解説記事2024年07月29日 ニュース特集 日産CFC事案、最高裁で国が逆転勝訴(2024年7月29日号・№1037)
ニュース特集
キャプティブ保険子会社は非関連者基準満たさず
日産CFC事案、最高裁で国が逆転勝訴
日産自動車は、キャプティブ保険子会社へのタックスヘイブン対策税制(CFC税制)の適用の是非を巡る訴訟の控訴審で逆転勝訴していたが(本誌948号参照)、令和6年7月18日、最高裁第一小法廷は原判決を破棄し、日産自動車の控訴を棄却する判決を下した。
CFC税制の適用除外基準である非関連者基準について、東京高裁は、本件元受保険契約は「非関連者(顧客)の生命、身体等に対する保険危険を担保する保険」であり、非関連者基準を満たしているとしていたが、最高裁は、関連者の資産である本件クレジット債権に係る経済的不利益を担保するものであるから非関連者基準を満たさないという、高裁と正反対の判断を下した。
CFC税制を巡っては、控訴審で逆転勝訴したみずほ銀行が令和5年11月6日に最高裁で敗訴しているが、日産自動車事案でも同様に、納税者が勝訴した高裁判決が覆る結果となった。
自動車を購入する顧客に、購入資金貸付と保険への加入義務付け
本件は、バミューダに設立された日産自動車のキャプティブ保険子会社(NGRE社)が、CFC税制の適用除外基準である非関連者基準を満たすかどうかが争われた事案である(図参照)。

NGRE社の関連者であるNRFM社は、自動車を購入する顧客との間で、その購入資金を貸し付ける旨の契約(本件クレジット契約)を締結していたが、本件クレジット契約において、顧客は所定の条件を満たす生命保険等(日本で住宅を購入する際に加入が求められる団信のようなもの)への加入を義務付けられており、さらに、他の保険に加入しない場合は、NRFM社がAVM社(NGRE社の非関連者)との間で締結した保険(本件元受保険契約)に加入することとなっていた。そして、AVM社は、NGRE社との間で、AVMが本件元受保険契約において引き受ける全保険リスクの70%をNGRE社に対して再保険に付し、NGREがこれを引き受ける再保険契約を締結した。
処分行政庁は、本件再保険契約に係る収入保険料は、関連者であるNRFMの資産を「保険の目的」とする保険に係るものであって、「関連者以外の者が有する資産又は関連者以外の者が負う損害賠償責任を保険の目的とする保険に係る収入保険料」(措令39条の117第8項5号(現行の措令39条の114の2第13項1号)の括弧書き(以下、「本件括弧書き」)に該当しないから、NGRE社は非関連者基準を満たさないとして、更正処分等を行った。
これに対し日産自動車は、本件元受保険契約は、本件各顧客の生活を維持する能力や所得を稼得する能力の喪失という保険危険を担保するものであって、その「保険の目的」は本件各顧客の生命や身体等であるから、本件括弧書きに規定する保険に該当すると主張して、訴訟を提起した。つまり、本事案の争点の核心は、本件元受保険の「保険の目的」が、関連者(NRFM社)の有するクレジット債権であるのか、非関連者である本件各顧客の生命や身体等なのかにある。
地裁、「保険の目的」は関連者の債権であり、非関連者基準満たさず
この点につき東京地裁は、本件括弧書きにいう「保険の目的」とは、「保険事故が生じた際に保険契約に基づき保険金の支払を受けることにより保障、填補を得ようとする対象のことをいうもの」との解釈を示し、「保険契約により保障、填補を受けようとする対象は、個々の保険契約の内容や取引の実態等を踏まえて実質的に判断するのが相当」との考えを示した。
その上で本件の事実関係を検討し、「本件クレジット契約を締結した本件各顧客は、NRFMが優先受益者として保険給付を受けるという内容を含む保険契約の締結を事実上義務付けられ、本件各顧客の死亡等の保険事故が生じた場合に、優先受益者であるNRFMに対し、『死亡』、『失業』、『恒久的な障害』及び『一時的な全身の障害』のいずれの事由であっても、本件クレジット債権の未償還残高又は月額賦払金6か月分を限度として保険給付がされ、本件各顧客が同保険給付を自己の財産として自由に利用することは予定されておらず、本件元受保険契約の成立及び消滅は本件クレジット債権に付従することとされていることなどの事情を踏まえると、本件元受保険契約は、NRFMが優先受益者として受領する保険給付を本件クレジット債権の弁済に充てることによって、本件クレジット債権が回収不能となることに伴いNRFMに生じる経済的不利益を填補することをその内容とするものであると解される。」と指摘。「そうすると、本件元受保険契約に基づき保険金の支払を受けることにより保障、填補を得ようとする対象は、NRFMが有する本件クレジット債権である」として、「本件元受保険契約は、NRFMの有する資産を『保険の目的』とする保険に該当する」と結論づけた。
