カートの中身空

閲覧履歴

最近閲覧した商品

表示情報はありません

最近閲覧した記事

解説記事2024年09月16日 論考 持続的な成長戦略としての持株会社化(2024年9月16日号・№1043)

論考
持続的な成長戦略としての持株会社化
 神奈川大学名誉教授 葭田英人

1 はじめに

 日本においては、戦前の財閥は持株会社形態を採っていたが、戦後に財閥は解体され、自由な市場競争を阻害するとの理由から独占禁止法により持株会社は禁止された。しかし、1997年に独禁法の改正があり、持株会社は解禁され、多くの上場会社が持株会社制度を採用している。
 持株会社が、グループの各事業会社の株式を保有し、グループ全体を統括管理し、経営戦略の策定や意思決定を行い、事業の運営は、法人格を持ち独立している各事業会社が行う企業形態である。
 企業が持株会社化を行う最大の目的は、「経営資源の最適化」である。持株会社化により、持株会社と各事業会社との役割を分担し、互いの業務に専念できるため、経営資源を有効活用でき、生産性や収益力が向上し、競争力や企業価値の向上を図ることができる。さらに、「意思決定の迅速化」、「経営責任の明確化」、「経営と執行の分離」など、包括的なコーポレートガバナンスの強化を図ることも可能となる。
 また、M&Aによる新規事業参入や事業の拡大にも持株会社は適している。M&Aで買収した企業は各々独立した事業を営んでいるため、そのままグループに取り込むことができ、手放したい事業会社をグループから切り離すことも難しくない。
 さらに、事業承継のために持株会社を導入する会社も増えている。持株会社化を活用した事業承継とは、事業承継者が持株会社を設立し、現経営者の会社の株式を持株会社が買い取ることで、経営権を事業承継者へ移す方法である。特に、中堅企業・中小企業の事業承継においては、事業承継者の節税対策や株式の分散化阻止、株式取得資金の問題(事業承継者である個人より法人の持株会社の方が融資を得やすい)などに有効な方法である。
 そこで、本稿において、年々増加している持株会社の特徴や種類を概観し、持株会社化の背景と持株会社化のメリット・デメリットについて検討し、中堅企業・中小企業の持株会社化の理由を明らかにする。そして、持株会社化の課題とそのあり方について考察する。

2 持株会社化の経緯

 戦前の三井・三菱・住友などの企業グループは財閥と呼ばれ、持株会社体制で運営されていたが、戦後、GHQにより財閥が解体されて以来、独占禁止法により、事業支配の過度な集中を防止し、自由で公平な市場競争を確保するなどの理由から持株会社の設立が禁止されていた。
 しかし、市場のグローバル化や規制緩和にともない、組織再編を促進して効率のよい経営を進めるためには持株会社の設立が必要であることから、1997年に独占禁止法が改正され、持株会社の設立が認められるようになった。上場企業における持株会社の第1号は大和証券グループ本社であった。さまざまな大企業が持株会社化し、銀行や保険会社など金融機関を中心に、さまざまな業界でそうした動きが見られる。
 特に、企業再編がしやすく、M&Aや新規事業への参入が容易で、グループの事業会社ごとに迅速な意思決定ができ、近年は国際化が進み変化の激しい国際市場における競争激化にも対応でき、経営の効率化や敵対的買収防衛策、円滑な事業承継などの観点から、持株会社の形態をとる企業が増加している。

