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解説記事2024年06月24日 SCOPE 会社代表者が取締役会に違反行為を報告せず任務懈怠(2024年6月24日号・№1032)

取引推奨の罪でインサイダー取引違反
会社代表者が取締役会に違反行為を報告せず任務懈怠


 自身が代表取締役を務めていた上場会社(原告)の株式を知人に買うよう推奨し金融商品取引法違反として有罪判決を受けた被告に対し、上場会社が違反行為を取締役会等に報告しなかったことは任務懈怠であるとして損害賠償を求めた事件で、東京地方裁判所(笹本哲朗裁判長)は令和5年12月7日、被告に対して1億6,748万円余りの損害賠償責任を認めた(令和3年(ワ)第7366号)。被告は取締役を退任するまでの間、善管注意義務等に基づき、取締役会設置会社である原告の取締役会に対し、自らが違法行為をした事実を報告すべき義務を負っていたにもかかわらず、これを報告しなかったことから、任務懈怠が認められ、会社法423条1項に基づく責任を負うべきであるとの判断が示された。

重要事実公表前に知人に株式の取引を推奨

 本件は、原告であるパン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(旧商号は「ドンキホーテホールディングス」)の代表取締役を務めていた被告が、金融商品取引法167条の2第1項及び2項に違反する取引推奨行為をしたことにつき、取締役会又は監査等委員会に報告しなかったことは、代表取締役としての善管注意義務等に違反した任務懈怠であり、これにより、原告が被告にストックオプションとして付与していた新株予約権を新株予約権割当契約の定めに基づいて無償取得する機会を奪われ、新株予約権の価値と同額の損害を被ったとして、被告に対し、会社法423条1項に基づき、2億9,702万円余りの損害賠償を求めた事案である。
 原告は、平成30年10月11日、原告がユニーの株式の60%を取得し、同社を原告の完全子会社化すること、ユニー・ファミリーマートホールディングスの完全子会社による原告の普通株式に対する公開買付けについて原告の意見として賛同することを公表。一方、被告は、これに先立つ平成30年8月7日頃、その職務に関し、ユニー・ファミリーマートホールディングスの代表取締役社長から、重要事実を知り、知人にあらかじめ原告の株券を買い付けさせて利益を得させる目的から、各事実の公表前に原告の株券の買い付けを勧め、知人は原告の株券7万6,500株を代金合計4億3,279万8,000円で買い付けた(参照)。

【表】事案の経緯

・被告は、平成27年7月に原告の代表取締役社長兼CEOに就任。
・被告は、平成30年8月7日頃、ユニー・ファミマHDの代表取締役社長から、原告の株券の公開買付けを行うことについての決定などをした旨の重要事実を知った。その後、同年9月上旬から下旬頃にかけて、知人に対し、3回にわたり、原告の株券の買い付けを勧めた。
・知人は、平成30年9月6日から10月9日までの間、原告の株券7万6,500株を代金合計4億3,279万8,000円で買い付けた。
・原告は、平成30年10月11日、原告がユニーの株式の60%を取得すること、原告の普通株式に対する公開買付けについて賛同した旨を公表。
・被告は、令和元年9月25日に原告を退任。翌26日、新株予約権を行使し、払込金額16万5,200円で株価合計2億9,719万4,800円の株式を取得。
・東京地方検察庁は、令和2年12月23日、金商法違反(取引推奨)の罪で被告を起訴。
・東京地方裁判所は、令和3年4月27日、被告を懲役2年、執行猶予4年に処する判決を言い渡す(判決は同月28日確定)。

 被告の取引推奨行為は、金商法167条の2第1項及び2項に違反する行為であり、その後、有罪判決を受けている。ただし、被告は、取締役会等に対し、違反行為について報告することはなく、原告は、被告によるストックオプションの権利行使より前に違法行為について把握することはできなかった。

取締役は法令違反行為をした場合には事後であっても取締役会に報告必要

 裁判所は、取締役は会社の最善の利益を図る義務を果たす前提として、法令遵守義務を負っており、法令に違反する行為自体してはならないものであるが、仮に自らがそのような行為をしてしまった場合には、事後であってもこれを他の取締役ないし取締役会に報告しなければ、会社がその事態にいち早く的確に対応してレピュテーションリスクを含む会社の利益の毀損を最小限に食い止めることができなくなり、以後の法令違反の予防も実効を期し難いこととなりかねないとした。加えて、会社法が役員の報告義務について個別的に定める内容にも照らすと、取締役会設置会社の取締役が法令に違反する行為をした場合において、それが会社に重大な影響を及ぼすおそれがあるなど一定の場合には、当該取締役は、善管注意義務(会社法330条、民法644条)ないし忠実義務(会社法355条)に基づき、取締役会に対し、その事実を報告する義務を負うと解するのが相当であるとの見解を示した。
 本件においては、①被告は、上場会社である原告の代表取締役の立場にありながら、むしろその立場を利用して、知人に売買差益を得させる目的で、金商法167条の2に違反する取引推奨行為を行ったものである、②行為態様も、推奨に相応の根拠があることを暗に示し、買付けの具体的な期限をも示唆して買増しを積極的に推奨したという悪質なものである、③被告が逮捕、起訴された事実は直ちに公表され、証券取引市場の公平性、公正性やこれに対する一般投資家の信頼を大きく害したものであって、社長が違法行為に及んだ等の点で会社としての信用が大きく損なわれたものと推認されるとした。
 したがって、裁判所は、被告は取締役を退任するまでの間、善管注意義務ないし忠実義務に基づき、取締役会設置会社である原告の取締役会に対し、自らが違法行為をした事実を報告すべき義務を負っていたにもかかわらず、これを報告しなかったことから、任務懈怠及び帰責事由が認められ、会社法423条1項に基づく責任を負うべきであるとの判断を示した。

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