解説記事2025年03月03日 未公開裁決事例紹介 取引相場のない株式の譲受価額を巡る裁決(2025年3月3日号・№1065)
未公開裁決事例紹介
取引相場のない株式の譲受価額を巡る裁決
審判所、「著しく低い価額」に該当
○請求人が他の株主から譲渡を受けた取引相場のない株式の価額が相続税法7条に規定する「著しく低い価額の対価」といえるか否かが争われた裁決(関裁(諸)令5第47号)。国税不服審判所は、本件株式は配当還元方式によっては株式の客観的交換価値を適切に算定することができない特別の事情があるとは認められず、配当還元方式によって算定した株式の評価額は、株式の客観的交換価値(時価)を超えるものではないと推認されることから、株式の譲受日における時価とするのが相当であるとした。その上で、本件譲受価額は、評価額の僅か4%程度に過ぎず、譲受価額と評価額の開差は社会通念上著しいものと認められ、譲受価額には経済合理性のないことが明らかであるから、「著しく低い価額の対価」に該当すると認められるとの判断を示した。
主 文
審査請求をいずれも棄却する。
基礎事実等
(1)事案の概要
本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、他の株主から取引相場のない株式の譲渡を受けたところ、原処分庁が、当該譲受けは相続税法第7条にいう「著しく低い価額の対価で財産の譲渡を受けた場合」に該当し、当該譲渡の対価と財産評価基本通達により計算した評価額との差額に相当する金額を贈与により取得したものとみなして、贈与税の決定処分等を行ったのに対し、請求人が、譲受価額は適正な時価であり、当該譲受けは「著しく低い価額の対価で財産の譲渡を受けた場合」に該当しないとして、原処分の全部の取消しを求めた事案である。
(2)関係法令等(略)
(3)基礎事実
当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。
イ 請求人は、昭和54年に××××××に入社し、経理、総務及び店舗運営の各業務を担当し、平成28年9月に定年退職した。
その後、同年10月に××××の有価証券報告書に大株主(以下、単に「大株主」という。)として記載されている××××××に入社し、令和5年10月現在、業務担当室長である。
ロ ××××××××××××(以下「本件法人」という。)は、××××××に不動産の賃貸等、投資及び有価証券の売買などを目的として設立され、設立当時の商号は××××××××××××であったが、××××××に有限会社に、××××××に再び株式会社に組織変更した法人である。本件法人は、×××の大株主であり、××××××以降、本件法人の代表取締役を務め、×××及び×××は、本件法人が有限会社に組織変更する以前から、本件法人の取締役を務めており、これら3名は、×××の創業家である(以下、これら3名を併せて「×××の創業家」という。)。
なお、本件法人の事業年度は、12月1日から11月30日までである。
ハ 本件法人の、××××××付臨時社員総会議事録の別紙として添付されている定款(以下「平成8年定款」という。)××××××には、①本件法人は設立後、必要に応じて劣後株を発行することができること、②劣後株は議決権のみを有し、配当その他の権利は生じないことが定められていた。
ニ 本件法人は、××××××、資本金を××××増加して××××とすることが取締役会で可決されたことを踏まえ、取締役会及び臨時株主総会において、平成8年定款×××に基づく劣後株として、新たに額面後配株式××を1株につき5万円で第三者割当ての方法により発行することを決議した(以下、「劣後株(式)」と「復配株(式)」を区別することなく「劣後株式」といい、劣後株式以外の株式を「普通株式」という。)。
なお、××××(以下「本件譲渡人」という。)は、平成8年7月18日、上記の決議に基づき発行された劣後株式(額面5万円)のうち230株について、1株につき払込金額5万円で引受けを申込み、取得した。
ホ 本件法人の××××××付の定款(以下「平成31年定款」という。)××××××には、本件法人の発行可能株式総数は××××であり、その内訳として、××は普通株式、×××は劣後株式とする旨定められていた。
なお、同日付の株主名簿には、本件譲渡人が、劣後株式を××所有している旨が記載されていた。
へ 請求人は、平成31年3月19日、本件譲渡人との間で、本件譲渡人から本件法人の劣後株式××(以下「本件株式」という。)を代金××××(以下「本件譲受価額」という。)で譲り受ける旨の譲渡契約を締結し、当該該渡契約に係る株式譲渡契約書を作成した。
ト 請求人は、平成31年3月20日(以下「本件譲受日」という。)、上記への契約に基づき、本件譲渡人指定の金融機関の口座に××××××を振り込んで本件株式を取得した。
