解説記事2024年08月12日 未公開裁決事例紹介 父の土地の賃貸借契約に伴う収益の帰属を巡る裁決(2024年8月12日号・№1039)
未公開裁決事例紹介
父の土地の賃貸借契約に伴う収益の帰属を巡る裁決
審判所、相続税法9条の「利益を受けた」場合に該当
〇請求人が、請求人の父から所有する土地の使用貸借契約により借り受け、土地の賃貸に係る収益を得ていたことについて、相続税法9条に規定する対価を支払わないで利益を受けた場合に該当するか争われた裁決。国税不服審判所は、①各使用貸借契約の締結を含む一連の取引において、請求人が特段の出捐をした状況は認められず、各取引は、被相続人が各駐車場の所有権の帰属を変えないまま、何らの対価も得ることなく、そこから生じる法定果実の帰属を請求人に移転させたものと評価できること、②被相続人は、自己所有の土地建物に請求人を無償で居住させるなどして、請求人に対してこれら不動産の使用収益の利益を付与しており、請求人は、被相続人から親族間の情ぎにより相当の援助を受けていたというべきであるところ、各取引に基づく各駐車場に関する法定果実収取権の付与も、これと同質のものであると認められること、③各使用貸借契約が締結された経緯をみると、賃料収入の蓄積による本件被相続人名義の将来の遺産の増加抑制を企図するとともに、当面の所得税等の節税も企図したものであると認められること、④各使用貸借契約の締結前後において、各駐車場の利用状況や、不動産管理業者を介しての管理状況自体に特段の変更があったとも認められないことなどを考慮すれば、本件収益を支配していたのは被相続人というべきであり、本件収益は被相続人に帰属するとし、本件収益を受領し請求人の財産が増加していることは、相続税法9条に規定する「利益を受けた」場合に該当すると判断し、請求人の請求を棄却した(大裁(諸)令4第62号)。
主 文
審査請求をいずれも棄却する。
基礎事実等
(1)事案の概要
本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、請求人の父の所有する土地を使用貸借契約により借り受け、当該土地の賃貸に係る収益を得ていたことについて、原処分庁が、当該収益は請求人ではなく請求人の父に帰属するものであるから、当該収益により請求人の財産が増加していることは相続税法第9条に規定する対価を支払わないで利益を受けた場合に該当するとして請求人に対し贈与税の更正処分等をしたところ、請求人が、当該収益は請求人に帰属し、請求人は相続税法第9条に規定する利益を受けていないとして原処分の全部の取消しを求めた事案である。
(2)関係法令等(略)
(3)基礎事実
当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。
なお、以下では、所得税及び復興特別所得税を併せて「所得税等」という。
イ 請求人等共同相続人について
(イ)請求人は、××××××××に死亡した××××(以下「本件被相続人」という。)の長男である。本件被相続人には、請求人のほか、長女(請求人の妹)の××××及び請求人の配偶者で平成28年12月21日に本件被相続人と養子縁組の届出をした××××の計3名(以下「本件各相続人」という。)の子がいる。
(ロ)請求人は、製造業の会社に勤務する者であり、××××と共に、本件被相続人の自宅と同じ敷地内にある別棟の建物に居住している。
ロ 本件被相続人が取得した各土地について
(イ)本件被相続人は、昭和41年から平成15年にかけて、下記の各土地をそれぞれ売買又は相続により取得した。
A ××××××××(374.0㎡)
B ××××××××(1,157.0㎡)
C ××××××××××(977.0㎡)
(ロ)上記各土地の利用状況
本件被相続人は、平成16年頃以降、上記(イ)の各土地(ただしBの土地については一部(510.6㎡)。以下、これらを併せて「本件各土地」という。)をアスファルト舗装するなどした上で、駐車場として賃貸して、賃貸料収入を得るようになった(以下、上記駐車場を「本件各駐車場」という。)。
(ハ)賃貸借契約
本件被相続人は、平成16年頃以降、複数の個人又は法人との間で、次の約定で、本件各土地を所定の区画ごとに駐車場として賃貸する旨の契約(契約書上の名称は「自動車保管場所使用契約」)を締結した。
