解説記事2024年07月01日 税務マエストロ お問合せの多いご質問(Part4)(2024年7月1日号・№1033)
税務マエストロ
お問合せの多いご質問(Part4)
#302
税理士 熊王征秀
略歴
学校法人大原学園に税理士科物品税法の講師として入社し、在職中に酒税法、消費税法の講座を創設。その後、会計事務所勤務を経て税理士登録、独立開業。『消費税法講義録』等、著書多数。
東京税理士会会員相談室委員、東京地方税理士会税法研究所研究員、日本税務会計学会委員、大原大学院大学教授
※取り上げて欲しいテーマを編集部にお寄せください。 ta@lotus21.co.jp
マエストロの解説
「お問合せの多いご質問」が令和6年3月18日に更新され、新たに問と問
の2問が追加された。その後、4月8日に消費税の仕入税額控除制度における適格請求書等保存方式に関するQ&A(インボイスQ&A)が改訂され、「お問合せの多いご質問」の問①から問
までの内容が改訂されたインボイスQ&Aに追加又は追記がされている。
「お問合せの多いご質問」は改訂されたインボイスQ&Aに統合されて消滅したものの、4月10日と5月30日にまたもや更新され、問~
が新たにアップされている。エンドレスで更新され続ける国税庁の情報にうんざりしている実務家も多いのではないだろうか。
本稿では、「お問合せの多いご質問」のうち、まだ本コーナーで解説していない問(インボイスQ&Aに問108-2として追加)と問
(インボイスQ&Aに問77−2として追加)、4月10日の更新により追加された問
、5月30日の更新により追加された問
~
、令和6年度改正に伴い新たにインボイスQ&Aに追加された問110-2の内容について検討する。
なお、すでに本コーナーで解説済の「お問合せの多いご質問」問①~については、本誌No.1006(2023.12.11号)とNo.1011(2024.1.22号)、No.1021(2024.4.1号)にて解説しているので参照されたい。

お問合せの多いご質問
問
(クレジットカードにより決済されるタクシーチケットに係る回収特例の適用)
当社は、クレジットカード会社が発行しているタクシーチケットを利用しています。そうしたタクシーチケットは、タクシー事業者等が発行しているものとは異なり、クレジットカード利用明細書しか送られてこず、また、タクシーチケット自体取引先等に手交していることから、タクシーを利用した際に交付を受ける適格簡易請求書の保存をすることもできません。この場合、当社は仕入税額控除の適用を受けるためにどうすべきでしょうか。
<ポイント>
接待の一環としてタクシーチケットを利用する場合、チケットは取引先が帰宅などのために利用するため、チケットを購入する事業者は運転手から簡易インボイスの交付を受けることができない。そこで、タクシー事業者が適格請求書発行事業者であることを条件に、回収特例が適用される取引として、法定帳簿の保存により仕入税額控除を認めることとしたものである。
この場合において、利用したタクシーが適格請求書発行事業者かどうかについては、クレジットカード会社が発行するクレジットカード利用明細書のほか、下記の情報を参考にして判断することとされている。
・利用されたタクシー事業者のホームページ
・クレジットカード会社のホームページ等に掲載されている利用可能タクシー一覧
なお、タクシー事業者が非登録事業者であることが確認された場合には、タクシー利用時に受領した領収書(未収書等)や、別途当該タクシー事業者から発行を受けた書類など、区分記載請求書の記載事項を満たした書類と法定事項が記載された帳簿の保存により、80%(50%)控除の経過措置を適用することができる。
問
(月の中途で適格請求書発行事業者となった場合の適格請求書等の交付方法)
当社は、機械装置の貸付けを行っている免税事業者です。契約上、毎月末に使用料を受領し、領収書を発行しているところ、この度、月の中途に適格請求書発行事業者の登録を受けたのですが、どのように領収書(適格請求書)を交付すべきでしょうか。
また、棚卸資産としての機械装置の販売やその保守点検といった役務提供も行っていますが、この場合の適格請求書の交付はどうなりますか。
※図表は【答】より引用
<ポイント>
1 資産の貸付けに係る使用料を受領する場合の適格請求書の取扱い
資産の賃貸借契約に基づいて支払を受ける使用料等の額を対価とする資産の譲渡等の時期は、前受けに係る額を除き、契約又は慣習によりその支払を受けるべき日とすることとされている。