チ 平成31年定款××××××には、剰余金の配当は、毎事業年度末日現在の最終の株主名簿に記載又は記録された株主及び登録質権者に対して支払うと定められていたが、本件法人は、全ての株主に対して一度も配当金の支払をしたことがない。
(4)審査請求に至る経緯
イ 請求人は、令和元年分の贈与税の申告書を、法定申告期限までに提出しなかった。
ロ 原処分庁は、令和5年7月6日付で、別紙2のとおり、本件株式を評価通達の定める評価方法により評価した価額××××××(1株当たりの評価額1,200,099円(以下「本件評価額という。)と本件譲受価額との差額は請求人が贈与により取得したものとみなされるとして、請求人に対し、令和元年分の贈与税の課税価格を××××××、納付すべき税額を××××××とする決定処分(以下「本件決定処分」という。)及び無申告加算税の額を××××××とする賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。
ハ 請求人は、本件決定処分及び本件賦課決定処分を不服として令和5年7月26日に審査請求をした。
争点および主張
本件譲受価額は、相続税法第7条に規定する「著しく低い価額の対価」といえるか否か。(編注:争点に対する主張は表のとおり)
【表】争点についての主張
原処分庁 | 請求人 |
本件譲受価額が相続税法第7条に規定する「著しく低い価額の対価」といえるか否かは、財産の種類や性質、取引価額の決定の方法、取引の実情等を勘案し、社会通念に従い、時価と本件譲受価額との開差が著しいか否かで判断すべきである。 また、相続税法第7条に規定する「時価」は、同法第22条に規定する時価と同様に、財産の客観的な交換価値をいい、その算定に当たっては、評価通達に定める評価方法(配当還元方式)により評価すべきであり、この方法に従った本件評価額(××××××)が本件株式の「時価」となるから、本件譲受価額(××××)は、本件評価額に比して××××××も低額である。 したがって、本件譲受価額は、相続税法第7条に規定する「著しく低い価額の対価」といえる。 |
本件株式は、平成8年に第三者割当増資により、額面5万円、議決権のみを有し、配当その他の権利は生じない劣後株式として発行され、本件譲渡人が引き受け取得したものであり、×××の創業家が所有している普通株式とは全く異なる。 また、本件法人の本件譲受日の直前期末(平成30年11月30日、以下「本件直前期末」という。)の資本金等の額××××××は、劣後株式1,380株に発行価額5万円を乗じた資本金繰入額の6,900万円を除けば、全て×××の創業家の資本拠出額である。 それにもかかわらず、劣後株式を普通株式と合算することにより1株当たりの資本金等の額を2,400,198円と評価することは、×××の創業家の所有している普通株式の株式価値が、その後発行された劣後株式により、大きく希薄化したことになり、経済的合理性を欠く。 これらを踏まえれば、本件法人及び劣後株式を取得した株主は、当該劣後株式が額面以上又は額面以下での評価のしようがない株式であると認識した上で、額面価額を前提に取引価格を決定し、××××の役員又は従業員(これらの地位にあった者を含む。以下同じ。)間で取引してきたから、本件株式の適正な時価は、1株当たり5万円である。 したがって、本件譲受価額は、相続税法第7条に規定する「著しく低い価額の対価」とはいえない。 |
審判所の判断
(1)法令解釈
相続税法第7条は、私法上の贈与契約によって財産を取得したのではないが、経済的にみて当該財産の取得が著しく低い価額の対価によって行われた場合に、その対価と時価との差額については実質的には贈与があったとみることができることから、この経済的実質に着目して、税負担の公平の見地から課税上これを贈与とみなす趣旨の規定であると解される。
このような同条の規定の趣旨からすれば、同条に規定する「時価」とは、相続税法第22条に規定する「時価」と同様に、課税時期における客観的交換価値、すなわち、それぞれの財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立する価額をいい、課税時期とは、相続税法第7条が財産の譲渡に関する規定であることを踏まえると、財産に係る権利が譲渡を受けた者に移転した時点をいうものと解される。
ところで、全ての財産の客観的交換価値は、必ずしも一義的に確定されるものではなく、納税者間の公平、納税者の便宜及び徴税費用の節減の点から、課税実務上は、各財産を各々の方法で個別に評価するのではなく、財産評価の一般的基準が評価通達によって定められ、これに定められた評価方法によって、財産の時価すなわち客観的交換価値を画一的に評価する方法が採られている。
