解説記事2025年01月20日 未公開裁決事例紹介 財団が保有するバハマ法人の外国関係会社該当性(2025年1月20日号・№1059)
未公開裁決事例紹介
財団が保有するバハマ法人の外国関係会社該当性
リヒテンシュタインに設立した財団が全株式を保有
〇請求人がリヒテンシュタイン公国に設立した財団を通じて全株式を保有するバハマ法人が、請求人に係る「外国関係会社」に該当するか争われた裁決(広裁(所)令5第9号、本誌1045号4頁参照)。国税不服審判所は、請求人は財団の資本金の全額を拠出し、発行株式等の全部を保有していると認められることから、財団を通じて株式等を保有しているバハマ法人は、請求人に係る「外国関係会社」に該当するとの判断を示した。リヒテンシュタイン会社法には財団の株式等に関する定めはないが、本件財団については、請求人が資本金の全額を拠出し、自益権及び共益権を単独で有していることから、財団の「株式等の数」を有すると同視できるとしている。
主 文
1 平成30年分の原処分は、いずれもその一部を別紙1「取消額等計算書」のとおり取り消す。
2 その他の原処分に対する審査請求をいずれも棄却する。
基礎事実等
(1)事案の概要
本件は、原処分庁が、審査請求人(以下「請求人」という。)は、リヒテンシュタイン公国に設立した財団を通じて、バハマ国の法人の全株式を間接保有しているから、当該法人は請求人に係る外国関係会社に該当し、外国子会社合算税制の適用があるとして所得税等の更正処分等をしたのに対し、請求人が、当該法人は請求人に係る外国関係会社に該当しないから、外国子会社合算税制の適用はないとして、原処分の全部の取消しを求めた事案である。
(2)関係法令(略)
(3)基礎事実
当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。
イ 請求人の概要
請求人は、平成29年及び平成30年の各年(以下「本件各年」という。)において、国内に住所を有する所得税法第2条(定義)第1項第3号に規定する居住者であった。
ロ 関係法人等の概要
(イ)×××××××××
×××××××××(××××。以下「本件財団」という。)は、リヒテンシュタイン公国に所在し、同国の「Personen-und Gesellschaftsrecht」(人と会社に関する法律。以下「リヒテンシュタイン会社法」という。)に基づき×××××××××に設立された、財団の資産の管理、経済的助成を必要とする者に対する寄附又は他の経済的利益の供与を行うための資産及びその収益の使用を目的とする法人格を有する財団である。
本件財団は、請求人が××××××××××××××××××に設立を指示して設立された財団で、本件財団の「Stiftungskapital」(財団資本金)30,000スイスフランは、請求人が全額を拠出している。
(ロ)×××××××××
×××××××××(以下「本件バハマ法人」という。)は、バハマ国に主たる事務所が所在し、同国の「International Business Companies Act,2000」(2000年国際事業会社法。以下「バハマ会社法」という。)に基づき×××××××××××に設立された、同国において目下施行中の全ての法律で禁止されていない行為又は活動に従事することを目的とする外国法人である。
本件バハマ法人の全株式(50,000株)は、同社の名義株主である××××××××××××××××××××を通じて、本件財団が保有している。
(4)審査請求に至る経緯
イ 確定申告
請求人は、平成29年分及び平成30年分(以下「本件各年分」という。)の所得税及び復興特別所得税(以下「所得税等」という。)について、青色の確定申告書に別表1の「確定申告」欄のとおり記載して、いずれも法定申告期限までに申告した。
ロ 請求人に対する調査
原処分庁所属の調査担当職員は、令和元年11月11日、請求人の本件各年分の所得税等に係る調査を開始した。そして、日本国とリヒテンシュタイン公国、バハマ国及びスイス連邦の各国との租税条約等の定めるところに基づき、当該各国の税務当局へ本件財団及び本件バハマ法人に関する情報の提供を要請し、情報の提供を受けた(以下、提供された情報を「本件各情報」という。)。
