解説記事2024年08月12日 ニュース特集 国外転出時課税の調査強化、Python版RINの導入etc.(2024年8月12日号・№1039)

ニュース特集
東京局R6事務年度、資産税調査の方向性
国外転出時課税の調査強化、Python版RINの導入etc.


 東京局管内税務署が令和5事務年度第3四半期(R6.3末)までに実施した相続税実地調査で総追徴税額が前事務年度から減少した。同局は新型コロナの5類移行後も調査件数が戻っていないことが総追徴税額の伸び悩みの原因と指摘。令和6事務年度は追徴税額積上げの重要ファクターである調査件数を回復させて総追徴税額の向上を図る意向だ。また、同局は、国外転出時課税の課税見込事案に対し国際税務専門官と海外事案担当者が積極的に調査を実施する方針も打ち出している。
 さらに、令和6事務年度は、調査事務運営のメインツールとして「Python版RIN」を導入している。Python版RINは、これまでの相続税選定支援ツール「Tableau RIN」と優先度判定表作成ツールを統合し、実地調査事案の進行管理機能なども追加している。

可能な限り新規着手を継続し、追徴税額積上げ

Q
 東京局は相続税調査について、どのような方向性を示していますか。
A

 東京局の相続税調査では、①高額な追徴税額が見込まれる調査優先度の高い事案からの着手を徹底し、深度ある実地調査を実施する、②実地調査と簡易な接触を効果的に組み合わせて「追徴税額の最大化」を図る方針を掲げていますが、令和5事務年度第3四半期(R6.3末)の実地調査事績では、総追徴税額、1件当たり追徴税額、1日当たり追徴税額、重加賦課割合が前事務年度から減少しました。調査件数については、下表参照。 

 総追徴税額の伸び悩みについて、東京局は、新型コロナの5類移行後も調査件数が戻っていないことに起因するものと考えられ、これにより、①局から署へのメッセージの拙さ、②これまでの局署の事務計画の捉え方、③早期着手の遅れ、④管理者の進行管理問題など多くの課題が顕在化したとしています。その上で、当該①~④の課題を踏まえ、次のように対応するとしています。

・件数は追徴税額積上げの重要なファクターであることを強く認識
・局において、事務計画の策定方法について抜本的な見直しを実施
・6~7月の事務スケジュールを署に明示してその実施状況を局でグリップ。また職員別の着手スケジュールや機動課の支援体制も大幅に見直し早期着手の実現を目指す
・署幹部や局においても各担当者別の調査事案の動静を一覧できる進行管理用の可視化ツールを各署に還元

 また、東京局は、令和6事務年度の調査事務の実施方針として、新たに「調査件数の回復を図ることにより総追徴税額の向上を目指す」と明記しました。調査担当者等に対しては、追徴税額の最大化を目指し、可能な限り新規着手を継続して追徴税額を積み上げることを指示。調査の重点化に際しポイントとなる指標は「総追徴税額・1日当たり追徴税額・追徴税額中央値」であり、「1件当たり追徴税額」ではないことも周知しています。

直前出金解明事案だけでなく困難度も考慮

Q
 重加算税賦課を狙う「特選事案」の取組について変更点はありますか。
A

 東京局は令和5事務年度において、「特選事案」を上席調査官を除く全ての職員に交付し、重加賦課に対するスキルの向上やチャレンジ精神の醸成を図っていました。
 令和6事務年度も特選事案に係る取組は継続されていますが、事案の交付について優先順位が付けられています。具体的には、特選事案の選定数に応じて、①指導育成対象者、②指導育成対象でない事務官、③調査官の順に事案を交付して調査が実施されます。調査経験1年目の職員が担当する特選事案については、引き続き機動課職員による一貫指導の対象とされています。
 なお、特選事案の交付に当たっては、単純な直前出金の解明だけの事案ではなく、調査経験3年目以上の職員に対しては財産構成や取引金融機関数など事案の困難度も考慮しつつ、調査経験に応じた交付が行われているようです。

