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企業法務2026年05月28日 改正育児・介護休業法、2026年の現場から 執筆者:大川恒星

1 はじめに
令和7年(2025年)4月、そして10月の段階的施行を経て、育児・介護休業法は大きく改正されました。
改正内容の詳細については、厚生労働省ウェブサイト「育児・介護休業法について1」に譲りますが、この改正の背景やポイントを整理すると下表のとおりです。
背景
少子高齢化に伴う「ダブルケア世代」の増加や労働力人口の不足に対応するため、男女ともに育児・介護と仕事を両立できる多様な働き方の実現が急務となったこと
ポイント ① 育児関係:特に3歳以降の子を持つ労働者が利用できる制度が拡充された点
② 介護関係:介護離職防止のため、既存の両立支援制度を早い段階で周知・意向確認する仕組みが強化された点
③ 実務運用:社内規程の改正にとどまらず、個別の周知・意向確認や個別の意向聴取・配慮といった、実務運用面での対応が必要となる点
改正法の全面施行から時間が経過した令和8年(2026年)現在の実務現場では、「規程類は整備したが、具体的な運用方法や、条文には載っていないグレーゾーンへの対処が分からない」といった、実務フェーズでの悩みを抱える企業の人事担当者も少なくありません。そもそも、いまだに改正法への対応が追いついていない企業も一部で見受けられます。
対応を怠り、法違反となった場合は、以下のようなリスクにさらされます。
一つは、行政リスク。厚生労働大臣による助言・指導・(是正)勧告。勧告に従わない場合は、企業名の公表が行われる可能性があります(育介法56条、56条の2)。
もう一つは、民事賠償・ハラスメントリスク。育児休業等の申出や取得を理由とした不利益取扱い(解雇・雇止め、降格、減給等)は禁止されています(育介法10条、16条等)。これに違反すると、不法行為(民法709条)等に基づく損害賠償請求の対象となります。また、マタハラ・パタハラ・ケアハラ(妊娠・出産、育児休業等の申出・取得等を理由とした、嫌がらせ発言等)が生じたことの法的責任(育介法25条1項等の事業主のハラスメント防止措置義務違反に加えて、労働契約法5条の職場環境配慮義務違反等)を問われたりするリスクがあります。
先日開催した改正法に関するセミナーでも、質疑応答の時間に実務で直面する課題について多数の質問を頂戴しました。そこで本稿では、「実務の急所」を2つピックアップし、法的リスクを回避しながら持続可能な職場を作るためのポイントを解説します。
2 「4歳の子」を理由に「10歳の子」の送迎をしてもよいか?
改正法の目玉の一つは、事業主が3歳から小学校就学前までの子を養育する労働者に対し、時差出勤やテレワークなど「2つ以上の柔軟な働き方を実現するための措置」を講じる義務です。ここで現場が直面しているのが、「目的外利用」への対応です。
【Q】 「柔軟な働き方を実現するための措置」の対象となる4歳の保育園に通う子と、対象外の10歳の小学4年生の子を持つ従業員が、4歳児を理由に(事業主が講じた措置の中から)「時差出勤」を申請しました。しかし、実際には10歳児のクラブ活動の送迎に充てたいと言っています。これは拒否できますか?
結論から申し上げれば、「真正面からの拒否は困難」と言わざるを得ません。法文上、「時差出勤」等の措置を求める権利の主体は「3歳から小学校就学前までの子」を養育する労働者であり、取得理由の詳細は限定されていません。「上の子(10歳児)の送迎を早く済ませることで、結果として下の子(4歳児)の養育に備える」という解釈も成り立ちますので、これ自体は「働きながら、子を養育することを容易にするための措置」という法の趣旨に合致します。
実務上は、「対象となる子の養育のために利用してください」とアナウンスすること自体は差支えありません。しかし、対象となる子の養育と言って利用の申出がなされた場合、事前・事後に対象となる子の養育に用いられたか否かの確認まで行うことは、労働者への過度な負担やプライバシー侵害、ひいてはハラスメントのリスクを孕みます。また、そもそも、上述のとおり、取得を制限できる場面は限定的であると解されます。さらに、筆者が厚生労働省に問い合わせたところ、証明書類(ご質問のケースでいえば、10歳児の送迎の証明など)を求めること自体は禁止されていないが、「書類が提出されないことを理由に利用を拒むことはできない」とのことでした。
総括すると、ご質問のケースでいえば、およそ4歳児の養育に関与していないことが明白な例外的な事例を除き、性善説に基づく「申出尊重型」の運用が、法的にもマネジメント的にも最も合理的かつ現実的といえるでしょう。
3 オンラインツールによる個別の周知・意向確認の可否と留意点
従業員数が増えるほど、改正法で義務化された「個別の周知・意向確認」の事務負担は膨大になります。
【Q】 現在、紙で個別周知・意向確認書を配布・回収していますが、対象者が100名を超えています。事務負担の軽減のため、Googleフォーム等のオンラインツールを用いて個別の周知・意向確認を行いたいのですが、問題ありませんか?
厚生労働省の施行通達2(令和7年1月20日職発0120第2号・雇均発0120第1号)に基づき、一定の要件を充たせば、「個別の周知・意向確認」(育介法21条1項・4項、23条の3第5項・6項)をGoogleフォーム等のオンラインツールを用いて実施することは可能です。
具体的には以下の2点に留意して運用してください。
(1) 労働者の希望(同意)があること
電子メールによる方法や、ブラウザその他のソフトウェアを用いて事業主の使用に係る通信端末機器に電気通信回線を通じて送信することのほか、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)メッセージ機能を利用した電気通信による方法での個別の周知・意向確認は、「労働者が希望した場合」にのみ認められます(通達〔115~116頁〕第9の(10)、(11)、(13)、通達〔22~23頁〕第2の5(14))。
実務上、あらかじめ、個別に「Googleフォームを用いて個別の周知・意向確認を行って良いか」と対象の労働者の希望(同意)を書面やメール等で確認するのが最も安全です。しかし、対象者が多い現場ではこの確認の手続自体が煩雑になってうまく機能しない場合もあり得ます。
この点、この際の労働者の希望(同意)の取得方法について、「〇月〇日までに異議がなければ希望(同意)したものとみなす」といったようなみなし希望(同意)でも良いかについては、厚生労働省に問い合わせたところ、労働局によるケースバイケースの判断になる、との回答でした。したがって、あらかじめ各都道府県労働局に問い合わせいただくことを推奨いたします。
なお、筆者の私見ではありますが、対象の労働者に確実に情報が伝わるよう告知し(例えば、複数回のメールで告知するなど)、また、異議を申し出るための猶予期間を十分に確保し、みなし処理後も本人の申出により撤回できる仕組み、すなわち、このような労働者の真意を損なわない配慮措置を整えていれば、施行通達の趣旨に反するとまでは言えないと考えられます。
(2) 出力可能性の確保
使用するツールは、「労働者が電子メール等の記録を出力することにより書面を作成することができるもの」(プリンターに接続して書面を作成することが可能である場合をいい、送信する情報のすべてが出力できることが必要)でなければなりません(通達〔115~116頁〕第9の(10)、(11)、(13)、通達〔22~23頁〕第2の5(14))。
Googleフォームであれば、回答内容を回答者に自動返信する設定にするなどして、確実に労働者が書面を出力できる方法を選択してください。
4 おわりに
本稿では、令和6年改正育児・介護休業法における「実務の急所」として、「柔軟な働き方を実現するための措置」の目的外利用と、オンラインツールを用いた個別の周知・意向確認という2つの論点をピックアップして解説しました。もちろん、ほかにも改正項目は多岐にわたり、現場で直面する課題はこれらにとどまりません。
実務において判断に迷う問題が生じた際は、以下のステップを徹底することが肝要です。
まずは、改正法の条文(法文)にあたり、さらにその詳細な解釈や運用基準が示された「施行通達」や「指針」を丁寧に読み解くことが、適正な実務の第一歩となります。
個別の事案に対しては、「この対応は、仕事と育児・介護の両立を支援し、離職を防ぐという法の本質的な趣旨にかなっているか」という視点を持つことが、法的リスクの回避に繋がります。
条文や通達を読んでもなお判断が難しいグレーゾーンについては、独断で進めるのではなく、厚生労働省が公表する最新のQ&Aを参照し、必要に応じて、厚生労働省や管轄の労働局へ直接問い合わせながら、ケースバイケースで最適解を探っていく姿勢が大切です。

