解説記事2024年08月26日 SCOPE 相場操縦行為の誘因目的、積極的意図までは必要なし(2024年8月26日号・№1040)
東京地裁、金融庁の課徴金納付命令は適法
相場操縦行為の誘因目的、積極的意図までは必要なし
相場操縦行為に該当するとして金融庁から令和3年3月4日付けで2,357万円の課徴金納付命令を受けた個人投資家(原告)がその取消しを求めた裁判で、東京地方裁判所(岡田幸人裁判長)は令和6年1月30日、一連の取引は客観的に変動取引に当たり、誘因目的をもって取引をしたものと認められるとの判断を示し、原告の請求を棄却した(令和3年(行ウ)第134号)。裁判所は、成行又は高指値の買い注文を短時間に連続して発注する方法は、それぞれの買い注文自体は相対的に小口のものであったとしても、一般的には株価を高値に誘導することが可能な取引手法であるなどと指摘するとともに、相場操縦行為の誘因目的が認められるためには、投資者を積極的に取引に誘い込む意図までは必要ないとした。
成行又は高指値の買い注文の連続発注は小口でも株価を高値に誘導可能
本件は、金融商品取引法159条2項1号に違反する現物取引による相場操縦行為に該当するとして、課徴金納付命令を受けた個人投資家である原告が、国(被告)を相手にその処分の取消しを求めたもの。同条2項柱書き及び同項1号では、何人も、有価証券売買等の取引を誘因する目的をもって、有価証券売買等が繁盛であると誤解させ、又は取引所金融商品市場における上場金融商品等の相場を変動させるべき一連の有価証券売買等をしてはならない旨を規定しているが、この誘因目的をもってする変動取引は、現実取引による相場操縦行為の典型例であるとされている。
原告は、ビート・ホールディングス・リミテッド社の株式について、17取引日にわたり、成行又は高指値の買い注文を連続して発注して、他の投資者が発注した売り注文を買い付けることにより直前の約定値より株価を引き上げたりするなどの方法により、11万8,459株を買い付ける一方、11万7,482株を売り付けたことにより、金融庁から、相場操縦行為に該当するとして、同社株式の売買が繁盛であると誤解させ、かつ、東証市場における同社株式の相場を変動させるべき一連の売買をしたものであるとし、課徴金納付命令が下されていた。
実際に株価を変動させる必要なし
裁判所は、金商法159条2項1号において規定する変動取引とは、取引所金融商品市場における相場を変動させる可能性がある一連の有価証券売買等又はその委託等をいうものと解されるとした上で、例えば、成行又は高指値の買い注文を短時間に連続して発注する方法は、それぞれの買い注文自体は相対的に小口のものであったとしても、一般的には株価を高値に誘導することが可能な取引手法であるなどとし(表参照)、本件取引は客観的にみて変動取引に該当するとの判断を示した。なお、原告は、株価が高騰したのは外資系金融機関による大量の売買を原因とするものであると主張したが、裁判所は、変動取引とは相場を変動させる可能性がある取引をいい、実際に株価を変動させる必要はないとした。
【表】取引の概要と裁判所の判断
原告における主な取引の概要 | 裁判所の判断 |
(小口の買い注文の連続発注) 原告は、取引の全般にわたって多数回にわたり、2株ないし20株程度の単位の小口の成行又は高指値の買い注文を、数秒ないし数十秒おきに連続して発注していた。 |
特に注文量がそれほど多くない本件株式のような銘柄の場合において、成行又は高指値の買い注文が短時間に連続して発注されたときは、例えば買い注文それ自体が小口のものであっても、既に発注されている売り注文と次々に約定することにより、より頻繁に株価を上昇させ、他の投資者に対して株価が上昇基調にあると思わせる可能性があるといえ、流れに乗り遅れまいとした他の投資者からの更に高値での買い注文を誘発することもあり得る。以上によれば、成行又は高指値の買い注文を短時間に連続して発注する方法は、それぞれの買い注文自体は相対的に小口のものであったとしても、一般的には株価を高値に誘導することが可能な取引手法であるということができる。 |
(対当売買) 原告は、取引期間である17取引日のうち11取引日において、合計77回にわたり、自らが発注した売り注文と自らが発注した成行又は指値の買い注文とを約定させた。 |
対当売買は、自らが発注した売り注文と買い注文とを対当させて出来高を増加させることにより、実需に基づかない取引がされているにもかかわらず他の投資者に対して取引が繁盛であると見せかけることができるものである上、各注文の指値を任意に設定することにより、意図的に株価を形成することが可能な取引であるといえる。以上のとおり、対当売買は、一般に株価を高値に誘導し得る取引手法にあたるものといえる。 |
(終値関与) 原告は、取引期間である17取引日の全てにおいて引成買い注文を発注した。また、原告は、取引期間のうち16取引日においては午後2時45分以降に、うち13取引日においては午後2時59分以降に、それぞれ成行又は高指値の買い注文を連続して発注した。 |
引成買い注文及び大引け間際の時間帯における成行又は高指値の買い注文は、それ自体が規制等されているものではなく、かかる注文を発注したからといって直ちに終値関与行為に当たると認められるわけではないものの、その注文内容や発注時刻からすれば、終値を上昇させ得るものというべきであるから、合理的理由なくこれらの注文を繰り返し発注するような行為は、意図的に終値を上昇させようとするものとして終値関与行為に当たるものと認めるのが相当である。 |
次に、誘因目的については、実際には人為的な操作を加えて相場を変動させるにもかかわらず、その相場が自然の需給関係により形成されるものと誤認させて投資者を有価証券等売買取引に誘い込む目的をいうものと解されるとし、誘因目的が認められるためには、投資者を積極的に取引に誘い込む意図までは必要でなく、投資者に誤解を与え、それに基づいて投資者が取引に参加する可能性があることを認識しながら、相場変動の意図に基づいて取引をすれば足りるとした。
本件では、原告は成行・高指値買い注文を行うに当たって、株式に係る相場が自然の需給関係により形成されるものと他の投資者に誤解を与え、それに基づいて取引に参加する可能性があることを認識しながら、誘因目的をもって成行・高指値買い注文をしていたことが推認されるものというべきであると指摘。したがって、金融庁の課徴金納付命令は適法であると判断し、原告の請求を棄却した。
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