カートの中身空

閲覧履歴

最近閲覧した商品

表示情報はありません

最近閲覧した記事

解説記事2024年09月23日 未公開判決事例紹介 顧問税理士に損害賠償請求も契約締結はないと判断(2024年9月23日号・№1044)

未公開判決事例紹介
顧問税理士に損害賠償請求も契約締結はないと判断
東京地裁、申告期限徒過の債務不履行もなし

 本誌1021号9頁で紹介した損害賠償請求事件の判決について、一部仮名処理した上で紹介する。

〇本件は、顧問税理士(被告)が各年の確定申告業務を行う義務があったかどうかが争われた税理士損害賠償請求事件。東京地方裁判所(飛澤知行裁判長)は令和5年8月31日、顧問契約は締結していないとの判断を示し、原告らの請求を棄却した(令和2年(ワ)第24883号)。

主  文

1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

第1 請求
1 被告は、原告Aに対し、378万8011円及びこれに対する令和元年7月2日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告は、原告会社に対し、283万6667円及び、これに対する令和元年7月2日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要
 本件は、原告らが、税理士である被告が、(原告らとの間の)顧問契約又は個別の委任契約に基づく善管注意義務として、高度の注意をもって原告らに係る(複数年(又は事業年度)にわたる)確定申告業務を各年(又は各事業年度)の期限までに行うべき義務を負っていたにもかかわらず、当該義務を漫然と怠ったなどと主張して、被告に対し、主位的に、上記顧問契約に係る債務不履行に基づき、予備的に、上記の個別の委任契約に係る債務不履行に基づき、原告Aにつき、支払済みの税理士費用相当額等の損害賠償金合計378万8011円及びこれに対する(原告らが被告に対して損害賠償請求を行った日の後である)令和元年7月2日から支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法(以下「改正前民法」という。)所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め、原告会社につき、支払済みの税理士費用相当額等の損害賠償金合計283万6667円及びこれに対する令和元年7月2日から支払済みまで改正前民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
1 前提事実(認定に用いた証拠は括弧内に示した。)
(1)原告Aは、歯科医師として、Aデンタルクリニックを運営している。
(2)原告会社は、歯科技工業等を目的とする株式会社であり、その代表取締役は、原告Aである。
(3)被告は、原告Aのいとこであり、◎◎◎◎税理士事務所という名称の税理士事務所を開設している税理士である(甲21)。
(4)C(以下「C」という。)は、原告らが以前に顧問契約を締結していた福島県○○○○所在の会計事務所の職員であったが、その後、同事務所を退職し、現在は、宮城県所在の医療法人に勤務して、財務と経理を担当している。なお、Cは、税理士の資格は有していない。(甲22及び証人C)
(5)原告らの住所地である福島県○○○○○町については、平成23年3月11日に発生した東日本大震災によって、同日以後に到来する確定申告の期限が、平成27年3月31日まで延長された(甲1)。
(6)被告は、平成31年3月中(同月15日より前)に、原告Aに係る平成23年分から平成30年分までの各確定申告をした。他方、被告は、原告会社に係る平成23年7月期分から平成30年7月期分までについて、少なくとも税務署に対する確定申告書の提出はしていない(甲21、乙9の1から16の2まで、弁論の全趣旨)。
(7)ア 被告は、平成30年11月28日付けの請求書で、原告Aに対し、平成22年分から平成29年分までの所得税確定申告書作成報酬として、185万3700円(内訳:報酬額(8%の消費税込み)216万円から源泉所得税30万円及び復興特別所得税6300円を控除した金額)を請求し、原告Aは、同年12月20日、被告に対し、同金額を振り込む方法で支払った(甲2の1・2)。
 イ 被告は、平成30年11月28日付けの請求書で、原告会社に対し、平成23年7月期分から平成30年7月期分までの法人税等確定申告書作成報酬として、115万3060円(内訳:報酬額(8%の消費税込み)129万6000円から源泉所得税14万円及び復興特別所得税2940円を控除した金額)を請求し、原告会社は、同年12月20日、被告に対し、同金額を振り込む方法で支払った(甲3の1・2)。
2 争点及びこれに関する当事者の主張
(1)被告の顧問契約に係る債務不履行の有無
(原告の主張)

