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解説記事2024年08月05日 SCOPE 障害者の生産活動への工賃、役務提供の対価とは認められず(2024年8月5日号・№1038)

名古屋地裁、障害福祉サービスの一環と指摘
障害者の生産活動への工賃、役務提供の対価とは認められず


 障害福祉サービスを利用して生産活動に従事する障害者に対して支払われた工賃が、消費税法上の課税仕入れに係る支払対価(消法30条1項)に該当するか争われた裁判で、名古屋地方裁判所(剱持亮裁判長)は令和6年7月18日、原告は、障害福祉サービスの一環として利用者(障害者)に工賃支払を含む生産活動の機会を提供しているものであって、工賃の支払は利用者による役務の提供に対する反対給付であるとは認められないと指摘。工賃は課税仕入れに係る支払対価に該当するとは認められないとの判断を示し、原告の請求を棄却した(令和4年(行ウ)第67号)。障害者の就労に関する税法上の取り扱いを巡る裁判は全国的に珍しく、その行方が注目されていた。

工賃は障害福祉サービスの一環と判断され訴訟を提起

 原告は社会福祉法人であり、愛知県内13か所の事業所において、就労継続支援B型等の障害福祉サービスを提供している。就労継続支援事業には、比較的障害の程度が軽く、雇用契約に基づく就労が可能な「A型」事業と、比較的重度の障害を持っており、雇用契約に基づく就労が困難な障害者を支援する「B型」事業がある。A型の利用者には、雇用契約に基づく給与が支払われるが、B型の利用者には、生産活動に係る事業に必要な経費を控除した額に相当する金額が工賃として支払われる。
 原告は、各事業所において、利用者に障害福祉サービスを提供する一方、希望する利用者に生産活動の場を提供し、利用者が提供する役務によって生産した商品を市場で売却し、その売却益の一部を工賃として利用者に支払っていた。本件は、その利用者に支払った工賃が消費税法上の課税仕入れに係る支払対価に該当するか争われたものである。
 なお、訴訟が提起される前に行われた審査請求では、審判所が「障害福祉サービスにおける生産活動の従事者への工賃の支払は、障害福祉サービスの一環として行ったものと認められるから、利用者に対する工賃は、当該利用者が役務の提供を行ったことに対する反対給付(対価)であるとは認められない」とし、工賃は消費税法上の課税仕入れに係る支払対価には該当しないとして、請求人(原告)の請求は棄却されている(本誌971号14頁参照)。
原告、工賃は就労に基づく対価であると主張
 原告は、就労継続支援B型等においては、利用者が障害福祉サービスを利用するにあたり、利用契約を締結した場合のみ生産活動に従事し、工賃の支払を受けることができるところ、生産活動はあくまでも事業として行われ、工賃は利用契約及び利用者による実際の就労に基づき、その対価として支払われるものであるから、障害福祉サービスの一環であるとはいえないなどと主張。工賃は「役務の提供」(消法2条1項12号)に対する対価であり、課税仕入れに係る支払対価に該当するとした。
 一方、被告(国)は、消費税法は「資産の譲渡等」(消法2条1項8号)を課税対象としており、その課税の仕組みからすれば、資産の譲渡等における「対価を得て行われる……役務の提供」とは、具体的役務提供によって支払が生じたという対応関係が認められるような役務の提供を意味するとした。就労継続支援B型等の利用者は生産活動に従事する法的義務を負わず、利用者の生産活動への従事は、原告が主体となって行う障害福祉サービスの一環であるといえるから、工賃支払と生産活動への従事に対応関係は認められず、工賃は課税仕入れに係る支払対価に該当しないなどと主張した。

名古屋地裁、工賃は役務提供に対する反対給付ではないと判断

 裁判所は、消費税法の「課税仕入れ」は、事業として他の者から資産を譲り受け、若しくは借り受け、又は役務の提供を受けること(他の者が事業として役務の提供等をしたとした場合に課税資産の譲渡等に該当するもの)と定めていることから(消法2条1項12号)、ある支払が課税仕入れに係る支払対価に該当するためには、当該支払を受ける者が事業として役務の提供等をしたとした場合に、当該支払が役務提供等の「対価」(同項8号)と認められる必要があるとした。よって、ある支払が課税仕入れに係る支払対価として仕入税額控除の対象となるのは、当該支払が個別具体的な役務の提供を受けたことによって生じたという対応関係が認められることが必要であるとの見解を示した。
工賃の支払は作業内容や作業量に関係なし
 その上で裁判所は、就労継続支援とは、通常の事業所に雇用されることが困難な障害者につき、就労の機会を提供するとともに、生産活動その他の活動の機会を通じて、その知識及び能力の向上のために必要な訓練その他の便宜を供与するものであり(障害者総合支援法5条14項、同施行規則6条の10)、生産活動に従事することは法律上義務付けられていないと指摘。また、「就労継続支援事業利用者の労働者性に関する留意事項について」(平成18年課長通知)においても、就労継続支援B型の利用者への留意事項として、作業量等は利用者の自由であることなどが通知されていることからすれば、利用者が生産活動に従事したことをもって、生産活動に係る事業の収入から生産活動に係る事業に必要な経費を控除した残額について、工賃として支払を受けることができるとした。
 裁判所は、原告は障害福祉サービスの一環として、各事業所の利用者に対し、工賃支払を含む生産活動の機会を提供しているものであって、工賃は生産活動による成果物の販売代金に転嫁可能な程度に生産活動への従事と結びついているとはいえないから、工賃の支払が利用者による役務の提供に対する反対給付であるとは認められないと指摘。したがって、工賃の支払は、生産活動への従事に伴う役務の提供を受けたことに対応しているとはいえず、工賃は課税仕入れに係る支払対価に該当するとは認めることはできないとの判断を示し、原告の請求を棄却した。

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