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解説記事2025年10月20日 未公開判決事例紹介 建物の空室部分における課税仕入れの用途区分(2025年10月20日号・№1095)

未公開判決事例紹介
建物の空室部分における課税仕入れの用途区分
東京地裁、共通対応に該当すると判断

 本誌1062号9頁で紹介した更正をすべき理由がない旨の通知処分取消請求事件の判決について、一部仮名処理した上で紹介する。

〇マンション販売事業者である原告の保有していた建物の空室だった部分の課税仕入れの用途区分が争われた事件。東京地方裁判所(篠田賢治裁判長)は令和7年1月24日、一棟の建物として登記された建物の取引の対象は個々の居室ではなく一棟の建物であるとした上で、一棟の建物として見れば転売目的である一方、一部の居室が住宅として賃貸されていたことから、「共通対応」に該当するとの判断を示した(令和5年(行ウ)第259号)。

主文

1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1 請求
 麻布税務署長が令和3年6月29日付けで原告に対してした平成26年10月1日から平成27年9月30日までの課税期間(以下「本件課税期間」という。)に係る消費税及び地方消費税(以下、併せて「消費税等」という。)の更正の請求(以下「本件更正の請求」という。)に対する更正すべき理由がない旨の通知処分(以下「本件通知処分」という。)のうち、納付すべき消費税額2303万4000円を超える部分及び納付すべき地方消費税額621万5500円を超える部分を取り消す。

