるものとする。)。
2 前提事実(当事者間に争いがないか後掲各証拠及び弁論の全趣旨により認められる事実並びに当裁判所に顕著な事実)
(1)相続の開始

 平成30年10月6日に開始した本件被相続人に係る相続(以下「本件相続」という。)の法定相続人は、原告を含む4名(いずれも被相続人の子。以下「本件相続人ら」という。)であった。
(2)相続による遺産の取得
 原告は、平成31年1月15日、本件相続人ら間での遺産分割協議により、別紙2不動産目録記載1の土地(以下「本件宅地」という。)、同目録記載2−1の建物(以下「本件自宅」という。)及び同目録記載2−2の納屋(以下「本件納屋」という。)などを取得した。
 原告は、平成30年10月6日(本件相続開始日)から本件相続税の申告期限である令和元年8月6日までの間において本件宅地を有しており、本件宅地は、別紙3「本件宅地の利用状況の概要」のとおり、本件自宅及び本件納屋のほか、倉庫(以下「本件倉庫」という。)及び原告の親族の自宅の敷地としても利用されていた。原告は、平成27年1月から本件建物に居住し、本件被相続人と同居して生活を共にしていた。
 原告は、本件相続の開始前から農業を営んでいたところ、本件相続税の上記申告期限までの間において農業を継続しており、本件納屋は原告の営む農業のために用いられていた。
(3)相続税の申告等
ア 原告は、本件相続税の申告期限までに、別表1「課税処分等の経緯」の「申告(期限内)」欄記載の内容の、本件相続に係る相続税の申告書を提出した(以下「本件当初申告」といい、本件当初申告に係る申告書を「本件当初申告書」という。)。原告が本件当初申告書に添付した「小規模宅地等についての課税価格の計算明細書」及び「小規模宅地等についての課税価格の計算明細書(別表)」(以下、これらを併せて「本件明細書」という。)に記載した内容は、要旨、以下のとおりである。なお、原告は、本件当初申告書において、特定事業用宅地等につき75.00㎡と記載したところ(後記(ア)c及びe)、これは、本件宅地のうち本件納屋の敷地に供されていた部分(以下「本件納屋敷地部分」という。)の面積として記載したものである。(甲2、4)
(ア)特定事業用宅地等
  a 特例の適用を受ける取得者の氏名 ◎◎◎◎[事業内容・農業]
  b 所在地番
  さいたま市緑区△△△△字▽▽▽▽2010番1外1筆の一部
  c 取得者の持分に応ずる宅地等の面積 75.00㎡
  d 取得者の持分に応ずる宅地等の価額 458万6174円
  e 上記cのうち小規模宅地等(「限度面積要件」を満たす宅地等)の面積75.00㎡
(イ)特定居住用宅地等
  a 特例の適用を受ける取得者の氏名 ◎◎◎◎
  b 所在地番
   さいたま市緑区△△△△字▽▽▽▽2010番1外1筆の一部
  c 取得者の持分に応ずる宅地等の面積 988.62㎡
  d 取得者の持分に応ずる宅地等の価額 6045万3124円
  e 上記cのうち小規模宅地等(「限度面積要件」を満たす宅地等)の面積 330.00㎡
イ 原告は、令和2年4月14日、本件当初申告につき、別表1「課税処分等の経緯」の「修正申告」欄記載の内容の修正申告書を提出した(以下「本件修正申告」といい、本件修正申告に係る修正申告書を「本件修正申告書」という。)。原告が本件修正申告書に添付した「小規模宅地等についての課税価格の計算明細」(以下「本件修正明細書」といい、本件明細書と併せて「本件明細書等」という。)に記載した内容は、要旨、以下のとおりである。(乙1)
(ア)特定事業用宅地等
  a 所在地番
   さいたま市緑区△△△△字▽▽▽▽2010番1外1筆の一部
  b 取得者の持分に応ずる面積 75.00㎡
  c 取得者の持分に応ずる宅地等の価額 458万6174円
  d 特例の適用を受ける取得者の氏名 ◎◎◎◎
  e 上記bのうち特例の対象として選択した宅地等の面積 75.00㎡
  f 課税価格の計算に当たって減額される金額 366万8939円
  g 宅地等について課税価格に算入する価額(c−f) 91万7235円
(イ)特定居住用宅地等
  a 所在地番 さいたま市緑区△△△△字▽▽▽▽2010番1外1筆の一部
  b 取得者の持分に応ずる面積 988.62㎡
  c 取得者の持分に応ずる宅地等の価額 6045万3124円
  d 特例の適用を受ける取得者の氏名 ◎◎◎◎
