解説記事2025年01月06日 SCOPE AI活用によるデータ分析、奥長官が積極的な活用方針示す(2025年1月6日号・№1057)

納税者のコンプライアンスリスクに応じて調査
AI活用によるデータ分析、奥長官が積極的な活用方針示す


 新春にあたり、本誌は、奥達雄国税庁長官に令和6年分確定申告や、税務のコンプライアンリスクなどに対する国税庁の対応についてインタビューを行った。奥長官は、デジタル技術を活用し、納税者のコンプライアンスリスクに応じた調査・徴収の事務運営を行うことは、有限な資源を活用する上では不可欠であると指摘。国税庁ではAIを活用しながら申告情報などのデータの分析を行っているが、実際の調査事務においても、AIの活用の成果が上がってきているとし、引き続き、積極的に活用していきたいとの考えを示した。

e-Tax、対象画面はスマホにも対応

本誌:令和6年分の確定申告の対応についてお聞かせください。
長官:令和6年分確定申告においては、申告手続等の簡便化のためのe-Tax等の機能改善として、所得税申告に関してはすべての画面ついて、スマホでも操作しやすいよう、ユーザーインターフェースを改善するなど、利便性の向上に努めています。
 また、定額減税への対応では、確定申告で定額減税を受ける個人事業者以外にも、扶養親族の異動などにより確定申告で定額減税額の調整を行う方など、様々な納税者がいることから、円滑な申告手続が可能となるよう、きめ細かく情報提供に努めたいと思います。国税庁ホームページの定額減税特設サイトでは、Q&Aのほか、定額減税の必要な手続を案内するフローチャートや動画といったツールを提供することとしています。

AIを調査や徴収事務に取り入れ

本誌:税務行政のデジタル化への取組みについてお聞かせください。
長官:国税庁は、令和5年6月に「税務行政のデジタル・トランスフォーメーション−税務行政の将来像2023−」を策定しています。今年も引き続き第1の柱の「納税者の利便性の向上」については、「あらゆる税務手続が税務署に行かずにできる社会」の実現を目指し、e-Taxの利便性向上等を一層図っていきます。また、第2の柱である「課税・徴収の効率化・高度化」では、データ分析やAIを調査事務や徴収事務に取り入れて、効果的な税務調査や滞納整理につなげる取組みを更に高度化していきたいと考えています。
 最後に第3の柱である「事業者のデジタル化促進」については、事業者のデジタル化が促進されれば、事業者の方々の会計帳簿上の単純誤りの防止・正確性の向上、事務の効率化にもつながることなど、生産性の向上が期待されます。中小企業庁やデジタル庁などの関係省庁とも連携しながら、国税庁としても、貢献していきたいと考えています。 
申告漏れの可能性が高い納税者を判定
本誌:税務のコンプライアンスリスクに応じた事務運営についてお聞かせください。
長官:デジタル技術を活用し、納税者のコンプライアンスリスクに応じた効果的・効率的な調査・徴収の事務運営を行うことは、有限な資源を活用する上では不可欠であると考えています。国税庁では、AIも活用しながら申告情報やその他の資料情報などの幅広いデータの分析をして、申告漏れの可能性が高い納税者を判定し、それによって不正に税金の負担を逃れようとする悪質な納税者に対しては、適切な調査体制を編成し、厳正な調査を実施します。
 AIの活用については、実際に調査事務においても、成果が上がってきていると感じており、引き続き、積極的に活用していきたいと考えています。
富裕層や国際的な租税回避に重点的に調査
本誌:富裕層などによる国際的な租税回避、消費税の不正還付といった課題への対応について、お聞かせください。
長官:ご指摘の富裕層、国際的な租税回避、消費税の不正還付は、いずれも、適正な申告を行っていただいている納税者の信頼を揺るがす大きな問題であると認識しており、特に厳正かつ重点的に取り組む必要があると考えています。
 このような方針の下、国外送金等調書、国外財産調書などの法定調書や、租税条約に基づく情報交換等を通じて得た資料情報を分析・活用し、体制面でも、専門の部署を国税局や税務署に設置して体制を強化するなどし、引き続き、富裕層や国際的な租税回避に重点的に調査を実施していきたいと考えています。消費税不正還付事案については、制度面での手当とともに、執行面においても重点的な課題と位置づけて、特に厳正に対処していきたいと思います。消費税の還付申告書の提出があった場合には、その提出書類や国税組織が保有する資料情報等に基づき厳格な審査を行い、申告内容に疑義がある場合には還付を保留し、その上で、書面照会や実地調査等を行って、申告内容に誤り等が認められた場合には確実に是正していきます。
本誌:ありがとうございました。

AI活用により調査必要度の高い法人の絞り込みが進む
 国税庁によれば、令和5事務年度の税務署所管法人に対する調査件数5万7,001件のうち、AIを活用した予測モデルにより調査選定をして行ったのは3万5,472件と、全体の6割強を占めている(本誌1053号参照)。また、追徴税額は1,665億円と前事務年度と比べ193億円増加しており、追徴税額全体(2,110億円)の78.9%にのぼっている。予測モデルの精度向上により、調査必要度の高い法人の絞り込みが進んでいるといえそうだ。

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