第2 事案の概要等
1 事案の概要

 投資用マンションの販売事業を行っている原告は、本件課税期間の消費税等について、消費税法(平成27年法律第9号による改正前のもの。以下同じ。)30条1項の規定の適用に際し同条2項1号所定の方法(以下「個別対応方式」という。)を選択し、建物の取得等に係る課税仕入れにつき、同号にいう「課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要するもの」(以下「共通対応課税仕入れ」という。)に該当するとして消費税等の修正申告をしたことについて、当該建物は将来の販売を目的として取得したから、当該建物の取得等に係る課税仕入れは同号にいう「課税資産の譲渡等にのみ要するもの」(以下「課税対応課税仕入れ」といい、同号所定の区分を「用途区分」という。)に該当するとして更正の請求(本件更正の請求)をしたところ、麻布税務署長は、原告が当該建物を取得した日において賃借人が居住しており、その取得等に係る課税仕入れは課税対応課税仕入れに該当しないとして、更正をすべき理由がない旨の通知処分(本件通知処分)をした。
 本件は、原告が、本件課税期間に係る課税仕入れのうち、原告が建物を保有していた期間中空室だった建物部分の課税仕入れに対応する部分は、課税対応課税仕入れに区分すべきである、本件各課税期間に支払った家賃保証等は、消費税法38条1項の「売上げに係る対価の返還等」に該当するなどと主張して、前記第1のとおりの取消しを求めた事案である。
2 主な消費税法の規定
 本件に関係する主な消費税法の規定は、別紙2のとおりである(別紙において定義した略語については、以下においても用いることとする。)。
3 前提事実
 次の事実は、当事者間に争いのない事実又は当裁判所に顕著な事実のほか、掲記の証拠(以下、書証番号は、特記しない限り、枝番号のあるものは枝番号を全て含む。)又は弁論の全趣旨によって認めることができる事実である。
(1)原告の事業の概要等
ア 原告は、昭和39年4月20日に設立された、建築工事、土木工事の請負・設計・施工及び監理、不動産の売買・賃貸・管理及びその仲介等を目的とする株式会社であり、投資用マンションを取得して投資家等に販売する(以下「本件事業」という。)などの事業を行っていた。(乙1、弁論の全趣旨)
イ 原告は、本件課税期間中に、販売目的で、別紙3の表の「名称」欄記載の住宅賃貸用物件である各建物(以下「本件各建物」という。)を、その敷地と共に同表の、「取得年月日」欄記載の日に取得した(以下、本件各建物の取得に係る取引(固定資産税及び都市計画税の支払を含む。)を「本件各建物取引」という。)。(甲1、2、9、弁論の全趣旨)
ウ 本件各建物は、いずれの建物についても、原告による取得の時点において既にその一部の居室について賃貸借契約が締結されて住宅として貸し付けられており、原告は、その取得(本件各建物取引)により、上記賃貸借契約上の賃貸人たる地位を承継した。(乙2、弁論の全趣旨)
エ 原告は、本件各建物を別紙3の表の「売却年月日」欄記載の日に販売(売却)して買主へ引き渡す(所有権の移転日)までの間、前記ウの賃貸借契約上の賃貸人として、賃料を収受した。(甲2、9、乙2、3、弁論の全趣旨)
オ 本件各建物は、区分所有建物ではなく、一棟の建物として登記されており、本件各建物取引においてもその後原告と各買主との間で締結された本件各建物の売買契約においても、売買の対象は、建物の一部ではなく、一棟の建物全体であった。(甲9、乙2、3、弁論の全趣旨)
カ 原告は、本件課税期間中に、本件各建物のうち一部の建物(別紙3の表の順号1、2、6及び8の各建物。以下「本件各工事対象建物」という。)につき、別紙3の表の「工事内容」欄記載の工事(以下「本件各工事」という。)を行い、各工事の施行者に代金を支払った(以下、本件各工事に係る各取引を「本件各工事取引」といい、本件各建物取引と併せて「本件各取引」という。)。(甲10、弁論の全趣旨)