ア 原告A関係
 (ア)原告Aと被告は、平成21年10月頃、原告Aと被告との間で、確定申告業務を含む顧問契約(以下「本件顧問契約①」という。)を締結した。本件顧問契約①は、契約期間につき定めはなく、いずれかが解約を申し出ない限り、継続するものだったから、被告は、(本件顧問契約①に基づき、)平成21年分から平成30年分までに係る確定申告業務を行うべき義務を負っていた。
 (イ)しかし、被告は、本件顧問契約①に基づき、平成21年分及び平成22年分に係る確定申告業務を行ったものの、平成23年分から平成30年分までに係る確定申告業務について、確定申告業務の期限を徒過し、かつ被告の署名を加筆する程度の作業しか行わなかったから、(被告には、)本件顧問契約①に係る上記(ア)の義務の債務不履行がある。
イ 原告会社関係
 (ア)原告会社と被告は、平成21年10月頃、原告会社と被告との間で、確定申告業務を含む顧問契約(以下「本件顧問契約②」という。)を締結した。本件顧問契約②は、契約期間につき定めはなく、いずれかが解約を申し出ない限り、継続するものだったから、被告は、(本件顧問契約②に基づき、)平成22年7月期分から平成30年7月期分までに係る確定申告業務を行うべき義務を負っていた。
 (イ)しかし、被告は、本件顧問契約②に基づき、平成22年7月期分に係る確定申告業務を行ったものの、平成23年7月期分から平成30年7月期分までに係る確定申告業務については、一切行わなかったから、(被告には、)本件顧問契約②に係る上記(ア)の義務の債務不履行がある。
(被告の主張)
ア いずれも争う。
イ 被告が、依頼者に対して提供する業務のうち、月次業務とは、以下のような業務のことである。
 (ア)巡回監査業務(巡回監査担当者が訪問し、会計処理が税法、商法その他関係法規に準拠した適正な処理が行われているかどうかを監査するもの。)
 (イ)経営に役立つ財務データの提供業務
 (ウ)経営助言業務
 (エ)経営指導業務
ウ 被告が、依頼者との間で顧問契約を締結する場合、その顧問契約の内容は、前記イの月次業務のみに限られ、決算業務や各種税務申告業務(確定申告や相続税申告など)は含まれないから、決算業務等を希望する場合には、顧問契約とは別に、委任契約を締結する必要がある。
エ よって、本件顧問契約①及び②には、確定申告業務が含まれていないから、被告は、原告らに対し、顧問契約に基づく確定申告業務を行うべき義務を負っていない。
オ しかも、原告らの訴訟代理人弁護士が、令和元年6月21日、被告に対し、受任通知書を内容証明郵便にて送付しているところ、その書面には、「なお、東日本大震災以降、貴殿(注:被告のこと。)との間で顧問契約は結んでおりません」との記載がある(甲11の1参照)。したがって、原告らは、東日本大震災が発生した平成23年3月以降、被告との間で、本件顧問契約①及び②を締結していないことを自認していることから、その点からも、被告が、原告らに対して、顧問契約に基づく(平成23年分から平成29年分に係る)確定申告業務を行うべき義務を負っていないことは明らかである。
(2)被告の(個別の)委任契約に係る債務不履行の有無
(原告の主張)

