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解説記事2024年06月24日 ニュース特集 処分理由の提示に不備あり、審判所が更正処分を取消し(2024年6月24日号・№1032)

ニュース特集
課税当局側は理由を提示し直して更正処分が可能
処分理由の提示に不備あり、審判所が更正処分を取消し


 平成23年12月の国税通則法の改正により、税務署長等が、更正又は決定などの不利益処分や納税者からの申請を拒否する処分を行う場合には、その通知書に処分の理由を記載することになった。平成25年1月1日から適用されており、制度としては定着しているが、更正通知書に記載された処分の理由の提示に不備があるか否かで争われる事案は後を絶たない。このような状況の中、国税不服審判所が6月18日に公表した裁決事例(令和5年12月15日裁決)によれば、原処分庁が提示した処分の理由の提示に不備があるとの理由で、更正処分等が全部取り消された事案があることが明らかとなった。処分の理由の提示に不備があり裁決が取り消される事案は多くはないだけに注目される。しかし、処分の理由に不備があり取り消された事案については、課税当局側が改めて更正処分を行うことが可能だ。審判所が処分の理由の提示の不備以外の争点に関して判断を示していないからだが、納税者側からすれば酷ともいえる状況に陥ることにもなりかねない。課税当局においてはより一層慎重な対応が求められそうだ。

平成23年12月の国税通則法の改正により処分の理由附記が必須に

 平成23年12月の国税通則法の改正により、税務署長等が不利益処分等を行う際には、その通知書に処分の理由を記載することが必要になっている。所得税及び法人税の青色申告者に対する更正処分などのほか、白色申告者等に対する増額更正処分を行う場合や、加算税の賦課決定処分を行う場合にも理由が附記されることになり、これに伴い処分の理由の提示に不備があるか否かで争われる事案も多くなっている。
 今回、国税不服審判所が公表した裁決も更正処分の理由の提示に不備があるかどうかが争点の1つとなっているもの。更正処分が全部取り消された点では非常に珍しいものといえる。なお、本誌が把握している限りでは、理由の提示の不備による取消裁決として「青色欠損金控除額の加算で理由提示不備」(本誌587号、平成26年12月10日裁決(裁決事例集No.97))及び「債務控除否認の更正処分で理由提示不備」(本誌588号)のほか、審判所が公表している平成26年9月1日裁決(裁決事例集No.96)がある。
 以下、具体的にみてみることにしよう。請求人(衣料品やアクセサリー等の販売を行う法人)は、中国人顧客から商品の注文を受けて、インターネット上のショッピングサイトなどで商品を販売する日本国内の複数の事業者から商品を仕入れたとして、当該仕入れの対価を課税仕入れに係る支払対価の額に含めて確定申告をしたが、税務調査により、一部の取引については請求人による仕入れの事実が認められず、また、一部の取引は請求書等を保存していないことから仕入税額控除は認められないとして、原処分庁は消費税等の更正処分等を行った。その際、原処分庁が更正通知書(参照)とともに、一緒に添付した別表には、「日付」「税込金額」「消費税額」「税抜金額」「仕入先の記載によって特定された取引」等が記載されていたが、別表から算出される控除対象仕入税額の減少額及び更正通知書に記載された控除対象仕入税額減少額は一致していなかった。この不一致は、原処分庁が税務調査中に請求人から提示があった請求書等の一部について課税仕入れと扱ったことにより生じたものであった。

【表】各更正通知書に記載された処分の理由の要旨(抄)

平成29年11月課税期間

更正の理由
 貴法人が、平成30年1月25日に提出した自平成28年12月1日至平成29年11月30日課税期間分の消費税及び地方消費税確定申告書について、調査の結果、消費税及び地方消費税の計算に誤りがあると認められますので、次のとおり当課税期間の消費税及び地方消費税を再計算して、更正しました。

