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解説記事2025年04月14日 新会計基準解説 2024年年次改善プロジェクトによる企業会計基準等の改正の概要(2025年4月14日号・№1070)

新会計基準解説
2024年年次改善プロジェクトによる企業会計基準等の改正の概要
 企業会計基準委員会専門研究員 早野真史

Ⅰ はじめに

 企業会計基準委員会(ASBJ)は、2025年3月11日に、「2024年年次改善プロジェクトによる企業会計基準等の改正」として、以下の企業会計基準、企業会計基準適用指針及び実務対応報告(以下合わせて「本会計基準等」という。)を公表した(脚注1)。本稿では、本会計基準等の概要を紹介する。
1.包括利益の表示に関する改正
・改正企業会計基準第25号「包括利益の表示に関する会計基準」(以下「改正包括利益会計基準」という。)
・改正企業会計基準適用指針第9号「株主資本等変動計算書に関する会計基準の適用指針」(以下「改正株主資本適用指針」という。)
2.特別法人事業税の取扱いに関する改正
・改正企業会計基準第27号「法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準」(以下「改正法人税等会計基準」という。)
・改正企業会計基準適用指針第28号「税効果会計に係る会計基準の適用指針」(以下「改正税効果適用指針」という。)
3.種類株式の取扱いに関する改正
・改正実務対応報告第10号「種類株式の貸借対照表価額に関する実務上の取扱い」(以下「改正実務対応報告第10号」という。)
 なお、文中の意見に関する部分は筆者の私見であり、ASBJの見解を示すものではないことをあらかじめ申し添える。

Ⅱ 本会計基準等の公表の経緯

 ASBJの年次改善プロジェクトは、原則として年1回、4月1日を基準日として、ASBJが公表した企業会計基準等の要変更事項の検出作業を行い、検出された事項について、変更後の記載及び「企業会計基準及び修正国際基準の開発に係る適正手続に関する規則」(以下「適正手続規則」という。)(脚注2)に基づいて必要とされる手続を検討の上、必要に応じて複数の企業会計基準等の改正又は修正をまとめて行うものである。適正手続規則第25条第1項は、企業会計基準等の変更を改正と修正に区分し、適正手続を定めている(図表1参照)。

 2024年年次改善プロジェクトでは、2024年4月1日を基準日として行った検出作業により検出された事項に加えて、当該検出作業後の企業会計基準等の開発の過程で検出された事項についても対象に含め、検討を行っている。このうち、企業会計基準等の改正による対応が必要と判断した複数の項目に関する提案をまとめたものとして、2024年11月21日に、公開草案「2024年年次改善プロジェクトによる企業会計基準等の改正(案)」を公表した。本会計基準等は、公開草案に対して寄せられた意見を踏まえて検討を行い、公開草案の内容を一部修正した上で公表するに至ったものである。
 なお、2024年年次改善プロジェクトにおいて検出された事項のうち、企業会計基準等の修正により対応することとした項目については、2024年11月1日に「2024年年次改善プロジェクトによる企業会計基準等の修正」(脚注4)として公表済みである。