キ 原告は、原告が販売した別紙5記載の各物件につき、その買主との間で、その引渡しから一定の期間(おおむね3か月間から1年間)、賃借人が入居するまでの賃料(別紙5の順号32については賃借人が滞納した賃料)相当額(別紙5の順号2については賃料の85%相当額)を支払う旨の家賃保証特約(以下「本件各家賃保証特約」という。)を締結し、これに基づき、本件課税期間において、各買主に対し、上記賃料相当額等を支払った(以下、別紙5の各物件につき原告が本件課税期間に支払ったとする賃料相当額等を「本件各家賃保証」という。)。(甲8、弁論の全趣旨)
(2)本件訴えの提起に至る経緯等
ア 原告は、控除対象仕入税額を個別対応方式により計算して、本件課税期間の消費税等について、別紙4の表1の「確定申告」欄のとおり、確定申告書(乙7)を法定申告期限までに提出した。(乙7)
イ 原告は、平成29年6月19日、本件課税期間の消費税等について、本件各取引に係る課税仕入れは、控除対象仕入税額の計算上、共通対応課税仕入れに該当するなどとして、別紙4の表1の「修正申告」欄のとおり、修正申告書(乙8)を提出した(以下、かかる修正申告書による修正申告を「本件修正申告」という。)。(乙8、弁論の全趣旨)
  なお、原告は、前記アの確定申告及び本件修正申告に当たり、後記5(2)(原告の主張)のとおり原告が本件各建物の買主等に対して支払ったとする家賃保証、フリーレント(に係る家賃保証)及び広告料(これらの支払を以下「本件各家賃保証等」という。)について、消費税法38条1項の「売上げに係る対価の返還等」に当たるなどとして同項所定の金額を控除することをせずに、納付すべき消費税額等を計算し、申告した。(弁論の全趣旨)
ウ 原告は、令和2年11月27日、本件各取引に係る課税仕入れは課税対応課税仕入れに該当するなどとして、本件更正の請求をした。
  その後、原告は、本件更正の請求に係る更正の請求書(乙9)に記載された消費税等の税額の計算に誤りがあったとして、令和3年2月12日及び同年4月26日、当該請求書の訂正を求める書面(乙10、11)を麻布税務署長に提出した。別紙4の表1の「更正の請求」欄に記載した各金額は、これらによる訂正後のものである。(乙9~11、弁論の全趣旨)
エ 処分行政庁は、別紙4の表1の「本件通知処分」欄のとおり、令和3年6月29日付けで、原告に対し、本件各建物に係る課税仕入れは共通対応課税仕入れに該当するなどとして、本件通知処分をした。(甲1)
オ 原告は、令和3年9月27日、本件通知処分を不服として、東京国税局長に対して再調査の請求をしたが、東京国税局長は、別表4の表1の「再調査決定」欄のとおり、同年12月20日付けでこれを棄却する旨の再調査決定をした。(甲2、乙12、弁論の全趣旨)
カ 原告は、令和4年1月19日、国税不服審判所長に対して本件通知処分の取消しを求めて審査請求をしたが、国税不服審判所長は、別紙4の表1の「裁決」欄記載のとおり、同年12月15日付けでこれを棄却する旨の裁決をした。(甲3、乙13)
キ 原告は、令和5年6月15日、本件訴えを提起した。
  原告は、本件訴え提起時において、本件通知処分全部の取消しを求めていたが、令和6年2月20日付け訴え変更申立書により、取消しを求める範囲を前記第1のとおり(原告が主張する消費税等の課税標準額等は別紙4の各表の「原告主張額」欄のとおり)に減縮した。
  その後、原告は、別紙4の各表の「原告主張額」欄の金額には誤りがあり、仮に後記各争点における原告の主張が認められるとしても、課税標準額や納付すべき消費税等の額等は、別紙4の各表の「被告計算額」のとおりである旨を認めた。(弁論の全趣旨)
4 争点
(1)本件各取引に係る課税仕入れのうち、本件各建物の取得時から販売時まで賃貸されずに空室であった居室(以下「本件各空室」という。)に対応する部分(以下「本件各空室対応部分」という。)の課税対応課税仕入れ該当性(争点1)
(2)本件各家賃保証等の「売上げに係る対価の返還等」(消費税法38条1項)該当性(争点2)
5 争点に関する当事者の主張
(1)争点1(本件各空室対応部分の課税対応課税仕入れ該当性)について
(原告の主張)