1 控除対象仕入税額
 次の(1)ないし(3)の理由により、控除対象仕入税額を再計算した結果、控除対象仕入税額が6,003,246円減少しました。
(1)貴法人が当課税期間の課税仕入れに係る支払対価の額に算入した別表1の仕入先からの商品の仕入れの合計額22,809,749円(税込金額)については、次のイないしハの理由から、貴法人が本件仕入れに係る売買契約の当事者ではなく、貴法人における仕入れの事実が認められないことから、当課税期間の課税仕入れに係る支払対価の額とは認められません。
 イ 貴法人の代表取締役Bは調査担当者に対して以下のとおり申述していること。
  (イ)当社の業務の大半は、海外へ商品を発送する転送業務である。また、クレジットカード決済ができない中国人ユーザー等に対しては、決済手段として代金引換取引も取り扱っている。
  (ロ)当該代金引換取引に係る代引支払額については、中国人ユーザー等から前払い又は後払いで代引支払額と同額を受領している。
  (ハ)本件仕入れの注文に係る商品の種類、数量は中国人ユーザー等が決定している。
 ロ 貴法人が代金引換取扱事業者から受領した送り状兼代引金額領収書等の宛名は中国人等のユーザー名となっていること。
 ハ 本件仕入先に対して反面調査等を実施した結果、本件仕入れに係る売買契約について、本件仕入先は、本件仕入先と送り状兼代引金額領収書の宛名に記載された中国人等の注文者との間で売買契約が成立していると認識しており、また、本件仕入れの納品先が貴法人の納税地となっていることについて、本件仕入先は、注文者が指定した単なる商品の納品先であるとの認識であること。
(2)〜(3)(略)

2 納付すべき税額
 上記1により当課税期間の消費税及び地方消費税を再計算した結果、納付すべき消費税及び地方消費税の額が、新たに〇〇〇〇円算出されました。

 請求人は、調査担当職員の要請に応じて提示した請求書等に係る課税仕入れについて、仕入税額控除が認められているのか否かの記載が一切ないなどとし、各更正処分における理由の提示には不備があるなどと主張した。

審判所、原処分庁の判断過程を検証し得る程度の記載が必要

 審判所は、更正の理由の提示において、原処分庁の判断過程を逐一検証し得る程度の記載があり、原処分庁の恣意抑制及び不服申立ての便宜という趣旨目的を充足する程度に具体的に更正の根拠を明示していれば、法の要求する更正の理由の提示として欠けるところはないと解するのが相当であるとした。また、数個の項目のうちの一部の項目の理由の提示に不備があったとしても、それがいまだに更正全体の理由の提示を不備ならしめる程度に至らないときは、処分全体を違法ならしめるものではないとの見解を示している。
仕入税額控除を認めた金額の記載なし
 本件については、更正通知書には、各別表に記載された金額について、仕入税額控除の対象とならない理由が具体的に記載されており、この記載部分については、原処分庁の恣意抑制及び不服申立ての便宜という趣旨目的を充足する程度に具体的に更正の根拠が明示されていると認められるとした。
 しかし、更正通知書には、原処分庁が仕入税額控除の対象と認めた金額(「本件差額」という)に係る記載がないことから、別表を含む更正通知書の記載だけでは、請求人において本件差額の存在さえ知ることができないと指摘。結局、更正通知書の記載から、請求人において別表の記載のどの部分が課税仕入れとして認められなかったのか判別することはできず、不服の有無を判断することもできないとした。
 審判所は、更正通知書の記載自体から、更正処分における原処分庁の判断過程を逐一検証することはできず、不服申立ての便宜という趣旨目的を充足する程度に具体的な根拠を明示するものとは評価できないとしたほか、検証に堪える程度の判断過程の記載がないということは、更正処分を行った後に、原処分庁が仕入税額控除の適用を認めなかった取引につき差し替えることも可能であることからすれば、更正処分時点における原処分庁の判断の恣意抑制という趣旨目的が潜脱されるおそれもあるとした。
 したがって、更正処分の理由の提示は、その一部についての不備にとどまるとはいえず、全体についての不備に至っているといわざるをえないとし、更正処分の全部を取り消した。
理由の提示不備は納税者にとって酷な状況に
 今回の裁決事例では、理由の提示には不備があるとし、更正処分はいずれも違法であり、その他の争点(クレジットカード取引に係る消費税額について、仕入税額控除の適用が認められるかなど)については判断するまでもないとしている。
 このため、その後、原処分庁側が理由を十分に記載することで再び更正処分を行うことが可能だ。納税者側が審査請求を行えば、改めて審判所が争点の判断を行うことになる。理由の提示による不備は、更正処分を取り消された納税者にとって非常に酷な状況を招くことにもなりかねない。一方、課税当局側も非常に悩ましい判断に迫られることになる。仮に納税者側に非があったとしても更正処分を行えば批判される可能性があるからだ。理由の提示不備による更正処分の取消しは、納税者及び課税当局の双方にとって好ましくない状況といえる。今後もより一層慎重な対応が課税当局側に求められる。

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