なお、本件各情報のうち、「Account Statement」(取引明細書)と題する書面には、2016(平成28)年1月1日から2018(平成30)年12月31日までの×××××××××の本件バハマ法人名義の各口座(口座番号××××××(ユーロ建)、××××××(米ドル建)、××××××(スイスフラン建)及び××××××(円建)の4口座。以下「本件各口座」という。)における取引履歴が記載されており、「Contract note」(売買契約書)と題する書面には、本件バハマ法人が保有していた公社債について、2016(平成28)年1月1日から2018(平成30)年12月31日までの間に償還された公社債に係る取得年月日、償還年月日、額面金額、取得金額などが記載されていた。
ハ 更正処分等
原処分庁は、本件各情報の内容に基づき、請求人は、資本金の全額を拠出している本件財団を通じて本件バハマ法人の全株式を間接的に保有しており、本件バハマ法人は、請求人に係る措置法第40条の4第2項第1号に規定する「外国関係会社」に該当すること、また、本件バハマ法人の主たる事務所が所在するバハマ国は、措置法施行令第25条の19第1項に規定する法人の所得に対して課される税が存在しない国に該当することから、本件バハマ法人は、請求人に係る措置法第40条の4第1項に規定する「特定外国子会社等」に該当するとして、本件バハマ法人に係る課税対象金額を請求人の本件各年分の雑所得の総収入金額に算入して、令和5年3月10日付で、別表1の「更正処分等」欄のとおり、本件各年分の所得税等の各更正処分(以下「本件各更正処分」という。)及び過少申告加算税の各賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」という。)をした。
なお、原処分庁は、本件各更正処分において、本件バハマ法人の事業年度を各年1月1日から12月31日までの期間とした上で、本件バハマ法人の平成28年1月1日から同年12月31日までの事業年度(以下「平成28年12月期」という。)及び平成29年1月1日から同年12月31日までの事業年度(以下「平成29年12月期」といい、平成28年12月期と併せて「本件各事業年度」という。)における適用対象金額を別表2及び別表3のとおり算出している。
ニ 審査請求
請求人は、原処分に不服があるとして、令和5年4月17日に審査請求をした。
争点および主張
本件バハマ法人は、請求人に係る「外国関係会社」に該当するか否か。(編注:争点に対する主張は表のとおり)
【表】争点についての主張
原処分庁 | 請 求 人 |
以下のとおり、本件バハマ法人は、請求人に係る「外国関係会社」に該当する。
(2)したがって、請求人は、本件財団を通じて本件バハマ法人の発行済株式等の全部を間接保有していることから、本件バハマ法人の発行済株式等のうちに請求人が有する間接保有の株式等の数の占める割合は、本件バハマ法人が請求人に係る「外国関係会社」とされる100分の50を超えるといえる。 |
以下のとおり、本件バハマ法人は、請求人に係る「外国関係会社」に該当しない。 (1)リヒテンシュタイン会社法には、財団に対する財産の拠出者が保有すべき株式又は出資持分に相当するものに関する規定が何ら存しないから、同法に基づき設立される財団は、保有の対象となるべき株式又は出資持分が存しない法人(持分の定めのない法人)であると認められる。 そうすると、本件財団は、持分の定めのない法人であって、その保有の対象となるべき株式又は出資持分がないのであるから、本件財団の株式又は出資持分を保有する者は存在しない。 なお、リヒテンシュタイン会社法には、財団設立時に30,000スイスフラン以上の財産を拠出すべきことが定められているが、これは財団の財政基盤たる財産を意味するにすぎないのであって、単なる寄附と同様、これによって設立者において財団に対する何らかの持分が生じるものではない。 (2)したがって、請求人は、資金を拠出したからといって、本件財団を通じて本件バハマ法人の株式又は出資持分を間接保有するということはあり得ない。 |
審判所の判断
(1)争点について
イ 外国関係会社の要件等
(イ)「外国関係会社」とは、外国法人で、その発行済株式等のうちに居住者及び内国法人並びに特殊関係非居住者が有する直接及び間接保有の株式等の数の合計数又は合計額の占める割合が100分の50を超えるものをいうところ(措置法第40条の4第2項第1号)、ここでいう「間接保有の株式等の数」とは、個人又は内国法人が他の外国法人を通じて間接に有する当該外国法人の株式の数又は出資の金額であり(同項第3号)、この「間接に有する当該外国法人の株式の数又は出資の金額」は、他の外国法人の発行済株式等の全部又は一部が個人又は内国法人により所有されている場合、当該外国法人の発行済株式等に、当該個人又は内国法人の当該他の外国法人に係る持株割合に当該他の外国法人の当該外国法人に係る持株割合を乗じて計算した割合を乗じて計算される(措置法施行令第25条の21第5項柱書及び同項第1号)。