ア 原告は、本件事業の際、基本的に、在庫リスク及び資金リスクを回避するため、不動産の所有者から不動産を取得する売買契約に係る決済と、原告から当該不動産の購入者へ売却する売買契約に係る決済とを同日に行うようにするなどしているが、極めて稀に前者の売買契約後に後者の売買契約が消滅する事態が生じることがある。この場合、原告は、課税仕入れの日である前者の売買契約の決済日までに、転売先及びその転売先による購入を確定させ、その保有が超短期の一時的な保有となるようにしてきた。
  本件各建物取引は、かかる例外的な場合におけるものであり、超短期の一時的な保有しか予定していなかったため、保有期間中に新規の賃借人を募集することはなく、本件各建物取引(課税仕入れ)時に空室だった本件各建物の居室は、売却時点でも空室のままであり、当該空室(本件各空室)については、住宅の貸付けによる賃料収入が一切発生しなかった。
イ(ア)したがって、本件各建物に係る課税仕入れ(本件各建物取引)のうち、本件各空室に対応する部分については、客観的に「その他の資産の譲渡等」に対応していないから、本件各建物の一棟ごとに、建物全体の課税仕入れ額を全居室数に対する本件各空室の数の割合によって案分して課税対応課税仕入れの額を算出すべきである。
(イ)また、本件各工事取引は、建物全体を対象にした工事ではなく、原告の保有期間中空室のままであり、一切賃料収入が発生しなかった本件各空室のうち一部の居室に対して行われた工事に係る取引であって、本件各工事取引という各課税仕入れは、専ら建物の売却という「課税資産の譲渡等」のためにのみ行われたものであり、客観的に「その他の資産の譲渡等」には一切対応していないものであった。
ウ このように、本件各空室対応部分は、課税対応課税仕入れに該当するものであるが、原告は、誤って、これを共通対応課税仕入れに区分して仕入れ税額控除額を計算してしまったものであるから、原告の本件修正申告による申告額は、消費税法30条の適用を誤った違法なものであり、本件更正の請求には理由がある。
(被告の主張)
ア 課税対応課税仕入れとは、当該事業者の事業において課税資産の譲渡等にのみ対応する課税仕入れをいい、課税資産の譲渡等のみならずその他の資産の譲渡等にも対応する課税仕入れは、全て共通対応課税仕入れに該当すると解するのが相当であり、また、個別対応方式を適用する際の用途区分の判定単位は、個々の取引と解するのが相当である。
イ(ア)これを本件各建物取引についてみると、用途区分の判定単位となる個々の取引の対象は、本件各建物の居室ではなく本件各建物である。
  原告は、いずれも住宅賃貸用物件である本件各建物を販売目的で取得するとともに、その取得時から本件各建物の一部の居室を住宅として賃貸し、販売までの間、その賃料を収受していたのであるから、本件各建物取引に係る課税仕入れは、全体として共通対応課税仕入れに該当する。本件各建物取引に係る課税仕入れから本件各空室対応部分を切り出して用途区分の判定をするというのは、原告独自の見解にすぎない。
(イ)また、本件各工事取引は、本件各工事対象建物全体の価値の維持ないし向上を目的としたものであるので、その対象はそれぞれ一棟の建物としての本件各工事対象建物であり、本件各工事が本件各空室のうち一部の居室に実施した内装工事等であるとはいっても、それは、本件各工事対象建物を対象とする工事の内訳にすぎない。そのため、本件各工事取引に係る用途区分の判定単位となる個々の取引の対象も、本件各工事対象建物であって、本件各建物の居室ではない。
  そして、本件各工事対象建物は、いずれも住宅賃貸用物件であるところ、原告は、本件各工事対象建物を販売目的で取得するとともに、その取得時から一部の居室を住宅として賃貸し、販売までの間、その賃料を収受していたのであるから、そのような物件を対象とした本件各工事取引は、全体として共通対応課税仕入れに該当する。
(2)争点2(本件各家賃保証等の「売上げに係る対価の返還等」該当性)について
(原告の主張)