3 持株会社の概要

(1)持株会社とは
 持株会社(ホールディングス)とは、グループ内の各会社の株式を保有し、他の会社の事業活動を自社の管理下に置き、株主として企業グループ全体を支配・統治して、経営戦略の策定や意思決定を行うことを目的として設立された会社をいう。
 傘下の事業会社は経営と事業が分離され、持株会社は、経営方針の策定や重要な経営判断など、各事業会社の管理に専念でき、事業会社はそれぞれの事業運営に集中できる。持株会社化は、今後の持続的な成長戦略として有用な手段であり、事業拡大や事業ポートフォリオの再編を有効に達成することができる。
 持株会社化の最大の目的は、経営資源の最適化であり、限りある経営資源を有効に活用し、国際競争力の強化や企業価値の向上を図ることができる。したがって、持株会社が増加している理由として、次の3つを挙げることができる。
 ① 他の会社との関係強化
 企業グループ内の他の会社と協力してノウハウやアイデアを共有することができ、商品の開発・拡充、事業の開拓・拡大により成長発展することができるメリットがある。
 ② 事業配分
 企業グループ内の各事業会社に事業を配分すれば、各社は、配分された事業に集中でき、独立して活動し意思決定することもできることから、生産性が向上し、競争力が強化される。
 ③ リスクコントロール
 企業グループ内の各事業会社は異業種であることから、一つの事業会社の業績が思わしくなくても、他の事業会社でカバーでき、リスクをコントロールすることにより業績を安定させることができる。
 なお、持株会社は、企業グループ内の各事業会社の株式を保有しているので、各社の業績に応じた配当金を受け取ることができ、それが収入源となる。
(2)持株会社の種類
 持株会社には、次の3つの種類がある。
 ① 純粋持株会社
 純粋持株会社とは、自ら事業活動は行わず、企業グループ全体を見渡しながら経営意思決定を行い、各事業会社を統制・管理することを目的とする会社をいう。主に、各事業会社の株式の配当から利益を得ることになる。
 ② 事業持株会社
 事業持株会社とは、自らも事業活動を行いながら、企業グループの各事業会社を統制・管理することを目的とする会社をいう。事業持株会社は、各事業会社からの配当金以外にも自身の事業で収益を得ることができる。
 ③ 金融持株会社
 金融持株会社とは、銀行や証券会社、信託会社、保険会社などの金融機関を別会社として、統制・管理することを目的とする会社をいう。純粋持株会社と同様、自ら事業活動は行わず、別会社である金融機関の管理・運営に専念し、配当金を得る会社である。
 持株会社は、企業グループ全体の経営意思決定を行い、各事業会社は独立して事業活動を行い、役割を分担し、互いの業務に専念できることから、迅速に柔軟に効率的に経営に対応することができるのが強みである。
(3)持株会社の設立方法
 持株会社の設立方法には、次の3つがある。
 ① 抜け殻方式(会社分割方式) 
 抜け殻方式は、持株会社となる会社の事業や権利義務などの全部または一部を切り離して、別会社(事業会社)に移転する方法である。この場合、持株会社となる会社には本社機能だけを残し、事業会社の株式だけを保有し持株会社化する。なお、事業や権利義務などを移転するだけなので費用負担は少なくて済む。
 ② 株式移転方式
 株式移転方式は、既存会社が持株会社(完全親会社)を設立し、株式全部と本社機能を持株会社に移転して完全子会社(事業会社)となり、事業会社の株主は持株会社の株式の割り当てを受け、持株会社の株主となる方法である。したがって、その対価は株式であることから資金は不要である。共同で設立するのが一般的であるが、単独で設立することもある。各事業会社は、法人格を維持したまま許認可もそのままで事業を継続することができる。
 ③ 株式交換方式
 株式交換方式とは、事業会社となる会社(完全子会社)が、その株式全部を持株会社となる会社(完全親会社)に取得させ、対価として持株会社から事業会社の株主に支払われるのは持株会社の株式であるため、資金は必要なく持株会社化できる。
(4)持株会社とカンパニー制や事業部制との違い
 ① カンパニー制
 カンパニー制とは、会社内の事業部門をそれぞれ独立法人のように扱い、独立採算制を採用した社内組織をいう。各部門は法的には独立していないが、人事権から資金調達まで大幅な権限が委譲され、責任の所在を明確化していることから、経営方針の策定や損益計算、役員体制などを独自に行い、独立した運営がされる。しかし、法的には法人内の一部であり、法的に別法人である持株会社とは異なる。持株会社体制では、各事業会社で損失が生じても、他の会社には直接影響しない。しかし、カンパニー制の場合には、法的に同一法人であるため、損失は会社全体の損失となる。
 ② 事業部制
 事業部制とは、各事業部が迅速に意思決定を行うため、事業部ごとに並列的に編成された組織形態を採る。各事業部は、それぞれ独立した組織運営を行い、独自の業績管理を行うことができる。しかし、重要な経営判断を事業部単独では行えず、人事権も持っていない。さらに、カンパニー制同様、別法人ではないことから、各事業部での問題や損失は会社全体に影響することになる点が持株会社と異なる。