そして、評価通達の定める評価方法が、当該財産の時価、すなわち客観的交換価値を算定する方法として一般的な合理性を有するものといえる場合においては、これに従って算定された価額は、評価通達の定める評価方法によっては当該財産の客観的交換価値を適切に算定することができない特別の事情の存しない限り、その客観的交換価値を超えるものではないと推認することができるというべきである。
また、相続税法第7条に規定する「著しく低い価額の対価」とは、その対価に経済合理性のないことが明らかな場合をいうものと解され、その判定は、個々の財産の譲渡ごとに、当該財産の種類、性質、その取引価額の決まり方、その取引の実情等を勘案して、社会通念に従い、時価と当該譲渡の対価との開差が著しいか否かによって判断するのが相当である。
(2)認定事実
請求人提出資料、原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。
イ 本件法人は、本件直前期末の翌日から本件譲受日までに仮決算を行っていない。
ロ 本件法人の本件直前期末の貸借対照表上の資産、負債及び純資産の金額(千円未満切り捨て。以下、本項目において同じ。)は、①現金・預金が××××××、②未収金が××××××、③投資有価証券が××××××(この投資有価証券のうち、評価通達189(2)に定める株式等が××××××であり、また、この株式等には、××××の株式××××××が含まれる。)、④未払法人税等が××××××、⑤預り金が××××、⑥資本金等の額が××××××(資本金の額及び資本準備金の額の合計額から自己株式の額を控除した額である。)である。
なお、××××の株式について、東京証券取引所の公表する本件譲受日における最終価格は××××、本件譲受日の属する月の最終価格の平均価格は××××、本件譲受日の属する月の前月の最終価格の平均価格は××××、本件譲受日の属する月の前々月の最終価格の平均価格は××××であった。
ハ 本件譲受日及び本件直前期末における本件法人の発行済株式の総数は××××であり、本件法人の株式は、普通株式と劣後株式とを問わず、譲渡が制限されており、議決権数は××××であった。発行済株式の総数の内訳は、自己株式36株(議決権数×個)、普通株式×××(議決権数×××)、劣後株式1,380株(議決権数1,380個)であった。
ニ 本件譲受日において、本件法人の株主の1人及びその同族関係者の有する議決権の合計数が最も多いグループの有する議決権の合計数は××であり、本件法人の議決権総数の30%を下回る。
また、本件譲受日において、請求人及びその同族関係者の有する議決権の合計数は××であり、本件法人の議決権総数の15%未満であった。
ホ 平成31年定款には、劣後株式について、剰余金の配当、残余財産の分配及び議決権を具体的に制限する定めはない。
へ 本件譲渡人は、請求人の同族関係者ではなく、請求人が××××の××××に所属していた時の直属の上司であった者である。
ト 本件法人の劣後株式は、いずれも新株発行時に1株当たり5万円で引き受けられており、当該劣後株式が過去の複数の売買において、1株当たり5万円で売買されていたことから、本件譲受価額は、1株当たり5万円と決定された。
(3)検討
イ 本件株式の本件譲受日における時価
(イ)評価通達に定める取引相場のない株式の評価方法の一般的な合理性の有無
本件株式は、上記(2)ハのとおり、譲渡が制限されており、上場株式又は気配相場等のある株式として評価通達168(1)及び同(2)が定める事由のいずれにも該当しないから、同(3)に定める取引相場のない株式に該当するところ、評価通達178、179、188、188−2及び189によれば、取引相場のない株式の評価方法は、取引価格に依拠することなく、その株式の発行会社(評価会社)の規模や株主の実態等に応じて、原則的評価方式である類似業種比準方式又は純資産価額方式と、特例的評価方式である配当還元方式のいずれか又はその組合せによるものとしている。
すなわち、上場株式及び気配相場等のある株式のように、上場された市場等において大量かつ反復継続的に取引が行われている場合には、多数の取引を通じて一定の取引価格が形成されており、そのような取引価格は、原則として、当事者間の主観的事情に左右されず、当該株式の客観的交換価値を反映したものということができる。これに対し、取引相場のない株式については、上記のような市場等における大量かつ反復継続的な取引が行われることは予定されておらず、また、仮に取引事例が存在するとしても、特定の当事者間又は特定の事情の下で取引されるのが通常であり、その取引価格が当事者間の主観的事情に左右されることは避け難いことから、その取引価格をもって、一般に当該株式の客観的交換価値を反映したものと考えることはできない。そのため、評価通達は、株式のうち取引相場のないものについては、取引価格に依拠せずに評価することとしているものと解され、そのような評価方法は合理性を有するものといえる。