Ⅲ 本会計基準等の概要

1 包括利益の表示に関する改正
 改正包括利益会計基準及び改正株主資本適用指針では、その他の包括利益の取扱いに関して、これまでに公表された複数の会計基準等で使用されている用語の一部が、連結財務諸表上の取扱いに関する記載に使用されるべき表現となっていなかったため、表現の見直しを図ることを目的として所要の改正を行った(改正包括利益会計基準第20-5項及び改正株主資本適用指針第21-2項)。
(1)改正包括利益会計基準
 改正包括利益会計基準では、これまでに公表されている会計基準等で使用されている「純資産の部に直接計上」、「直接純資産の部に計上」及び「直接資本の部に計上」という用語について、連結財務諸表上は「その他の包括利益で認識した上で純資産の部のその他の包括利益累計額に計上」と読み替えるための変更を行った(改正包括利益会計基準第16項)。
(2)改正株主資本適用指針
 株主資本等変動計算書において、株主資本以外の各項目の当期変動額は純額で表示するが、主な変動事由ごとにその金額を表示することができる(企業会計基準第6号「株主資本等変動計算書に関する会計基準」第8項)。改正株主資本適用指針では、連結株主資本等変動計算書において、株主資本以外の各項目の当期変動額を主な変動事由ごとに表示する場合の例として示す項目について、「純資産の部に直接計上されたその他有価証券評価差額金の増減」等の用語が使用されていたため、当該用語について見直しを行った。用語の見直しにあたっては、同様の区分により内訳を示している企業会計基準第25号「包括利益の表示に関する会計基準」と用語の統一を図ることで、連結包括利益計算書又は連結損益及び包括利益計算書と連結株主資本等変動計算書の連携が理解しやすくなると考えられるため、「当期発生額」及び「組替調整額」という用語に変更することとした(改正株主資本適用指針第11-2項及び第21-2項)。
(3)適用時期等
 改正包括利益会計基準及び改正株主資本適用指針は、連結財務諸表における従前の取扱いを維持することを明確化するものであるため、2025年4月1日以後最初に開始する連結会計年度の期首から適用することとした(改正包括利益会計基準第16-6項及び第42-3項並びに改正株主資本適用指針第14-4項)。
 また、早期適用への一定のニーズがあると想定されることから、2025年3月31日以後最初に終了する連結会計年度の年度末に係る連結財務諸表から適用できることとした。ここで、早期適用を行う場合であっても、2025年3月31日以後最初に終了する連結会計年度に係る中間連結財務諸表及び四半期連結財務諸表については改正包括利益会計基準を適用しないこと、また当該連結会計年度に係る中間連結財務諸表については改正株主資本適用指針を適用しないこととした(改正包括利益会計基準第16-6項及び第42-3項並びに改正株主資本適用指針第14-4項)。

2 特別法人事業税の取扱いに関する改正
 特別法人事業税は、2019年3月27日に成立した「特別法人事業税及び特別法人事業譲与税に関する法律」(平成31年法律第4号)において国税として創設され、2019年10月1日以後に開始する事業年度から課せられている。
 企業会計基準第27号「法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準」(以下「法人税等会計基準」という。)は、具体的な税金を挙げて、当該税金について規定する税法を参照することにより特定して会計処理及び開示について定めているが(法人税等会計基準第1項及び第4項)、改正前の法人税等会計基準では、特別法人事業税の取扱いについて個別の定めが設けられていなかった(改正法人税等会計基準第25-4項)。
 この点、ASBJに外部から寄せられたコメントにおいて、法人税等会計基準における特別法人事業税の適用関係が明らかでないとの意見があったことを踏まえて検討を行い、特別法人事業税の取扱いの明確化を図るための改正を行うとともに(改正法人税等会計基準第25-3項及び第25-5項)、税効果会計における特別法人事業税の取扱いについても所要の改正を行うこととした(改正税効果適用指針第73-4項)。また、実務対応報告第46号「グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等の会計処理及び開示に関する取扱い」についても関連する修正を行うこととした。
(1)改正法人税等会計基準
 改正法人税等会計基準では、特別法人事業税のうち地方税法の規定により計算した所得割額(税率については地方税法に規定する標準税率による。)によって課すもの(以下「特別法人事業税(基準法人所得割)」という。)について、事業税(所得割)と同様の取扱いを行うこととなることを明確化するための変更を行った(改正法人税等会計基準第4項(4-2)、第5項、第29-11項及び第29-12項)。
 また、開示に関する定めについて、改正前の法人税等会計基準第9項における「法人税、住民税及び事業税などその内容を示す科目をもって表示する」とする記載における「法人税、住民税及び事業税」が表示科目の例を示していることがより明確となるように、表現の変更を行った(改正法人税等会計基準第9項、第13項、第14項、第15項、第40-2項及び第40-3項)。
(2)改正税効果適用指針
 改正税効果適用指針では、法定実効税率の算式に特別法人事業税率が含まれることを明確化するとともに(図表2参照)、繰延税金資産及び繰延税金負債の計算に用いる税率に関する定めに関して、特別法人事業税は国税であるため、特別法人事業税(基準法人所得割)について法人税及び地方法人税と同様の取扱いが行われることを明確化した(改正税効果適用指針第4項(11)、第46項、第74-2項及び第150-2項並びに設例10及び設例11)。