A 賃貸期間 1年
B 更新 1年ごとに、当事者双方の異議がなければ賃貸期間を更新する。
C 賃料 1区画1か月6,000円又は7,000円
(ニ)駐車場管理契約
本件被相続人は、平成16年頃以降、××××××××(以下「本件管理業者」という。)との間で、次の約定で、本件各土地を駐車場として賃貸する業務についての委任契約(駐車場管理契約)を締結した。
A 業務内容 本件被相続人と各賃借人との間の賃貸借契約の締結に関する事務、賃料等の受領、日常クレーム処理、日常清掃等の業務
B 報酬等 本件管理業者は、代理受領した賃料から、本件管理業者が得る報酬(賃料等の総額の××)を控除し、これを本件被相続人名義の預金口座に振り込む。
ハ 本件各土地に係る使用貸借契約について
本件被相続人と請求人は、平成26年1月25日、本件各土地についての使用貸借契約を締結した(以下「本件使用貸借契約」といい、同契約に係る契約書を「本件使用貸借契約書」という。)。
本件使用貸借契約書には、本件被相続人が、本件各土地を請求人が駐車場用地として使用することを目的に、平成26年2月1日から10年間、各年の固定資産税等の合計額相当額を12で除した金額を月額の賃料として、請求人に賃貸し、請求人は、本件被相続人の承諾により本件各土地を転貸又は使用借権譲渡を行うことができる旨が記載されていた。
ニ 本件各土地の舗装部分等に関する贈与契約について
本件被相続人は、平成26年1月25日、請求人との間で、本件各土地上に敷設されたアスファルト舗装、車止め及びフェンスを請求人に贈与する旨の契約を締結した(以下、上記アスファルト舗装部分を「本件各舗装部分」、上記贈与契約を「本件贈与契約」という。)。
本件贈与契約に係る贈与契約書には、上記の各贈与物件上において営む「駐車場賃貸借契約」については、受贈者(請求人)がその地位を引き継ぐこととし、本件被相続人は、「当該賃借人各人からの預り保証金全額」を受贈者に現金で引き渡した旨の記載がある。
ホ 請求人による贈与税の申告について
請求人は、平成27年2月13日、上記ニの本件贈与契約について、平成26年分の贈与税の申告書を原処分庁に提出した。
原処分庁は、平成29年3月23日付で、請求人が提出した当該贈与税の申告書について、別表のとおり、課税価格を××とする減額更正処分をした。
へ 請求人が締結した賃貸借契約及び駐車場管理契約について
(イ)賃貸借契約
請求人は、本件被相続人から本件各土地に係る賃貸借契約の賃貸人たる地位を承継した平成26年2月1日以降、平成27年7月1日までの間に本件各土地の各区画の賃借人が賃貸借契約の更新又は変更をする際、それらの賃借人との間で、賃貸人を請求人とする賃貸借契約又は賃貸借変更契約を締結した(以下、これらの契約を「本件各土地賃貸借契約」という。)。
(ロ)駐車場管理契約
請求人は、平成26年1月30日、本件管理業者との間で、委託者を本件被相続人としていた上記ロの(ニ)の本件各土地の駐車場管理契約について、同年2月1日から、委託者を請求人に変更し、賃料等の振込先を××××××××の請求人名義の預金口座(以下「本件振込口座」という。)に変更する旨の契約を締結した(以下、本件使用貸借契約、本件贈与契約及び本件各土地賃貸借契約の各契約に係る取引を併せて「本件各取引」という。)。
なお、当該駐車場管理契約における委託者名及び賃料等の振込先以外の条項については、委託者を本件被相続人としていた契約からの変更はなかった。
ト 本件被相続人に対する平成26年分の所得税等について
(イ)本件被相続人の平成26年分の確定申告等
本件被相続人は、平成26年分の所得税等の確定申告書について、法定申告期限内に原処分庁に提出した。本件被相続人は、上記の確定申告書の提出の際に添付した収支内訳書の「不動産所得の収入の内訳」欄において、本件各駐車場の賃貸契約期間が、いずれも平成26年1月の1か月間であるとして不動産所得に係る収入を算定していた。
(ロ)本件被相続人に対する平成26年分の所得税等の調査