※3月1日~31日までの使用料が310、適格請求書に記載された3月15日~31日までの使用料が170の場合、買手は3月1日~14日までの使用料140(310−170)を追記することにより、区分記載請求書と同様の記載事項が記載された請求書等の保存があるものとして、80%控除の経過措置を適用することができる。
2 棚卸資産の譲渡に係る適格請求書
棚卸資産の譲渡を行った日は、その引渡しのあった日とされており、引渡しの日がいつであるかについては、例えば、出荷した日、相手方が検収した日、相手方において使用収益ができることとなった日、検針等により販売数量を確認した日等、当該棚卸資産の種類及び性質、その販売に係る契約の内容等に応じてその引渡しの日として合理的であると認められる日のうち、事業者が継続して棚卸資産の譲渡等を行ったこととしている日によるものとされている。
したがって、貴社が継続して棚卸資産の譲渡等を行ったこととしている日が、登録日以後となる取引について、適格請求書を交付することとなる。

3 役務の提供に係る適格請求書
役務の提供を行った日は、原則として、その約した役務の全部の提供を完了した日になる。したがって、貴社の行う保守点検が完了した日が適格請求書発行事業者の登録を受けた日以後であるならば、その保守点検料等の全額につき適格請求書を交付することとなる。
(注)保守点検が完了した日が適格請求書発行事業者の登録を受けた日以後である場合、その保守点検料については、適格請求書発行事業者の登録前の期間に係るものについて日割計算などは行わず、全額を課税売上げとして消費税の申告を行うこととなる。

※3月1日~20日までの保守料が200の場合には、登録前の期間分も含め、200を課税売上高として申告する。日割計算(200÷20日×6日=60)は必要ない。
問
(予約サイトで事前決済した宿泊予約者に対する適格簡易請求書の交付)
当社は、ホテルを運営しています。予約サイトを通じて受けた予約について、予約サイト経由で決済が行われた場合、フロントでは現金の授受等が行われないことから、領収書の交付を行っていませんが、どのように適格簡易請求書を交付すればいいでしょうか。
<ポイント>
1 手配旅行の場合
インボイスは必ずしも領収書や請求書である必要はないので、宿泊明細書などに必要事項を記載して、インボイスとして利用することを検討するべきである。なお、インボイスに記載する金額は、宿泊施設が予約サイト等から収受する手数料控除後の金額や宿泊客が予約サイト等に支払う金額ではなく、ホテルの宿泊代金である。

なお、上記において、次の①と②のいずれの条件も満たしている場合には、宿泊施設(委託者)に代わり、予約サイト等(受託者)が宿泊客に対し、インボイスを交付することができる(インボイスQ&A問48)。
① 委託者(宿泊施設)と受託者(予約サイト等)のいずれもが適格請求書発行事業者であること
② 書面又は契約書などにより、委託者(宿泊施設)が適格請求書発行事業者である旨を受託者(予約サイト等)に通知すること
2 企画旅行(パックツアー)の場合
旅行代理店などが旅券やホテルの手配などをする旅客サービスは、その企画をする旅行代理店がインボイスを発行するので、交通機関や宿泊施設は旅行客などに対してインボイスを発行する義務はない。