4 持株会社のメリット

 持株会社のメリットは、次のとおりである。
 ① 意思決定の円滑化と経営の効率化
 持株会社は、企業グループ全体を統括管理し経営戦略の策定や意思決定を行い、法人格を持ち独立している各事業会社は独自に事業活動を行う。役割を分担し、互いの業務に専念できることから、各社の意思決定は迅速かつ円滑に行うことができ、企業グループ全体の経営の効率化も図ることができる。
 ② リスク分散
 持株会社と各事業会社は、それぞれ独立した存在であるため、業績悪化や損害などのリスクが生じても、グループ内の各社に影響を及ぼすことはほとんどない。したがって、何か問題が生じた場合でも、経営上のリスクを分散することができる。
 ③ 各社の多様な人事制度・労働条件に対応
 企業は業種や事業によって人事制度・労働条件が異なるのが一般的である。持株会社体制の企業グループ内の各社は、それぞれ独立した法人であることから、各社の事業内容に沿った人事制度・労働条件を設定することができる。
 ④ M&Aの推進
 持株会社体制の企業グループ内の各社は、それぞれ独立して事業活動を行っていることから、M&Aを進めるにあたっても、必要な事業会社の買収を抵抗なく比較的スムーズに進めることができる。また逆に、グループから切り離して売却することも容易である。
 さらに、グループ内の各社に対して、敵対的買収が仕掛けられたとしても、持株会社が株式を手放さない限り買収防衛することができる。
 ⑤ スムーズな事業承継
 事業承継者が持株会社を新設し、事業承継の対象となる会社の株式を持株会社に移すことにより、当該株式は持株会社の資産となり、相続財産の対象から外れる。したがって、持株会社化を行うことにより、遺留分の問題を発生させることなく、事業承継をスムーズに行うことができる。

5 持株会社のデメリット

 持株会社のデメリットは、次のとおりである。
 ① 統率力の低下
 持株会社化すると、経営の意思決定は持株会社が行うものの、事業活動は各事業会社が独自に行うことから、各事業会社の独立性が強くなりすぎると持株会社の統率力が低下し、企業グループ内の連携が難しくなるおそれがある。したがって、各社の関係が悪化すると、企業グループ全体の不利益につながる可能性がある。
 ② 管理コストの増加
 持株会社化され、グループ各社の数が増加すると、管理が複雑化し、管理コストが増加する。さらに、管理部門が持株会社と各事業会社に存在することから部門が重複することになり、管理コストが増大する。管理部門を集約して、グループ各社の業務効率を高めることが重要である。
 ③ セクショナリズム
 持株会社体制においては、各社は独立して独自の最適化を図ることから、セクショナリズムを助長する可能性がある。各社間での利害の対立や競争が生じると、企業グループ全体の競争力が低下することになるので、持株会社がリーダーシップを発揮して、いかに各社の利害を調整するかが問われることになる。