原処分庁所属の調査担当職員は、平成27年9月8日、本件被相続人の所得税等の調査のため、本件被相続人の自宅に臨場して本件被相続人と面談をし、その後も本件被相続人、請求人及び××××××××(以下「本件税理士法人」という。)の担当税理士(以下「本件税理士」という。)と電話や面談をするなどして調査を行った。
(ハ)本件被相続人の平成26年分の所得税等に係る更正の請求
本件被相続人は、平成29年1月24日、平成26年分の所得税等について、原処分庁に対し、不動産所得の計算における固定資産税の計上漏れなどを理由とする更正の請求をした。
(ニ)本件被相続人に対する平成26年分の所得税等の更正処分等
原処分庁は、上記(ハ)の更正の請求について、平成29年3月23日付で、本件被相続人に対し、更正をすべき理由がない旨の通知処分をした。
また、原処分庁は、同日付で、上記(ロ)の調査に基づき、本件被相続人の平成26年分の所得税等について、平成26年2月以降の本件各駐車場の収益(以下「本件各駐車場収益」という。)が本件被相続人に帰属するとして更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件被相続人更正処分等」という。)をした。
(ホ)本件被相続人は、平成29年6月16日、本件被相続人更正処分等を不服として、再調査請求をしたところ、再調査審理庁は、同年9月13日付で、同請求を棄却する旨の再調査決定をした。
(へ)本件被相続人は、平成29年10月11日、再調査決定を経た後の本件被相続人更正処分等を不服として審査請求をしたところ、当審判所は、平成30年10月3日付で同審査請求を棄却する旨の裁決をした。
(ト)本件被相続人は、平成31年4月5日、××××××に対し、国を被告として本件被相続人更正処分等の取消しを求める訴訟を提起したところ、同裁判所は、××××××、本件被相続人の上記(ニ)の通知処分の取消しを求める部分については却下し、本件被相続人更正処分等については取り消す判決をした。
その後、国は、令和3年5月6日、上記判決を不服として××××××に控訴したところ、同裁判所は、××××××、本件被相続人の訴訟を承継した本件各相続人の請求を棄却する判決をし、当該判決は確定した。
(4)審査請求に至る経緯(略)
争点および主張
請求人が本件各駐車場に係る賃貸料収入を受領したことによる財産の増加は、相続税法第9条に規定する「利益を受けた」場合に該当するか否か(本件各駐車場収益は、請求人に帰属するか否か。)。(編注:争点に対する主張は表のとおり)
【表】争点についての主張
原処分庁 | 請求人 |
以下のとおり、本件各駐車場収益の法律上の帰属者である請求人は、単なる名義人であって、その収益を享受せず、その収益は、本件被相続人に帰属する。したがって、当該収益により、請求人の財産が増加したことは、相続税法第9条に規定する「利益を受けた」場合に該当する。 (1)本件贈与契約は、本件各舗装部分を含む各贈与物件を対象とするものであるが、アスファルト舗装は、土地との物理的結合の程度が強いことから、土地の構成部分となり、独立の所有権が成立する余地はないというべきである。したがって、本件贈与契約のうち、本件各舗装部分の所有権を本件被相続人から請求人に移転させることは原始的に不能であるから、本件贈与契約のうち、本件各舗装部分を対象とする部分は無効というべきである。そうすると、本件使用貸借契約により、当事者が当初意図したところの、請求人が本件各舗装部分を所有することを目的とした本件使用貸借契約が成立したと解釈する余地はないというべきである。 (2)請求人は、有効に成立した本件使用貸借契約により本件被相続人から本件各土地から生ずる収入を収取する承諾を得ている(すなわち本件各土地に係る法定果実収取権の付与)と認められる。もっとも、使用貸借における転貸の承諾、すなわち法定果実収取権の付与は、その無償性から、その承諾を撒回し、将来に向かって付与しないことができると考えられることから、請求人が本件被相続人から使用貸借に基づく法定果実収取権を付与されたことで、実質的にも本件各土地からの収益を享受する者に該当すると判断することはできない。 |
