解説記事2025年03月31日 SCOPE 東京地裁、青果卸売業者の負担金を寄附金と認定(2025年3月31日号・№1068)
委託者への差額支払いに対価性なし
東京地裁、青果卸売業者の負担金を寄附金と認定
青果市場において、全農などの取引先の委託を受けて仲卸業者に青果物の販売を行う卸売業者が、実際の販売価格よりも高い価格で販売したとして、その差額が取引先への寄附金に当たるか否かが争われた事案で、東京地裁民事38部(鎌田真敬裁判長)は令和7年3月11日、寄附金に当たると判断し、課税処分を適法とする判決を下した。
原告は、「本件差額の支払は、各取引先から継続的な集荷を得るために行う業界の慣行」などと主張したが、東京地裁は、原告による継続的な集荷に対する期待は主観的なものであり、取引の実態から、本件差額の支払いに通常の経済的取引として是認することができる合理的な理由は認められないとして、原告の主張を斥けている。
通常の経済的取引として是認できる合理的な理由は認められず
事案の概要は図のとおり。原告は、受託商品を仲卸業者等に販売した後直ちに、本件各取引先に対し、売買仕切書のデータを送信して販売に係る報告を行い、本件各取引先は、受託商品の販売価格から委託手数料等を控除した金額の支払いを受けることとされていたところ、原告は、売買仕切書等の一部に、実際の販売価格より高額な増仕切価格を記載し、増仕切価格からこれに対する委託手数料の金額を控除した金額の金員を本件各取引先に支払っていた。つまり、原告は、増仕切価格と実販売価格との差額から、増仕切価格に対する委託手数料と実販売価格に対する委託手数料との差額を控除した金額(本件差額)を、本件各取引先のために負担していたことになる。

原告は、実販売価格と増仕切価格との差額(本件売上雑損)を損金の額に算入して法人税等の申告を行い、消費税等の申告では、本件売上雑損に係る消費税に相当する額を、「売上げに係る対価の返還等の金額に係る消費税額」としていた。処分行政庁は、本件差額は「寄附金の額」に該当するから損金の額に算入できず、また、本件売上雑損は「売上げに係る対価の返還等」に該当しないなどとして各更正処分等を行ったため、原告がそれらの処分の取消しを求めて訴訟を提起した。
出荷の継続の期待は主観的なもの
東京地裁は、法人税法37条に規定する「寄附金」の意義について、「民法上の贈与に限らず、経済的にみて贈与と同視し得る金銭その他の資産の譲渡又は経済的な利益の供与をいうものと解すべきであり、ここにいう『経済的にみて贈与と同視し得る金銭その他の資産の譲渡又は経済的な利益の供与』とは、①金銭その他の資産又は経済的な利益を対価なく他に移転する場合であって、②その行為について通常の経済的取引として是認することができる合理的な理由が存在しないものを指す」との解釈を示した。
その上で、本件について、①原告は本件各取引先から仲卸業者等に対する販売価格について指値として指定されたことはない、②市条例等の法令、原告の受託契約約款及び売買基本契約書に原告が本件差額を負担する根拠となる定めは存在せず、③原告が本件各取引先との間の個別的な合意に基づいて本件差額を負担していたとも認められない、と指摘。また、④本件各取引先が原告に対し本件差額を負担するよう要請したものと認めることはできず、⑤原告において本件差額を負担するか否かの判断や負担する場合の額の基準は存在せず、⑥本件各取引先は、原告がどの取引でどの程度の本件差額を支払っているかを具体的に認識していなかったとした。
以上の点を踏まえ、原告による本件差額の負担が、本件各取引先による継続的な出荷その他の何らかの役務の提供等と対価関係にあったものとは認めることはできず、本件差額は、金銭その他の資産又は経済的な利益を対価なく他に移転するものであるとの判断を下した。
また、「仮に、原告において、本件差額の支払により、本件各取引先が原告に対する出荷を継続するなどの便宜を図ることを期待していたとしても、その期待は主観的なものといわざるを得ず、原告がそのような期待をしていることをもって、本件差額の支払に通常の経済的取引として是認することができる合理的な理由があるということはできない」との考えも示している。
差額の負担の程度に対する具体的な認識なし
原告は、「原告による本件差額の支払は本件各取引先から継続的に集荷をするために行われるものである」と主張したが、これに対し東京地裁は、「原告が提出した証拠には、仲卸業者等に対する販売価格が低い場合には出荷数量を減らし、上記販売価格が高い場合には出荷数量を増やす旨の記載があるものの、これらの記載が、本件各取引先において、原告がどの取引でどの程度の本件差額を負担しているかを具体的に認識した上で出荷数量の増減を判断する旨の記載ではない」としてこれを斥けた。
また原告は、「卸売業者が、農業協同組合等からの集荷を確保するため、本件差額のような金員を負担するという業界の慣行がある」などとも主張したが、東京地裁は、「仮に原告の主張するような事情があるとしても、本件各取引先が、卸売業者において上記のような金員の負担をすることがあることを一般的、抽象的に認識していることが認定し得るにとどまり、それを超えて、本件各取引先が原告においてどの取引でどの程度の本件差額を支払っているかを具体的に認識していたと認めることはできない」として、この主張も斥けている。
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