本件では、本件バハマ法人が請求人に係る外国関係会社に該当するか否かは、本件財団(他の外国法人)の本件バハマ法人(当該外国法人)に係る持株割合に、請求人の本件財団に係る持株割合を乗じて計算した間接保有の株式等の数の本件バハマ法人の発行済株式等のうちに占める割合が100分の50を超えるか否かによるところ、本件財団が本件バハマ法人の全株式を保有していること、すなわち本件財団の本件バハマ法人に係る持株割合が100分の100であることには特に争いがないと認められるから、専ら請求人の本件財団に係る100分の50を超える持株割合が存するか、その前提として、請求人は、本件財団の「株式等の数」を有するといえるか否かが問題となるので、以下検討する。
(ロ)上記(イ)のとおり、措置法第40条の4の規定は、居住者の外国関係会社の支配関係を判定するための要件として、「株式等の数」を基準とするものであるところ、外国子会社合算税制は、内国における税負担の公平を図るため、軽課税国にペーパーカンパニー等を設立して、その事業を実質的に支配するなど、いわゆるタックスヘイブンを利用した租税回避に対する規制として導入されたものであり、このような制度導入趣旨から考えると、その支配関係の有無は形式上、名目上のものではなく、子会社の収益や資産を実質的に支配し得る地位の有無という観点から判定されなければならないと解される。加えて、措置法第40条の4の規定が、株式の数に限らず出資の金額までも判定の基準に加えていることに鑑みると、「株式等の数」とは、外国関係会社を支配し得る単位化された物的持分としての法的地位を指すものと解される。そして、居住者がこうした法的地位を取得しているかどうかは、外国関係会社の設立準拠法のほか、定款や会社規則等の具体的事情を個別的に考慮して判定すべきものと解するのが相当である。
さらに、日本の会社法等によれば、株式とは、株式会社における構成員(株主)の地位のことを意味し、株式会社以外の会社における構成員(社員)の地位を一般に持分と称しているところ、株式会社における構成員(株主)の地位は、株式会社に対する権利や義務になって表れるものであり、株主は、引き受けた株式の引受価額を限度とする出資義務を負う一方、自益権(株主が会社から経済的利益を受けることを目的とする権利をいう。以下同じ。)と共益権(株主が会社の経営に参与することを目的とする権利をいう。以下同じ。)を有していると解されることからすれば、資本金を拠出し、自益権及び共益権を有しているのであれば、株式会社等における構成員の地位(法的地位)を取得しているものと評価でき、「株式等の数」を有すると同視できるものと解される。
ロ 認定事実
請求人提出資料、原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。
(イ)請求人から×××××××××宛の2005(平成17)年4月25日付の「Personal Foundation Application Form」と題する書面(請求人が×××××××××に対し、リヒテンシュタイン公国において財団を設立するよう指示した書面で、書面末尾には指令者として請求人の署名がある。以下「本件財団設立申請書」という。)には、請求人は、×××××××××に対し、請求人を財団の資産管理のための特別組織として指名するよう指示する旨、また、請求人は、特別組織が存続する限りにおいて、専ら財団の資産管理のみに責任を負う旨記載されている。
(ロ)×××××××××××× 付の「STATUTEN der×××××××××」と題する書面(本件財団の定款。以下「本件財団定款」という。)には、要旨次の記載がある。
A 本件財団の「Stiftungskapital」(財団資本金)は30,000スイスフランである。設立者及び(又は)第三者は、いつでも本件財団に更なる資産を寄附することができる。本件財団の資産は、資産管理の目的で、また、受益者のために、その受益の範囲内で担保に供し、売却することが認められる(第2条 資産)。