ア 家賃保証について
(ア)原告は、空室がある物件の販売促進活動の一つとして、別紙5記載の各物件について、買主との間で本件各家賃保証特約を締結し、本件課税期間に本件各家賃保証の支払をした。
(イ)ここで、消費税法38条1項は、課税資産の譲渡等が行われた後の対価の額の返還等に係る消費税額の調整規定であり、その捕捉対象は、課税資産の譲渡等の原因となった法律関係に基因する事由により事後的に対価の額が返還又は減額されること全般であるから、同項にいう「売上げに係る対価の返還等」とは、契約不適合や取引対象物に瑕疵がある場合の値引きに限られず、契約上の条件等に基づく対価の返還等を含め、課税資産の譲渡等の原因となる法律関係に基因する事由に基づく対価の額の返還又は減額全般をいうと解すべきである。
(ウ)原告が販売してきた投資用マンションという商品は、その取引価格が当該投資用マンションの利回りを基に決定されるという特徴を有しているため、本件各家賃保証の支払の本質は、空室が続いてしまうことにより取引価格に見合った利回りとなっていない建物について、その建物代価を値引き(調整)するというものである。
  特に、別紙5記載の各物件のうち15物件(別紙5の順号3、11、12、27、33、34、41、50、52、54、69、85、87、103及び108の各物件)では、原告と各買主との間の売買契約書に家賃保証特約が明記されており、当該家賃保証特約の履行をしなければ建物売買契約の解除事由となるものであって、上記特約は建物売買契約の一条件を構成している。また、買主が融資を受けるために利用している金融機関は、当該家賃保証特約の存在を前提に、各物件の売買価格が適正か否かを審査している。そうすると、これらの物件に係る本件各家賃保証の支払は、空室が続くことにより建物の売買代価が当該建物の価値と見合わなくなることに対する代価の調整であり、課税資産の譲渡等の原因となる各建物に係る売買契約上の条件に基づく対価の額の返還ないし減額である。また、別紙5記載の各物件のうち上記15物件以外の物件については、売買契約書自体に家賃保証特約の記載があるわけではないものの、各物件の売買に関して締結されているものであり、その家賃保証の支払の本質も、上記15物件に係る家賃保証の支払と同様、空室が続くことにより建物の売買代価が当該建物の価値と見合わなくなることに対する代価の調整であり、課税資産の譲渡等の原因となる法律関係に基因する事由に基づく対価の額の返還又は減額である。
  したがって、本件各家賃保証の支払は、「売上げに係る対価の返還等」に該当する。
イ フリーレントについて
 原告は、別紙6の記載1の物件(△△△△■■■)を販売する際に、その買主との間で家賃保証特約を結んだ上、フリーレントが発生した場合にも、当該特約に基づき、家賃保証特約を履行する旨の合意をしており、本件課税期間である平成26年11月分について、買主に対し、フリーレント分に相当する家賃保証を支払った。
 したがって、その支払の実質は家賃保証と変わらず、課税資産の譲渡等の原因となる法律関係に基因する事由に基づく建物代価の事後的な減額であるから、上記支払は、「売上げに係る対価の返還等」に該当する。
ウ 広告料について
 原告は、別紙6の記載2の5つの物件について、買主との間で、原告の負担の下で入居者募集を行うことを合意し、買主への売却後、その合意に基づき、当該物件の空室について、賃貸借人募集のための広告を出し、その広告料を原告が負担した。
 したがって、当該広告料の負担も家賃保証の延長線上にあるものであり、その実質は、課税資産の譲渡等の原因となる法律関係に基因する事由に基づく建物代価の事後的な減額であるから、上記負担は、「売上げに係る対価の返還等」に該当する。
(被告の主張)
ア 家賃保証について
 本件各家賃保証特約は、「家賃保証」と称し、売却対象物件である建物に空室がある場合、当該建物を買主が購入した後空室に賃借人が入居するまでの一定期間の家賃相当額を、原告が当該建物の買主に対して支払うというものであって(なお、別紙5の順号32の物件については、既に入居している賃借人が滞納した賃料を原告が第三者弁済する旨の約定である(甲8の30)。)、当該建物に係る売買契約を前提としつつ、それとは別個の特約である。
 そのため、原告が本件各家賃保証特約に基づき買主に対して一定期間の家賃相当額(本件各家賃保証)を支払うことは、当該建物に係る売買契約とは別個の特約に基づく義務の履行であり、当該建物の売買という課税資産の譲渡等に係る対価である売買代金の返還又は減額ではないから、本件各家賃保証の支払は、「売上げに係る対価の返還等」に該当しない。
イ フリーレントについて
 原告が主張するフリーレントに係る合意及び支払の事実を認めるに足りる証拠はない。
 また、原告の主張を前提としたとしても、「フリーレント分に相当する家賃保証」は、△△△△■■■に係る売買契約とは別個の合意によるものであり、新たな債務の負担を約したものであって、△△△△■■■の売買という課税資産の譲渡等に係る対価の額が返還又は減額されたものではなく、課税資産の譲渡等が行われた後に、一般の商慣習や契約関係に照らして正当・合理的な理由により、課税資産の譲渡等に係る対価の額が事後的に返還又は減額されたものとは認められないから、上記フリーレント期間の家賃相当額の支払は、「売上げに係る対価の返還等」に該当しない。
ウ 広告料について
 原告が主張する広告料負担の合意の事実を認めるに足りる証拠はない。
 仮に、原告が主張する広告料に係る合意や原告がこれを負担した事実があったとしても、当該広告料の負担は、当該各物件に係る売買契約とは別個の合意に基づいて行われたものであり、当該各物件の売買という課税資産の譲渡等に係る対価の額が返還又は減額されたものではないから、原告が当該広告料の負担をしたことは、「売上げに係る対価の返還等」に該当しない。