ア 原告A関係
 (ア)仮に、本件顧問契約①の内容に確定申告業務が含まれていないとしても、被告が、原告Aとの間で、平成21年分及び平成22年分に係る確定申告業務を申告期限内に行い、原告Aに対し、その費用を請求していること、及び平成23年分から平成30年分までに係る確定申告業務につき、被告の署名を加筆する程度の作業を行っていることからすれば、原告Aと被告との間で、(被告が、)平成23年分から平成30年分までに係る確定申告業務を期限内に行うことについての委任契約(以下「本件委任契約①」という。)が各確定申告の期限前に成立していたというべきである。
 (イ)しかるに、被告は、前記(1)(原告の主張)ア(イ)のとおり、各確定申告業務の期限を徒過し、かつ被告の署名を加筆する程度の作業しか行わなかったから、本件委任契約①に係る債務不履行がある。
イ 原告会社関係
 (ア)仮に、本件顧問契約②の内容に確定申告業務が含まれていないとしても、被告が、原告会社との間で、平成22年7月期分に係る確定申告業務を申告期限内に行い、原告会社に対し、その費用を請求していること、及び平成23年7月期分以降に係る確定申告業務に必要なデータを送付するよう、Cに求めていたことからすれば、原告会社と被告との間で、(被告が、)平成23年7月期分から平成30年7月期分までに係る確定申告業務を期限内に行うことについての委任契約(以下「本件委任契約②」という。)が各確定申告の期限前に成立していたというべきである。
 (イ)しかるに、被告は、前記(1)(原告の主張)イ(イ)のとおり、確定申告業務を一切行わなかったから(なお、弁済(履行)の提供をした旨の被告の主張は、否認又は争う。)、本件委任契約②に係る債務不履行がある。
(被告の主張)
ア いずれも争う。
イ 原告A関係について
 (ア)平成23年分から平成29年分までに係る確定申告業務
  被告は、原告Aから、平成30年3月16日から同年11月28日までの間に、平成23年分から平成29年分までに係る確定申告業務の依頼を受けたのであり、当該依頼を受けた時点で既に申告期限は経過していた。
  被告は、原告Aに対し、上記依頼に基づき、平成30年11月28日に確定申告書作成報酬を請求し(甲2の1参照)、原告Aは、同年12月20日に同報酬を支払っている。そして、被告は、平成31年3月7日、上記依頼に基づき、平成23年から平成29年までに係る確定申告を行った。
  よって、被告は、原告Aからの依頼に係る業務を履行しており、債務不履行はない。
 (イ)平成30年分に係る確定申告業務
  被告は、遅くとも平成31年3月15日までに(つまり、申告期限内に)、原告Aから、平成30年分に係る確定申告業務の依頼を受けた。そして、被告は、申告期限である平成31年3月15日までに、上記依頼に基づき、平成30年分の確定申告業務を行っているから、債務不履行はない。
ウ 原告会社関係について
 (ア)被告は、原告会社から、平成30年10月1日から同年11月28日までの間に、平成23年7月期分から平成30年7月期分までに係る確定申告業務(法人税等申告書作成業務)の依頼を受けたのであり、当該依頼を受けた時点で既に申告期限は経過していた。
(イ)被告は、原告会社に対し、上記依頼に基づき、平成30年11月28日に法人税等申告書作成報酬を請求し(甲3の1参照)、原告会社は、同年12月20日に同報酬を支払っている。そして、被告は、平成31年3月7日、上記依頼に基づき、原告会社に対し、平成23年7月期から平成30年7月期までに係る確定申告に必要な書類を納品して、原告会社の確認を求めたところ、原告会社からこの内容で申告してよい旨のメールが来たため、被告は、TKCに確定申告書の電算処理を依頼した。そして、平成23年7月期分から平成26年7月期分までは、平成31年4月25日に、また、平成27年7月期分から平成30年7月期分までは、平成31年4月26日に電算処理が完了し、各事業年度の確定申告書(乙1の1から1の8まで参照)が完成し、その他の書類(乙2の1から6の2まで参照)も作成できたので、確定申告書を提出できる状態となった。しかし、被告が、同日頃、原告会社(原告A)に対し、電話で、申告についての最終確認をしたところ、原告会社(原告A)は、既に自分で申告したので、被告が作成した確定申告書等の書類が不要である旨の発言をした(このため、被告は、原告会社の確定申告書の提出はしていない。)。
  以上のとおり、被告は、原告会社に対し、弁済(履行)の提供(民法493条ただし書)をしているから、(平成23年7月期分から平成30年7月期分までに係る確定申告業務(法人税等申告書作成業務)について)債務不履行責任を負わないというべきである。
(3)損害論
(原告の主張)