次に、事業経営への影響の少ない同族株主の一部及び従業員株主等のような少数株主が取得した株式については、これらの株主は、会社支配力が小さく、実質的には単に配当を期待するにとどまる場合もあるといえ、このような実態に即した評価を行う必要がある。そのため、評価通達178並びに同188本文及び(3)は、「同族株主以外の株主等が取得した株式」については、原則的評価方式に代えて、特例的評価方式である配当還元方式により評価することとしているものと解され、そのような区別は合理性を有するものといえる。
そして、配当還元方式は、別紙1の14の配当還元方式の算式のとおり、株式の価額をその株式に係る年配当金額を還元率10%で除して計算した元本に相当する配当還元価額によって評価するものである。なお、無配の場合は1株当たりの配当金額を一律2円50銭として計算するところ、無配の場合の計算方式は、政策的に無配としている場合があることを考慮したものと解される。
この方式を「同族株主以外の株主等が取得した株式」の評価方法とした趣旨は、上記の実態があることから、評価手続の簡便性をも考慮して、この評価方法を相当としたものと解される。また、評価通達188は、株主の会社支配力を測る基準として、株主及びその同族関係者の有する議決権の合計数がその会社の議決権総数に占める割合に着目し、これを基として配当還元方式が適用される「同族株主以外の株主等が取得した株式」の範囲を具体的に定めている。
以上の諸点に鑑みれば、配当還元方式という評価方法は、一般的な合理性を有するものといえる。
(ロ)本件株式の評価通達における区分及び当該区分に係る評価方法等の合理性
A 上記(イ)のとおり、取引相場のない株式の価額の評価方法に関する評価通達の定めが一定の合理性を有するにしても、本件株式の価額の評価に当たり、依拠すべき評価通達の定めが合理性を有するかについてはなお検討を要する。
そして、評価通達178、179、188、188−2、189、189−3等によれば、取引相場のない株式の価額の評価方法は複数定められているから、評価通達に基づいて本件株式の価額を評価する場合、まず、評価通達のいずれの定めに依拠することになるかを検討し、その上で、依拠すべき評価通達の合理性について検討する。
上記のとおり、本件法人は、×××の大株主であり、東京証券取引所が公表する×××の株式の本件譲受日における最終価格等は上記(2)ロのとおりであるところ、上記(2)イのとおり、本件法人が本件直前期末の翌日から本件譲受日までにおいて仮決算を行っていないことを踏まえて、評価通達169に基づき、本件直前期末において本件法人が有する×××の株式の本件譲受日における相続税評価額を計算すると、××××××となり、その評価額は非常に高額なものである。なお、評価通達169については、上場株式は金融商品取引所が公表する課税時期における取引価格がそのまま時価を示しているといえるものの、金融商品取引所の取引価格はそのときどきの需給関係による値動きがあるため、一時点における需給関係による偶発性を排除し、ある程度の期間における取引価格の実勢をも評価の判断要素として考慮し、評価上のしんしゃくを行うことがより適切であることから定められたものであり、そのような評価方法は当審判所においても相当なものと認められる。
このように、本件法人が有する×××の株式の相続税評価額が非常に高額であることからすれば、上記(2)ロの本件法人の他の資産を本件譲受日時点で評価したとしても、×××の株式を含んだ評価通達189(2)に定める株式等の相続税評価額は、本件法人の資産の相続税評価額の合計額の50%を優に超えると認められる。
そして、本件法人が、土地保有特定会社、開業後3年未満の会社等、開業前又は休業中の全社、清算中の会社のいずれかに該当するという事実も認められないことからすれば、本件法人は、評価通達189(2)に定める株式等保有特定会社に該当する。
また、上記(2)ニのとおり、本件譲受日における本件法人の議決権保有者の属性及び議決権の保有割合からすれば、本件法人は評価通達188に定める同族株主のいない会社に該当するとともに、請求人及びその同族関係者が保有する議決権の合計数は本件法人の議決権総数の15%未満であることから、本件株式は、評価通達188本文及び(3)に定める同族株主以外の株主等が取得した株式に該当する。
そうすると、評価通達に基づいて本件株式の価額を評価するに当たっては、評価通達189の定めを踏まえつつ、評価通達189−3の定めにより、配当還元方式による評価も含めた、株式等保有特定会社の株式に係る評価方法によることになる。