第3 当裁判所の判断
1 争点1(本件各空室対応部分の課税対応課税仕入れ該当性)について

(1)消費税法30条2項1号にいう課税対応課税仕入れとは、当該事業者の事業において課税資産の譲渡等にのみ対応する課税仕入れをいい、課税資産の譲渡等のみならずその他の資産の譲渡等にも対応する課税仕入れは、全て共通対応課税仕入れに該当すると解するのが相当である(最高裁令和4年(行ヒ)第10号同5年3月6日第一小法廷判決・民集77巻3号440頁参照)。
(2)また、消費税法30条2項1号は、同条1項の規定により控除する課税仕入れに係る消費税額について、当該課税期間中に国内において行った課税仕入れにつき、課税対応課税仕入れ、非課税対応課税仕入れ及び共通対応課税仕入れの区分が明らかにされている場合における計算方法である個別対応方式を規定しており、個々の課税仕入れと個々の資産の譲渡等との対応関係に着目していることからすると、同号は、個別対応方式を適用する際の用途区分の判定につき、課税仕入れごとに行うことを前提としていると解される。
  そして、「課税仕入れ」とは、事業者が、事業として他の者から資産を譲り受け、若しくは借り受け、又は役務の提供を受けることをいうから(同法2条1項12号)、用途区分の判定は、資産の譲受けや借受け、役務の提供を受けることといった、個々の取引ごとに行うのが相当である。
(3)本件各建物取引について
ア 本件各建物は、いずれも区分所有建物ではなく、それぞれ一棟の建物として登記された建物であり、原告は、かかる建物を購入しその後販売したというのであって(前提事実(1)オ)、その取得に係る売買の対象は一棟の建物としての本件各建物であったから、用途区分の判定単位である個々の取引の対象は、本件各建物の個々の居室ではなく、一棟の建物としての本件各建物である。
  そして、原告は、本件各建物を転売目的で購入したものであるが、本件各建物はいずれもその購入時からその一部の居室が住宅として賃貸されており、原告は、賃借人がいる状態で本件各建物を購入し、その後、これを売却するまでの間、その賃料を収受したものである(前提事実(1)イ~エ)。そうすると、本件各建物取引に係る各課税仕入れは、原告の事業において「課税資産の譲渡等」である本件各建物の販売のみならず、「その他の資産の譲渡等」である本件各建物の住宅としての賃貸にも対応するものであるということができる。
  よって、本件各建物取引に係る各課税仕入れは、共通対応課税仕入れに該当するものであり、課税対応課税仕入れに該当するとは認められない。
イ これに対し、原告は、本件各建物取引(課税仕入れ)時に空室だった本件各建物の居室については、売却時点でも空室のままであり、賃料収入が一切発生しなかったから、本件各建物に係る課税仕入れのうち、本件各空室に対応する部分については、客観的に「その他の資産の譲渡等」に対応しておらず、本件各建物の一棟ごとに、建物全体の課税仕入れ額を全居室数に対する本件各空室の数の割合によって案分して課税対応課税仕入れの額を算出すべきであるなどと主張するが、前記(2)及びアで認定、説示したとおり、本件各建物取引においては個々の居室ではなく一棟の建物ごとに取引の対象となっており、用途区分の判定単位は一棟の建物としての本件各建物であるから、上記主張には理由がない。
(4)本件各工事取引について
ア 前記(3)と同様に、本件各工事取引の対象となっているのは、区分所有建物における個々の居室ではなく、飽くまで一棟の建物の一部分にすぎない各居室であり、本件各工事取引は、一棟の建物として売却された本件各工事対象建物の各建物の価値の維持ないし向上のために行われた、それぞれ一棟の建物を対象にした取引であると認められる。そして、原告は、(本件各建物のうち一部の建物である)本件各工事対象建物を賃借人がいる状態で取得し、これを売却するまでの間、その一部の居室を住宅として賃貸してその賃料を収受していたのであるから(前記(3)ア)、かかる物件を対象とした本件各工事取引は、原告の事業において課税資産の譲渡等にのみ対応するものとは認められない。
イ これに対し、原告は、本件各工事取引は、原告の保有期間中空室のままであり、一切賃料収入が発生しなかった本件各空室の一部の居室に対して行われた工事に係る取引であって、本件各工事の代金の支払という各課税仕入れは、専ら建物の売却という「課税資産の譲渡等」のためにのみ行われたものであるなどと主張するが、前記アで認定した事実関係の下においては、前記アの説示に加え、課税の明確性・安定性の観点からも、当該居室につき実際に賃借人がいたか否かといった事情は用途区分の判定に影響しないというべきであり、上記主張は、にわかに採用することができない。
(5)小括
 したがって、本件各空室対応部分は、課税対応課税仕入れに該当しない。
2 争点2(本件各家賃保証等の「売上げに係る対価の返還等」該当性)について
(1)家賃保証について