3 出張旅費等特例の対象となる場合
出張等に伴う宿泊費で、旅行に通常必要であると認められる部分の金額については、一定の事項を記載した帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められている(出張旅費等特例)。よって、宿泊客はホテルからインボイスを受領する必要はない。
<参考>
厚生労働省健康・生活衛生局生活衛生課は、令和6年4月23日付の事務連絡で、全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会に対し、「宿泊予約サイト等を通じて宿泊予約を受けた場合のインボイスの交付について(周知依頼)」を発出した。
厚生労働省は、宿泊施設において、「領収書」の交付を行っていないことを理由に、ホームページで「インボイスを交付しない」と案内することは、宿泊者の誤解を招き、適切ではないとしたうえで、下記の「ホームページ掲載案(イメージ)」を参考に、インボイスの交付方法を検討することを指導している。

問
(物品切手等を割引・割増価格により購入した場合の仕入控除税額の算出)
当社は、福利厚生としてイベントのチケット(物品切手等)を購入し、従業員に配付しています。仕入税額控除の適用を受けるため、実際に従業員がイベントを観覧した時(引換給付の際)に交付を受けた適格請求書等を受領し、当社においてそれを保存しているところ、その適格請求書等に記載された金額と、物品切手等を購入した金額に差額が生じることがありますが、この場合、どのように仕入控除税額を算出することになるのでしょうか。
<ポイント>
物品切手等により課税仕入れを行った場合の仕入税額控除の時期は、入場券特例の適用を受けるものかどうかにより取扱いが区分される。また、入場券特例の適用を受けないものは、割引購入か割増購入かにより、会計処理と仕入税額が下記のように異なってくる。

問
(適格請求書発行事業者における課税事業者届出書の提出)
当社は、適格請求書発行事業者です。この度、基準期間における課税売上高が1,000万円を超えることとなりましたが、「消費税課税事業者届出書」の提出は必要でしょうか。
<ポイント>
「課税事業者届出書」は、基準期間における課税売上高が1,000万円を超えることとなった場合等に提出することとされているが、適格請求書発行事業者は、基準期間における課税売上高が1,000 万円を超えるかどうかにかかわらず、課税事業者となる。
こういった理由から、インボイスの登録期間中は、たとえ基準期間における課税売上高が1,000万円を超える場合であっても「課税事業者届出書」を提出する必要はないこととしたようである。
ただし、登録日の属する課税期間の基準期間における課税売上高が1,000万円を超えたような場合には、課税期間の初日から登録日の前日までの期間は「課税事業者届出書」により納税義務を管理する必要があることから、「課税事業者届出書」の提出を不要とするのは登録日の属する課税期間の翌課税期間以後の課税期間に限ることとしている。

ところで、「課税事業者選択届出書」を提出している事業者は、基準期間における課税売上高が1,000万円を超えた場合でも「課税事業者届出書」は提出しなくてよいことになっている(消基通17−1−1)。
しかし、「課税事業者届出書」の提出義務について規定している消費税法57条1項1号には、適格請求書発行事業者を除くということは書かれていない。また、適格請求書発行事業者は、「課税事業者届出書」は提出しなくてよいという通達も存在しない。
よって、「課税事業者選択届出書」を提出したり、インボイスの登録をして課税事業者になっている状態であったとしても、確定申告や決算の都度、基準期間における課税売上高を確認した上で「課税事業者届出書」や「納税義務者でなくなった旨の届出書」を提出し、自らの納税義務(ステータス)を管理しておく必要があるようにも思えるのである(私見)。
インボイスQ&A
(自動販売機特例又は回収特例における3万円未満の判定単位)
問110−2 帳簿の記載事項である「仕入れの相手方の住所又は所在地」の記載が不要となる、自動販売機や自動サービス機からの商品の購入等又は3万円未満の課税仕入れについて回収特例が適用される取引かどうかは、どのような単位で判定するのですか。【令和6年4月追加】
<ポイント>
自動販売機特例が適用される3万円未満の課税仕入れについてはインボイスの保存が不要とされているが、この場合の金額判定は、1回の取引における税込価額が3万円未満かどうかで判定することとされている。

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