B 本件財団の目的は、本件財団の資産の管理、経済的助成を必要とする者に対する寄附又は他の経済的利益の供与を行うための資産及びその収益の使用である(第3条 目的)。
C 本件財団の組織は、本件財団の評議会及び代表者とする。設立者は、財団の資産を管理するための特別組織などを設けることができる(第4条 本件財団の組織)。
D 場合に応じて設置されるその他の組織の任務、責任、能力及び機能並びに職員の配置方法は、定款に記載がない限り、設置時に設立者によって決定される(第7条 その他の組織)。
E 本件財団の資産に関して設立者が独自に設けた組織(特別組織)が存在する場合、本件財団の資産の管理については、この組織が単独で責任を負う。本件財団の資産の管理権限を有する特別組織は、制約を受けることなく、自らの義務に従う裁量で行動するものとする(第9条 本件財団の資産の管理)。
F 最初の会計年度は、本件財団の設立日に開始し、その年の12月31日に終了する。それ以降の会計年度もそれぞれ12月31日に終了する(第12条 会計年度)。
(ハ)×××××××××××× 付の「BY-LAW No.1 of the×××××××××」と題する書面(本件財団定款の附属定款。以下「本件財団附属定款」という。)には、本件財団の設立者として×××××××の記名があるところ、本件財団附属定款には、要旨次の記載がある。
A 本件財団定款の第9条の本件財団の資産の管理について、ここに特別組織を設立する(第1条)。
B 上記Aの特別組織は1名の構成員、すなわち請求人から成る(第2条)。
C 本件財団の評議会は、特別組織の指示に従い、本件財団の口座管理に必要な権限を委譲するものとする(第4条)。
(ニ)××××××××××××付の「REGULATIONS of the×××××××××」と題する書面(本件財団定款の規則。以下「本件財団規則」という。)には、本件財団の設立者として×××××××の記名があり、×××××××××が本件財団定款に基づいて本件財団規則を定める旨が記載されているところ、本件財団規則には、要旨次の記載がある。
A 請求人は、第一受益者として、請求人の生涯にわたり、他のいかなる受益者をも排除し、本件財団の資産及びその収入を享受する権利を単独で有するものとする(第1条)。
B 評議会は、第一受益者(請求人)の承認があった場合、いかなる時点においても本件財団規則を修正し、あるいは本件財団規則を廃止し、新しい規則を作成することができる。第一受益者(請求人)が死亡した場合は、評議会の裁量において、受益者が最も有利な形で配当を受領できるように、必要不可欠であるとみなされる場合にのみ、本件財団規則を修正することができる(第11条)。
ハ 判断
(イ)請求人は、本件財団の「株式等の数」を有するといえるか否かについて
A 本件財団は、上記のとおり、リヒテンシュタイン会社法を設立準拠法とするところ、当審判所の調査の結果によれば、リヒテンシュタイン会社法には財団の株式等に相当するものに関する定めは見当たらない。
B 次に、本件財団定款、本件財団附属定款及び本件財団規則をみると、上記ロのとおり、本件財団の資産は、資産管理の目的で、また、受益者のために、その受益の範囲内で担保に供し、売却することが認められ(本件財団定款第2条)、本件財団の目的は、本件財団の資産の管理、経済的助成を必要とする者に対する寄附又は他の経済的利益の供与を行うための資産及び収益の使用である(本件財団定款第3条)ところ、請求人は本件財団の第一受益者として、生涯にわたり、他のいかなる受益者をも排除し、本件財団の資産及びその収入を享受する権利を単独で有するものとされ(本件財団規則第1条)、本件財団規則の修正等には第一受益者である請求人の承認が求められるとともに、第一受益者である請求人が死亡した場合は、評議会の裁量において、受益者が最も有利な形で配当を受領できるように、必要不可欠であるとみなされる場合にのみ、本件財団規則を修正することができる旨が定められている(本件財団規則第11条)ことからすれば、請求人が存命中である限りは、請求人のみが本件財団の資産及びその収入を享受する権利を単独で有するものと認められる。そして、請求人は、本件財団設立申請書において、×××××××に対し、請求人を財団の資産管理のための特別組織として指名するよう指示するとともに、特別組織が存続する限りにおいて、専ら財団の資産管理にのみ責任を負うことを了承しているところ、本件財団の資産管理について特別組織が設立され(本件財団附属定款第1条)、特別組織の構成員は請求人のみであり(本件財団附属定款第2条)、本件財団の評議会は、特別組織(請求人)の指示に従い、本件財団の口座管理に必要な権限を委譲する(本件財団附属定款第4条)とされ、本件財団に特別組織が存在する場合、本件財団の資産の管理については当該特別組織が単独で責任を負い、当該特別組織は、制約を受けることなく自らの義務に従う裁量で行動するものとされている(本件財団定款第9条)。