 原告らは、被告の債務不履行によって、以下のとおりの損害を負った。
ア 原告Aについて
 (ア)既払いの税理士費用 216万円
 なお、原告Aが被告に支払った金額自体は、185万3700円であるが、原告Aは、被告に代わって、源泉徴収により、源泉所得税及び復興特別所得税の合計30万6300円を、国に対して納付しているのであって、出捐を免れているわけではないから、上記各税金分を含めた確定申告書作成費用全体が損害となる。
 (イ)延滞税・無申告加算税 合計58万4400円
 (ウ)申告業務補助を行ったCに対する費用 69万9246円
 原告Aは、被告が確定申告に関する作業を行わなかったことから、平成30年末頃及び令和元年春頃、Cに、複数年分の確定申告のため、資料整理等の事務作業を依頼して、上記費用を支払った。
 (エ)弁護士費用相当額の損害 34万4365円
 原告Aは、本件訴訟を提起するために弁護士に訴訟代理を委任することを余儀なくされたから、上記の弁護士費用相当額の損害は、被告の債務不履行と相当因果関係のある損害である。
 (オ)合計 378万8011円
イ 原告会社について
 (ア)既払いの税理士費用 129万6000円
 なお、原告会社が被告に支払った金額自体は、115万3060円であるが、原告会社は、被告に代わって、源泉徴収により、源泉所得税及び復興特別所得税の合計14万2940円を国に対して納付しているのであって、出捐を免れているわけではないから、上記各税金分を含めた確定申告書作成費用全体が損害となる。
 (イ)延滞税・無申告加算税・不申告加算金 合計1万7200円
 (ウ)申告業務補助を行った者に対する費用 合計126万5588円
 原告会社は、被告が確定申告に関する作業を行わなかったことから、資料整理等の事務作業を、平成26年末頃から平成27年9月頃まではCに、平成29年春頃にはD(以下「D」という。)に、また、令和元年春頃には株式会社E不動産(以下「E不動産」という。))に、それぞれ依頼し、Cに100万円、Dに7万0540円、E不動産に19万5048円を支払った。
 (エ)弁護士費用相当額の損害 25万7879円
 原告会社は、本件訴訟を提起するために弁護士に訴訟代理を委任することを余儀なくされたから、上記の弁護士費用相当額の損害は、被告の債務不履行と相当因果関係のある損害である。
 (オ)合計 283万6667円
(被告の主張)
 いずれも否認又は争う。

第3 判断
1
 被告の顧問契約に係る債務不履行の有無(特に被告が原告らとの顧問契約に基づき確定申告業務をすべき義務を負っていたといえるか)(争点(1))について
(1)原告らは、原告らと被告との間で締結された本件顧問契約①及び②は、それら契約期間につき定めはなく、いずれかが解約を申し出ない限り、継続するものだったから、被告は、原告らに対して、平成30年分まで(原告A関係)、又は、同年7月期分まで(原告会社関係)の(申告期限内に)確定申告業務を行うべき義務を負っていたと主張し、原告A本人がこれに沿う陳述及び供述をする。
(2)ア しかし、証拠(甲11の1)及び弁論の全趣旨によれば、原告らは、被告に対する損害賠償請求について代理人弁護士を選任し、同弁護士において、被告に対し、令和元年6月21日付け受任通知書を送付したところ、同書面には、「なお、東日本大震災以降、貴殿との間で顧問契約は結んでおりません」と記載されていたものであり、このことからすれば、原告らが、東日本大震災以降(つまり平成23年3月以降)、被告との間で顧問契約を締結していないという認識を有していたことが明らかである。
 イ これに対し、原告らは、受任通知書(甲11の1)の作成時点においては、事実関係の確認が不十分であったと主張し、原告A本人は、S税務署から確定申告に関する再度の督促があったため、原告らの代理人弁護士に対し、早急に確認をしてもらうよう指示していたこと、及び原告A本人が福島県に居住していることから書面の確認作業に時間差が生じていたことを理由に、事実関係の経緯について十分な確認ができていなかった旨供述する。
 ウ しかし、顧問契約の成立時期や顧問料などといった、具体的な契約内容であればまだしも、顧問契約を締結していたか否かという事実について、原告A本人と原告らの代理人弁護士との間で、認識の齟齬が生じるとはおよそ考え難い。加えて、原告A本人が、震災前の頃を最後に、顧問料を支払っていない旨供述していることや顧問契約書が存在しないこと(弁論の全趣旨)をも踏まえると、平成23年3月以降も原告らと被告が顧問契約を締結していた旨の上記(1)の原告A本人の陳述及び供述は採用できず、その他に原告らと被告との間の本件顧問契約①及び②が同月以降においても継続していたことを認めるに足りる的確な証拠はない。
(3)そうすると、本件顧問契約①及び②の内容を検討するまでもなく、被告は、原告Aとの関係で、本件顧問契約①に基づき、平成23年分から平成30年分までに係る確定申告業務を、原告会社との関係で、本件顧問契約②に基づき、平成23年7月期分から平成30年7月期分までに係る確定申告業務を(それぞれ申告期限内に)行うべき義務を負っていたとは認められないから、原告らの主位的請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がない。
2 被告の(個別の)委任契約に係る債務不履行の有無(争点(2))について
(1)原告A関係について