  e 上記bのうち特例の対象として選択した宅地等の面積 330.00㎡
  f 課税価格の計算に当たって減額される金額 1614万3335円
  g 宅地等について課税価格に算入する価額(c−f) 4430万9789円
(4)更正の請求
 原告は、令和2年12月24日、U税務署長に対し、本件宅地に係る本件特例の適用額に誤りがあったこと等を理由に更正をすべき旨の請求をしたが、その後、同請求を取り下げた(甲4、5)。
 原告は、令和3年5月14日、U税務署長に対し、①本件宅地に係る本件特例適用額に誤りがあったこと、具体的には、本件宅地のうち本件倉庫の敷地の用に供されている部分(以下「本件倉庫敷地部分」という。)について、本件当初申告及び本件修正申告においては特定居住用宅地等に含めていたが、特定事業用宅地等に含めるべきであったなどの誤りがあり、特定事業用宅地等である選択特例対象宅地等の面積が実際には418.46㎡となるから、本件特例適用額の計算に当たっては、特定事業用宅地等の限度面積要件である400㎡を基に行うべきであること(以下「本件更正の請求の理由ア」という。)、②本件宅地を含む複数筆の土地の価額に評価の誤りがあったこと(以下「本件更正の請求の理由イ」という。)を理由として、別表1「課税処分等の経緯」の「更正の請求」欄記載の内容の更正をすべき旨の請求(以下「本件更正の請求」という。)をした。
(5)更正処分
 U税務署長は、令和4年1月6日付けで、①本件更正の請求の理由アについては、原告は、措置法69条の4の規定に反する誤りはなく、特定事業用宅地等として75㎡を、特定居住用宅地等として330㎡を選択する旨記載した本件当初申告書を提出し、また、当該選択に基づく課税価格の計算に誤りはないため、本件更正の請求により特定事業用宅地等について400㎡を選択することはできない、②本件更正の請求の理由イについては、本件宅地は正面路線及び裏面路線に接した土地であるところ、本件修正申告においては本件宅地の評価に当たり財産評価基本通達17に定める二方路線影響加算を行っているが、裏面路線は特定路線価が設定された路線であるから、本件更正の請求の理由イのとおり、二方路線影響加算は行わず、原告の課税価格から減算することが相当である等の理由で、別表1「課税処分等の経緯」のとおりの更正処分(以下「本件更正処分」という。)をした(甲7)。
(6)審査請求
 原告は、令和4年4月4日、国税不服審判所長に対し、本件更正処分のうち本件更正の請求の理由アに対する判断等を不服として、審査請求をした。国税不服審判所長は、令和5年2月20日付けで上記審査請求を棄却した。(甲1)
(7)本件訴訟の提起
 原告は、令和5年4月28日、本件訴訟を提起した(当裁判所に顕著な事実)。
3 争点及び争点に対する当事者の主張
 本件の争点は、本件更正の請求の理由アが国税通則法23条1項1号の要件を満たすか否かである。
(原告の主張)
(1)原告は、本件当初申告及び本件修正申告において、本件納屋敷地部分の地積75.00㎡のみが特定事業用宅地等であると事実誤認し、本件明細書等に特定事業用宅地等の面積を75.00㎡、特定事業用宅地等の面積のうち小規模宅地等の面積を75.00㎡とそれぞれ記載したのである。実際は、本件倉庫敷地部分も特定事業用宅地等に該当するものであり、本件宅地に複数の建物が建っていることを前提に算定すると、本件納屋敷地部分の面積は154.5625㎡(本件宅地の全面積1063.62㎡×本件納屋の床面積46.48㎡÷本件宅地上の複数の建物の各床面積合計319.8514㎡)、本件倉庫敷地部分の面積は263.90㎡(本件宅地の全面積1063.62㎡×本件倉庫の床面積79.36㎡÷本件宅地上の複数の建物の各床面積合計319.8514㎡)であり、その合計は418.4625㎡であるところ、本件特例を適用できる限度面積は400㎡であるのに75.00㎡しか選択しないということは通常あり得ないから、上記記載は、特定事業用宅地等の面積全部に本件特例を適用する意思によるものであったことが明白である。原告が、本件明細書等において、特定居住用宅地等についてはその面積を988.62㎡と記載した上で小規模宅地等の面積を330.00㎡と記載していること、すなわち一部である330.00㎡を限度面積まで選択していることと比較しても、特定事業用宅地等についても限度面積上限まで適用したことになるといえる。