事案検討会の開催基準変更、事案を限定

Q
 相続税実地調査における事案検討会の全件開催は継続されますか。
A

 令和5事務年度は、実地調査に着手する全件について着手前に事案検討会が開催されていましたが、令和6事務年度は事案検討会の開催基準を変更し、①1~2年目職員の担当事案、②特選事案、③その他、特に特官、統括官等が事案検討会の開催が必要と認める事案(重加賦課見込事案、要更正見込事案、調査困難事案など)について事案検討会を開催し、様々な調査展開を想定して聴取項目の整理、質問応答記録書に記載すべき事項、収集・保全すべき証拠資料などを検討するとしています。
 なお、臨宅調査後においても調査展開に応じて審理担当者等を交えた事案検討会が開催され、法令の解釈や当てはめ、補完すべき事項等が検討・整理されます。

海外事案担当者事務に国外転出時課税を追加

Q
 重点課題である「国際化」に関する取組について教えてください。
A

 東京局資産課税部門の事務運営では、(1)国際化、(2)富裕層、(3)無申告事案への取組が「重点課題」とされ、組織的・重点的な取組が行われています。
 上記のうち「国際化」については、海外資産関連事案が増加傾向にある中、当該事案に係る調査能力の向上と国際事案を担う人材の裾野拡大に向けて取組を強化する方針です。具体的には、令和6事務年度において引き続き海外事案担当者を各署1名指名するとともに、総括統括官が、①海外資産関連事案に係る調査等事務、②国外送金等調書に関する事務(資金移動の実態解明)、③国外財産調書に関する事務(未提出見込者への文書照会等)、④国外転出時(相続・贈与)課税への取組(新規)について海外事案担当者が主導的な役割を担うよう自覚を促すとしています。

国際官が本人転出、海外事案担当者は相続・贈与

Q
 国外転出時課税に係る調査が強化されるということでしょうか。 
A

 国外転出時課税の課税見込事案への積極的な調査については、東京局資産課税課が令和6事務年度の国際化への取組として新たに明記しています(下掲参照)。
 これまでも国外転出時課税制度(本人転出・相続・贈与)の課税見込事案は局から署国際税務専門官(国際官)に提供されていましたが、令和6事務年度においては、署国際官が本人転出事案、別表二抽出事案、複雑困難な高額事案を優先的に調査し、署資産課税部門(海外事案担当者)は国外転出時(相続・贈与)課税(署国際官が課税要件を確認の上、総括統括官を通じて課税見込事案を引継ぎ)の調査を実施する旨が指示されています。

〇令和6事務年度・国際化への取組(一部・要旨)

・海外への資産隠しや国際的な租税回避行為に対応し、相続税等の適正課税を実現するため、選定支援資料等も活用して海外資産関連事案を的確に把握し、海外非違を意識した積極的な調査を実施(継続)
・複雑困難な事案に対しても調査手法の開発や調査事例の集積の観点から深度ある調査を実施、租税条約等に基づく情報交換制度なども積極的に活用、海外取引・海外資産に係る資料情報の収集等にも配意(継続)
・事案の内容に応じて机上調査等も組み合わせることにより、課税見込事案の確実な調査を実施(継続)
国外転出時課税の課税見込事案については、国際官と部門(海外事案担当者)により、事案の態様に応じた積極的な調査を実施(新規)

RINをPythonの機能で再構築

Q
 相続税選定支援ツール「RIN」に改良は加えられていますか。
A

 相続税選定支援ツール「RIN」は、過去の調査事績に基づく予測モデルにより判定したリスクスコア(A~D)や総遺産価額などで条件設定し、被相続人及び相続人に係る申告情報、局内保有情報、関係会社情報などを表示するツールです。
 令和6事務年度においては、Tableauで運用していたRINをPythonの機能で再構築した「Python版RIN」が導入されています。Python版RINは、2つのツール(Tableau RIN、優先度判定表作成ツール)の機能を統合したほか、調査選定に有効な情報を拡大しながらスムーズな画面遷移を可能にしたということです(Tableau 15秒→Python 1秒)。また、Python版RINには、実地調査事案の進行管理機能(調査着手・完了状況の可視化)、ログ監査機能も追加されています(下表参照)。
 なお、Python版RINは、6月に東京局管内全署に提供され、調査事務運営のメインツールとして、令和6事務年度の調査優先度等判定事務、実地調査事案の進行管理で活用されているようです。

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