ア 平成23年分から平成29年分までに係る確定申告業務について
 (ア)原告Aは、被告が、原告Aとの間で、平成21年分及び平成22年分に係る確定申告業務を申告期限内に行い、原告Aに対し、その費用の請求を行っていること、及び平成23年分から平成30年分までに係る確定申告業務につき、被告の署名を加筆する作業を行っていることを理由に、原告Aと被告との間で、平成23年分から平成30年分までに係る本件委任契約①が各確定申告の申告期限前に成立していたと主張する。これに対し、被告は、本件委任契約①のうち、平成23年分から平成29年分までに係る確定申告業務は、申告期限後である平成30年3月16日から同年11月28日までの間に、(原告Aから)依頼されたと主張するため、以下検討する。
 (イ)原告Aは、被告が、Cに対し、被告とS税務署との間のやり取りに関する内容を報告した際の平成28年11月18日付けメール(甲15。以下「本件メール」という。)について、被告が、平成23年から平成27年までの原告らの確定申告をせず、申告期限後にS税務署から(原告側に)問合せの連絡があったため、原告らが、被告に対し、S税務署に直接連絡するように依頼したところ、(被告において)原告らの確定申告に関するS税務署からの問合せに自ら対応し、S税務署に延期してもらった期限までに申告を行う意思を示しているものであるとして、そのような本件メールの内容からすれば、本件委任契約①(平成23年分から平成27年分まで)は、各確定申告の申告期限前に成立していたといえる旨主張し、原告A本人及び証人Cが、それに沿う各陳述又は供述・証言をする。
 (ウ)しかし、原告らが、平成27年3月末の申告期限後しばらくして、S税務署から複数回問合せを受けて、被告に申告を行うよう催告をした旨主張するものの、それを裏付ける客観的な証拠がないこと、本件メールには、「S税務署の方は年内に出していただければと言うことでした。できた段階で再度連絡することになっています。」と記載されるのみであるところ(甲15)、本件メールの前提となる原告側の問合せ内容が証拠上明らかでないこと、本件メールの上記記載をもって、一義的に、被告が原告らの確定申告について、S税務署が示した期限までに申告業務を行う意思を示したものとは読み取れないこと、原告Aが、平成30年11月、被告から平成22年分から平成29年分までの所得税確定申告書作成報酬の請求をされ、同年12月に請求額どおりの金額を被告に支払う一方で(前記前提事実(7)ア)、原告Aが、被告の債務不履行を問題としたことを窺わせる客観的な証拠がないことといった各事情に鑑みれば、平成23年分から平成27年分までの各確定申告の申告期限(平成23年分から平成26年分までについては、平成27年3月31日(前記前提事実(5))、平成27年分から平成29年分までについては、それぞれ翌年の3月15日よりも前に本件委任契約①が成立していた旨の原告A本人及び証人Cの上記(イ)記載の各陳述及び供述・証言は採用できず、それらの他に(平成23年分から平成29年分までに係る)各確定申告の申告期限の前に本件委任契約①が成立していたと認めるに足りる的確な証拠はない。
 (エ)そうすると、被告が、本件委任契約①に係る(平成23年分から平成29年分までに係る)各確定申告の申告期限を徒過したとは認められない以上、申告期限の徒過を内容とする被告の債務不履行があったということはできない(なお、原告Aに係る平成30年分の確定申告について、申告期限前に同原告から被告に依頼されたことは被告も争っていないが、上記確定申告は、申告期限内に行われている(前記前提事実(6))。また、平成23年分から平成30年分までに係る各確定申告業務における具体的な作業内容についての債務不履行の有無については、後記イのとおり。)。
イ 平成23年分から平成30年分に係る確定申告業務について