そうすると、請求人は、本件財団の資産の管理権限を単独で掌握し、本件財団の資産及びその収入を単独で受けることができるのであるから、自益権及び共益権を単独で有しているものということができる。
C したがって、請求人は、上記のとおり、本件財団の資本金の全額を拠出し、上記Bのとおり、本件財団に係る自益権及び共益権を単独で有しているのであるから、株式会社等における構成員の地位(法的地位)を取得しているものと評価できるものであって、本件財団の「株式等の数」を有すると同視できるものといえる。
(ロ)本件バハマ法人は、請求人に係る「外国関係会社」に該当するか否かについて
A 上記(イ)のとおり、請求人は、本件財団の「株式等の数」を有すると同視できるものといえるところ、請求人は、本件財団の資本金の全額を拠出し、本件財団の発行済株式等の全部を保有していると認められるから、請求人の本件財団に係る持株割合は100分の100となる。
B また、上記のとおり、本件財団は、本件バハマ法人の名義株主である×××××××を通じて、本件バハマ法人の発行済株式等の全部を保有しているから、本件財団の本件バハマ法人に係る持株割合は100分の100となる。
C そうすると、請求人は、本件財団を通じて、本件バハマ法人の株式等を間接保有しているといえるところ、その株式等の数は、本件バハマ法人の発行済株式等50,000株に、請求人の本件財団に係る持株割合100分の100に本件財団の本件バハマ法人に係る持株割合100分の100を乗じて計算した割合である100分の100を乗じて計算した50,000株となる。
D したがって、本件バハマ法人の発行済株式等(50,000株)のうちに、請求人が有する間接保有の株式等の数(50,000株)の占める割合は100分の100となり、外国関係会社と判定される100分の50を超えることとなるから、本件バハマ法人は、請求人に係る「外国関係会社」に該当する。
(ハ)請求人の主張について
請求人は、上記の「請求人」欄のとおり、リヒテンシュタイン会社法には、財団に対する財産の拠出者が保有すべき株式等に相当するものに関する規定が何ら存しないから、同法に基づき設立された本件財団には、保有の対象となるべき株式等はなく、本件財団の株式等を保有する者は存在せず、リヒテンシュタイン会社法は、財団設立時に30,000スイスフラン以上の財産を拠出すべきことを定めているものの、これは財団の財政基盤たる財産を意味するにすぎないのであって、単なる寄附と同様、これによって設立者に財団に対する何らかの持分が生じるものでない旨主張する。
しかしながら、上記(イ)のとおり、請求人は、本件財団の「株式等の数」を有すると同視できるものといえるから、本件財団の株式等を保有する者は存在しないということにはならないし、請求人は、本件財団の資本金の全額を拠出することによって、本件財団に係る自益権及び共益権を単独で有することになったことからすると、そもそも請求人の拠出した財産が、財団の財政基盤たる財産を意味するにすぎないものともいえない。
したがって、請求人の主張には理由がない。
(2)本件各更正処分の適法性について
イ 本件バハマ法人の「特定外国子会社等」の該当性について
上記のとおり、本件バハマ法人は、措置法第40条の4第十項に規定する「外国関係会社」に該当し、請求人は、同項第1号に規定する、その有する外国関係会社の間接保有の株式等の数の当該外国関係会社の発行済株式等のうちに占める割合が100分の10以上である「居住者」に該当する。
また、バハマ会社法第187条第1項は、この法律に基づいて設立又は継続された会社、又はその構成員若しくは株主は、事業免許税、所得税、法人税、キャピタルゲイン税、又は当該会社に発生する、若しくは当該会社から得られる、又は当該会社若しくは株主が場合により当事者となる取引に関連する所得若しくは分配に対するその他の税の適用を受けないものとする旨規定し、同条第8項は、本節により認められる免除は、本法に基づく会社の設立の日又は本法に基づく継続の日から、それぞれ20年間効力を有するものとする旨規定していることからすると、本件バハマ法人は、法人の所得に対して課される税が存在しない国に主たる事務所を有する会社であると認められ、本件バハマ法人は、措置法第40条の4第1項に規定する「特定外国子会社等」に該当する。