  本件は、原告が、本件当初申告時及び本件修正申告時において、本件宅地のうち特定事業用宅地等の面積が75.00㎡であり、残りが特定居住用宅地等であってその面積が988.62㎡であると事実誤認したというものであり、その上で相続税の課税価格を計算して納税額が過大となったというものであるから、国税通則法23条1項1号に該当する事由が存するといえる。
(2)本件において、原告は、本件当初申告時及び本件修正申告時に申告していなかった本件特例の適用を事後的に受けようとしているものではないし、事後的に選択内容を変更して本件特例の適用範囲を拡大しているわけでもない。原告は、飽くまでも、特定事業用宅地等の面積の認識に誤りがあった結果として計算を誤ってしまったことから、更正の請求をするというものであるから、本件更正の請求は、本件特例の適用範囲を拡大しているわけではない。
(被告の主張)
(1)更正の請求が、納税申告書の提出により納付すべき税額又は更正後の税額が過大であるだけでなく、それが「課税標準等若しくは税額等の計算が国税に関する法律の規定に従つていなかつたこと又は当該計算に誤りがあつたこと」に基づいている場合に限られるのは、所得計算の特例、免税等の措置で一定事項の申告等を適用条件としているものについてその申告がなかったため、納付すべき税額がその申告等があった場合に比して過大となっている場合において、更正の請求という形式でその過大となっている部分を減額することを排除する趣旨によるものである。そのため、個別税法上のある措置の適用要件として一定事項が申告書に記載されることが求められている(いわゆる当初申告要件。以下「当初申告要件」という。)にもかかわらず、その記載がなかった場合で、かつ、当該措置において当初申告要件の緩和が行われていない場合には、その個別税法上、単に当該措置が適用されないだけであって、当該申告書の記載自体に誤りがあるということにはならず、したがって、更正の請求事由には該当しないこととなる。
(2)措置法69条の4第6項規定の「申告書」につき、修正申告書は含まれているのに対し、更正請求書は含まれていないことからすれば、更正請求書について当初申告要件が緩和されているということはできない。したがって、本件特例の適用を受けるためには、当初申告又はその修正申告において、特例対象宅地等を法令に基づき選択するとともに、所定の手続要件を充足する必要があり、更正の請求によって事後的に本件特例の適用を受けることができないのと同様、更正の請求によって事後的に選択内容を変更して本件特例の適用範囲を拡大することはできない。
(3)原告は、本件当初申告に係る本件明細書において、「特定事業用宅地等」につき、本件宅地のうち本件納屋敷地部分75㎡が「小規模宅地等」に該当するとして本件特例に基づく課税価格の減額計算をしていることからすれば、原告が本件当初申告において、本件倉庫敷地部分を特定事業用宅地等として選択したと解する余地はない。また、本件修正申告に係る本件修正明細書における課税価格の減額計算についても、本件明細書と同様の計算がされていることから、原告が本件修正明細書において、本件倉庫敷地部分を特定事業用宅地等として選択したと解する余地もない。
  以上のとおり、原告は、本件当初申告及び本件修正申告のいずれにおいても、本件倉庫敷地部分につき、特定事業用宅地等として本件特例の適用を受ける旨の選択をしていないのであるから、本件更正の請求によって本件倉庫敷地部分を特定事業用宅地等として本件特例の適用を受ける旨の選択をすることはできない。
(4)以上のとおり、本件更正の請求の理由アは国税通則法23条1項1号の要件を満たさない。なお、上記を前提とした小規模宅地等についての課税価格の計算明細は、別表2のとおりである。

第3 当裁判所の判断
1 関係法令の規定及びその趣旨等について

 国税通則法23条1項は、同項各号のいずれかに該当する場合には、納税申告書を提出した者が、一定の期間内に税務署長に対し、その申告に係る課税標準等又は税額等につき更正をすべき旨の請求をすることができる旨を定め、その1号において、「当該申告書に記載した課税標準等若しくは税額等の計算が国税に関する法律の規定に従つていなかつたこと又は当該計算に誤りがあつたことにより、当該申告書の提出により納付すべき税額(中略)が過大であるとき」と定めるところ、同号の趣旨は、所得計算の特例、免税等の措置で一定事項の申告等を適用条件としているものについてその申告がなかったため、納付すべき税額がその申告等があった場合に比して過大となっている場合において、更正の請求という形式でその過大となっている部分を減額することを排除することにあると解するのが相当である。