 (ア)原告Aは、平成23年分から平成29年分までに係る確定申告業務につき、申告期限の徒過とは別に、被告が自身の署名を加筆する程度の作業しか行わなかったことが本件委任契約①の債務不履行に当たる旨の主張もしている。
 (イ)すなわち、原告Aは、確定申告のための作業として、弥生会計というソフトに、毎月の収支の入力をする作業を要するところ、この作業は、被告が行うこととされていたにもかかわらず、被告がそれを怠り、被告自身の署名を加筆する程度の作業しか行わなかったと主張し、原告A本人及び証人Cが、それに沿う各陳述又は供述・証言をする。
 (ウ)しかし、そもそも本件委任契約①に係る契約書が存在しないところ(弁論の全趣旨)、本件委任契約①として、被告が具体的にどのような債務を負っていたのかについて、原告Aは立証できていない。そして、被告は、平成23年分から平成30年分までに係る確定申告について、①総勘定元帳(乙8の1から8の8まで)及び損益計算書(乙8の9)を作成した上で、②上記各年分の確定申告を実際に行ったこと(前記前提事実(6))が認められ、その後、③平成31年3月7日、原告Aに対し、(少なくとも)平成23年分から平成26年分までに係る確定申告済みの申告書を送付していることがうかがわれる(乙22)。そうすると、原告Aが主張するような、本件委任契約①に基づき、会計ソフトに毎月の収支を入力する作業を行うという債務を被告が負っていたとの立証ができていないこと、及び被告が上記の①から③までの各業務を行っていることを踏まえれば、上記(イ)記載の原告A本人及び証人Cの各陳述及び供述・証言は採用できず、この他に、平成23年分から平成30年分までに係る各確定申告業務における具体的な作業内容について被告に債務不履行があったとは認められない。
ウ 以上より、(原告Aとの関係での)平成23年分から平成30年分までに係る確定申告業務についての被告の債務不履行はない。したがって、原告Aの本件委任契約①に基づく予備的請求は、理由がない。
(2)原告会社関係について
ア まず、前記(1)アで認定判示したことからすれば、本件メール(甲15)の記載によって、原告会社に係る(平成23年7月期から平成30年7月期までの)各確定申告の申告期限前に本件委任契約②が成立していたと認めることはできない。また、原告会社は、被告事務所の職員(▲▲▲▲)がCに宛てた平成29年4月5日付けメールで確定申告書の作成に必要なやり取りがされているとして、このメールの存在も原告会社に係る各確定申告の申告期限前に本件委任契約②が成立していたことを裏付けるものと主張し、確かに、上記メールに「添付していただいた先生立替分のエクセルはすべて未計上なのでしょうか?先ほどのメールに記載して頂いた分は弥生に追加計上していますので、ご確認お願い致します。またB社への現金支払いとはどういった内容のものになりますでしょうか?」などといった記載があること(甲16)からすれば、被告が原告側からの依頼で何らかの業務をしていたことまではうかがえるものの、原告会社に係る確定申告業務との関係は不明確といわざるを得ず、このメールをもって、直ちに、原告会社に係る(平成23年7月期から平成30年7月期までの)各確定申告の申告期限前に本件委任契約②が成立していたと認めることもできない。
  そうすると、被告が、本件委任契約②に係る(平成23年7月期分から平成30年7月期分までに係る)各確定申告の申告期限を徒過したとは認められない以上、申告期限の徒過を内容とする被告の債務不履行があったということはできない。
イ(ア)そして、原告会社は、被告が、平成23年7月期から平成30年7月期分までに係る確定申告業務を一切行わなかった(特に、弥生会計というソフトに、毎月の収支の入力をする作業を被告が行わなかった)旨主張し、原告A本人及び証人Cが、それに沿う陳述又は供述・証言をする。
 (イ)しかし、そもそも本件委任契約②に係る契約書が存在しないところ(弁論の全趣旨)、本件委任契約②として、被告が具体的にどのような債務を負っていたのかについて、原告会社は立証できていない。