したがって、本件バハマ法人が各事業年度において適用対象金額を有する場合には、請求人には措置法第40条の4第1項の規定が適用されることとなる。
ロ 本件バハマ法人の事業年度について
原処分庁は、上記のとおり、本件各更正処分に当たり、本件バハマ法人の事業年度を各年1月1日から12月31日までの期間とした上で本件バハマ法人の適用対象金額の計算をしているところ、当審判所の調査の結果によれば、本件バハマ法人の定款上、会計期間(決算期)は明らかではないこと、本件バハマ法人の全株式を保有している本件財団の会計年度は12月31日に終了すること及び所得税は暦年課税であることに鑑みると、本件バハマ法人の会計期間(決算期)を本件財団の会計年度に合わせて12月31日としたことについては、当審判所においても相当と認められる。
したがって、本件バハマ法人の事業年度は、各年1月1日から12月31日までの期間とするのが相当である。
ハ 本件バハマ法人の所得の金額の計算について
原処分庁は、本件バハマ法人の適用対象金額の計算に当たり、措置法第40条の4第2項第2号及び措置法施行令第25条の20第1項に規定する「特定外国子会社等の決算に基づく所得の金額」について、本件バハマ法人は、各事業年度における財務諸表を作成していないとして、本件各口座の入出金事績において認められる公社債利子収入の金額及び公社債償還収入の金額並びに当該各収入に係る費用の金額をそれぞれ抽出した上で、当該各収入の金額から当該各費用の金額を控除して算定しているところ、措置法第40条の4第2項第2号及び措置法施行令第25条の20第1項の各規定には、「特定外国子会社等の決算に基づく所得の金額」について個別具体的な金額の算定方法は規定されていない。この点、決算に基づいて計算を行う趣旨は納税者による恣意性の排除と解され、決算関係書類の不存在を理由に課税できないというのであれば、外国子会社合算税制の制度趣旨を損なうことになりかねないから、他に算定の基となるものがない以上、本件各口座における入出金事績が本件バハマ法人の取引の全てであることを前提として、当該入出金事績に基づいて「特定外国子会社等の決算に基づく所得の金額」を算定することは、当審判所においても相当と認められる。
ところで、原処分庁は、本件バハマ法人の「特定外国子会社等の決算に基づく所得の金額」の計算において、公社債に関する所得の金額については、本件各口座に入金のあった公社債償還収入の金額から当該償還公社債の取得金額を控除して算出しているところ、本件バハマ法人が各事業年度の終了の時(12月31日)に有していたと認められる各公社債(以下「本件各公社債」という。)は、法人税法施行令第119条の14《償還有価証券の帳簿価額の調整》に規定する償還有価証券(内国法人が事業年度終了の時において有する償還期限及び償還金額の定めのある法人税法第61条の3《売買目的有価証券の評価益又は評価損の益金又は損金算入等》第1項第2号に規定する売買目的外有価証券のうち、償遺期限に償還されないと見込まれる新株予約権付社債その他これに準ずるものを除いたもの。)と認められるから、公社債に関する所得の金額は、法人税法施行令第139条の2《償還有価証券の調整差益又は調整差損の益金又は損金算入》第1項の規定により、その償還有価証券に係る調整差益又は調整差損(同条第2項に規定する調整差益又は調整差損をいう。)に基づき計算すべきであり、当審判所が同項の規定により算定した本件各公社債に係る調整差益又は調整差損の各金額は、別表4−1及び別表4−2のとおりとなる。
ニ 本件バハマ法人の適用対象金額の計算について