B そして、評価通達189は、取引相場のない株式のうち、特定の評価会社の株式の評価方法について、当該評価会社が株式等保有特定会社であれば、その株式の価額を評価通達189−3によって評価する旨定め、評価通達189−3は、①納税義務者の選択により、純資産価額方式、又は、「S1の金額」と「S2の金額」を合計する方式のいずれかによって評価する旨を定めるとともに、②株式等保有特定会社の株式が評価通達188に定める同族株主以外の株主等が取得した株式に該当する場合には、配当還元方式により評価する旨をも定めている。
このうち、上記②の場合に該当する株式について、評価通達189−3なお書は、上記②により計算した金額が上記①により計算した金額を超える場合には、上記①により計算した金額をもって株式の価額とする旨定めている。
これらの定めの合理性について検討すると、まず、評価通達189は、資産の保有状況、営業の状態等が一般の評価会社とは異なる評価会社の株式については、上記(イ)で説示した取引相場のない株式の原則的評価方式によっては適正な評価を行い得ないことを踏まえて、一般の評価会社の株式とは区別された評価方法を定めたものであり、合理性を有するものといえる。
次に、株式等保有特定会社の株式の評価方法に関して定める評価通達189−3は、株式等保有特定会社が原則的評価方式で併用される類似業種比準方式における標本会社に比して、資産構成が著しく株式等に偏っていることに鑑み、このような評価会社の株式の価額はその有する株式等の価額に依存する割合が一般的に高いと考えられることを考慮して、当該会社の有する資産の価値を的確に反映し得る評価方式である上記①によるべきことを原則としつつ、株式の取得者が同族株主以外の株主等である場合には、上記②によることとしたものであって、合理的かつ実態に即した評価を行うための株式の価額の評価方式であり、合理性を有するものといえる。
これらによれば、評価通達189及び189−3は、いずれも当審判所においても相当なものと認められる。
C また、評価通達189−3に基づく株式の価額の評価について、そのなお書は、株式等保有特定会社の株式が、評価通達188に定める同族株主以外の株主等が取得した株式に該当する場合には、上記B②(配当還元方式)により評価した価額を計算した上で、上記B①(純資産価額方式又は「S1の金額」と「S2の金額」を合計する方式)によって評価した価額と比較する旨定めている。
そして、これらの価額を比較するための計算に必要な評価通達179の1株当たりの純資産価額(相続税評価額によって計算した金額)については、評価通達185本文に定めるとおり、評価会社の課税時期における各資産及び各負債の金額によることとしているため、原則として、本件法人について本件譲受日現在における仮決算を行い各資産及び各負債の相続税評価額及び帳簿価額を計算しなければならない。
この計算に関して、評価明細書通達の別紙1の記載方法等のうち、「第5表 1株当たりの純資産価額(相続税評価額)の計算明細書」の2(2)及び(3)は、①資産及び負債の帳簿価額は税務計算上の帳簿価額を記載する旨定めており、同(4)は、②評価会社が課税時期における仮決算を行っていないため、課税時期における各資産及び各負債の金額が明確でない場合において、直前期末から課税時期までの間に資産及び負債について著しく増減がないため評価額の計算に影響が少ないと認められるときは、課税時期における各資産及び各負債の金額は、直前期末の各資産及び各負債の金額により計算しても差し支えない旨、③このように計算した場合には、評価通達189(2)に定める株式等保有特定会社の判定時期と純資産価額及び株式等保有特定会社の「S2」の計算時期は同一となる旨定めており(以下、この評価方法を「直前期末法」という。)、この取扱いは、課税時期における純資産価額が明確でない場合の合理的な算定方法として、当審判所においても相当であると認められる。
(ハ)評価通達に定める評価方法による本件株式の評価額
A 本件株式について、配当還元方式によって評価額を算定すると、上記(2)ロ及びハのとおり、本件法人の資本金等の額は××××××であり、自己株式を除いた発行済株式の総数は××であるから、1株当たりの資本金等の額は2,400,198円となる。
これを踏まえ、かつ、上記のとおり、本件株式に係る配当金の支払はない(無配)ことから、評価通達188−2に基づき、1株当たりの配当金額を2円50銭として配当還元方式の算式により本件株式の価額を算定すると、その価額は、次の計算式のとおり、1株当たり1,200,099円となる(なお、別紙2の第6表の「」欄もこれに沿う記載である。)。
(計算式)
(2円50銭÷10%)×(2,400,198円÷50円)=1,200,099円