  また、確かに、被告は、平成23年7月期分から平成30年7月期分までに係る原告会社の確定申告書を税務署に提出していない(前記前提事実(6))。しかし、①被告が、平成23年7月期分から平成30年7月期分までに係る確定申告について、総勘定元帳を作成し(乙17の1から17の8まで)、平成31年3月7日に原告Aに対し、「B社の収入の元帳を添付します。」と記載されたメールを送っていること(乙18)、及び②原告Aが、被告に対し、「確認し、訂正ないのでで申告してください。(注:原文ママ)」と返信していること(乙18)からすると、被告は、原告会社(原告A)に対し、上記総勘定元帳を送付したことが認められる。さらに、証拠(乙1の1から7の8まで)によれば、被告が、平成31年4月25日又は同月26日頃、原告会社に係る平成23年7月期分から平成30年7月期分までの確定申告書等の申告書類を作成したことが認められる。
 (ウ)そうすると、原告会社が主張するような本件委任契約②に基づき、会計ソフトに毎月の収支の入力する作業を行うという債務を被告が負っていたとの立証ができていないこと、及び上述した被告の準備状況に加えて、被告が原告Aに係る平成23年分から平成30年分までの確定申告を平成31年3月に行っている点(前記前提事実(6))をも勘案すれば、被告が、原告会社(原告A)に対し、平成31年4月下旬頃に申告の準備ができたことを伝えていたと認められ、それにもかかわらず、被告が上記の確定申告書を税務署に提出していないのは、原告会社がそれを拒絶したからであり、被告には原告会社に対する弁済(履行)の提供があったと認めるのが相当であること(この点、原告会社は、原告会社において上記事業年度に係る確定申告を行ったのは令和元年5月31日であり(甲18及び20の1から20の7まで参照)、平成31年4月下旬の時点では、まだ申告していないから、原告Aが既に自分で申告したというはずがない旨主張するが、そもそも、原告会社が自ら申告したものとして提出する確定申告書の写しには、税務署の受領日付きの受領印が押印されていないから、実際に原告会社がいつ申告したかは不明であるといわざるを得ないし、その点をしばらく措くとしても、原告会社の受領拒絶がないにもかかわらず、被告が自分で準備した確定申告書等の資料を原告会社に交付しないとか、税務署に完成した確定申告書を提出しないということはあまりにも不自然であるから、原告会社の上記の主張は、上記認定を左右しない。)を踏まえれば、上記(ア)記載の原告A本人及び証人Cの各陳述及び供述・証言は採用できず、この他に、平成23年7月期分から平成30年7月期分までに係る各確定申告業務における具体的な作業内容や実際の申告について被告に債務不履行があったと認めるに足りる証拠はない。
ウ 以上より、(原告会社との関係での)平成23年7月期分から平成30年7月期年分までに係る確定申告業務についての被告の債務不履行はない。したがって、原告会社の本件委任契約②に基づく予備的請求は、理由がない。
3 以上のとおりであるから、原告らの請求は、その余の無について判断するまでもなくいずれも理由がない。よって、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第44部
裁判長裁判官 飛澤知行
裁判官 小堀瑠生子
裁判官 川本涼平

当ページの閲覧には、週刊T&Amasterの年間購読、
及び新日本法規WEB会員のご登録が必要です。

週刊T&Amaster 年間購読

お申し込み

新日本法規WEB会員

試読申し込みをいただくと、「【電子版】T&Amaster最新号1冊」と当データベースが2週間無料でお試しいただけます。

週刊T&Amaster無料試読申し込みはこちら

人気記事

人気商品

  • footer_購読者専用ダウンロードサービス
  • footer_法苑WEB
  • footer_裁判官検索