措置法に規定する内国法人の外国関係会社に係る所得の課税の特例において、租税特別措置法関係通達(法人税編)(平成29年12月21日付課法2−22ほか2課共同による改正前のもの。)66の6−9《適用対象金額等の計算》は、措置法第66条の6第2項第2号に規定する適用対象金額は特定外国子会社等が使用する外国通貨表示の金額により計算する旨定めているところ、適用対象金額は、じ後の事業年度の所得計算を考慮すると外国通貨表示の金額で行うことが合理的であるから、この取扱いは、当審判所においても相当と認められる。措置法第40条の4第1項に規定する適用対象金額についても、法人に対する取扱いと特に異なる取扱いをする理由もないから、本件バハマ法人の適用対象金額についても外国通貨表示の金額で計算すべきであり、当審判所において、本件各事業年度の本件バハマ法人の適用対象金額を計算すると、別表5及び別表6の各「適用対象金額」欄のとおりとなり、本件バハマ法人は適用対象金額を有することになる。
ホ 本件バハマ法人の課税対象金額に相当する金額について
特定外国子会社等の課税対象金額は、特定外国子会社等の各事業年度の適用対象金額から当該各事業年度の調整金額を控除した残額に、当該特定外国子会社等の当該事業年度終了の時における発行済株式等のうちに当該各事業年度終了の時におけるその者の有する当該特定外国子会社等の請求権勘案保有株式等の占める割合を乗じて計算するところ(措置法施行令第25条の21第1項)、当審判所の調査によっても、本件バハマ法人に適用対象金額から控除すべき調整金額は認められず、また、本件バハマ法人の発行済株式等のうちに請求人が有する間接保有の株式等の数の占める割合は100分の100であることから、本件バハマ法人の有する適用対象金額の全部が課税対象金額に相当する金額となり、当審判所において、本件バハマ法人の本件各事業年度終了の日の翌日から2月を経過する日の属する本件各年分の請求人の雑所得の金額の計算上総収入金額に算入される本件バハマ法人の課税対象金額に相当する金額を計算すると、別表5及び別表6の各「課税対象金額計」欄のとおりとなる。
へ まとめ
以上を前提に、当審判所において請求人の本件各年分の所得税等の総所得金額及び納付すべき税額を計算すると、別表7の「審判所認定額」欄のとおり、平成29年分は更正処分の金額を上回るが、平成30年分は更正処分の金額を下回る。
なお、本件各更正処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
したがって、平成29年分の更正処分は適法であるが、平成30年分の更正処分については、その一部が違法であり、別紙1「取消額等計算書」のとおり取り消すべきである。
(3)本件各賦課決定処分の適法性について
イ 上記(2)のヘのとおり、平成29年分の更正処分は適法であり、平成30年分の更正処分はその一部が違法であり、その他の部分が適法であるところ、本件各更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が、本件各更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、通則法第65条第4項第1号に規定する正当な理由があるとは認められない。
ロ また、当審判所の調査の結果によれば、請求人は、本件各年分の総所得金額が2,000万円を超えており、かつ、本件各年の12月31日において3億円以上の財産を有していたと認められるから、国送法第6条の2第1項に規定する財産債務調書を本件各年の翌年3月15日までに所轄税務署長に提出しなければならないところ、請求人は、平成29年12月31日分及び平成30年12月31日分の各財産債務調書を提出期限内に原処分庁に提出しているものの、当該各財産債務調書には、いずれも請求人が拠出した本件財団の資本金(30,000スイスフラン)の記載がない。
したがって、本件財団の資本金に関して生ずる所得には、国送法第6条の3第2項の財産債務加重措置が適用されることになり、本件各年分の過少申告加算税の額は、通則法第65条第1項及び第2項に基づき計算した金額に、国送法第6条の3第2項の規定により計算した金額を加算した金額となる。
ハ 以上を前提に、当審判所において請求人の本件各年分の過少申告加算税の額を計算すると、別表7の「審判所認定額」欄のとおり、平成29年分は賦課決定処分の金額を上回るが、平成30年分は賦課決定処分の金額を下回る。
したがって、平成29年分の賦課決定処分は適法であるが、平成30年分の賦課決定処分は、その一部を別紙1「取消額等計算書」のとおり取り消すべきである。
(4)結論
よって、審査請求には理由があるから、原処分の一部を取り消すこととし、主文のとおり裁決する。
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