(本記事の内容に関する個別のお問い合わせにはお答えすることはできません。)

(2026年4月執筆)

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執筆者

大川 恒星おおかわ こうじ

弁護士・ニューヨーク州弁護士(弁護士法人淀屋橋・山上合同)

略歴・経歴

大阪府出身
私立灘高校、京都大学法学部・法科大学院卒業

2014年12月   司法修習修了(第67期)、弁護士登録(大阪弁護士会)
2015年1月   弁護士法人淀屋橋・山上合同にて執務開始
2020年5月  UCLA School of Law LL.M.卒業
2020年11月~  AKHH法律事務所(ジャカルタ)にて研修(~同年7月)
2021年7月   ニューヨーク州弁護士登録
2022年4月   龍谷大学法学部 非常勤講師(裁判と人権)
2024年4月   アジア・太平洋労働法制研究会委員
        (法務省法務総合研究所・公益財団法人国際民商事法センター)

<主な著作>
「Q&A 感染症リスクと企業労務対応」(共編著)ぎょうせい(2020年)
「インドネシア雇用創出オムニバス法の概要と日本企業への影響」旬刊経理情報(2021年4月)
「中小事業者もこれだけは押さえたい!! ハラスメント対策のポイント解説」税理士のための税務特化情報誌「旬刊速報税理」ぎょうせい(2022年7月1日号)
「若手弁護士のための弁護実務入門2」(共著)成文堂(2023年)
「中小事業者のためのフリーランス新法対応ハンドブック」税理士のための税務特化情報誌「旬刊速報税理」ぎょうせい(2024年10月21日号)
「インバウンドビジネス法務Q&A」(共編著)中央経済社(2024年)
「テーマ別『インバウンド法務』の勘どころ 第5回 人事・労務」(共著)「ビジネス法務」中央経済社(2025年10月号)


<主な講演>

・2025年10月 法務省法務総合研究所・公益財団法人国際民商事法センター 主催 「アジア・太平洋法制研究会 第12回国際民商事法シンポジウム 東南アジア4か国の労働法制と実務対応」
・2022年10月 株式会社ぎょうせい 主催 「あなたの会社は大丈夫?!事例で学ぶハラスメント防止~ハラスメントをしない・させないために」
・2021年7月 在大阪インドネシア共和国総領事館主催・ジェトロ大阪本部共催 ウェビナー「インドネシアへの関西企業投資誘致フォーラム ―コロナ禍におけるインドネシアの現状と投資の可能性について」
・2019年2月 全国社会保険労務士会連合会近畿地域協議会・2018年度労務管理研修会「働き方改革関連法の実務的対応」

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