以下のとおり、本件各駐車場収益の法律上の帰属者である請求人は、単なる名義人ではなく、その収益は、請求人に帰属する。したがって、相続税法第9条に規定する「利益を受けた」場合に該当しない。 (1)本件各舗装部分には、社会的経済的にみて財産的価値があることは明らかであり、税法上、舗装部分を構築物として減価償却が認められていることに照らしても、資産としての財産的価値が認められているといえるから、本件各舗装部分を贈与する契約は少なくとも税法上は有効である。
(2)請求人は、本件各土地の所有者である本件被相続人から本件各土地の使用収益権を与えられている。そして、これに基づき本件各土地を賃貸し、賃貸人としての地位に基づき本件各駐車場収益を得ているのであって、民法上、形式上も実質上もその収益を享受している。したがって、所得税法上においても、収益の帰属主体であるとみるべきであり、本件各駐車場収益は、本件被相続人に帰属せず、請求人に帰属する。 |
審判所の判断
(1)法令解釈等
所得税法第12条は、資産又は事業から生ずる収益の法律上帰属するとみられる者が単なる名義人であって、その収益を享受せず、その者以外の者がその収益を享受する場合には、その収益は、これを亭受する者に帰属するものとして、この法律の規定を適用する旨規定する(実質所得者課税の原則)ところ、その趣旨は、担税力に応じた公平な税負担を実現するため、収益の法形式上の帰属者(名義人)と法律的実質的帰属者が相違する場合には、後者を収益の帰属者とするというものと解される。そして、同条の規定を受けた所得税基本通達12−1は、所得税法第12条の適用上、資産から生ずる収益を享受する者が誰であるかは、その収益の基因となる資産の真実の権利者が誰であるかにより判定すべきであり、それが明らかでない場合には、その資産の名義者が真実の権利者であるものと推定する旨を定めているが、かかる取扱いは、同条の規定の趣旨に沿うものとして当審判所においても相当と認められる。
また、相続税法第9条は、対価を支払わないで利益を受けた場合においては、当該利益を受けた時において、当該利益を受けた者が、当該利益を受けた時における当該利益の価額に相当する金額を当該利益を受けさせた者から贈与により取得したものとみなす旨規定している。
その趣旨は、贈与税の課税が贈与によって取得した財産、すなわち、経済的利益を対象とするところ(相続税法第2条の2《贈与税の課税財産の範囲》)、経済的利益の取得が、私法上の贈与契約によるものでないが、贈与契約による取得と同様の実質を有する場合に、贈与契約による取得ではないことを理由に課税することができないとするならば、課税の公平を失することになることから、この不合理を補うために、対価を支払わないで経済的利益を受けた場合には、その経済的利益を贈与により取得したものとみなし、これを課税財産として贈与税を課税することにあると解される。
したがって、相続税法第9条の「対価を支払わないで」「利益を受けた場合」とは、対価を支払わないで受けた経済的利益が、贈与による経済的利益の取得と同様の実質を有する場合をいうものと解され、その経済的利益の取得は、広く財産の増加又は債務の減少があった場合を含むというべきである(相続税法基本通達9−1《「利益を受けた」の意義》)。
(2)認定事実
請求人提出資料、原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、次の事実が認められる。
イ 請求人が居住する土地及び建物について
請求人は、本件被相続人の自宅と同じ敷地内にある本件被相続人所有の別棟の建物に無償で居住し、同土地建物の固定資産税は、本件被相続人が支払っていた。
ロ 本件税理士法人に対する相談
請求人は、平成25年頃、本件被相続人から、本件被相続人の資産の管理や相続に関心を持っている旨の話を聞くようになったことから、平成25年11月18日、本件被相続人の意向を受けて、本件税理士に対し、本件被相続人が所有する不動産に関する租税や相続税の節税対策について相談をした。
本件税理士は、請求人からの上記相談に対し、本件被相続人の財産が今後増加すると、請求人が本件被相続人の財産を相続する際、相続税を納付するために本件被相続人所有の土地の一部を売却しなければならないかもしれないとして、請求人が本件各土地を借りて駐車場の管理・経営をし、その収入を得ることを助言した。