B その上で、評価通達189−3本文を踏まえて更に検討すると、①直前期末法により計算した本件譲受日における相続税評価額による1株当たりの純資産価額及び評価通達189−3ただし書の金額(「S1」の金額と「S2」の金額の合計額)と、②上記Aの評価額(1,200,099円)を比較すると、上記(ロ)Aのとおり、本件譲受日における直前期末法による本件法人の有する×××の株式の相続税評価額が××××××と非常に高額であることも踏まえれば、②の評価額は、①の各金額を超えないから、評価通達に定める方法による本件株式の評価額は、1株当たり1,200,099円である。これに本件株式の株式数×××を乗じると××××××となり、当該金額は本件株式の客観的交換価値を超えるものではないと推認されるから、これと同額の本件評価額は、正当なものとして是認できる。
(ニ)評価通達の定める評価方法によっては本件株式の客観的交換価値を適切に評価することができない特別の事情の有無
もっとも、上記(1)のとおり、取得した財産の客観的交換価値を適切に算定することができない特別の事情が存する場合には、評価通達の定める評価方法に従って算定された価額はその客観的交換価値を超えるものではないとの推認が覆されるから、以下において、そのような特別の事情の有無について検討する。
上記のとおり、平成8年定款×××が、劣後株式は配当その他の権利は生じない旨定めていたことからすると、本件株式は、上記の発行時点においては、剰余金の配当を受ける権利が制限され、無配が想定されていたとは認められる。
しかしながら、上記のとおり、平成31年定款には、剰余金の配当は、毎事業年度末日現在の最終の株主名簿に記載又は記録された株主及び登録質権者に対して支払う旨が定められており、劣後株式について、剰余金の配当、残余財産の分配及び議決権に関する具体的な制限の定めはなく、本件法人が全ての株主に対して一度も配当金の支払、すなわち剰余金の配当をしたことがないとしても、それは、株式の定款上の制限に基づくものではなく、事実上のものにすぎない。
また、本件譲受日における劣後株式の議決権についてみても、上記(2)ハのとおり、普通株式との間に差異は認められない。
これらによれば、本件譲受日における本件株式は、議決権について制限はなく、普通株式と同一の議決権があり、剰余金の配当を受ける権利についても、具体的な制限があると認めることはできない。
そして、本件法人が全ての株主に対して一度も配当をしていないとしても、上記のとおり、本件株式を含む劣後株式には、普通株式と比較しても、名称の相違を除き、議決権及び剰余金の配当を受ける権利に関する具体的制限はなく、それ以上の個別事情も認められないことをも踏まえれば、本件株式の評価額の算定に当たり、配当還元方式に従って算定すると本件株式の客観的交換価値を適切に算定することができない特別の事情があると認めることはできない。
(ホ)小括
上記(イ)のとおり、評価通達に定める配当還元方式は、本件株式の時価すなわち客観的交換価値を算定する方法として合理性があるといえるところ、上記(ニ)のとおり、配当還元方式によっては本件株式の客観的交換価値を適切に算定することができない特別の事情があるとは認められない。そうすると、上記(ハ)のとおり、配当還元方式に従って算定された××××××(本件評価額)は、本件株式の客観的交換価値、すなわち本件株式の時価を超えるものではないと認められることから、本件株式の本件譲受日における時価は、本件評価額とするのが相当である。
ロ 相続税法第7条に規定する「著しく低い価額の対価」の該当性
請求人は、上記のとおり、請求人が×××の××××に所属していた時の直属の上司であった本件譲渡人から本件株式を譲り受けている。
また、上記のとおり、本件譲受価額は、本件譲渡人が本件株式を取得した平成8年7月18日当時の価額と同額であり、同日から本件譲受日までの20年以上の間における本件法人の財務状態の変化を踏まえた本件法人の財務諸表等上の客観的数値を基礎とした合理的な手法によって価格が決定されたものでもない。
これらからすれば、本件譲受価額は、本件株式の客観的交換価値を適切に反映したものと直ちに認めることはできない。
そして、本件譲受価額は××××であって、本件評価額(××××××)の僅か4%程度にすぎない。
以上を踏まえると、本件譲受価額と本件評価額との開差は、社会通念上著しいものと認められ、本件譲受価額には経済合理性のないことが明らかであるから、本件譲受価額は、相続税法第7条に規定する「著しく低い価額の対価」に該当すると認められる。
(4)請求人の主張について(略)
(5)本件決定処分の適法性について(略)
(6)本件賦課決定処分の適法性について(略)
(7)結論
よって、審査請求は理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり裁決する。
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