契約2026年05月07日 御社の解約金・違約金条項は不当条項ではありませんか? 発刊によせて執筆者より 執筆者:佐藤千弥

1 本書が取り上げた事例について
消費者契約の不当条項については、全国各地の適格消費者団体に、消費者から、日々、多数の情報が寄せられています。そして、本書で取り上げた条項の多くは、各適格消費者団体において、消費者契約法に抵触する不当条項ではないかが問題になった事例をベースにしています。本書の執筆メンバーには、適格消費者団体に弁護士として参加している者が多数含まれており、各適格消費者団体内で実際に扱ってきた具体的な経験や知見が、随所に反映された内容となっています。
2 適格消費者団体とは?
適格消費者団体がどのような団体か分からない方も多いと思います。適格消費者団体とは、不特定かつ多数の消費者の利益を守るために、消費者契約法、特定商取引法、景品表示法、食品表示法に基づき、事業者の不当な勧誘や不当な契約条項について差止請求権を行使するものとして、内閣総理大臣から認定を受けた団体です。現在、全国に27団体あります。
「不特定かつ多数の」という言葉には重要な意味があり、適格消費者団体は、個別の消費者と事業者との紛争解決を目的とするものではありません。
適格消費者団体は、消費生活専門相談員、消費生活アドバイザー、消費生活相談員の有資格者、弁護士、司法書士、大学教員等の専門家によって構成されています。各団体では、消費者から寄せられる情報提供をもとに、不当条項の疑いがある場合には、必要に応じて、事業者に対して条項の内容を改めるよう申入れをしたり、差止請求を行うなどの活動を行っています。
消費者庁が運営している「COCoLiS(消費者団体訴訟制度)ポータルサイト」では、各適格消費者団体が行った差止請求の事例が紹介されています。また、各適格消費者団体のHPでは差止請求に至った事案に限らず、申入れ段階で終了した事案も含め、これまで取り扱った事案の概要が公開されています。これらを確認することで、どのような契約条項が不当条項として問題とされてきたのかを知ることができます。
しかし、本書に目を通せば、各適格消費者団体が実際に取り扱ってきた不当条項の事例を分野横断的かつ体系的に把握することができます。この点こそが、本書の類書にはない大きな特徴です。
3 特に問題が多い解約料・違約金
本書でも明らかなように、消費者から適格消費者団体に寄せられる不当条項に関する情報提供の内容は多岐にわたりますが、その中でも、最も件数が多いのが解約料・違約金に関する条項です。
具体的には、契約の申込み後、事業者が解約金・違約金等の名目で消費者に金銭の支払を求める条項が問題となります。特に、契約期間の途中で解約した場合にも契約期間全体分の代金相当額を請求するものや、前払いされた代金を一切返金しないとする契約条項については、不当条項に該当するかどうかが厳しく問われる傾向にあります。
事業者からすれば、解約によって本来得られるはずであった利益が失われるため、その機会損失を補填したいと考えるのは理解できる場面もあります。しかし、消費者の立場からすれば、サービスを最後まで利用していない、あるいは全く利用していないのにもかかわらず、契約期間分の全料金を請求されることに不合理さを感じるのが通常でしょう。
この点について、消費者契約法9条1項1号は、解約金・違約金が、同種の消費者契約の解除に伴い当該事業者に生ずべき「平均的な損害」を超える場合には、その超過分が無効になると定めています。
もっとも、この「平均的な損害」とは何を意味するのか、その具体的な算定方法をめぐっては、解釈が争われてきました。実際に「平均的な損害」の考え方が争点になった最高裁判例も存在しますし、下級審も含めた裁判例も多数蓄積されています。
しかしながら、現時点においても、すべての業種、契約類型に共通するような統一的基準が明確に確立しているとは言い難く、実際の契約においてどの程度の解約料・違約金を定めるのが適切なのかは、事業者にとって悩ましい問題であるのが実情です。
このような実務上の難問についても、本書では、裁判例や適格消費者団体での実際の問題提起を踏まえ、最新の議論の状況をつかむことができます。
4 法改正の動向
現在、消費者庁は、「現代社会における消費者取引の在り方を踏まえた消費者契約法検討会」を立ち上げ、
という、いわゆる「消費者法制度のパラダイムシフト」のアプローチに基づき、消費者法制の改正に向けた検討を進めています。
そして、検討会における主要な検討事項の一つとして「解約料の実態を踏まえた実効的な仕組みの構築」が掲げられており、今後、解約料・違約金に関する規定が見直される可能性もあります。
改正法案については、早ければ令和9年度の通常国会に提出される可能性があるとされており、今後の動向が注目されます。
企業が消費者契約の条項を策定する際には、現行法の解釈だけでなく、こうした法改正の方向性も踏まえて検討することが重要です。
また、消費者が事業者との契約締結や約款の公平性・妥当性を判断する場合においても、将来的な制度改正を見据えた視点が求められる場面が増えていくでしょう。
本書は、このような法制度を取り巻く変化の流れを視野にいれつつ、現時点での実務と理論の接点を整理した一冊となっています。
消費者契約を取り巻く状況や法律そのものが目まぐるしく変化する中で、個々の事例紹介にとどまらず、「契約条項そのもの」に焦点を当てて、体系的に解説した書籍は、他にはほとんど見当たりません。
実務の現場に根ざした独自の視点と高い実用性を備えた本書を是非ご活用ください。
(2026年4月執筆)
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