請求人は、本件被相続人に対し、上記の本件税理士からの助言の内容を伝え、請求人が本件被相続人から本件各土地を借り、駐車場の管理・経営することを提案したところ、本件被相続人は、十分検討した上で、その提案を了承した。
請求人は、本件被相続人の了承を得たことから、本件税理士に対し、上記の助言に沿って手続を進めることを伝え、本件税理士は、必要となる各種の契約書を作成するためのひな型を用意し、請求人に交付した。
ハ 本件各取引について
請求人は、本件被相続人から本件各土地を借り、駐車場の管理・経営をするために、上記のとおり、本件各取引を行ったが、その際に特段の出捐をしなかった。
ニ 平成26年2月以降の本件各土地の賃貸借について
本件管理業者は、平成26年2月以降の本件各駐車場に係る賃貸料収入を、本件振込口座に振り込むようになった。
本件振込口座は、請求人が同口座の通帳や印鑑、入出金の管理をしていた。
(3)検討
イ はじめに
上記のとおり、本件各舗装部分に係る本件贈与契約の有効性について、原処分庁と請求人の間には争いがある。当審判所の調査の結果によれば、アスファルト舗装は、路盤にアスファルト混合物を敷きならして、転圧機械により所定の密度が得られるまで締め固め、所定の形状に平坦に仕上げるものであり、アスファルト舗装された地面のうち、アスファルト混合物が含まれる表層及び基層部は、土地の構成部分となり、独立の所有権が成立する余地はないというべきである。そうすると、本件贈与契約のうち本件各舗装部分の所有権を請求人に移転させることは原始的に不能であることは明らかであるから、本件贈与契約のうち本件各舗装部分を対象とする部分は無効であると解される。もっとも、本件各舗装部分に係る贈与契約を無効と解すべきであっても、上記のとおり、本件使用貸借契約が有効に成立したことについて、請求人と原処分庁との間に争いはない。そして、上記のとおり、本件使用貸借契約書には、使用貸借の目的は、請求人が本件各土地を駐車場用地として使用することにある旨が記載されていることからすれば、本件使用貸借契約は、土地に付合した本件各舗装部分をも含む本件各土地を使用貸借させるものであると解するのが合理的である。
したがって、請求人は、本件各駐車場収益が法律上帰属するとみられる者に該当すると解されることから、原処分の適法性は、本件各駐車場収益につき、請求人が「単なる名義人」であって、その収益を享受せず、本件被相続人がその収益を享受する場合に当たるか否かにより判断すべきである。
ロ そこで、本件各駐車場収益について、請求人は所得税法第12条に規定する「単なる名義人」であって、その収益を享受せず、本件被相続人がその収益を享受する場合に当たるか否かについて、以下検討する。
(イ)不動産所得である本件各駐車場収益は、本件各土地の使用の対価として受けるべき金銭という法定果実であり(民法第88条《天然果実及び法定果実》第2項)、所有権者がその果実収取権を第三者に付与しない限り、所有権者に帰属すべきものである。また、使用貸借契約による使用借主は、その無償性から、使用貸主の承諾を得なければ、第三者に借用物の使用又は収益をさせることはできないとされており、本来使用貸主の承諾を得ない限り、法定果実収取権を有しない(民法第593条《使用貸借》及び第594条《借主による使用及び収益》第2項)。
(ロ)本件においては、既に本件各土地の所有者として、本件各土地を駐車場として貸賃することによって賃貸料収入を得ていた本件被相続人が、子である請求人に本件各土地を使用貸借し、法定果実の収取を承諾して、賃貸人たる地位を請求人に承継させていることから、上記イのとおり、請求人は、本件各土地からの「収益の法律上帰属するとみられる者」に該当する。
(ハ)もっとも、使用貸借における転貸の承諾、すなわち法定果実収取権の付与は、その無償性から、その承諾を撤回し、将来に向かって付与しないことができると考えられることからすると、そもそも本件被相続人から使用貸借に基づく法定果実収取権を付与されたことで、請求人が、当然に実質的にも本件各土地からの収益を享受する者に当たると断ずることはできないというべきである。
