解説記事2024年05月27日 ニュース特集 退職所得を巡る最近の裁決事例(2024年5月27日号・№1028)
ニュース特集
ポイントは退職したことに基因するか否か
退職所得を巡る最近の裁決事例
退職所得を巡る争いは古くからあるテーマだが、いまだに後を絶たないものともいえる。本特集では最近の退職所得関係の裁決事例を2件取り上げて紹介する。1件目は正社員として勤務していた会社から支給を受けた一時金が給与所得に該当するとされたもの。一時金は退職後も有期契約社員として引き続き勤務することを前提に支給されたものと判断されたものである。また、2件目は確定給付企業年金の終了に伴う残余財産の分配金については、退職したことに基因して支給されたものではないとして退職所得には該当しないと判断されたものである。
定年退職日の関係からインセンティブ賞与のない請求人に対する特別の報酬
最初に紹介する裁決事例は、正社員として勤務していた会社から支給を受けた一時金は退職後も有期契約社員として引き続き勤務することを前提に支給されたものであるとして給与所得に該当すると判断されたものである(東裁(所)令4第136号)。
本件は、正社員であった請求人が、有期契約社員へと雇用形態が変わる際に会社から支給を受けた一時金について、退職所得に該当するとして所得税等の確定申告をしたところ、原処分庁が一時金に係る所得は給与所得に該当するとして更正処分等をしたことから、原処分の全部の取消しを求めたものである。
請求人は、米国に本店所在地を置く外国法人の関連会社で正社員として雇用されており、平成30年12月に定年退職することになっていたが、請求人の上司は、請求人が関与していた継続中の案件を円滑に進めたいと考え、請求人が定年退職となる日を迎えた後も会社に勤務することを希望していた。このような中、請求人の上司は、請求人に対し、法人の定年退職制度及び請求人の退職月の関係から、請求人の平成30年分の年間インセンティブ賞与が支給されず、請求人の同年分の総報酬額が著しく低くなることは不公平であるとし、請求人の正社員としての労働契約を平成30年9月末日で終了し、同年10月1日から有期契約社員として勤務する合意をすることを条件として、特別の報酬を支給することとした。
請求人は、一時金は会社を退職した後も有期契約社員として引き続き勤務することを前提に、定年退職予定日よりも前に退職することを条件として支給されたものであるから、退職したことに基因して支給されたものとして退職所得に該当すると主張した。
退職したことを基因として支給されるもの
審判所は、所得税法上の退職所得というためには、退職したことを基因として支給(所基通30−1)されるものである必要があるとした。その上で本件における合意に至る経緯は、継続中の案件を円滑に進めるために請求人が定年退職後も継続して就業することを望んでいた会社が、請求人に対し、平成30年9月末日で退職し、翌日から有期雇用契約を締結(再就職)するという条件で、特別な報酬を支給することとしたものであると指摘。書面には明記されていないものの、合意の成立時において、請求人が雇用形態を転換して会社に勤務することがその支給の当然の前提となっており、合意の成立時までに、請求人が正社員の退職後に有期契約社員として勤務を続けることの合意も成立していたと認められるとした。また、支給額は、平成29年分の年間インセンティブ賞与の額とほぼ同額であり、これにより請求人は、本件合意がなければ仮に定年退職後に有期契約社員として勤務を続けたとしても会社の報酬制度により平成31年1月支給分の年間インセンティブ賞与の支給を受けられない予定だったものが、平成30年分の総報酬として平成29年分の総報酬と同程度の金額を得ることが可能になったものであるとした。
したがって、審判所は、特別の報酬の支給の提案に至る経緯、条件、支給額や支給に適用される給付制限等の内容等からすれば、本件支給は、定年退職日が平成30年12月末日であるため、平成30年分の年間インセンティブ賞与の支給を受けることができない請求人に対して、会社が、その退職日以降も勤務を続ければ、前年並みの年間の総報酬額を得られるようにすることで、退職日以降も会社で就業するためのインセンティブとして提示し、これに請求人が応じたことで支給されたものと認められると指摘。退職直後に支給された金銭であるものの、再就職に基因するものであると認められ、退職に基因するものとはいえないことから、本件支給は「退職したことに基因」するものとはいえず、給与所得に該当するとの判断を示した。