 措置法69条の4第1項は、個人が相続又は遺贈により取得した財産のうちに、当該相続の開始の直前において、当該相続若しくは遺贈に係る被相続人等の事業の用又は居住の用に供されていた宅地等で財務省令で定める特例対象宅地等(特定事業用宅地等、特定居住用宅地等、特定同族会社事業用宅地等及び貸付事業用宅地等)がある場合には、当該相続又は遺贈により財産を取得した者に係る全ての特例対象宅地等のうち、当該個人が取得をした特例対象宅地等又はその一部で同項の規定の適用を受けるものとして政令で定めるところにより選択をしたもの(選択特例対象宅地等)については、限度面積要件を満たす場合に限り、相続税法11条の2に規定する相続税の課税価格に算入すべき価額は、当該選択特例対象宅地等(小規模宅地等)の価額に措置法69条の4第1項各号に掲げる小規模宅地等の区分に応じ当該各号に定める割合を乗じて計算した金額とするとし、1号において、特定事業用宅地等、特定居住用宅地等については100分の20とする旨を定め、同条2項において、特定事業用宅地等である選択特例対象宅地等の限度面積要件を合計400㎡以下(同項1号)、特定居住用宅地等である選択特例対象宅地等の限度面積要件を合計330㎡以下(同項2号)とする旨を定め、同条6項は、同条1項の規定は、同項の規定の適用を受けようとする者の当該相続又は遺贈に係る相続税法27条又は29条の規定による申告書(これらの申告書に係る修正申告書を含む。)に措置法69条の4第1項の規定の適用を受けようとする旨を記載し、同項の規定による計算に関する明細書その他の財務省令で定める書類の添付がある場合に限り適用する旨を定める。この規定は、被相続人又は被相続人と生計を一にしていた被相続人の親族の事業の用又は居住の用に供されていた宅地のうちいわゆる小規模宅地等については、それが相続人等の生活の基盤の維持のために不可欠のものであって、その処分について相当の制約を受けるのが通常であるところから、相続税の課税上特別の配慮を加えることとしたものである。
 措置法施行令40条の2第5項は、特例対象宅地等のうち、措置法69条の4第1項の規定の適用を受けるものの選択は、①当該特例対象宅地等を取得した個人がそれぞれ同項の規定の適用を受けるものとして選択しようとする当該特例対象宅地等又はその一部について同項各号に掲げる小規模宅地等の区分その他の明細を記載した書類(1号)、②当該特例対象宅地等を取得した全ての個人に係る1号の選択をしようとする当該特例対象宅地等又はその一部の全てが措置法69条の4第2項に規定する限度面積要件を満たすものである旨を記載した書類(2号)、③当該特例対象宅地等、当該特例対象山林若しくは当該特例対象受贈山林を取得した全ての個人の1号の選択についての同意を証する書類(3号)の全てを相続税の申告書に添付してすることを定める。
 すなわち、措置法69条の4第1項の規定の適用を受ける対象の選択は、相続税の申告書(これらの申告書に係る修正申告書を含む。)に添付する措置法施行令40条の2第5項各号所定の書類の記載によりされるものであることが、法令上定められているものである。
2 判断
(1)本件更正の請求の理由アが国税通則法23条1項1号の要件を満たすか否かについて

ア 上記1のとおり、措置法69条の4第6項が、本件特例の適用を受けようとする者のいわゆる当初申告書又はその修正申告書に同条1項の適用を受けようとする旨を記載し、同項の規定による計算に関する明細書その他の財務省令で定める書類の添付がある場合に限り同項を適用する旨を定めていることに加え、同項及び同条3項において、特定事業用宅地等と特定居住用宅地等とは別の区分に該当するものとして規定され、措置法施行令40条の2第5項1号においても、措置法69条の4第1項の「規定の適用を受けるものとして選択しようとする当該特例対象宅地等又はその一部について同項各号に掲げる小規模宅地等の区分その他の明細を記載した書類」を申告書に添付することが求められていることに照らすと、本件特例は、納税者が、当初申告又はその修正申告において、本件特例を受けるものとして当該特例対象宅地等又はその一部について小規模宅地等の区分その他の明細を記載した書類をもって選択した範囲で適用されるというべきであり、後になってこれを覆し、本件特例の適用を拡大する趣旨で更正の請求をすることを許さないこととしたものと解される。