高裁は元受保険契約の「保険の目的」巡り地裁と正反対の判断下す
一方、東京高裁は、本件括弧書きの趣旨は、損害保険に限らず広く保険一般に妥当するというべきであるから、本件括弧書きにいう「資産」や「損害賠償責任」は単なる例示にすぎないとした上で、「関連者以外の者が有する資産又は関連者以外の者が負う損害賠償責任を保険の目的とする保険」とは、関連者以外の資産等に対する保険危険を担保する保険をいうとの解釈を示した。
その上で、「本件元受保険契約においては、本件各顧客の死亡等を保険事故事由とする旨定められている上、NRFMが本件各顧客から保険料相当額の金銭を徴収してAVMに支払うこととされているから、保険料の実質的負担者は本件各顧客である」などとして、本件元受保険契約は、本件各顧客の生命、身体等に対する保険危険を担保する保険であると判断。本件再保険契約に係る収入保険料は、施行令39条の117第8項5号にいう「関連者以外の者から収入するもの」に該当し、NGRE社は非関連者基準を満たすため、CFC税制は適用されないとして、納税者勝訴の判決を下した。
また東京高裁は、国の解釈によれば、「本件元受保険契約を締結する経済的動機を根拠に本件括弧書きの適用の有無を決することになる」とし、それを前提にすると、本件クレジット債権が国のいう「保険金の支払を受けることにより保障、填補を得ようとする対象」に当たるということもできるが、本件各顧客の生命、身体等がその対象に当たるということができるというように、判断基準が不明確となり、本件括弧書きの趣旨に反すると述べた。
本件再保険は関連者のクレジット債権に係る経済的不利益を担保するもの
これに対し最高裁は、東京高裁の上記判断は是認することができないとした。
最高裁はまず、本件括弧書きの趣旨について、「特定外国子会社等が関連者との間の保険取引に関連者以外の者を介在させた場合の収入保険料の取扱いを明確にし、上記の者を形式的に介在させることによって非関連者基準を充足させ、同項の適用が除外されることとなるのを防ぐ趣旨に出たもの」との解釈を示した。
さらに、当該趣旨に加えて、通常、保険に加入する者は、保険金の支払を受けることによって経済的不利益の補償、補填を受けることを目的として、保険料を負担して保険契約を締結するものと考えられることを踏まえると、本件括弧書きは、特定外国子会社等が保険者として再保険取引を行うに際し、当該再保険取引が関連者以外の者の資産又は損害賠償責任に係る経済的不利益を担保しようとするものである場合に限り、当該特定外国子会社等が当該再保険取引から得る収入保険料は関連者以外の者から収入するものとして扱うこととしたものと解されるとした。
そして、これらのことから、本件括弧書きにいう「関連者以外の者が有する資産又は関連者以外の者が負う損害賠償責任を保険の目的とする保険」とは、関連者以外の者の資産又は損害賠償責任に係る経済的不利益を担保する保険をいうものとの解釈を示した。
その上で、「NRFM社は、本件クレジット契約を締結した本件各顧客が所定の本件契約を締結しない場合には、本件元受保険契約に本件各顧客を加入させ、本件各顧客から、本件クレジット債権の残高に応じて定められる本件元受保険契約の保険料に相当する金額を徴収して保険料をAVMに支払っており、また、本件元受保険契約においては、NRFMが優先受益者に指定され、この指定は取り消すことができないこととされるとともに、本件各顧客の死亡等又は失業等の保険事故が生じた場合には、それぞれ、所定の限度額を上限として、本件クレジット債権の未償還残高又は月額賦払金6か月分に相当する保険給付を受けることとされていた」という事実を指摘。本件元受保険契約の実質に照らせば、本件再保険契約に係る保険は、NRFM社(関連者)が有する資産である本件クレジット債権に係る経済的不利益を担保するものであるということができるから、上記保険は、本件括弧書きにいう「関連者以外の者が有する資産又は関連者以外の者が負う損害賠償責任を保険の目的とする保険」には当たらず、NGRE社は非関連者基準を満たさないとの判断を下した。

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