(ニ)この点、本件各土地の所有者が本件被相続人であったことについて当事者間に争いはないところ、本件各取引においては、上記のとおり、請求人が特段の出捐をした状況は認められないことから、本件各取引は、本件被相続人が本件各土地の所有権の帰属を変えないまま、何らの対価も得ることなく、そこから生じる法定果実の帰属を子である請求人に移転させたものと評価できる。
(ホ)しかも、上記のとおり、本件被相続人が、本件各土地以外にも、請求人に対し、自己所有の土地建物に無償で居住させた上、その固定資産税も本件被相続人が負担するなどして、当該不動産の使用収益の利益を付与していたことも、本件各取引に基づく本件各土地に関する法定果実収取権の付与と同質のものであって、それらによって請求人が本件被相続人から親族間の情ぎにより相当の援助を受けていた関係にあったというべきである。
(へ)さらに、本件各取引がなされた経緯についてみると、上記のとおり、請求人が本件税理士法人に本件被相続人の相続に係る相続税対策について相談し、請求人が本件被相続人の財産を相続する際、相続税の納付のために遺産(不動産)の売却を余儀なくされるような事態を避けるため、本件被相続人に対しその趣旨を説明の上、本件使用貸借契約を含む本件各取引を行い、本件被相続人が従前から営んでいた賃貸料収入の蓄積による本件被相続人名義の将来の遺産の増加を抑制することを企図するとともに、当面の所得税等の節税も企図したものであることが認められる。
(ト)以上のことに加え、上記のとおり、本件各取引に際して行われた本件各土地に係る管理契約の変更は、委任者及び賃料等の振込先について、本件被相続人から請求人に変更したことのみであり、本件使用貸借契約による使用貸借がされたとする日(平成26年2月1日)の前後において本件各土地の駐車場としての利用状況や、本件管理業者を介しての管理状況自体に特段の変更があったとも認められないことも併せて考慮すれば、本件各取引は、本件被相続人の相続に係る相続税対策を主たる目的として、本件被相続人の存命中は、本件各土地の所有権は飽くまでも本件被相続人が保有することを前提に、本件各土地による本件被相続人の所得を子である請求人に形式上分散する目的で、請求人に対して本件使用貸借契約に基づく法定果実収取権を付与したものにすぎないものと認められる。
したがって、本件各駐車場収益を支配していたのは本件被相続人というべきであるから、当該収益について、請求人は単なる名義人であって、その収益を享受せず、本件被相続人がその収益を享受する場合に当たるというべきである。
ハ そして、上記のとおり、本件被相続人に帰属する本件各駐車場に係る賃貸料収入が本件振込口座に振り込まれ、請求人がこれを受領し請求人の財産が増加していることは、相続税法第9条に規定する「対価を支払わないで、又は著しく低い価額の対価で利益を受けた」場合に該当するというべきである。
ニ 請求人の主張について
請求人は本件各土地の所有者である本件被相続人から本件各土地の使用収益権を与えられ、賃貸人の地位に基づき本件各駐車場収益を得ており、民法上、形式上及び実質上その収益を享受していると主張する。
しかしながら、本件各駐車場収益について、請求人が単なる名義人であることは上記ロに説示したとおりである。また、本件各取引後、本件各駐車場に係る賃貸料収入が本件振込口座に振り込まれていたことは認められるが、上記ロの(ホ)のとおり、本件被相続人が、その子である請求人に対する本件各土地の法定果実収取権の付与を継続していたことは、請求人に対して親族間の情ぎにより相当の援助を与えていたことによるものと解される。このことからすれば、当該賃貸料収入が本件振込口座に振り込まれていたことは、本件被相続人が所有権者として享受すべき収益を請求人に自ら無償で処分した結果と評価できるのであって、やはりその収益を支配していたのは本件被相続人というべきである。以上のことから、本件各駐車場収益について、請求人は単なる名義人であるというべきであるから、請求人の主張は認められない。
(4)原処分の適法性について(略)
(5)結論
よって、審査請求は理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり裁決する。
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