6 中堅企業・中小企業の持株会社化

 従来、持株会社化は大企業における手法と捉えられがちだったが、近年、中堅企業・中小企業の間でも持株会社化が進んでいる。中堅企業・中小企業の持株会社化は、経営戦略上の選択肢として一般的になりつつある。
 中堅企業・中小企業が持株会社化するのは、多くの場合、次のような目的で行われる。
 ① 事業ポートフォリオの再編
 既存事業に加え、新規事業への進出や多角化を検討する中堅企業・中小企業も少なくない。持株会社化により役割を分担し、互いの業務に専念する合理性から、新規事業を子会社として独立させることでリスクを分散し、経営の効率化を図り、新たな収益源の獲得を目指すために、中堅企業・中小企業も持株会社化を推進する必要がある。
 ② 事業承継
 オーナー経営の中小企業にとって、事業承継は避けて通れない重要な経営課題である。後継者へのスムーズな事業承継を実現するために、持株会社化を通じて円滑な事業承継を図ることができる。
 具体的に、その方法は、事業承継者が持株会社となる会社を設立し、株主を事業承継者のみとすることで、今後、子会社化する事業会社の議決権を事業承継者が承継することになる。事業会社の株式を先代の経営者から買い取るには多額の資金が必要になる。そこで、持株会社は、金融機関から融資を受けることになる。なお、借入金の返済の原資は子会社化する事業会社からの配当を充てる。
 金融機関から融資を受けた資金で先代の経営者や他の株主から事業会社の株式を買い取り、持株会社が50%超を保有することで事業会社を子会社化することができ、事業承継者が間接的に事業会社を支配することができるようになる。なお、事業承継者自身は、直接、株式譲受にかかわっていないため、相続税・贈与税が発生することはない。
 また、先代の経営者の相続が発生した際に、株式が分散するリスクはなくなり、相続財産にも含まれることはないので、事業会社の株式が事業承継者以外の相続人にわたることはない。一方、先代の経営者は持株会社に株式を売却し現金化することから、先代の経営者の個人資産は、その後の事業会社の株式評価額上昇による影響を受けることはないため、相続税評価額は固定される。また、換金しにくい株式を現金化することができるが、株式を譲渡した先代の経営者の譲渡所得に対しては、所得税や住民税が課税される。
 なお、持株会社を先代の経営者が設立し、持株会社が株式を購入するための資金を金融機関から借り入れた場合、株式(資産)と借入(負債)が相殺されることになり、持株会社の株価は低く抑えられて事業承継者へ承継できるため、相続税や贈与税の節税効果を期待することができる。

7 持株会社化の課題とあり方

 持株会社化は、経営や業務の効率化、リスク分散、スムーズなM&Aなどのメリットがある。一方、企業グループ内の連携の必要性や管理コストの増大などのデメリットがあるが、持株会社化することで企業グループ全体の成長発展や経営の効率化も図ることができる。
 しかし、持株会社と各事業会社との役割を分担し、経営資源を有効活用し、生産性や収益力の向上および競争力や企業価値の向上を図るには、持株会社がリーダーシップを発揮して、企業グループ全体を統率し、各社間のシナジー効果を最大限に引き出し、利害を調整することが課題となる。
 大企業ばかりでなく中堅企業・中小企業においても、異なる事業分野や業種に進出し、事業を多角化し発展させるには持株会社化が有効な手段である。今後、グローバル市場に対応するためにも、持株会社化は、国際競争力の向上や経営効率化の観点から、持続的な成長戦略における重要な選択肢として活用され、増加し続けるであろう。

葭田英人 よしだ ひでと
筑波大学大学院修了。専門分野は、会社法・税法・信託法。近著は『コーポレートガバナンスと社外取締役・社外監査役』(三省堂・2020)、『会社法入門(第六版)』(同文舘出版・2020)、『合同会社の法制度と税制(第三版)』(税務経理協会・2019)など

当ページの閲覧には、週刊T&Amasterの年間購読、
及び新日本法規WEB会員のご登録が必要です。

週刊T&Amaster 年間購読

お申し込み

新日本法規WEB会員

試読申し込みをいただくと、「【電子版】T&Amaster最新号1冊」と当データベースが2週間無料でお試しいただけます。

週刊T&Amaster無料試読申し込みはこちら

人気記事

人気商品

  • footer_購読者専用ダウンロードサービス
  • footer_法苑WEB
  • footer_裁判官検索