(3)適用時期等
① 適用時期

 改正法人税等会計基準及び改正税効果適用指針は、改正の影響を受ける企業の数が限定的と考えられるため、2025年4月1日以後最初に開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用することとした(改正法人税等会計基準第20-4項及び第44項並びに改正税効果適用指針第65-4項及び第164項)。
 また、早期適用への一定のニーズがあると想定されることから、2025年3月31日以後最初に終了する連結会計年度及び事業年度の年度末に係る連結財務諸表及び個別財務諸表から適用できることとした。早期適用を行う場合、改正法人税等会計基準と改正税効果適用指針は、いずれも特別法人事業税の取扱いの明確化を図るものであるため、同時に適用することとした。ここで、早期適用を行う場合であっても、当該連結会計年度及び事業年度に係る中間連結財務諸表及び中間個別財務諸表並びに四半期連結財務諸表及び四半期個別財務諸表については、改正法人税等会計基準及び改正税効果適用指針を適用しないこととした(改正法人税等会計基準第20-4項及び第44項並びに改正税効果適用指針第65-4項及び第164項)。
② 経過措置
 改正法人税等会計基準及び改正税効果適用指針は、改正の影響を受ける企業の数が限定的と考えられる中で、影響を受ける場合には一定の負荷が生じる可能性があることから、適用初年度の期首より前に新たな会計方針を遡及適用した場合の適用初年度の累積的影響額を適用初年度の期首の資本剰余金、利益剰余金及び評価・換算差額等又はその他の包括利益累計額に加減し、当該期首から新たな会計方針を適用できることとした(改正法人税等会計基準第20-5項及び第45項並びに改正税効果適用指針第65-5項及び第165項)。
 また、改正法人税等会計基準は、過年度に課税された特別法人事業税(基準法人所得割)に関する表示方法について、これまでの表示方法と異なることとなる場合、適用初年度の比較情報について、新たな表示方法に従い組替えを行わないことができることとした(改正法人税等会計基準20-6項及び第46項)。
 さらに、改正税効果適用指針は、改正法人税等会計基準に伴って改正されたものであるため、それぞれの経過措置は、併せて適用することとした(改正法人税等会計基準第20-5項及び第45項並びに改正税効果適用指針第65-5項及び第165項)。

3 種類株式の取扱いに関する改正
 改正実務対応報告第10号では、改正前の実務対応報告第10号「種類株式の貸借対照表価額に関する実務上の取扱い」(以下「実務対応報告第10号」という。)の適用対象となる種類株式に関する定めについて、会社法の施行に伴い削除された商法(以下「旧商法」という。)の条文を参照したままとなっていたことを検出したため、会社法を参照する定めに変更することとした。
(1)用語の定義
 改正実務対応報告第10号では、当該実務対応報告の適用対象となる種類株式について、「会社法第108条第1項に従い内容の異なる2以上の種類の株式を発行する場合の標準となる株式以外の株式」として定義することとした。
 会社法第108条第1項では、旧商法で認められていなかった種類の株式を発行することが可能とされ、旧商法で認められていた種類の株式についても設計の柔軟化が図られているため、会社法第108条第1項を参照する定義とすることは、改正実務対応報告第10号の適用対象が改正前の実務対応報告第10号の開発時において想定されていなかった種類株式に拡大することを意味している。
 この点、旧商法で認められていなかった種類の株式を適用対象から除くように、会社法第108条第1項各号のうち一部のみを参照することも考えられるが、次の理由により、会社法第108条第1項に従って発行した株式として定義することとした。
① 会社法では会社法第108条第1項各号に定められた内容を自由に組み合わせて設計した株式の発行が可能とされており、会社法第108条第1項各号のうち一部のみを参照する定義は、当該会社法の趣旨と整合しない。
② 実務対応報告第10号は、普通株式とは異なる定めがある場合の考慮事項を定めることを目的としているが、普通株式とは異なる定めがある点は改正前の実務対応報告第10号の開発時において想定されていなかった種類株式についても同様であると考えられるため、実務対応報告第10号の定めが有用となることが考えられる。
 なお、適用対象となる種類株式について、「標準となる株式以外の株式」と定義しているため、改正実務対応報告第10号の適用対象となる種類株式には、いわゆる普通株式が含まれないことになると考えられる。
(2)適用時期等
 改正実務対応報告第10号は、実務への影響が生じる場合が限定的であると想定されていること及び早期適用への一定のニーズがあると想定されることを踏まえ、次のように定めることとした。
① 2025年4月1日以後最初に開始する連結会計年度及び事業年度の期首以後取得する種類株式について適用する。
② 2025年4月1日以後最初に開始する連結会計年度及び事業年度の期首より前に取得した種類株式のうち、2025年4月1日以後最初に開始する連結会計年度及び事業年度の前連結会計年度及び前事業年度の末日において保有する種類株式については、次のいずれかの方法を選択できる。
(ア)従前の会計方針を継続する。
(イ)改正実務対応報告第10号を2025年3月31日以後最初に終了する連結会計年度及び事業年度の末日から将来にわたって適用する。
(ウ)改正実務対応報告第10号を2025年4月1日以後最初に開始する連結会計年度及び事業年度の期首から将来にわたって適用する。

