解説記事2024年06月03日 ニュース特集 地方局で管理件数最多、福岡局の重点・上位富裕層対応は(2024年6月3日号・№1029)
ニュース特集
大阪局の署富裕層PTは総合特官も構成員に
地方局で管理件数最多、福岡局の重点・上位富裕層対応は
資産運用等から生じる非事業性所得の割合が高く、その運用方法も多様化・国際化する富裕層に対し、課税当局は所得の的確な把握及び将来の相続税の適正課税の実現のため、生前の資産の保有状況の把握を進めている。本特集では、重点管理富裕層及び上位富裕層の管理件数が地方局で最多とされる福岡国税局の当該富裕層に係る管理体制、情報収集、調査企画等について、内部資料に基づき確認する。また、大阪国税局が管内7署(下京、北、堺、豊能、吹田、西宮、芦屋)に設置している署富裕層PT(上位富裕層プロジェクトチーム)における調査企画特官と総合調査特官の関係も取り上げる。
課税関係重点課題対応プロジェクトチームで協議
富裕層の中には自身の大事な資産を守っていくために「タックス・プロモーター」(税理士や証券会社等)に相談し、長期的な計画を立てて節税対策を行っている者もおり、高度なスキームを用いて税負担の軽減を企画するケースもあると指摘する福岡局は、局内に設置した「課税関係重点課題対応プロジェクトチーム」(課税関係重点課題対応PT)で重点管理富裕層及び上位富裕層に関する情報を共有し、課題への取組等の協議を行っている。
課税関係重点課題対応PTは、局課税総括課長が指名した者で構成され、PT構成員に対する指揮・命令も課税総括課長が行う。
なお、局内関係部署、関係署との連絡・調整については、課税総括課(富裕層担当)が担当している。
課税総括課(富裕層担当)が重点・上位富裕層の調査企画
重点管理富裕層及び上位富裕層の抽出には形式基準、実質基準が設けられており、当該富裕層の管理件数については、地方局の中で福岡局が最多となっているようだ。
また、福岡局では、重点管理富裕層及び上位富裕層とその関係個人・法人(特に密接な関係にあると認められる個人・法人)を「重点管理グループ」「上位管理グループ」として選定し、「重点管理富裕層名簿」「上位富裕層名簿」(局内関係部署、関係署で共有)で一体的に管理している。
R4事務年度から企画特官を設置
福岡局における重点管理富裕層及び上位富裕層の管理体制については、大阪局統括国税実査官(国際担当)・福岡局課税総括課(富裕層担当)が管理部署となり、調査企画については同課税総括課(富裕層担当)が実施している。
なお、上位富裕層の下に位置する「その他の富裕層(継続2)」は、博多署企画特官・署個人特官部門が管理しており、調査企画は博多署企画特官が行っている(図参照)。