イ(ア)前提事実(3)ア及びイのとおり、本件明細書等において、特定事業用宅地等に区分されているのは本件納屋敷地部分(75.00㎡)のみであり、本件宅地のその他の部分(本件倉庫敷地部分を含む。)については特定居住用宅地等に区分されていることからすれば、本件明細書等において、本件倉庫敷地部分が特定事業用宅地等として区分されていたと認めることはできない。したがって、本件当初申告及び本件修正申告において、措置法69条の4第3項1号所定の特定事業用宅地等として本件倉庫敷地部分を選択したものとは認められないから、本件倉庫敷地部分につき、同号所定の特定事業用宅地等として本件特例を適用するための要件が満たされているとはいえない。
   そうすると、本件更正の請求の理由アは、本件特例の適用範囲を拡大することを求めるものであると解するのが相当であるから、上記1に説示したとおりの本件特例に係る規定の内容及び趣旨に鑑みれば、国税通則法23条1項に基づき更正をすべき旨の請求をすることができる事由には該当しない。
(イ)原告は、本件申告時及び本件修正申告時には、本件倉庫敷地部分については特例事業用宅地等には該当しないものと事実誤認をしていたが、本件明細書等の記載からすると、特定事業用宅地等の面積全部に本件特例を適用する意思であったことは明白であり、本件特例の適用範囲を拡大することを求めるものではない旨を主張する。
  上記(ア)に説示したとおり、本件明細書等においては、本件倉庫敷地部分が特定事業用宅地等として区分されていたと認めることはできないところ、上記1に説示したとおりの本件特例に係る規定の内容及び趣旨に鑑みれば、小規模宅地等の区分に係る納税者の申告は本件特例の適用の可否に係る重要な要素と位置付けられていると解するのが相当であり、そうすると、小規模宅地等の区分の事実誤認は、国税通則法23条1項に基づき更正をすべき旨の請求をすることができる事由である「当該計算に誤りがあった」場合には該当しないものというべきである。仮に原告の上記主張を採用した場合には、本件特例に係る規定が、本件特例の適用を受ける対象の選択(小規模宅地等の区分を含む。)を納税者の申告又は修正申告に委ねており、更正の請求の形式で行うことを認めていないことを実質的に潜脱することになるのであり、このことからしても、原告の上記主張を採用することはできない。
(2)本件更正処分の適法性
ア 上記1で、説示したとおり、本件更正の請求の理由アは、国税通則法23条1項1号所定の事由に該当しない。
イ 本件明細書等における本件特例適用額の計算は、以下のとおり、法律の規定に従っており、その計算自体にも誤りはない。
  前提事実(2)のとおり、原告は、本件被相続人と同居して生活を共にしていた者であり、本件納屋敷地部分は、本件被相続人と生計を一にする親族である原告の事業(農業)の用として供されていた宅地であり、当該宅地を相続により取得した原告は、本件相続開始時から本件相続税の申告期限まで引き続き本件宅地を有し、かつ、本件宅地を自己の事業(農業)の用に供していたことから、本件納屋敷地部分は、特定事業用宅地等に該当する。
  前提事実(3)のとおり、原告は、本件明細書等において、「特定事業用宅地等」については、本件宅地等のうち75㎡であるとしているところ、このような記載は措置法69条の4第2項1号の限度面積要件を満たしている。
  前提事実(3)のとおり、本件当初申告書及び本件修正申告書には、本件明細書等により、それぞれ本件特例の適用を受ける旨が記載されており、その他法令の定める適用要件を満たしていなかったと認めるに足りる証拠はない。
  したがって、本件明細書等における本件特例適用額の計算は、法律の規定に従っており、その計算自体にも誤りはなく、これを前提とした小規模宅地等についての課税価格は、別表2⑯記載の金額と同額である。
ウ その他、本件更正処分につき違法であることをうかがわせる事情は見当たらないことから、本件更正処分は適法である。

第4 結論
 よって、原告の請求は理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第2部
裁判長裁判官 品田幸男
裁判官 片瀬 亮
裁判官 横井靖世

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