Ⅳ 財務諸表等規則等の改正

 本稿Ⅲ2特別法人事業税の取扱いに関する改正に関連して、2025年3月31日付で、財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則等及び「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則」の取扱いに関する留意事項について(財務諸表等規則ガイドライン)等について所要の改正が行われているため、併せてご確認いただきたい。

Ⅴ おわりに

 本稿Ⅲ2特別法人事業税の取扱いに関する改正に関連して、本会計基準等の公開草案の公表時に、法人税等会計基準の適用対象となる税金に関して、具体的な税金を挙げて当該税金について規定する税法を参照することにより特定する方法を見直すことについて、市場関係者からのコメントを募集した。その際、法人税等会計基準の適用対象となる税金を定める方法を検討する場合、例えば「所得を課税標準として課されるもの」のような原則的な定めを置く方法などが考えられるとしていた。
 コメント募集の結果、原則的な定めを置く方法により見直しを行うことを概ね支持するコメントが寄せられた。ただし、コメントの中には、具体的な税金を挙げて取扱いを示す現行の法人税等会計基準の具体的な定めを残すことを求める意見や、見直しにより適用対象となる範囲を変更しないことを求める意見もあった。ASBJは、これらのコメントを踏まえて法人税等会計基準等の見直しを行うことをASBJの新規テーマとすることについて公益財団法人財務会計基準機構内に設けられている企業会計基準諮問会議に検討を要請した。2025年3月3日開催の第53回企業会計基準諮問会議での審議を経て、2025年3月18日開催の第543回企業会計基準委員会において、企業会計基準諮問会議からASBJに対して、「法人税等会計基準等の見直し」をASBJの新規テーマとする提言がなされた。当該提言を受けて、2025年4月2日開催の第544回企業会計基準委員会において審議が行われた結果、「法人税等会計基準等の見直し」をASBJの新規テーマとして取り上げることが決定された。
 本稿が本会計基準等の概要やその趣旨をご理解いただくための一助となれば幸いである。

脚注
1 本会計基準等の全文については、ASBJのウェブサイト(https://www.asb-j.jp/jp/accounting_standards/y2025/2025-0311.html)を参照のこと。
2 適正手続規則については、公益財団法人財務会計基準機構(FASF)のウェブサイト(https://www.fasf-j.jp/jp/wp-content/uploads/sites/2/due_process-asbj_20240521.pdf)を参照のこと。
3 適正手続規則第25条第2項は、企業会計基準等の修正について、企業会計基準等の改正の適正手続を経ることは妨げられないとしている。
4 「2024年年次改善プロジェクトによる企業会計基準等の修正」については、ASBJのウェブサイト(https://www.asb-j.jp/jp/news_release/405020.html)を参照のこと。なお、本修正は、会計処理及び開示に関する定めを実質的に変更するものではない。
5 2025年2月4日に国会に提出された令和7年度税制改正に係る「所得税法等の一部を改正する法律」(以下「改正税法」という。)の法案によれば、防衛特別法人税が2026年4月1日以後に開始する事業年度から課されることとされている。これを受けて、ASBJは、改正税法が2025年3月31日までに成立した場合を想定し、主として2025年3月31日に決算日を迎える企業における防衛特別法人税の取扱いを明らかにすることで、実務に資するための情報を提供することを目的として、2025年2月20日に補足文書「2025年3月期決算における令和7年度税制改正において創設される予定の防衛特別法人税の税効果会計の取扱いについて」(以下「補足文書」という。)を公表した。補足文書では、次のとおり、防衛特別法人税の税率を含める場合の法定実効税率の算式を示している。

(注:補足文書による追加部分を点線で示している。)
 補足文書の全文については、ASBJのウェブサイト(https://www.asb-j.jp/jp/wp-content/uploads/sites/4/20250220_02.pdf)を参照のこと。
 なお、2025年3月31日に防衛特別法人税に係る規定を含む「所得税法等の一部を改正する法律」(令和7年法律第13号)が成立している。

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