ア 原告は、投資用マンションという商品は、その取引価格が当該投資用マンションの利回りを基に決定されるから、本件各家賃保証の支払の本質は、空室が続いてしまうことにより取引価格に見合った利回りとなっていない建物について、その建物代価を調整するというものであって、本件各家賃保証の支払は、「売上げに係る対価の返還等」(消費税法38条1項)に該当する旨主張する。
イ 消費税法は、課税資産の譲渡等に係る消費税の課税標準を「課税資産の譲渡等の対価の額」と定めており(同法28条1項)、当該課税資産の譲渡等が行われた後にその対価の返還等が行われた場合にはその消費税額について調整が必要となるところ、同法38条1項は、課税資産の譲渡等が行われた後に売上げに係る対価の返還等が行われた場合における消費税額の調整として、売上げに係る対価の返還等をした日の属する課税期間の課税標準額に対する消費税額から当該課税期間において行った売上げに係る対価の返還等の金額に係る消費税額の合計額を控除することとしている。
  このように、同項の趣旨が、課税資産の譲渡等が行われた後に売上げに係る対価の返還等があった場合における消費税額の調整であることに鑑みると、同項が「売上げに係る対価の返還等」が生じる事由を「返品を受け、又は値引き若しくは割戻しをしたこと」に限定しているとは解されないのであり、課税資産の譲渡等が行われた後に、課税資産の譲渡等の原因となった売買契約等の法律関係に基因する事由又は当該法律関係自体の変更や消滅等により、事後的に対価の額が返還又は減額された場合には、「売上げに係る対価の返還等」があったものとして、同項を適用することができると解するのが相当である。
ウ これを本件各家賃保証の支払についてみるに、本件各家賃保証特約は、原告と買主との間において、各物件の売買契約に関して締結された合意であり、また、投資用マンションは、その販売代金を決める際にその利回りが判断要素の一つとなり得るものであるということはできる。
  しかしながら、投資用マンションであったとしても、賃貸借契約において支払われる賃料は不動産を使用させることの対価であり、不動産の取得とは異なる契約関係に基づくものである。そもそも、投資用マンションの売買契約においては、取得時以降に空室が生ずるリスクは当該売買契約に必然的に内在するものであり、本件各家賃保証特約は、このことを前提に、引渡し後の一定の期間について家賃保証を行い、上記リスクが顕在化した場合に売主(原告)が買主の得られなかった収入を一定の範囲で補償するものであって、不動産の代金額を変更するものではない。
  そうすると、本件各家賃保証特約は、別紙5記載の各物件の売却に係る売買契約書自体に記載されているか否かに関わらず、上記各物件に係る売買契約に付随して締結された、上記各売買契約とは別個の特約であり、原告は、これにより新たな債務の負担を約したものであって、本件各家賃保証の支払は、上記各売買契約に基づく引渡し後に生じた事情(空室の発生・継続等による上記リスクの顕在化)を踏まえ、上記各売買契約とは別個の特約に基づいて上記債務を履行したものと認められる。
  以上によれば、本件各家賃保証の支払は、上記各売買契約に基因する事由又は当該各売買契約の変更や消滅等により、課税資産の譲渡等に係る対価(売買代金)の額が事後的に返還又は減額されたものとはいえないから、「売上げに係る対価の返還等」に該当するとは認められない。
(2)フリーレントについて
 原告は、フリーレントの実質は、家賃保証と変わらず、建物代価の事後的な減額であるから、「売上げに係る対価の返還等」に該当する旨主張する。
 この点、△△△△■■■に係る覚書(甲8の33)記載の家賃保証の合意につき、フリーレントが発生した場合にも適用されるとしても、前記(1)のとおり、本件各家賃保証の支払は「売上げに係る対価の返還等」に該当しないのであり、家賃保証と変わらない旨原告が主張するフリーレントについても同様に、「売上げに係る対価の返還等」に該当するとは認められない。
(3)広告料について
 原告は、広告料の負担は家賃保証の延長線上にあり、その実質は、家賃保証と同様、建物代価の事後的な減額であるから、「売上げに係る対価の返還等」に該当する旨主張する。
 しかしながら、原告が主張する広告料に関する合意の詳細は、その主張及び証拠(甲8の20)によっても必ずしも明らかではなく、他に合意の存在及び内容を明らかにする証拠は提出されていないが、原告が広告料を企業等に直接支払う場合はもとより、買主が支払う広告料を原告が補てんする場合であったとしても、これが各物件の売買契約と別個の合意であることは明らかであり、これを家賃保証の延長線上のものとみるか否かにかかわらず、「売上げに係る対価の返還等」に該当するとは認められない。
(4)小括
 したがって、本件各家賃保証等は、「売上げに係る対価の返還等」(消費税法38条1項)に該当しない。
3 まとめ
 以上のとおり、本件各取引に係る課税仕入れはいずれも課税対応課税仕入れに該当せず、また、本件各家賃保証等は「売上げに係る対価の返還等」(消費税法38条1項)に該当しないから、本件更正の請求は、納税申告書に記載した課税標準等又は税額等の計算が「国税に関する法律の規定に従っていなかったこと」(通則法23条1項1号)との要件を満たさない。
 したがって、本件更正の請求に対し、更正をすべき理由がないとした本件通知処分は、適法である。

第4 結論
 よって、原告の請求は、理由がないから、これを棄却することとして、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第3部
裁判長裁判官 篠田賢治
裁判官 下 和弘
裁判官鈴木真耶は、差支えのため、署名押印することができない。
裁判長裁判官 篠田賢治

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