年金制度の終了に伴う残余財産の分配金は退職所得に該当せず
次に紹介する裁決事例は、年金制度の終了に伴い支給された残余財産の分配金が退職所得に該当するか争われたものである(東裁(所)令4第117号)。
本件は、請求人が確定給付企業年金の終了に伴い受領した一時金を一時所得として申告した後、将来の年金給付の総額に代えて支払われたものであるから退職所得に該当するとして更正の請求をしたところ、原処分庁が更正すべき理由がない旨の通知処分をしたことから、請求人が原処分の全部の取消しを求めたものである。
請求人は平成14年2月末日で退職したことに伴い、確定給付企業年金制度に係る年金受給権を取得し、平成14年2月から年金を受給。その後、確定給付企業年金制度の終了に伴い、残余財産の分配において一時金を受給する方法を選択していた。
請求人は、本件一時金は確定給付企業年金制度の終了に伴う分配金であるところ、確定給付企業年金規約に基づいて支給される年金の受給資格者に対し、退職の日以後当該年金の受給開始日後に支払われる一時金のうち、将来の年金給付の総額に代えて支払われたものであり、退職所得に該当すると主張した。 審判所は、本件一時金がみなし退職所得に該当するためには、①確定給付企業年金法の規定に基づいて支給を受ける一時金で加入者の退職により支払われるもの又は②所得税法施行令72条3項5号に掲げる一時金で加入者の退職により支払われるものである必要があるとした。本件については、一時金が確定給付企業年金法に基づいて支給を受ける一時金に該当することは明らかであることから、「加入者の退職により支払われるもの」に該当するかどうかがみなし退職所得に該当するか否かのポイントになる。
この点について審判所は、本件一時金は年金制度の終了に伴う残余財産の分配金として、年金規約の定めに従って算定されて請求人に支払われたものであり、請求人の退職を原因として支払われたものではないとしたほか、年金規約によると、「加入者期間が2年に満たない者については加入者としない」こと、「年金制度の残余財産は、清算人が、終了日において事業主が給付の支給に関する義務を負っていた者(終了制度加入者等)に分配する」と定めていることからすると、年金制度の終了に伴う残余財産の分配金は、加入者期間が2年以上である加入者にも分配されるものであり、すでに法人を退職しているか否かは直接関連するものではないとした。
老齢給付金の一時金とは支払の性質が異なる
その上で審判所は、老齢給付金を年金として受給していた者は、所定の保証期間内において老齢給付金を一時金として支給することを請求できることとされ、その一時金の金額は、受給していた老齢給付金の月額に、年金として支給する老齢給付金の残余保証期間に応じて別途定められた年金現価率を乗じて算定されることから、当該一時金は、「将来の年金給付の総額に代えて支払われるもの」に該当するものと考えられるとした。
しかし、本件一時金については、年金制度の終了に伴う残余財産の分配金として、年金規約の定めに従って算定されて請求人に支払われたものであり、老齢給付金に係る一時金の給付とは別の算定方法によって算定されたものであって、その支払の性質及び支給額の算定方法等が全く異なるものであるとの判断を示した。したがって、本件一時金は「将来の年金給付の総額に代えて支払われるもの」に該当せず、みなし退職所得に該当しないとし、請求人の請求を棄却している。
母体企業の倒産による年金基金の解散の場合の一時金は退職所得
国税庁は、「母体企業の倒産によって厚生年金基金が解散し、その残余財産の分配一時金が支払われる場合」と題する質疑応答事例を公表している。
それによると、厚生年金基金の解散に伴う残余財産の分配一時金は、厚生年金基金の解散という事実がその支払われる原因であって、退職に基因して支払われるものではないため、みなし退職所得に当たらず、「一時所得」としているが、母体企業の倒産によって厚生年金基金を解散する場合には、通常、母体企業が消滅しているため、従業員はその解散日以前に退職しているのが通常であるとしており、このような事実による場合には、厚生年金基金の解散に伴う残余財産の分配一時金であっても、「加入員の退職に基因して支払われるもの」に当たり、退職所得として取り扱われることになる(所得税法31条2号、所得税法施行令72条2項)との見解を示している。
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