博多署企画特官は、上位富裕層の基準には満たないものの、将来的に上位富裕層等になり得る者の管理や複数税目観点での調査企画を行うため、令和4事務年度から設置された。
役員・株主の異動情報、海外子会社のアニュアルレポートなど
管理対象者グループ(重点管理グループ・上位管理グループ)の調査企画等のために集約・蓄積される資料情報は、以下のとおり。
(1)部内資料情報:①申告書(別表、決算書、各種内訳書、添付資料を含む)、②重要資料等の個別管理資料、国外送金等調書、国外財産調書、財産債務調書、国外証券移管等調書、自動的情報交換資料、その他保有資産の動向把握等に有効と認められる部内資料、③その他通常の事務処理体制で収集することとしている資料のうち調査企画を行う上で有効と認められる資料
(2)部外資料情報:①関係法人の役員及び株主の異動情報、②株主名簿、③海外子会社のアニュアルレポート、④マスコミ情報、インターネット情報、その他の部外情報
なお、調査が予定されていない管理対象者グループについても、当該管理対象者グループに関する必要な資料情報や富裕層一般における投資行動等に関する情報の収集が必要な場合は、当該資料情報の収集が関係署等に依頼される。
資産の動向把握の端緒情報を提供
また、重点管理富裕層名簿、上位富裕層名簿の共有を受けた局内関係部署・関係署は、その管理対象者グループに関する課税上の問題点や保有資産の動向の把握の端緒となる情報を把握した場合、課税総括課(富裕層担当)にその情報を提供する。
管理対象者グループに係る資料情報については、複数税目観点から多角的な分析・検討が行われるが、その際は、管理対象者(重点管理対象者、上位管理対象者)の課税上の問題の有無のみならず、管理対象者と関係個人等との取引等における課税上の問題の有無も分析・検討される。
調査企画のため「調査を見合わせる者」を指定
福岡局における重点管理富裕層、上位富裕層に係る調査企画と税務署等で実施する調査の関係を確認すると、課税総括課(富裕層担当)は資料情報の分析を基に調査企画に着手することとした管理対象者について、①課税上想定される問題点の抽出、②管理対象者と併せて調査を必要とする関係個人等の選定を行い、調査事案を企画する。
調査企画のため、管理対象者グループのうち、調査を見合わせる必要がある者については、関係署の筆頭統括官に対し調査を見合わせる旨の連絡を行う。なお、重点管理富裕層名簿、上位富裕層名簿を共有した時点で調査を見合わせる必要があると判断した者については、当該各名簿に調査を見合わせる旨を表記する(下掲参照)。

ただし、調査を見合わせる者について、例えば、消費税の還付原因の確認等のために調査が必要と判断した場合には、調査見合わせの適否を再検討するようだ。
また、管理対象者グループのうち、「調査を見合わせる者」として指定しない者については、原則として調査を実施しても差し支えないとされているが、調査を行う際には、調査実施部署が事前通知日の3週間前(無予告の場合は調査着手予定日の4週間前)までに事案の概要、調査手続チェックシート(事前通知用)など調査の着手予定や要調査項目等が分かる資料を課税総括課(富裕層担当)に送付する旨が指示されている。
関係法人が調査課所管法人の場合、調査計画を調整
調査企画された事案については、その内容・規模等に応じて連携調査等の実施を検討した上で、調査実施部署が決定される。
調査実施部署決定後、当該管理対象者の調査実施部署は、課税総括課(富裕層担当)、局内関係部署、他の調査実施部署との連絡体制を整えて調査を実施。課税総括課(富裕層担当)に対しては、必要に応じて調査支援を行うなど、企画した調査事案への積極的な関与が指示されている。
また、関係法人が調査課所管法人である場合は、当該法人に係る調査計画の調整など、管理対象者グループに対して一体的な調査を実施するための調整が行われる。
調査着手時の手続は前述(事前通知日の3週間前(無予告の場合は着手予定日の4週間前)までに調査事案が分かる資料を送付)と同様であり、調査終了時は、調査結果が分かる資料(重要事案審議会審議表、調査経過記録書、調査結果の説明書など)及び調査で収集した資料情報を課税総括課(富裕層担当)に送付する。
大阪局、調査企画特官と総合特官が上位富裕層の情報共有
大阪局では、上位富裕層を下京、北、堺、豊能、吹田、西宮及び芦屋署に設置する署富裕層PTで、その関係個人・関係法人を含めて一体的に管理し、調査企画等を行っている(重点管理富裕層は局富裕層PTで管理)。
署富裕層PTは、署長(委員長)、課税担当副署長(副委員長)、特別国税調査官、国際税務専門官、課税担当筆頭統括官で構成され、令和5事務年度から総合調査特官(複数税目において課税上の問題が想定される事案の調査・調査支援、調査対象者が複数署や複数税目にまたがる事案の調査企画を実施)も構成員に含まれている。総合調査特官は、所得税等担当の調査企画特官と上位富裕層に関する情報共有に努めるとしている(下表参照)。

所得税等担当の調査企画特官は、上位富裕層に係る管理、調査企画及び調査を実施しており、令和4事務年度からは上位富裕層に係る保有資産や資産異動等を踏まえた税目横断的な管理及び複数税目にわたる特に複雑な事案の調査企画を行う「調査企画特官(富裕層管理)」が下京署、堺署に設置されている。
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